第40話 だから雨が降るんだな
風邪、もう少しで治りそう。
よろしくお願いいたします!(´ω`)
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!
誰かが何かを言っている。だが……俺は自分の身体の筈なのに、動かす事も反応する事も出来ない。だが、確かに何かが聞こえて来る……それだけは分かる。
「……、…………! …………!」
五感……特に聴覚と触覚は働いており、視角、嗅覚、味覚は、自分でもどうなっているのか分からない。だが、第六感はこう告げている――もう、朝だよ! って。
「青さん、起きてください! 朝ですよ!」
ほ~ら、朝だって………………んんっ!? た、に、ぞ、の!?
一気に身体の中を血が巡った気がした。言うならば、寝起きなのに時計を見たら時間ギリギリの時と同じ感じだ。言い訳してる場合じゃねぇ……とりあえず動かないと! って時のアレだ。
俺はゆっくりだが、目を開けて視界を確保し、意識的に鼻で息を吸いこんで嗅覚を回復させる。味覚は……後回しだ。
「青さ~ん? 起こしてきてと頼まれましたが……起きれますか~?」
「今何時だ!?」
寝坊しそうな時はいつも碧かお母さんが起こしに来てくれる。という事は……かなりヤバイのではと思い、充電してあるスマホを手に取り時間を確認する。
六時……四十分。
「後、五分……いや、三十分はいけるな。谷園、三十分後に……」
「あっ~! 碧ちゃんが言ってましたよっ! 『お兄ちゃんが二度寝したら、なかなか起きない』って! ほら、少し早いかもしれませんが起きてくださーい!」
流石に強く揺さぶられると目が覚めるというか、寝ていられない。仕方なく身体を起こし、ベッドから出る。いつもなら一度お日様の光を身に浴びて、朝の感じを堪能するのだが……。
「曇ってる……というか雨……?」
「ですっ! どうやら夜中に降りだしたみたいですね」
昨夜は確かに曇っていたし、もしかすると……とは思っていたが降っちゃったか……。月曜日から雨だと気が重く感じる……普段なら。
「さ! 青さん、顔を洗ってシャッキリしましょう!」
「何で? 何で朝からそんなに元気なの? 太陽だって休みだよ?」
俺のくだらないジョークにも、『明るさ勝負のライバルが休んでるなら私が輝くチャンスです』なんて冗談で返して来た。冗談……だよね?
理由は分からないがとりあえず明るい谷園に急がされつつ、洗面所で顔を洗い、リビングへとやって来た。
「おはよう、青」
「あら、やっぱりマノンちゃんに頼んで正解だったわね?」
「碧的には何か複雑~」
うちの家族は早起きだなぁ……そんな事を欠伸をしながら考えて、朝食の用意されたテーブルに着席する。今日は焼いたトーストとジャムが用意されていた。他の皆にはおかずも用意されているが、俺にはこれだけである。これは、朝にあまり多くを食さない俺に対しての母親的な配慮であって、家庭内のイジメでもなんでも無い。
「青、今日は学食になさいね?」
「作り忘れたの?」
いつも作った弁当が置いてある場所を確認すると、三つの弁当箱が用意されていた。いつも通りである。
「いや、作ってはいるけど……パパでしょ? 碧でしょ? そして……マノンちゃん。ほら……ね?」
「そういう……まぁ、良いけど。良く考えたら、俺と谷園の弁当の中身が全く一緒とか……怪しさしか無いし」
一緒に朝食を取っている谷園を見ると申し訳なさそうな顔をしている。何回か遠慮した末に押し切られたのだろう。うちのお母さんだからな。
「ま、そういう事なら学食で何か食べるよ。谷園に渡す弁当箱は回収しておけば良いの?」
「あ、洗って返しますよ! そこまでして貰う訳にはいきませんしっ!」
「そうねぇ……うん。じゃあ、洗って返して貰いましょうかしら?」
うちのお母さんなら洗わなくて良いと言うかと思ったが……意外だ。
