第52話 同族愛好
繋ぎのような、そんな回
よろしくお願いします!
「じゃあ、赤組集合!」
団長の声で各々好きなように休んでいた赤組メンバーが集まる。俺とのののも並ぶ為に移動をし始めて、ひま後輩とは一旦お別れをした。
「次は何だろう?」
「また行進の練習じゃない? 全体で練習しないといけないのってそれくらいしか無いだろうし」
「疲れる……」
気持ちは分かるが、俺からすれば勉強よりは楽だ。ただ行進だけで終わるのも何だかつまらないのは確かだが、先生か先輩のどちらが決めたかは分からないけど、どちらにせよ仕方のない事だ。
「はい、七時間目の事ですが……とりあえず先程の続きとして、一周だけグラウンドを実際に歩きます。その後は、少し決めないといけない事が出来たのでそれをやって、最後に全員でグラウンドの雑草抜きや邪魔な石があればそれを取り除く作業をして貰います。少しぎっしりとしてますが、時間は決まっていますのでテキパキ行きましょう」
「じゃあ、皆起立!! さっきの感じでその場で足踏みした後に歩き出すから、遅れないように!!」
説明が終わるとすぐに足踏み開始の合図が出され、グラウンドを歩き始めた。決める事と草むしりのどっちに時間を割くのかは知らないが、先輩達も急な事で慌ててる様子だ。
俺達に出来るのは黙って言われた事をやるだけだな。それが先輩達にとっても都合が良い筈だし。
とりあえず何も考えずにグラウンドを一周しますかね。
◇◇◇
「はい、本番も今の感じでよろしくお願いします! では、地面にですが座って下さい。えーっと……男子の皆には関係ない話になるんだけど、女子が出場する種目が一つ増えることになりました。その種目は……『玉入れ』です!」
三年生のイケイケグループだろうか……参加したいという声が上がったが、団長が女装うんぬん言って少し笑いを取ってから静かにさせる一幕があった。
玉入れといえば、最初にのののが出場したいと言っていた競技だが、今はどう思っているのだろうか? 既に二つの競技に出る予定だし、“出たかった”競技については興味が無いかもしれない。
「それで、学年から女子を五人ずつ出して欲しいです。クラスのリーダーを中心に少し話し合って貰えるかな? 勿論、先輩後輩で一緒に出ようとするのもアリだから……じゃ、クラスリーダー、決まったらよろしくね」
男子は全く関係が無い……つまり、今の時間はただの休み時間とそう変わらず、女子よりも移動して話している。
俺も勝也の所に……と思ったが、何やらクラスリーダーとして手伝いに回っていた。ブラックを見るも、俺と同じく何もしていない。
「青すわぁん、青すわぁん」
「青スワン? 誰が青い白鳥だっつーの!」
「……? 何を言ってるのですか、青さん?」
こいつ……!! いや、谷園に関しては何も言うまい。どうせ、何も考えて無いのだろうし。
「それで、谷園は玉入れに参加するのか?」
「いえいえ、私は四種目にでますからね! 他の人に譲りますよ……それで、青さん? 隣の方は……?」
左に座った谷園にそう言われ、顔を反対側に向けるとひま後輩と目が合った。
谷園は正面から来て左に座る流れだったからだろう……右後ろからそっと近付いていたひま後輩に気付かなかったのは。
「ホント、友達いないのな……」
「ち、違いますわ! 勘違いしないでくださいましっ!!」
おぉ……なんか台詞と見た目がピタッと来た。でも、それでも、勘違いには違いないだろう。玉入れにでも参加すれば今よりもマシになるかもしれないのに……友達がいないが為に参加しづらくて、わざわざ同じく暇な俺の所に逃げてしまうのだろう。
