第38話 あれ? 涙が……あれ?
明日に投稿しようかと思いましたが、書き上がったので投稿です!
ライトな感じで楽しくいきますよ!
よろしくお願いします!
「ほぉ~ここが男子の部屋ですかぁ。さて……」
「何が『さて……』だ。おい、ベッドの下を覗き込もうするな!」
別に何かが在るわけでは無いが、そうまじまじと見られると落ち着かない。
「うーん……おかしいですね。男子高校生たるもの、いかがわしい本の一冊や二冊あると思っていたのですが……」
あぁ、それは間違いだな。今やネット社会である。わざわざ本を所持するリスクを背負う必要は無いのだ。うちのお父さんは何故か本しか持っていないけど。
「偏見だなぁ。ほら、何にも無いだろ? 早くリビングに……おい、何故に俺のベッドで寝だした?」
「そこに……ベッドがあるからですっ!」
名言みたいに言われても意味の分からないものは意味が分からない。とりあえず、布団を剥ぎ取ってベッドに腰掛けて貰う。座るくらいなら何とも言わないのに、どうして谷園は寝転ぶかね……。
「コホン。神戸……アレを持ってくるです」
「もしかして……のののの真似か? 死ぬほど似てないし、アレじゃ分かんないっつーの」
谷園は自信があったのか、似てないの言葉に軽くショックを受けていた。もっとこう……ゆったりとした無感動な感じが足りてないんだよな。出直して来て欲しいね。
「アレと言ったらアルバムですよ! アルバム! 何でののさんの言葉は補完出来るのに、私のは出来ないんですかっ? 私と青さんの仲なのにぃー!」
「いや、俺とお前が出会ってまだ一週間と少しくらいだろ!? どんな仲だよ! あと、アルバムは禁止」
いや、待てよ? 自分で言葉にして気付いたが……逆に考えれば、よく一週間程度でここまで気軽に話せる様になれたと思う。谷園のフランクさがあっての事だから凄いのは俺じゃ無いけど、驚きだ。
だが、それは別の話であってアルバムは駄目である。大きな理由としては、紅亜さんが載っているからだ。今の様にキラキラとしてる紅亜さんならともかく、中学の頃の写真をみたら谷園は驚くだろう。一言で言うなら……暗くて地味だから、だ。
「うーん、何やら本気で駄目な様ですね? あぁ、オーラを見ればそんな簡単な事は分かりますよ! 私は空気が読める子なので潔く退いてあげます」
「悪いな」
理由すら答えにくいし、深く聞いて来ないでくれる谷園には感謝だ。
しばらく俺の部屋をうろちょろした谷園は満足したのか、リビングに戻りましょうと言い出した。そして、俺達はお菓子やジュースを片手にお笑いのDVDをまた観始めた。
◇◇
「あはははは……あ~、笑いました笑いました。お腹が痛いですぅ、これは痩せますね?」
「何回観ても面白いな~」
谷園が、今テレビで流していたネタのボケを繰り出すからそれにツッコミを入れて、二人で楽しく過ごしていたら玄関から物音が聞こえてきた。
“ただいま~。あら、アナタ? 女の子の靴があるわよ?”
“そうだな、青の靴と並んで置いているし青の彼女だったりするのかもな”
時計を見ると四時を回っていた。どこに出掛けていたかは知らないが両親が帰宅したみたいだ。俺は隣に座る谷園を見る。それからこの状況を俯瞰して考えてみる……ふむ。
「デートみたいじゃん!!」
「ど、どうしたんですか青さん? いきなり声をあげて……それに今、玄関の方で音しませんでした?」
いや、違う。これはデートじゃない。だが、これは俺の主観での話か。落ち着け……別にやましい事は何も無いのだから堂々と……。
「やっぱり青ね。ただいま……アナタ、見て!」
「お、おう! 母さん、青が女の子を家に連れ込んでるな!」
そうこう悩んでる内に両親がリビングへと来てしまった……茶化されるのが不可避になったな。谷園もうちの両親と目が合ってるし……勘違いの無い様に、先に説明をしておくか。
「お帰り……と、友達だから! 普通の! 友達!」
「えぇ!? 普通のって何ですか、私達はもうコンビの様なものじゃないですか! ツッコミをしたりされたりする仲じゃないですかぁ」
おいっ! 余計な口を挟むんじゃない。そりゃさっきまでツッコミをしてたよ? お笑いを観てたからな? お前がボケるからな?
