第45話 おんぶチャレンジ
お待たせしましたぁ~
疲れてて中々時間の確保が難しくて……
(とか言いつつ、“短編”を投稿したりTwitterをしたり、ゲームアプリをしてる)
では、短めですがよろしくお願いします!
雨はまだ止んでいない。
だから、俺はある事を決意していた。
麗奈さんの足……もとい足首は軽い捻挫だ。ここから家まで歩くのはしんどいだろう。
「麗奈さん、念のため……スカートの下に体操服を着ておいたままでお願いします」
「どうしてだ、青? ……風が強いって事か?」
別にスカートが捲れる程に風は強くない。何なら雨も今日中には上がりそうである。
それで、どうして……と聞かれれば簡単な事だ。
それは、歩くのが辛そうな麗奈さんをどうやって家まで送るかを考えた時に、俺が選ぶ事の出来る方法の為の保険だ。
――麗奈さんを背負って帰る。
という、簡単な手段。
傘は麗奈さんに持って貰えば解決。歩く早さもその方が早い。もしかしたら体勢を整える時に、スカートが捲れるかもしれないから……要は、それ対策だ。
「麗奈さんを背負って帰るんですよ。かなり合理的です!」
「ま、待て! ここから家まで二キロ以上はあるんだぞ!?」
ちっちっち。距離は問題じゃない。例え……何キロ、何十キロだろうと、麗奈さんを背負って帰るしか無いなら俺はそうする。
というか、問題なんて俺の筋力と体力以外には無い。
「任せてください! 麗奈さんを運ぶのは何もこれが初めてでは無いでしょ?」
「青……それは小学生の頃の話だろう。それに、このくらいの痛みなら大丈夫だ。明日には治るだろうし、歩いて帰れる」
麗奈さんは頑固……とは違うけど、あまり人に頼ろうとしない。自分である程度の事は出来てしまうという所が大きいのだが……自分の事で人に迷惑を掛けるのを嫌がる。
麗奈さんの良い所でそこを否定する気は微塵も無いが、頑固には頑固。麗奈さんを諦めされる程に頑固にならなくてはならない。
「駄目です。俺は体育祭の保健係で、米良先生から色々と教えて貰いましたが、患者の言う『大丈夫』や『問題ない』を鵜呑みにしてはいけないと。痛むなら遠慮はしないでくださいね」
「うぅ……む。だが、青に大変な思いをさせてしまうだろうな」
流石、麗奈さんだ。こんな時でも俺の事を案じてくれるとは……いや、違うな。これは遠回しに帰宅部で運動不足を指摘されているヤツだ。
「俺達の間にいまさら遠慮とか要らないですよ。さっ、本格的に暗くなる前に帰りましょう!」
「やれやれ……いつの間にこんな強引になってしまったのか。では、お願いしようかな」
着替えの終わった麗奈さんに肩を貸し、玄関までは歩いて移動する。
体重を掛けると痛むのか、足を引きずる形になっていた。
それでも、泣き言一つ言わない麗奈さんは逞しいが、少し心配にも思う。まぁ、俺の方が麗奈さんに心配される事は多いけど。
「では、ここからおんぶしますね。傘はお願いします」
「……少し恥ずかしいが、まぁこれはこれでアリかな。青! 頼んだぞ」
軽い。鞄の重さがあるから全体的には少し重たく感じるが、麗奈さん自体は軽く感じる。
どこか大きくて遠い存在に思える人だけど、それは勝手に俺が思っているだけで、昔から近くに居てくれたんだよな。
「麗奈さん。ありがとうございます」
「何だ、いきなり……。それに、何についてのありがとう?」
あえて言うなら全部。あの料理でさえ、感謝の気持ちはある。が、それを真っ直ぐ伝えるのは少し恥ずかしいから言うのはやめておこう。
麗奈さんが何の事かとせっついて来るが、それを笑って流し、歩き出した。さて、どこで休憩を挟むか考えないとな。
◇◇◇
「はぁ……ふぅ……ふぅ~」
「青、頑張れ! 家はあの曲がり角の先だ」
学校から休みを挟まずに歩いて来た。
途中にあるコンビニで、何か買い物をすると見せ掛けて少し休もうかと思ったが、何かこう……勢いで来てしまった。正直、しんどい。
「青、ありがとう。ここまでくれば目と鼻の先だから大丈夫だ。……大丈夫か?」
「え、えぇ……大丈夫です。麗奈さんの為なら頑張れる男ですからね。ふぅ……ふぅ……」
幼馴染としてこれくらいはやってのけないと。
麗奈さんが困ったら真っ先に駆け付ける。それが幼馴染ってもんだ。
「青はまた平然とそんな台詞を……まぁいい。このお礼はまたいつかちゃんとしよう。そうだな……ケーキにでも挑戦してみるかな?」
「わぁお……そいつはクレイ……コホンコホン。それは待ち遠しいですね」
出来れば、ずっと待ってるけどずっと遠いままであって欲しいな……。ケーキはアレンジし放題だろうしな。
「ふふっ、そうかい? なら、張り切れるってものだ。楽しみにしておいてくれ……っと、そろそろお別れだな。では、今日はありがとう青」
「当然の事をしただけですよ。じゃあ、安静に。さよならです麗奈さん」
お互いに右手を軽く振って、麗奈さんはゆっくりと玄関に向かい、俺もすぐそこにある自分の家へと帰った。
明日には良くなっていればいいのだが……明日、早起きできたら迎えに行ってみようかな?