「青、こういうのはバランスなのよ。マノンちゃんが遠慮してるんじゃなくて、立場的に私がマノンちゃんに遠慮を“させてしまっている”の。だから、申し訳無く思わないで済むように、洗って返して貰うのよ。分かった?」
「なん……となく?」
遠慮すると申し訳ないと感じる気持ちが生じる。その分だけ谷園との間に隔たりが出来てしまう……それをうちのお母さんは考えたのだろうか? だから、谷園が遠慮しなくて済む様に、洗って返せ……と。なるほど、たぶんだが、理解が追い付いた。イチゴジャムで糖分を補給したお陰だな。
◇◇
朝食を食べ終えて、寝癖やその他諸々を済まして部屋で制服に着替えている。いつもなら、ようやくダラダラと動き出す時間だ。これで晴れだったら気分爽快って感じだっただろうな。
「お兄ちゃ~ん? 準備出来た~? もう、行くよー」
「いま行くー」
カバンを持ち、部屋を出て、玄関で靴を履いていた碧と谷園に一声掛けてから一緒に家を出た。雨自体はそこまで強くは無いが、今日は降り続きそうな気がした。谷園には家に置いてあったビニール傘を貸し、途中まで碧と三人で登校していたが、碧は方向が違うため、割とすぐに別れて今は谷園と二人で登校していた。
言い訳は考えてある。『さっき、そこで偶然』だ。誰に言い訳するわけでは無いが、一応だ。
「雨ですねぇ」
「雨だなぁ」
そんな中身の無い会話をしながら歩いていると、まだ人の少ない通学路で後ろから誰かが駆け寄って来る気配がした。
「その髪……マノン? どうしたの? 今日はえらく早いわ……ね……」
「あっ、紅亜じゃないですか~おはようです~」
俺の傘は透明じゃない。だから振り向きさえしなければ……とか、考えたが早い内に正体を明かした方が賢明だろう。言い訳は考えてあるしな! 備えあれば憂いなしってヤツだ。
「青さん、紅亜ですよ! 私達も早く家を出たつもりですけど……やっぱり大変ですね運動部は!」
「さっきそこで偶然にあっ……おい、谷園? 今何を言いやがった?」
「……私の聞き間違えじゃなかったら“私達”って言わなかったかしら? マノン? ちょっと、話を聞いて良い?」
備えがあっても谷園が居る事が既に憂いという事を失念していた……。いや、まだ取り返せる範囲の筈だ。
「ち、違うんだ。谷園も家を早く出た。俺も今日は偶々、家を早く出たんです。それで……さっき、その事を話していたから“私達”って……な! 谷園?」
「青さん、嘘は良くないです。そういうのは信用に関わりますからね! 嘘を吐くくらいなら何も語らない方がマシだと思いますよ」
うっ……谷園にしてはまともな事を言う。確かに嘘は駄目だな、後で自分の首を絞める事になりそうだし。谷園の言う通りに、ここは何も語らない方が良さそうだな。
「「…………」」
「いや、気になるのだけど!? 二人して沈黙しないで!?」
◇◇
「……という事でもう暗かったし、送っていったんだよ? ……一度」
「そうです、送ってもらったんですよ……一度」
ふぅ……やはり嘘吐くより説明する方がスッキリするな。全部は言ってないが。
「なら……何で朝も一緒なのかしら? まさか……」
「偶々だよ?」
「偶々ですよ?」
紅亜さんの鋭い指摘に、また一つ嘘を重ねてしまった。
だが、同級生の……それも転校生女子を家に泊めたなんて話が広まれば、大変な事になると目に見えている。
嘘も方便、優しい嘘。そんな都合の良い言葉を自分に言い聞かせるように心の中で何度も唱えた。
「そ、そうだ! 昨日、紅亜は何をしてたんですか? 予定があるとか言ったから、私は青さんの家に行ったんですよ?」
「え? あぁ……友達とちょっと会合……じゃなくて、遊んでたのよ。色々と話そうと思ってたんだけど……結局はお茶して終わったわ」