「アナタ……聞きました!?」
「あぁ……どうやら私達はお邪魔な様だね。もう少し外に出とこうか……」
「ちょっ!? お笑いのDVDを観てただけだから!!」
「青さんのツッコミは優しかったですね~。もっと思いっきりツッコンで貰っても良いんですけどね?」
俺は忙しで谷園の口を閉ざして、両親の説得に全力を注ぐ。このままじゃ、あらぬ誤解を与えている気がしてならなかったからだ。
両親の疑いが晴れたのは、それから五分以上に渡って力説した後だ。
◇◇
「そう……お友達なのね? それはそれで残念ねぇ。あ、青の母です」
「ナ、ナイストゥミーチュー。青のファザーです」
いや、今まで普通に日本語を話してたんだから急に残念な英語を披露しなくて良いんだよお父さん……。谷園はハーフだけど日本語ペラペラだから。むしろ、英語がペラペラな所を見た事が無い。
「日本語で大丈夫ですよ! 初めまして、谷園マノンです。青さんと同じクラスで……転校して来てから青さんにはお世話になってます!」
「あらぁ~可愛いし、良い子ねぇ。青にはしっかり者の麗奈ちゃんみたいな子が合うと思っていたけど……明るい子も良いわね」
良いわね……って。そんな事を言われても困るだろうし、友達だと説明したばかりだと言うのにうちの両親は……。
「そうだ、母さん。マノンさんを晩御飯にお呼びしたら良いんじゃない?」
「流石アナタね! マノンちゃん。迷惑じゃなかったら、夜ご飯を食べていかない? 今日は餃子を作るつもりなんだけど……」
「いや、お母さん……谷園にも予定があ……」
「餃子ですか!? 大好物ですぅ! ご迷惑で無いならお呼ばれしてもよろしいですか?」
谷園が目をキラキラさせている。そんなに好きなのか……餃子。俺も好きだけど。うちは普通の餃子と餃子の皮にチーズを挟んだ二つの種類が出てくる。これがまた美味い。熱々だから火傷しない様に注意しないといけないが……箸が止まらないくらいの美味しさだ。
そう思っている間に、お母さんと谷園の間で話がどんどん進み、最終的にはお父さんが追加の買い出しでお母さんと谷園は一緒に餃子を作る事になっていた。
俺はアレだ……とりあえず片付けと、邪魔にならない様にと言い付けられた。少しくらい仕事を……とは思ったが、決まると早いもので、皆が動き出して餃子作りが始まってしまった。
キッチンにお母さんと知り合いの女子が立つのは不思議な感じになるが、麗奈さんと違って谷園の場合はヒヤヒヤしなくて済むから何か助かった気持ちになる。胃袋的に。
リビングに持ってきた物を部屋に戻し、またリビングに戻ろうとしたタイミングで玄関のドアが開いた。
「ただいまー」
「あっ、お帰り碧」
一瞬、買い物に出たお父さんかと思ったが碧が先に帰って来た。そして、見慣れない靴を発見したみたいだ。
「可愛い靴……お兄ちゃんまさか、新しい彼女!?」
「何で、うちの人はすぐに恋愛の方に繋げるかね……友達だ友達。勝也を含めて三人で遊ぶつもりだったんだが、予定があって駄目になったらしくてな」
碧は『だよねー』と、すんなり納得して、手を洗いに行った。俺が先にリビングに戻ると、今は餃子の具を作るためにひき肉と刻んだ野菜を練り合わせている所で、ここから少し冷蔵庫で寝かせて味を染み込ませるらしい。少し早いこの時間から晩御飯の準備をしていたのは、下準備に時間が掛かるからだそうだ。餃子の作業行程についてそこまで詳しい事は知らなかったな……。
「お母さん、ただいまー……お、おぉ、お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん? どうした碧?」
勢い良くリビングに入ってきた碧が、谷園を見た途端にその勢いを失った。もしかしたらお父さんと同じで英語を話した方が良いのか迷っているのかもしれない。
「あのさ、お兄ちゃん……前に走り去った人はチラッとしか見てないからあんまり覚えて無いけど、凄く可愛かったのは覚えてるよ。その人とはタイプが違うけど、あの人も可愛い人だね」
