第48話 病み上がりののの
少し短めですが、よろしくお願いします!
(´ω`)
教壇に紅亜さんと勝也が立っていて、最前列中央の二席に俺と谷園が座っている。空気は張り詰めている訳では無いし、悪い訳でもない。しいて言うなら……重い。
「マノン。いくらマノンがフランクな性格だからと言っても、流石に危機感が薄いんじゃないかしら?」
「そりゃ、“青さん”に流されてしまった所はありますけど……ですけど! 誰の家にでも泊まりに行く様な事はしませんよっ!」
お気付きになられただろうか? 俺は気付いた。コイツ……然り気無く俺に責任を擦り付けようとしやがった。だが、事実だから反論もしにくい。
「そ、そそそれって! 青くんと他の人では何かが違うって言うのかしら? ち、ちなみにどの辺が……?」
「ん? そりゃ……オーラですかね、やっぱり。安全で安心するんですよ、青さんのオーラは」
紅亜さんが、理解したような出来なかったような顔をしている。
このまま話が有耶無耶になればと思ったのだが、流石にそう都合は良くなかった。一先ず谷園の話から勝也へと方向が変わった。
「日曜日だったのよね? 円城寺君が青くんに誘われたのは」
「まぁ、連絡が来たのは土曜日な。ちょっと予定があったから日曜日は昼くらいに行くつもりだったんだが……」
そこで勝也は視線を谷園へと向ける。その視線の意味はよく分からないが、谷園が何かしたのは確かだろうな。
だが、勝也は確か……用事が長引くから行けないと俺にチャットを送ってきた。谷園が何かをして用事が長引いたのか? いや、そういえば……谷園に連絡を貰ったと口を滑らせなかったか?
「でも、行かなかったのよね? 」
「まぁ、行かなかったな。何か……今日は独占ですとかなんとか……」
俺と紅亜さんの視線が谷園へ移動する。
勝也が本当に用事が長引いたならこんかいの事は、谷園を家に招き入れてしまった俺が悪いだろう。外聞や谷園が危機感の薄い女の子という印象が付いてしまったら申し訳ない。
だが、勝也のお陰で俺に悪い点は一つも無くなったと言える! というか、言って良いだろう!
俺と谷園はどちらが悪いとかじゃなく、トントンだ。つまり、どちらも悪くない。この話し合いは閉廷である。
「ふぅ……谷園、今度からはお互いに危機感を持つという事で手を打とう。争いは虚しいだけだ」
「ですね……というか、マノンちゃんです。いや、それはいいとしても、そもそもですよ? 友達の家程度の外泊なら校則的に問題無いですよね?」
俺と谷園は握手をしながら終わりの雰囲気を作り出した。
確かに校則的にはセーフで、それは谷園の言う通りだ。紅亜さんに遊んだ事しか伝えず、泊まって行った事をあえて言わなかったのは悪いと思うが……それはほら、言いづらいという面もあるし。
「そ、それは……そうだけど」
「どうしたんですか、紅亜。私の事を青さんから守ろうと、心配してくれる気持ちは嬉しいですが」
「おい」
捨てられた子犬みたいだったから家に誘っただけだ。家に誘うって何かアウトだな。……保護。うん、保護したのだ。
あんな谷園をそのまま帰らせるのが忍びなかっただけで、下心も何も無い。風評被害もいいとこだ。
「青。基本的には部活で忙しいから無理だけどよ、夏休みとか俺も泊まって良いか?」
「それはもちろん。夏休みとかならいつでも良いぞ!」
出来れば急にではなく、前もって日にちを決めて貰えればありがたい。両親にも伝えておけば、喜んで晩御飯に気合いを入れてくれるだろうし。
「……だとよ」
「ん? どうした勝也?」
「なんでもない……っと、そろそろ部活に行かないとやべーかもな! じゃあまた明日」
勝也が颯爽と去っていった。結局、何を言ったのかはよく分からなかったが、まぁ気にしなくてもいいだろう。
「青くん、ごめんね。変な事に時間を取っちゃって」
「いや、まぁ……正確に伝えてなかったから、こっちも」
うっ……何だこの気まずさというか、顔を真正面から見れない感じは。少し申し訳無さそうな顔で、指を絡ませている紅亜さんを見ると、こっちが申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