「ただいまー」
「お帰り~お兄ちゃん、今日はカレーだよぉ~」
今日はカレーらしい。金曜日じゃないけど。
◇◇◇
昨日からテストに向けての勉強をしようと思ったが、初日に出鼻を挫いてしまった。
だから、今日はスマホも遠ざけて、二時間程みっちりやるつもりだ。甘くしたカフェオレの準備も万端である。
「数学を早い内からやっておくか? 嫌いじゃ無いけど得意じゃ無いからなぁ~っと! よし! やるか! よし! やるぞぉ!」
あと数回だけ繰り返して、気合いを注入する。復習からだな。前の内容をしっかりと出来ない次に進めないからな。
高校二年生の数学は難しいと誰かが言ってたし、実際、俺にとっては難しい。
「学習とは慣れる事。習って慣れたという事は学んだという事……いや、名言を生み出してる場合じゃない。集中しないと! それに、意味も良く分かんないしな……」
「お兄ちゃん! あーそぼー」
勿論、無反応を突き通す。耳に着けたイヤホンをスマホにでも繋げておけば、音楽聞きながら勉強してると勝手に解釈してくれるだろう。
本当は遊んであげたいが、碧も小六だ。そろそろ妥協や諦め、我慢を覚えていかないとな。何か……ダメな子に成長しそうだが、碧なら大丈夫だろう。きっと。
「お兄ちゃーん! 暇でしょー! 聞いてるのー?」
「…………」
聞いてはいる。反応はしないがな。
「お兄ちゃん……碧が暇だよー?」
「…………」
すまない、碧。お兄ちゃんは忙しいんだ。
「…………」
「……行ったか」
うし! この辺で躓くと後々もヤバイってのののも言ってたし、頑張るか!
「まぁ、普通に部屋に侵入する碧なのでしたー!」
「お兄ちゃん的に、それは良くないと思うなー?」
まぁ、部屋の外で声を掛けるという事を覚えただけ成長と言って良いのだろうが、入って来ちゃったら台無しだ。
「マノンちゃんに、どうやったらお兄ちゃんが遊んでくれるか『ちょこライン』で聞いたの! そしたら、部屋にさえ入ればこっちのもんだって」
「谷園!! 碧ちゃん、アイツは……アイツだけは見習ってはいけませんよ! それに、今は勉強中です」
明日、文句言おう……。
うちの碧がアホにそだったらどうしてくれるんだ……悪影響の塊だな。どうせなら、麗奈さんの様な人物に育って欲しいのに。
でも、既に俺に似た部分も少し出てきたからヤバイと焦りもある。後回し人間になってしまう……。
「えぇー!? お兄ちゃん忙しいの? マノンちゃんは暇って言ってるよ?」
「アイツの成績を知らないから何とも言えないが……来月から色々と学校行事があるし、今の内からやっておかないと……。碧、この部屋に居ても良いけど、お兄ちゃんは忙しいから『ちょこライン』でそのまま谷園と話してな。だけど、マネはしちゃ駄目だからな? 絶対だぞ?」
部屋から出すのも心情的に難しかったから、妥協する。
部屋で大人しくしててくれるなら問題は無いからな。少し心配だが、谷園という話し相手がいるならより静かにしててくれるだろうし。
「へぇー、お風呂上がりに牛乳を沢山飲んでマッサージすれば良いんだ! 私も大きくなるのかな……?」
「碧、谷園の体型は俺よりも詳しく知っているだろ? 悪いことは言わない。谷園から何かを教わるのはやめておけな」
碧が驚いた様な表情をみせ、思案顔に移り、納得していた。
もう、今の以外には他に言うことも無いだろうし、今度こそ本当に本当に、勉強に集中することにした。
予想通りに、雨音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
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