「谷園って、会ったこと無かったっけ?」
「えぇ、まぁ……見掛けた事はありますけど、ちゃんと話した事って無いですよね? 一年生ですか?」
「はい、そうですよ。谷園さんと仰るのです……よね? 灰沢向日葵と申します以後お見知り置きを……」
ひま後輩の丁寧な挨拶につられ、谷園もややぎこちないが丁寧に返す。
谷園とひま後輩……どちらかと言うと明るい谷園と、どちらかと言うと落ち着いているひま後輩。女子というのはいつの間にか仲良くなっているものだが、この二人は相性的にどうなのだろう。
谷園から見れば同級生の知り合い、ひま後輩から見れば先輩の知り合い。知り合いの知り合いという微妙な立ち位置でしか無く、さすがに今俺が居なくなるのは気まずさが残るだけだろう。
「青さん、青さん……向日葵さんの見た目とオーラが食い違っているのですが?」
「……俺の霞んでるのが影響してるんじゃないか?」
「なるほど! 納得ですよっ!」
誤魔化せたのか、誤魔化せて無いのか……というか、自分で言った言い訳なのだが、すぐに納得されるのはあまり嬉しく無い。
「青先輩、オーラとは……?」
「気にするな、高校二年生特有のやつだ」
「なるほど……いえ、よく分からないのですが?」
俺だって知らないもの……。難しく考えてはいけない。インスピレーションを働かせるしか、谷園とまともに会話を成立させる事が出来ないのだから。
「というか、青さんに一年生の知り合いが居るとは思わなかったですよっ! クラスでさえも……ケホン。友達は少数の男子だけかと思ってました」
「青先輩! それは、本当ですのっ!?」
谷園が何を言いかけたのかは、途中でちゃんと止めたから分からない呈でいくが、本当に分からないのはひま後輩が少し嬉しそうな件だ。
もしかして――友達が少ないというのが同族として認められたのだろうか?
そんなグループは悲しすぎるし、出来れば入りたくは無いのですが。
「残念ながら、他の学年だって知り合いはいるんだぜ?」
麗奈さん、実友里さんに森……森は除外だな。別に名前を知ったからって知り合いな訳ではないからな。つまり、ひま後輩を除いても、他の学年に知り合いと呼べる人が二人もいるのだ。
帰宅部だから、うん。帰宅部だからこんなもんだよな。
「青さん……無理はしないでいいですよ? 私は友達いますけど」
「青先輩……見栄は張らなくて良いのです。私は部活でも浮いてますし」
谷園……! ひま後輩……!! ん? おや……?
今、俺を慰めてくれるのかと思いきや、谷園には自慢され、ひま後輩には悲しい事を聞かされた気がする。
しかも、俺よりも重症な感じで。どんだけ周りから浮いているんだか……。あと、ひま後輩にだけは見栄云々は言われたくない。
「ひま後輩……」
「向日葵さん……よろしければ、私と一緒に玉入れに参加してみますか?」
谷園のナイスな提案を俺もひま後輩に訴えかけた。例え浮いたとしても谷園が居れば無理にでも周囲に溶け込めるだろう。
「そ、そこまで仰るなら……よろしくお願いしますわ」
「が、頑張るんだぞひま後輩!!」
谷園が俺の左肩を利用して立ち上がり、玉入れの出場者を決めているだろうここより前の方へ行こうとするその前に、団長が拡声器を手に取った。
「はい、皆さんの協力のお陰で、すんなりと決める事が出来ました! 今後も、皆で力を合わせていきましょう。玉入れに参加する事になった人は、頑張ってくださいね!」
「「…………ぇぇ」」
「…………」
何とも言えなくて申し訳ない……というか、うん。まぁ、決まってしまった事は仕方ないという事で、ね?
