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第53話 先輩としてでは無く

へい!お待ち!(珍しくガチャ当たったからテンション高い。のののくらいは高い)


よろしくお願いします!٩(๑'﹏')و


 


「行ってきます」

「あら? 青、どこか出掛けるの?」

「まぁね」



 金曜日を乗り切り、土曜日になった今日のお昼前、俺は勉強道具を準備して出掛けようとしていた。行く場所は勿論、喫茶店だ。



「あ、お母さん……お昼ご飯代をくださいな」

「あー、洗濯に掃除……やる事が多いわぁ。青、車には気を付けるのよ。あー、忙しい忙しい」

「えぇ……」



 まぁ、別に良いんだけどワザとらしい演技が俺を、何とも言えない気分にさせてくる。それに、さっきまでソファーでテレビを見ていた人の台詞とは思えない。

 あの様子だと、『よし、やるか』を三回も四回も繰り返さないと本当には動き出さない感じまである。……それは割といつもか。



「よし、行くか」



 俺は休みの日にしか()かないスニーカーのヒモを結んで、喫茶店に向けて玄関の扉を開いた。



 ◇◇◇



 五月の後半の晴れの日にもなれば、半袖でも十分(じゅうぶん)だし、なんなら汗拭きタオルの一つでも持っていた方が良いくらいだ。実際に俺もカバンには入れている。



「夜はまだ涼しいんだけどなぁ……いや、そうか、そうなってるもんな」



 夜の気温が寒いから涼しいに変化している事に気付き、昼間の暖かさにも一人で納得した所で、目的地である喫茶店の近くまでやって来た。

 信号を渡り、狭い路地に入って静かに(たたず)むその店の扉を開いた。



「いらっしゃいま……青先輩!」

「よっ、来たよ」

「はいっ! お席にご案内しますね」



 マスターから聞いていたのか、奥の方にあるいつも座っている席へと案内して貰った。

 その席に着き、ひま後輩が持って来てくれたお冷やで喉を潤して、カウンターをふと見ると……そこにはいつもの居る人が居なかった。



「あれ……マスターは? 奥さんの看病?」



 お客さんは相変わらず少ないが、マスターの珈琲を楽しみにしている人は少なからず居て、世間話に花を咲かせるまでがいつもの流れの筈だ。

 まぁ、奥さんの風邪がまだ完治していないのなら仕方ないとは思うけど。



「いえ、その……店長も……その、ちょっと熱っぽいというか……」

「えっ……えぇー……」



 予想外の答えに気の抜けた声が出た。

 奥さんの風邪が移ったのだろうか? だとしたら心配だが、それよりも……ひま後輩の方は大丈夫なのだろうか?



「珈琲はマスターの担当で、ケーキは奥さんの担当でしょ? 大丈夫なの? 今日の営業……」

「昨日の連絡がありましたし、今日は早めに来たんですよ。そしたら――」



 朝、喫茶『ハチミツ』に来たひま後輩は、マスターに挨拶をした時にマスターの顔色の悪さに気付いたらしい。

 奥さんもまだ微熱、それに加え、マスターまでも微熱である事から今日は休みにしようか、という話も出たらしいが……ここは流石のひま後輩。休みにはしない事で押し切ったみたいだ。

 奥さんの代わりにケーキの準備、それと、マスター程では無いにしても珈琲を淹れられる事が条件という感じで。


 ここでひま後輩の熱意と器用さ、その他諸々が発揮され、いつもより一時間遅れたらしいが、無事にお店を開ける状態に至ったらしい。

 マスターと奥さんは二階の部屋で休んでいるらしい。何かあれば声を掛けに行くみたいだが、今のところ、クレームも出ておらず順調ではあるみたいだ。



「という感じなのですが……今が十時三十分。これからが勝負どころなんですよね」

「そっか。お昼のランチを始めてからは人が……」

「えぇ……ですが、店長達の店の評判を落とす事の無いようにしないとです!」



 従業員の鑑だな、ひま後輩は。マスターに熱があると聞いた俺には幾つかの選択肢が浮かんでいた。

 一つ、忙しくなったら注文取り係、配膳、食器洗いを手伝う事。

 二つ、珈琲だけ頼んで、後はピークが過ぎるまで注文はしない。

 三つ、気にせず勉強をしておく。

 四つ……目は特に無いな、そんなに思い付かない。



「ひま後輩……いや、向日葵さん。評判を落とさない事を目標とするなら……俺にも出来そうな事を手伝わせてくれないか? 調理は無理でも運ぶ事や、注文を取る事は出来ると思う」