小声で話してくる碧に谷園の名前と日本語で大丈夫な事と、比較するのは失礼だから本人には言わない様に伝えて挨拶をさせに行かせた。まぁ、俺を挟まなくてもあの二人なら勝手に仲良くなるだろうからな。
その後、少ししてからお父さんが買い物から帰って来て、追加の材料が到着した。それを今度は女性陣三人で準備に取り掛かり、男性陣は邪魔にならない様にテレビを観ながら料理の完成を待っていた。
◇◇
「うーん、マノンちゃんは手際が良いわねぇ」
「えへへ、そうですかね? ありがとうございます」
「マノンちゃん! 後で連絡先交換しよっ?」
そんな話し声が聞こえて来ると同時に、餃子の匂いが漂ってきた。外も暗くなり、丁度良い時間に料理が完成したようだ。後でちゃんと換気しないといけないかもしれないが、ご飯の最中くらいはこの方がより美味しく感じられるだろう。
「アナタ~青~そろそろ出来るわよ」
「青さん、絶対に美味しいやつですよっ! よっ!」
沢山の餃子が幾つかの皿に分けられて運ばれて来た。谷園の言う通りだな……これは絶対に美味しいやつだ。せめて何かしようと思い、全員分のご飯を茶碗によそって……盛って……ついで。言い方はどうでも良いか。とりあえず全員分を用意して運んだ。
椅子の足りない分は別の所から持ってきて、そこに碧が座った。正面に両親で隣に谷園という配置だ。よし……。
「「「「「いただきます!」」」」」
俺達は一斉に手を合わせてから、目の前の料理を食べ始めた。
◇◇
この餃子マジ美味い。陳腐だがそんな感想しか出ない。だが、ご飯をお代わりするくらいには美味しかった。谷園は、『オーラを見ればどれくらい喜んで貰えたか分かる』と言っているし、伝わっているなら良しとしよう。
「うぅ~食べ過ぎちゃいましたぁ」
「マノンちゃんはもっと食べないと駄目よ? 最近の子は細くて心配になるわ」
食後の休憩をしながら会話をしていく。スタイルの話とかに下手に突っ込んでも良い事は無いと知っている俺とお父さんは黙って聞き手に回っていた。
碧と連絡先を交換したり、お母さんが勝手に俺の昔話をし始めたりと色々とあったが、そろそろ良い時間だろう。谷園も帰ると言いだしたので俺が送っていく事になった。
「青、しっかり送っていくのよ! もう暗いんだから。マノンちゃん、またいつでも来て良いからね」
「そうだぞ、またご飯でも食べに来ると良い。うちはいつでもウェルカムだから、遠慮はしなくていいからね」
「マノンちゃん、今度は私の部屋でお泊まり会とかしようね!」
玄関まで見送りに来たうちの家族がそれぞれと言葉を送る。流石うちの家族。谷園に負けず劣らずフランクというか、良い家族だな。
「はいっ! またお邪魔させて貰いますね! では、ありがとうございました!」
「じゃあ、行ってくるね」
玄関を出ると外は思ったより暗く……曇に覆われていて星は見えなかった。そして、少しだけ冷たい風が吹いていて肌寒かった。
「んじゃ行くか。谷園――おまっ……何で、泣いているんだ?」
「――えっ? あれ……本当ですね。な、何ででしょうか。 楽しかった時間が終わってしまったからですかね?」
直感でしか無いが、何も聞かないで欲しそうに見えた。だから……今のを問い詰める気にはなれなかった。自分なりに流した涙の理由について今日の事を思い出しながら考察してみるが、正解と思える考えは出てこなかった。
「……行きましょうか」
「おう……」
そう言って歩きだした谷園の隣を歩き、纏まらない考えが雲に覆われた空と同調しているみたいで、晴れ間が見付からないかと思い……何度か見上げていた。
俺と谷園の間に特に会話は無く、ただただ歩いていた。不思議な事に、無言なままでも気まずさというモノは思ったより無かった。
また、喉痛い。皆様もおきをつけ……カハッ!!
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