第35話 その言い方はズルいですよ……先輩!
ガチャ爆死したので、ラブコメのラブが少し多くなったかもしれません。最近、コメの方が少ない様な……。
よろしくお願いします!(´ω`)
――メニューを開いて驚いた。
和洋中……それぞれのページが作られるくらいに料理の種類が多い。選り取り見取りというか、こんなに作れるのかと疑問が生まれるレベルである。
「ひま後輩……レパートリー多くない?」
「えぇ、まぁ……得意なのはやっぱり和食になりますけど、他のも作り方を調べれば作れますので、安心して頂いて大丈夫ですよ?」
そうなんだ……普通の料理を普通に作れるだけでも感動なんだけどな。器用だな、ひま後輩。それにしても……これだけ種類が豊富だと迷うな。もっとこう、ナポリタンセット! とかオムライスセット! みたいな、ありがちなのを考えていたから。
「ひま後輩、なんかオススメある? 作る本人に聞くのもアレだけど……」
「そうですね、なら……豚の生姜焼き定食なんてどうですか? 単品でも良いですけど、定食なら小鉢分のポテトサラダが付きますよ?」
ここ……カフェだよね? 定食カフェ的な……? まぁ、居心地が更に良くなるなら問題は無いんだけどさ。
「じゃあ、それをお願いするよ」
「はいっ! 少々お待ちくださいね」
立ち上がったひま後輩は、店の裏へと調理をしに行った。それと入れ違いの様に、次はマスターがやって来た。
「お邪魔するよ、青君」
「あ、はい! 全然、どうぞです」
マスターが正面に座る。まぁ、お客は少ないし珈琲のお代わりでも無い限り大丈夫だとは思うけど……お客の席にまで来るのはちょっと珍しいのでは無いだろうか?
「青君……君も男だ、私が彼女を雇った理由が分かるだろ?」
下世話な話かよっ!?
いや、待て……奥さんは前に、ジェスチャーで教えてくれたが本当は違うのかもしれない。さっきのひま後輩の話を聞いた後だと、そう思う。
「は、はい……」
「彼女が居てくれたら、この店も盛り上がってしまうかもしれないね」
ランチの話……だよね? マスター? ランチですよね?
「男性客の土日にここへ来る頻度が上がってしまうかもね?」
うん、これはランチじゃないな。もしかしたらランチかもしれないけど、この際どうでもいい。ひま後輩は自分の容姿に対して褒められて嬉しいとは思っているみたいだけど、そんな視線にばかり晒されても困るだろう。先輩として、出来る事が一つ増えたな。
「奥さん! 奥さーん! マスターが胸の話してますよ! 有罪です!」
「ちょ、青君!? 私は、ガッツリと食べられるメニューの話をだね!」
「あんた! 向日葵ちゃんに不躾な視線を……それに関しては客に注意を促す側だというのに。ちょっと裏へ来てください!」
……ランチだったかぁ。すいませんマスター冤罪でした。いや、本当にごめんなさい。
◇◇◇
待っている時間を有益に使おうと、宿題をやり始めた。マスターと話していた事もあってか、やり始めてからそう時間も経たずに良い香りと共にひま後輩がやって来た。
「青先輩、お待たせ致しました! 豚の生姜焼き定食でございます」
「おぉ……おお!! 食べなくても判る! 絶対に上手い。まず、焦げて無いし見た目が損なわれるアレンジも無い!」
麗奈先輩の黒いオムライスが頭をよぎったが、すぐに目の前の料理に集中する。麗奈さんもこのレベルとは言わないが、本に書いてある作り方通りにやってくれれば……。
「焦げた料理を出せるわけ無いじゃないですか……では、失礼しますね」
「あ、戻るんじゃなくて座るのな……まぁ、良いんだけど」
マスターが裏で怒られてるだろうし、戻りづらいわな。
「青先輩が初めてです……家族以外に料理を作ったのは」
「あぁ……え? そうなの? マスターとか奥さんとかには?」
普通に考えるとその二人が先だと思うんだが……。
「いえ、それが……特に何も試されていなくてですね。私も驚いてるんですよ……。時給が良いのにあまり忙しくも無いですし」
「まぁ、ここはあまり人が来ないからなー。でも、ひま後輩が料理を作ってるって知ったら、お客が沢山来ちゃうかもね?」
作ってくれた本人に見られながら食べるというのは少し恥ずかしいが……よし、そろそろ食べますか。いただきます。
「…………う」
「う?」
豚の生姜焼き一切れを口に頬張り、噛み締める。生姜のタレが香りと共に口に広がり、今すぐに米を掻き込みたい衝動に襲われる……襲われた。一口食べた後に感想を言おうと思ったが、それは中止だ。最後に纏めて伝えよう。
豚、米、豚、米米米そして豚。交互に口に運び、一口目の感動をそのままに……お行儀は良くないだろうけど、最初の勢いで食べ進めていった。
「青先輩!? そんなに、掻き込んだら……お水をお持ちしますね!」
「んぐもんんん!」
うぐっ……少し喉に詰まらせた……ひま後輩、ナイス判断である。それにしても……美味いぃ。ポテトサラダも美味い。豚の生姜焼き一口に対して米を三口はイケる……。
「青先輩、お水ですよ」
「んぐ……ぐっ……ぐ……ぷはぁ! ふぅ……ありがとうひま後輩。それと、凄く美味かったよ」
付け合わせの野菜は今から食べるが、メインは食べ終えた。これは危ない、居心地が良くなり過ぎている。
「お口に合ったのなら良かったですが……私としては、もっと味わって食べて欲しかったですかね」
「あっ……そうだよね、ごめん。それは悪かった。けど、ほんっっっとうに美味しかった! どのくらいかを表現するのは難しいけど、可能なら毎日食べたいって思うくらいには美味かったぞ!」
ひま後輩のバリエーションはこれだけじゃ無いのはさっき見たメニューが教えてくれている。どの料理もこのレベルというなら、毎日の食事が楽しみになること間違いなしだ。
「あ、えっ……そ、それって!? あ、あのあの! わ、私、その……ん~~! 洗い物してきますーー!!」
「あ! ちょ、まだ野菜が……」
野菜と言ってもキャベツの千切りだけど……勿体無い。そんなに慌てなくても忙しくは無い筈なのに。あっ! 分かったぞ……さては、目の前で美味いって連呼したから恥ずかしくなったとかだな? 真正面から褒められるってむず痒いもんな、分かるぞひま後輩。
「……ん? 他のお客さんに見られてる気が……なんだろ? まぁ、いいか。それより今何時だ……?」
スマホで時間をチェックするとまだお昼を少しだけ回った時間。思ったより時間は経ってない……やはり、ここに来ると一日が長く感じられてお得な気分だな。
よし! 腹ごしらえも終わったし、そろそろ宿題の続きでもしますかね? とりあえず、おやつの時間まで。
◇◇◇
時間を決めてやり始めると集中出来る。もしかすると、マスターが淹れてくれた美味しい珈琲のお陰かもしれない。それほど難しくもない宿題は、思ったより早く片付ける事が出来た。これは明日の俺に感謝して貰わないとな。
「……ひま後輩?」
「は、はい!? なな何ですか!?」
何故にそんなに挙動不審なんだろうか? やっぱり照れか!? ひま後輩は照れるとこうなるのかな!?