谷園と紅亜さんが話して、それを俺が一歩後ろで聞きながら三人で登校した。どうやら紅亜さんも朝練のつもりでいつも通りに起きたのだが……雨が降っていて中止になったらしい。だけど、そのままいつも通りに登校していたらしい。俺だったら家でのんびりするのに……真面目だなぁ。
教室に着いてもまだ誰も来ていなかった。行く所があると谷園は教室を出て行った。たぶん、トイレだな。教室は、俺と紅亜さんの二人だけの空間になった。
◇◇
窓に当たる雨の音がその教室に響いていた。お互いに自分の席に座って、俺は頬杖を突きながら外を眺め、紅亜さんは特に何もしていない。そんな静かな空間で、ポツリと紅亜さんが言葉を漏らした。
「昨日……ね。ののさんと会ったのよ」
「のののと? あぁ……なるほど」
心当たりはある。金曜日の放課後にのののが任せてと言っていた件だろう。話し合ったのだろうか? でも、お茶して帰っただけとも言っていたし……。
「意外でしょ? 私とののさん、今……仲良しってまではまだいかないけど、友達なのよ? それでね、聞かれたのよ。過去に何かあったでしょって……」
「谷園とまではいかないけど……のののも鋭いな。あったでしょ……か。それで……話したの?」
俺が知っている紅亜さんの過去。たぶんだけど、話して無いだろう。自分から好んで話す内容じゃないからな。
「ううん。あれは……あの頃の事は私の黒歴史ね。振り返って思えばそんな感じ。私を含めて全てが嘘だと思っていたの」
「俺が知ってるのは中三の頃だけで、それ以前の事は知らないんだけどね」
中三の時には既に荒んでいた……というか、一人で過ごしていた……というか、一人にされていた。一年、二年の時は別のクラスで、お互いに共通点も無く、接する機会は無かった。だから、知っているのは一人で居た理由の一部だけだ。それすらもあの時の俺は気にしていなかった。何故、出会った頃の紅亜さんが既にああなっていたのか……実際は詳しい事を何も知らない。
いつの間にか明るくなっていた紅亜さんを見て、過去なんて気にしなくなった……ってのもある。
「そう言えば……そうね。でも、中学一年の頃や二年の頃に何があったかは皆知らないわよ? 簡単に言うと、家の事でちょっとあって……髪を染めたの。それで、急に髪を染めだした地味な私を女子達が……ね」
「俺が知ってるのはそれだ。茶髪にして調子に乗っているって話。でも……それ以外やそれ以前の事は何にも知らない。知ってる様で……何も知らないんだな、俺」
紅亜さんと一番仲が良いとずっと思っていた。が、俺が紅亜さんについて知ってる事って何がある? 過去の出来事を除いて考えてみると、表面的な事や誰もが賛辞する様な事しか浮かんで来ない。
少なからずショックを受けるが、それ以上に自分が情けなかった。自分の事はアピールしていた。でも、紅亜さんについては知らない。自己満足だったと今になってみればよく分かる。そりゃ、フラれるのも頷けるという話だ。
紅亜さんが俺を知っていたとしても、俺が紅亜さんを知らないのだから。フラれたあの日、紅亜さんの突発的で衝動的な行動の理由が未だに分からない。紅亜さんにもう少しでも踏み込んでいれば、何かが違ったのかもしれないというのに。
「でも、私は神戸君に救われたの。それだけは忘れないで。神戸君からしたら何気ない言葉だったのかもしれないけど、その一つ一つが私を引っ張ってくれていたの。昔は恥ずかしくて言えなかったけど……ありがとう。遅くなったけど、ちゃんと言っておくわ」
俺のアピール。ただ、毎日話しかけていただけだ。クラスに居た友達から忠告されても、思春期特有の異性に話し掛けに行ってる時にあるからかいも、全部無視して話し掛けていた。お礼を言われる様な事は何もしてない。でも、本人がそういうなら、受け取っておこう。
「どういたしまして」
廊下に足音が聞こえだした。そろそろ他の人達も登校してくる頃合いなのだろう。その中で駆け足で移動してる音が聞こえ、教室に入って来た。というか、谷園だ。戻ったんだな。
