第32話 ゆっくり行こう
書き上がったらすかさず投稿だ!
(ノ-_-)ノ
流石にいつまでも倒れたままでいるのもアレだし、紅亜さんがのしかかった状態も何かと問題がある。
それに……衝撃は少なかったけど、紅亜さんを庇う為に背中から地面に転んで少し痛い。急かすみたいで申し訳ないけど、転ばない様に気を付けながら早く立って欲しい……かな?
「新山さん、怪我とか無い? 足を捻ったりとか……立てます?」
「あ、うん。それは大丈夫。ご、ごめんね? 下敷きにしちゃって……」
下敷きになるのは……何て言うか、女の子を庇えたという点で考えれば、男冥利に尽きる。だから、それは良いんです。
ですから、そのぉ……よろしければ今すぐ体を起こして貰えますかね!? その……柔らかいのとか! 柔らかいのとか! 柔らかいのとか! もうちょっと気にして貰えると男子的な心情からすると非常に助かるんですけど!?
「あ、あのあの、新山
「は、はい! 何ですか? 神戸君?」
あっ……顔も近い。じゃ、な、く、て!
直接こう……何て言うか、当たってますよ的な発言はしにくいし……『どいてください』を軽い表現で言いたいんだが、どうしようか……。
「ち、近……うん、その……いつまでも寝転がっていると根元先生に怒られちゃいますから!」
「あっ……そ、そうですね! これ、二人で一緒に立った方が良さそうですし、ちょっと位置を変えます……ね」
良かった……。とりあえず横に移動してくれただけでも楽になった気がする、身体も精神も。自分で分かるくらいに心臓が、内側から叩いているかのように脈打っている。緊張というか……ドキドキというか……。
「じゃあ、立ちましょうか。せーのっ! ……よし、今度こそ練習始めよ!」
「う、うん。今度は外側の足からにしない? イチ、ニ、イチ、ニってペースで」
俺達はスタートのタイミングを一緒に声を出して合わせ、外側の足から一歩を踏み出し……そして、今度は上手く歩き出せた。
お互いの歩幅を合わせる様に一歩一歩確認していく。俺の手は恥ずかしいから宙ぶらりんのままで、紅亜さんの手は俺の体操服の裾を軽く掴んでいる。
「歩くだけなら、特に問題無さそうですね?」
「うん! 今日はこうして……歩いておかない?」
そうだな……これも練習か。何事も慣れが必要だしな。ちょっと聞いてみたい事もあったしな。でも、内容が内容だし……もう少し人の少ない方へと移動してからだな。
◇◇
少し歩き慣れて、今は校庭の外側をゆったり歩いてる。そろそろかな?
「新山さん、一昨日……だったかな? 帰りに会ったやつ。もしかして……あの人って学校の先輩? だとしたら……」
少し間が出来た。俺の聞きたい事が分かったのだろう……少し昔の事を含む話だ。
「そう、先輩。でも、部活の先輩。神戸君はあの頃の私を覚えて……いるでしょ? 部活の先輩だから会話はする……けど、やっぱりまだ……ちょっと……ね」
そう……か。まだ、歳上の人は苦手のままだったか。それでも、部活の先輩とはいえ、並んで歩けるまでになったというのは……良かったといえる。だいぶ克服出来ている訳だからな。
「ごめん。もう、歳上の男子も平気になったのかと思ったけど……違ったんだね。……ごめん」
「うん。ただの先輩で、言い方は悪いけど……マトモで良い人だから何も気にならないし、平気なの。全員が悪い人じゃない事は知っているのよ? でも……まだ、ね」
紅亜さんの過去……中学時代の事を知る人はそれほど多くない。この高校にも同じ中学だった人は少ないが……居る。居るけど、俺も紅亜さんもほとんど関わった事の無い生徒だから除外してもいいだろう。
俺が知っているのは紅亜さんの一部でしか無いと思う。それでも、過去のほんの一幕くらいだとしても、中学校時代のソレを知っている。今の、誰からも好かれる人気者になる“前”の紅亜さんを。目立たず、一人で居る事の多かった紅亜さんを。そして、男性不信になりかけた紅亜さんを。