いや、意気込んでたのは分かるよ? 俺も応援してたしね。でも、参加者を募ってる時に後ろの方で話してたら……ね、って感じですよ。
「青さん、何とかしてください」
「とりあえず……座れよ」
スッと腰を下ろした谷園と、やる気が迷子になっているひま後輩に挟まれる。掛ける言葉がまだ見つから無いが……一つだけ言っておくか。
「お前には頼りになる先輩が居るさ」
「えぇ、誘ってくれた谷園さんの事ですわね」
「くっ……」
ぐうの音は出ないが、『くっ……』って感じだ。
玉入れに誘ってくれた人と、それを後押ししただけの人じゃ評価はそうなって当然か。
「ま、まぁ……元気を出してください向日葵さん。まだ五月ですし、友達なんてこれからですよ! これから!」
「友達の境界線ってどこなのでしょうか……」
どこからが友達でどこからがそうじゃ無いのかは、俺も考えた事はある。結論というか、友達は『どこから』とかじゃないという曖昧なハッキリとしない答えしか出なかったのを覚えている。
友達の枠なんて人それぞれ基準があると思うし、絶対にコレなんて事は言えないけど……。
「“対等である事”じゃないか? まぁ、性別や世代っていう要素を含めて何が対等なのか……を突き詰めればまた面倒だけど、一緒に居る時に上も下も無い感じ」
「青さん! 青さん! 私と青さんは対等ですかっ!?」
谷園と俺のスペックを比較すると、谷園の方が総合的に上だろう。だが、分け隔て無い谷園の性格が相手を萎縮させない。これは地味に凄い事だと思っている。だが、それを素直に伝えるのはなんか嫌だ……調子に乗りそうだし。
「谷園を下に見ることは無い……が、まだ分かんないな」
「へへっ、少なくとも横に並ぶって事ですね!」
その前向きな感じも、見習いたいとは思うが……今の自分のままで良いかと思う始末。谷園の明るさを身に付けるのは無理だと、自分の中で諦めてるのかもしれない。
「青先輩、私とは対等で……いてくれますか?」
どこか、微妙にニュアンスの違いがある気もするが、谷園と同じ事をひま後輩に聞かれていたとしても返す事は一緒だっただろう。
「先輩として、後輩としてならいつまでも対等では無いと思うよ? 今のこの先輩後輩は、全然嫌いじゃ無いけどね」
「私は……遠慮なんてしているつもりは無いですが」
それは確かにそうで、少しは先輩を立ててくれても良くない? と、思ったりもするのだが、この場合は俺に問題があったりする。
何となく先輩という立場になると、先輩風を吹かせたくなって、あれこれと手助けしてしまう。
遠慮の無い後輩……それは良いと思う。だが、頼りの無い先輩……これは良くない。そんな人を心から先輩とは思えないだろう。
だから、先輩後輩でいる間は、対等とは言えないと思っている。情けない先輩には何となくだが、なりたく無い我が儘って話でもあるのだけど。
「ひま後輩が悪い訳じゃないよ。まぁ、それはまた今度分かるさ。あ……草むしりが始まるみたいだし、俺達も動こうか」
いつの間にか団長達がグループに一個間隔で用意している園芸で使うサイズのスコップやバケツやゴミ袋を配っていた。
どうでもいい事だが、地域によって、スコップとシャベルの呼び方が逆だったりするらしい。
◇◇
途中からのののも加わって、雑談をしながら雑草を抜いていく。谷園が手に入れてきたスコップは、手を痛めたりしない様にひま後輩に渡してある。
別に、どのグループも本気で草むしりをしている訳ではない。一年生はともかく、二年生以上は、この後に除草剤を撒かれる事を知っているから尚更だ。
ある程度雑草を集め終わるとそろそろ授業の終わる時間になっていて、ゴミを一ヶ所に纏めてから今は整列して先生の話を聞いている。
「……という事で、怪我には十分に気を付ける様に。では、玄関口で混乱しないように、一年生から順に戻る事とします。着替え終わったら各教室でホームルームを速やかに行って、放課後に入ってください。では、移動!」
一年生の後に俺達二年生も移動して、着替えの後に簡単なホームルームが行われた。
金曜日という事で、少し多目に宿題を配られたがいつもの事だ。これから土日という事を考えると楽しさの方が勝つ。
「じゃあな、青。また来週」
「おうよ、また来週」
「ばいばい、青くん」
「あ、はい! また、来週」
「神戸、また」
「またな、ののの」
「青さん! さよならでーす」
「ちゃんと、前を見て帰れよ」
最近挨拶をする事が増えたが、回数であって人数が増えた訳では無い。まぁ、良いんだけど。
俺は一人、コンビニに立ち寄っただけで後は真っ直ぐ帰宅した。
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