「何度も言うようにこの店は暇だよ? 俺が言うのもアレだけどね? だから、ひま後輩がこの暇な時間の間に俺と同じく宿題をやるのも分かるよ? でも……何故机を合わせてまで隣に居るのかな?」
俺が座っているのは、机一つに椅子が二つ在る二人用の机。ひま後輩は隣に設置されている同じサイズの机を動かして、俺の隣に座っている。勉強を教えるならこのポジションでも納得だが、ひま後輩は特に何かを聞いてくる訳では無い……。
「えっと、えっと……その、ほら! 体育館でもこうして隣に座ったじゃないですか!? だからです!」
「あぁ! なるほど! ……とは、ならないぞ?」
ここは体育館じゃなくて喫茶店だしな。
「青先輩、良く考えてください? この位置で何か問題があるのですか? よ~く、考えてくださいね? そんな細かい事を気にするだけ無駄だとは……思いませんか?」
「……だなぁ。せっかく安らぎに来たのに、細かい事を気にしてもしょうがないよなぁ」
何か、軽く誘導された様な気がしないでも無いが……それも気にしなくて良いだろう。せっかくの贅沢する日なのだから。
「マスター! すいません、注文です。ショートケーキとチョコレートケーキをお願いします」
「おや? 青君の奢りかい? まるで先輩みたいじゃないか。ご注文、承ったよ」
みたいじゃなくて、先輩ですよ。一応……いや、待てよ? ひま後輩の方がしっかり者だし勤勉だし、料理も出来るし……おや? おやおや?
「青先輩、奢って貰うなんてそんな……申し訳無いですよ!」
おまけに謙遜まで……ヤバイな。俺に先輩としての威厳が欠片も無いぞ? 何とか……何とかせねば!
「ひま後輩! 俺を先輩と思ってくれるのなら……その、遠慮なんかしないで、甘やかされてくれ。ちょっと変な風に聞こえるかもだけど、俺に甘やかされて居てくれないか?」
「甘やかされ……なるほど。理解しましたけど……先輩のその言い方はズルいと思います! でも……はい! 分かりました! 今回は青先輩に甘やかされてあげますねっ」
先輩は先輩として後輩を甘やかす。後輩は後輩として先輩に……は、何もしなくて良いか別に。とりあえず、今日の所はひま後輩がこの喫茶店でのバイト記念日……とでもしておくか。
「ひま後輩、ショートケーキとチョコレートケーキどっちが良い?」
「えっ? 半分こじゃないんですか?」
……おぉ! その発想は無かった。ハーフアンドハーフって感じにしたら最高じゃんか。
「柔軟だね、ひま後輩は」
「いや、私……体は硬くて、地面に指が届かないんですよ?」
おっと天然。それと、『指が届かない原因は他に在る』……と言おうと思ったけど脳内の警報が作動したからやめておこう。
話を聞いていたマスターが奥さんに伝えてくれたのか、縦に半分された二つのケーキを入れ換えた状態で提供してくれた。俺のは左半分がショートケーキ、右半分がチョコレートケーキ。ひま後輩のはその逆の状態だ。
「お、美味しそうですね! 青先輩」
「贅沢な感じがするな、ひま後輩」
俺は先端の細くなってる方を切り分けて口に運ぶ。二つの味が口の中で溶け合って甘味の衝撃が舌を唸らせる。片方だけ食べたり、両方を一緒に食べたり。ひま後輩の頬がさっきから緩みっぱなしだ。そして、俺の頬も緩んでる。やっぱり、ここのケーキは美味い。
気付いたら、さっき運ばれてきたケーキが最後の一口となっていた。
「……あむ。はぁ、満足感しか無いです」
「分かる。はぁ~美味しかった。よし、あとはのんびり読書でもしますかね」
お皿を下げに来た奥さんに味の感想を告げて、のんびりを再開させる。たまに来るお客さんはバイトのひま後輩を見て驚いていたりしたが、可愛い子は歓迎なのか好意的な感触ばかりの様だった。
さて、読書読書っと。
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(´ω`)