――だから俺は、紅亜さんの行動を責められない。勿論、紅亜さんが何か悪い事をすれば叱れるし注意も出来るだろう。でも、男関連については何も言えない。紅亜さんが間違ってたとしても、行動に移した理由を推測出来てしまうから。俺も誤解を解きたい気持ちはあったが、誤解した事そのものを責める気持ちは……まったく無い。
むしろ、過去を知っているというのに、誤解をさせてしまったを申し訳なく思う。紅亜さんが前を向くと言うなら……未練はあるが応援するしか無いとそう思っている。
「大丈夫。この高校は学力も高いし、部活にも真摯に取り組んでいる生徒ばかりだ。からかいはあってもイジメは無いみたいだし、良い生徒ばかりだと思うよ?」
「うん……ありがとう。やっぱり私は――――いえ、何でも無いわ。さ! 練習練習! 今度はゆっくりカーブとかしてみましょ!」
紅亜さんは何を言いかけたのだろうか……気になるが、とりあえず今は練習を真面目にこなそう。少し暗くしてしまった雰囲気だが、紅亜さんが明るく振る舞ってくれたお陰で、そう引きずる事も無かった。
◇◇◇
紅亜さんと歩いてるだけで四時間目の体育は終わり、授業が楽だな……なんて思いながら教室へと戻って来た。ようやく、お昼休みである。
勝也を誘って飯にでもしようかと思ったが、どうやら体育祭のクラスリーダーの召集があるみたいで、仕方なく自分の席で食べる事にした。
「神戸」
「ん? どうした、ののの? あ、弁当のオカズいるか?」
隣の席ではのののが菓子パンを食べていた。お米より、うどんか菓子パンをいつも食べているイメージが強い。小柄な分、栄養面が心配になってくるな。
「卵焼きを貰う。……じゃなくて、本屋行く」
他のに刺さっていた爪楊枝と卵焼きを弁当箱の蓋に乗せて、のののに渡した。
「本屋? 読書用のやつでも買うのか?」
「そう。今のが読み終わりそう」
なるほど、それで付き添って欲しいという事かな? 明日は休みだし、俺も漫画のチェックでもしとこうかな。
「俺も暇だしついて行っていい?」
「一緒に行く」
放課後の予定が埋まったな。のののから弁当箱の蓋を返して貰い、特に会話も無く昼休みが終わっていった。
勝也と紅亜さんはギリギリに戻って来たが、どうやら昼飯を食べながらの話し合いだったみたいで、慌てて食べるなんて事にはならないで済んだらしい。まぁ、それはちゃんと事前の説明を聞いていて、弁当を持参した人だけで……今、勝也は慌てて食べている。
勝也は着替えをゆっくりしていたから、紅亜さんに置いていかれたのである……頑張れ、勝也。もう、チャイムなるけど。
◇◇
キーンコーンカーンコ~ン
「はい、じゃあ今週も終わりですね。出された宿題はちゃんとやってくる様に! 以上です!」
最後の授業は担任の桜先生だった事もあり、終わりと共に帰りのホームルームが始まり……簡単に終わった。流石、桜先生である。
「またな、青!」
「おう、また来週」
午後の授業は寝ていた勝也も、放課後になれば部活があるし元気になっている。理解できない訳でも無いが……テストは大丈夫なのか? 体育祭終わって7月の頭にあるというのに。
「じゃあね、あ……神戸君」
「うん、部活……頑張って」
紅亜さんも見送り、俺ものののと本屋に向かう準備をしていた。忘れ物が無いかのチェックだけだけど。先程、谷園がクラスの女子と教室から出るのを見掛けた。すでにクラスに溶け込めているみたいで……何よりだ。う、羨ましくなんてないんだからっ!
「よし、お待たせののの」
「うん。ゆっくり行こ」
俺達は学校を出て駅前の本屋に向けて歩き出した。
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(よし、紅亜さんの過去は小出しにしていこう)