付き合ってた頃より、別れた後の方が色んな表情の紅亜さんを見ている気がして、複雑な思いと知れて嬉しい気持ちが鬩ぎ合っている。
「えぇ……何ですかこの二人の空間みたいな。私を除いてイチャイチャするなら外でやってくださいよっ」
「別にイチャイチャなんてしてないだろ!?」
「そ、そうよ! マノンったら何を言ってるの!? ホ、ホントにもう……まったく! まったく! もう!」
イチャイチャとはもっと甘い空間の事だろう。変な谷園だ。今のどこに甘さがあったと言うのか……谷園もオーラだの何だの言いつつ、そこら辺は普通の女子と変わらないんだな。
「じゃ、じゃあ! 私も部活に行くわね。また明日! マノン、青くん」
「バイバイですーっ!」
「部活……が、頑張って」
紅亜さんも鞄を手に颯爽と教室から出ていった。
俺と谷園も、いつまでも残っていても仕方がないという事で、駅の方まで一緒に帰る事にした。
◇◇◇
「まったく、紅亜ったら失礼しちゃいますよね! 私のどこが危機感の薄い美少女だと言うのてしょうかっ!」
「そのままキャラも薄くなれば良いのに……じゃなくて、でも実際のとこ俺の家に泊まってったからなぁ。オーラの見えない新山さんは心配なんじゃない?」
歩きながらそんな会話をしているが、谷園は特に気にしてる様子は無い。『イタズラがバレちゃったてへっ』くらいにしか思って無さそうである。
「あっ、青さん! お弁当箱、お弁当箱! すっかり忘れる所でした!」
「おう、ちゃんとお母さんに返しておくよ」
帰って来た俺の弁当箱を鞄にしまう。これで明日はお弁当だな。
「では、この辺で! また明日ですっ、青さん!」
「じゃあな、谷園」
「マノンですっ!」
タイミング良く青に変わった信号機を見て谷園が走っていく。それを見た俺も自宅へ向けて歩き出した。
「一回呼べば大丈夫かと思ったが……やっぱり、名前で呼ぶのは照れるな」
◇◇◇
夜。寝る前の勉強をしている最中に、のののからチャットが来たのだが、『ギルティ』だけじゃ流石に分からない。
まさか、午後の授業に書いたノートが紅亜さんのだとバレたのだろうか? そんな事を思いながらも、それを聞くのは藪蛇になりそうだと思いとどまり、今の体調を聞いておいた。
『明日は学校行く』
きっと、熱も咳もそこまで酷くは無かったのだろうと解釈して、チャットを長引かせ無い為にも、最後に勉強すると返信して止めておいた。
「よし、あともうちょっとだけ頑張ってから寝るか」
◇◇
朝は太陽の陽に当たると目覚めが良いと聞くが、ポカポカとして眠気が増すのは俺だけじゃないだろう。そんな事を今日も考えながら学校の教室へ着くと、後ろから背中を叩かれた。
振り返るとそこには、マスクを装着したのののが今日も今日とて眠そうに立っていた。
「おはよう、ののの。大丈夫なの?」
「マスクは一応。げん……まだ完全じゃない」
普段と変わらなそうに見えるが、本人しか体調については分からない。のののが完全に治ってないというのならそうなのだろう。
「病み上がりなんだから無理するなよ?」
「神戸、助ける」
「はいはい……とりあえず髪のハネてる所でも直しちゃうか」
自分達の席にカバンを置いて、のののの髪を整える。
紅亜さんと谷園ものののに一声掛けに来た所で俺は、自分の席に戻った。
とりあえず今日はのののに無茶をさせない様にするつもりだが……よくよく考えると、のののが無茶をする時なんてほとんど見たことが無い。頼まれたら手伝うスタイルでいくか……と結論を出して、もうすぐ読み終わりそうな小説を読み始めた。
「神戸、ノートありがとう」
「どういたしまして」
少しぶっきらぼうになってしまったが、それはお互い様だし、のののも特に気にしてないだろう。
昨日もチャットで写真を送る度に言われてたが、それでも直接言うのがやっぱりのののだなと、少しだけ笑みが溢れてしまった。
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