「言い直したという事は……先輩としてでは無いという事ですか?」



 正解だ。学校なら先輩でも、このお店の仕事に関してはひま後輩が先輩。つまり、ひま後輩先輩……という事だな。いや、これは意味が分かんないな。



「あぁ、うん。手伝いたいと思うくらいにはこの店が好きだし、先輩だから手伝うんじゃなく、神戸青として手伝いたい」

「それは……昨日(おっしゃ)ってた先輩後輩とか、対等……という事でしょうか?」

「そう……なるね。だから先輩らしくない、情けない所とか全然ダメな所を見せてしまうかもしれない。それでも、努力はしてみる。だから、出来れば手伝わせて欲しい」



 ひま後輩が顔を(そむ)けて何かを呟いた後、“では、お願いします”の言葉を頂いた。何を呟いていたのかは分からないが、とりあえず了承を得られて良かった。



「ひま後輩、俺は……」

「あ、青さん! 先輩後輩じゃない、た、対等な関係なのですから? その、お店では向日葵と呼んでください。えっと……対等ですから!!」


「わ、分かった。それで、向日葵さん。仕事内容を今の内に教えてくれ」



 忙しくなるまでにはまだ時間がある。

 その間に付け焼き刃だとしても知っておいた方が良い店のルール(約束事)を向日葵さんに教えて貰う事にした。

 各テーブルの番号や伝票の書き方、言葉遣い、慌ただしくなる中での心構えまで……時間の許す限りはなるべく多くを詰め込む様に教えて貰った。


 そして、時計の針が十一時三十分を回った頃にお客様がポツポツと増え始めた。



 ◇◇◇



「向日葵さん、三番にナポリタン。五番にケーキセットでミルクティーとチーズケーキです」

「分かりました。青さん、八番さんの定食が……完成です。お願いします」

「はいよ!」



 向日葵さんがひたすらキッチンで調理をし、俺は給仕(きゅうじ)として雑用をこなしていた。

 いつもは向日葵さんが俺の立場で、お客様からも何事かと聞かれたが……事情を説明すればたちまち心配の声が上がった。マスターと奥さんが愛されている証拠だ。



「青さん、先に五番さんにミルクティーをお願いします」

「分かりました」


「すいませーん、注文いいですか?」

「すぐにお伺いしますっ!!」



 ファーストフード店やファミリーレストラン、その他飲食店からすれば、店の規模も違うし……この人数は(さば)けて当然かもしれない。

 だが、いつもは三人で今日は二人。しかも、その内の一人は初心者だ。言い訳になってしまうが、忙しい……注文待ちの人が居たり、料理を運んでる時にお会計を頼まれるのが優先順位をどうしたらいいのか混乱する。



「すいません、焼き鯖定食と……チョコレートケーキ、オリジナル珈琲でお願い……あぁ、やっぱりショートケーキに変更で」

「ご注文を繰り返させて頂きます。焼き鯖定食が一つ、ショートケーキが一つとオリジナル珈琲が一つ……こちら、ケーキセットという形にして頂きますと、お値段変わらず、珈琲の二杯目が無料となりますが……いかがなさいますか?」


「あ、そう……書いてあるね。じゃあ、それで」

「かしこまりました。珈琲はすぐにお持ち致します。料理の方は少々お待ち下さい」



 俺は頭を下げて、受けた注文を伝える為に向日葵さんの所へ戻る。それを繰り返しやっていると、お昼を過ぎてしばらくした頃……ようやく人が帰り始め、店にいつもの静けさが戻った。



 ◇◇



「いや、きっつぅ……」

「お疲れ様です、青さん。目立つ失敗は無かったですね?」



 テーブルの番号を忘れたり、言葉遣いが危うかったりしたが、怒られる様な失敗はしなかった……と、自分でも思う。もしかしたら向日葵さんに、知らず知らずの内にフォローされているのかもしれないが。

 それでも、何とかピークを乗り越え、今は最初に座っていた席のテーブルに突っ伏している。



「青さん、すぐに珈琲をお持ちしますね!」

「ありがとう、一息つかせてもらうよ……」



 向日葵は流石に慣れていると感心する。

 俺なんか忙しい時間帯の後半は顔に出始めていたと思う。あぁ……これは結構な失敗かもしれないな。その点、向日葵さんは今も笑顔を崩さないでいるし、凄い。何と言うか……凄い。



「青さん、もう二時近くになってしまいましたけど……お料理作りましょうか?」

「あー、確かにお腹空いたなぁ。じゃあ、オムライスで! あと、食後にはモンブランをお願いするよ」



 向日葵さんが運んでくれた珈琲を飲みながら、静かになった店内でゆっくりと、料理の完成を待つことにした。



「すいません、お会計お願いします」


「「はい、ただいまっ!!」」



 厨房にいた向日葵さんと俺の声が被った。つい反射的に俺も立ち上がってしまったが、忙しさを抜けたこの時間なら向日葵さんの仕事だろう。

 だけど、手持ちぶさたにしていた事もあるし、向日葵さんが厨房から出てくる前に片付けてしまおう。



「千三百二十円です…………丁度ですね。こちらレシートです、ありがとうございました」



 よし……少し仕事にも慣れた自分の成長を感じる。まぁ、まだ簡単な事しか出来ないけど。



「すいません、青さん。ありがとうございます」

「いいよ、今から食器類をそっちに持っていくから」

「では、台拭きを用意しておきますね」



 連携も取れてる感じがするし、この夏はバイトを考えても良いかもしれない。まぁ、飲食は大変そうだから何か簡単そうな作業のバイトを探さないといけないけど。



「オムライス、もう少し待っててくださいね」

「分かった」



 帰ったお客様のテーブルの後片付けをして自分の席に戻り、珈琲を飲んで、また落ち着く。



「そういえば前は豚のしょうが焼きを食べたんだったな……どうせ、オムライスも美味しいんだろうなぁ」



 向日葵さんの料理の腕は信じている……というか、疑って無い。オムライスだって色んな種類がある。米部分が違えばソースも色々だ。



「ん? なんか今……頭にクロライスなるものが浮かんだ……?」



 俺は、頭を振って記憶の奥底の方にあったクロライスなるものを弾き出そうとしたが、何故か脳裏にこびりついて剥がれない。だが、これは忘れた方がいいと身体が言っている気がする。



「オムライスは黒くない。オムライスは黒くない……そうだ、向日葵さんのオムライスについてちゃんと想像(イメージ)しよう」



 クロライスは諦め、脳の片隅に追いやり、向日葵さんのオムライスはどんなのだろうかと、考えながら……鳴るお腹を珈琲で静めて完成を待っていた。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


ハイファン……3話まで投稿してるけど3話切りしないでぇぇ!!と言ったら、一人に切られちった件。

口は災いの元……( ;∀;)

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