「いやぁ~飲み物を調達しに行ったら先生に捕まりましてねぇ、もう学校には慣れたかー? とか、授業はどうだー? とか」
「それは災難だったな。トイレに行ってるのかと思った」
「神戸君、それは思ってても女の子には言っちゃ駄目だよ?」
谷園も『私はトイレなんかにいきません』とか、キャラ作りを頑張っているアイドルみたいな事を言い出した。
それから三人で駄弁っていると、この教室にもどんどん人が増えていき、紅亜さんもマノンも女子グループに朝の挨拶や休日の出来事に関してのお喋りをしに向かった。
「神戸、早い」
「珍しいだろ? だから、雨が降っちゃったんだぜ? おはよう、ののの」
雨のせいで、いつもの倍はヘタっていて……月曜日のせいで、いつもの三倍は眠たそうなのののが登校して来た。
「神戸……ごめん。失敗した」
「あー……こっちこそ。本来はのののに任せる事じゃないもんな。気にしなくて大丈夫だぞ」
とは、言ったものの……のののは気にしている様だ。自分の席に着いてからもこっちの様子を伺って来る。チラチラと。
「神戸、幻滅した?」
「幻滅? まさか、頑張ってくれたのののに感謝はあっても幻滅なんてしないよ。ありがとうののの」
少しは背負わせてしまった重荷を取り除けたのだろうか、のののは少しだけ微笑んだ。
「神戸、お詫びする」
「お詫びなんて……いや、そうだな。何かお願いしようかな?」
お詫びは要らないと言いかけた所で、今朝のお母さんの言葉を思い出した。お詫びした方が気を使わなくて済むのであれば、それを受け取っておく。そうした方が上手くいく事もあるらしいからな。
「学食にする」
「おっ、それはラッキーというか、都合がいいな。今日は学食の予定だったし……うどんですね?」
俺が、『のののの好みであるうどんをご馳走してくれるのか?』と、ニヤッとすれば、のののもすかさず『正解』だと、ニヤッとする。
その後、少しだけのののと話して、勝也が来たタイミングでのののは読書に入った。俺は勝也に土曜日に何の予定があったのかと聞いたり、こっちの話を軽くしたりと朝のホームルームが始まるまで色々と話していた。
「はーい! ホームルームを始めますよ」
先生が教室に入って来たことで、今週もまた、学校での一日が始まった。
第1回 『右隣の席(以下略)』の人気キャラクターランキングを開催したいと思いますー
ドンドンパフパフ~。
(※第2回もいつか出来たらいいなぁ)
ルール説明。
1・お一人様3票までとさせていただきます。
2・投票方法は、感想欄、活動報告、作者ツイッターにて『ののの、紅亜、米良先生』的な三名の名前をお書きください。
(勿論、キャラ愛に満ち溢れておられる読者様は、『碧、碧、碧』でもオッケーです)
3・ポイント制ではありませんが、上記の様な感じで、最大3票をキャラに投じられます。
4・作者はザルですので、感想欄、活動報告、ツイッターに匿名または別名でやられると、同一人物だとしても通してしまう可能性がありますので、いずれかの場所で1回きりにしてください(重要)
※同名であっても通るくらいにザル。お一人3票の1回きりですよ!機会があれば次回もやるかもしれないので!(念には念を押しておく)
5・キャラ名が分からなければ、そのキャラの特徴を書いてください。作者が判断します。サブキャラモブキャラにどのくらいくるかな?ふふふ
(例・コンビニ店員のありゃりゃっしあーの人。みたいな。ちなみにこの人は天空院 輝君42才)
6・期限は……ある程度集まったら打ち切る感じで、今回、間に合わなかった方は次回の参加をお待ちしています。
7・逆に集まらなかったら、泣きながらそうお伝えします。
8・質問があれば感想欄にてどーぞです。集計に時間が掛かるのでご注意を
以上です! よろしくお願いします!