第29話 貴女に宣戦布告を
すいません、お待たせしました!
よろしくお願いします!
誤字脱字の報告、ありがとうございます!!
――気付いたら家に着いていた。ヤッバい……なんか、人の秘密を見てしまった感が凄い。
「あれ、ハンカチ渡してたよなぁ……」
先程の光景がフラッシュバックしかけるが、頭を振ってかき消そうとしてみる。無理だったけど。
「ただいまーっと」
玄関には碧と白亜ちゃんの靴が並べて置いてあって……たぶん碧の部屋に居るんだろうな。お母さんは買い物だろうか、靴が置いてなかった。
自分の部屋に行く前に、うがい手洗いをしてから碧の部屋へと向かう。
「碧~、お菓子買ってきたぞー!」
「ありがとうお兄ちゃん! 入っていいよ?」
と、言うことなので部屋へと入らせて貰う……まぁ、そうだな、お菓子を渡したら自分の部屋に戻ろう。ちょっと考えたいというか、むしろ考えたくは無いのだが……結局は考えてしまう事があるからな。
「はい、これ……チョコ系ね。ジュースは買ってきて無いけど」
「飲み物は家にあったから大丈夫だよ! ほら!」
いや、碧ちゃん……そのジュースは俺のなんだけど。まぁ……良いか。
「お兄さん、ありがとうございます」
「いえいえ、ゆっくりして行ってね。碧、お兄ちゃんは部屋に居るから、白亜ちゃんが帰る時は呼んでくれ。暗かったら途中まで送らないと危ないしね」
最近は暗くなるまでの時間が長くなって来てはいるが、小学生が一人だと危ないだろうし。勿論、俺と白亜ちゃんだけだとヤバイから碧も連れて行くんだけど。
「分かった! 多分、二時間も遊ばないと思うから!」
「あ、ありがとうございます……」
碧の部屋から出ようとして、ふと……思い出して立ち止まった。聞かないといけない事があったからだ。
「碧、さっきのハンカチの話だけど……アレってどのくらいマジ?」
「うーん。まぁ……でも、普段からお世話になってる人とか、仲良く話す人くらいまでなら碧も貸す……かもよ?」
その返事を聞いて、俺は自分の部屋に戻った。鞄を机の上に置いて、ベッドへとダイブする。制服のシワとかは考えない事にして。
「どっちだろうなぁ……それは。そういえば部活……無かったのかな?」
俺はどうしようも無いことを頭の中で、ぐるぐると考えていた。
◇◇◇
「お兄ちゃん! 起きて! 白亜ちゃんが帰るって!」
「み、碧ちゃん……眠ってるんだから悪いよ……」
「んぁ? あれ……いつの間に……?」
ベッドにダイブして、少しだけ考えていた所までは覚えているんだが……どうやら寝てしまっていたみたい。時計を見ると六時前で……外は薄暗くなっていた。
「お兄ちゃん!」
「ご、ごめん! すぐに準備するから先に玄関で待ってて!」
碧と白亜ちゃんを部屋から出した後、とりあえず制服の上だけは着替えようと急いで準備に取り掛かる。
「えっと、持っていくのは財布くらいでいいか……よし」
準備を整えて玄関へ向かうと、お母さんも含めた三人で何かを話していた。
「青、やっと来たのね。ちゃんと送るのよ?」
「あいよ。お待たせしました……行こうか」
「はい! お邪魔しました!」
玄関を出て、碧と白亜ちゃんの後ろをついて行く。まぁ、実際に危ない人が出て来ても時間稼ぎしか出来ないが……保護者的な存在が居るのと居ないのでは、そもそもの発生率が違うだろう。
大通りを進み、住宅街へと入ってしばらく経った頃……もうすぐ家だという事で、見送りはこの辺までにしておいた。危ない人も居なかったし、巡回中の警官に質問とかされなくて良かったと思う……ホントに。
「お兄さん、碧ちゃん、ありがとうございました」
「バイバイ! 白亜ちゃん」
「じゃあ、また。さて……帰ろうか、碧」
家がこの辺なら、中学受験をして別の学校に行く事がなければ碧と同じ中学だな……なんて思いながら、家へと戻って来た。
家に入ると、美味しそうな香りが漂っていた。俺と碧は部屋に戻らず手洗いを済ませ、先にご飯を食べる事を互いの頷きだけで理解し合った。
「お帰り、今日はお母さんのお友だちに貰ったデザートもあるから、ご飯の後に食べて良いわよ!」
「ホント!? やったぁ~!」
「えっ、何? ケーキか? 和菓子か? 碧、確認だ!」
冷蔵庫に移動した碧がケーキだとはしゃいだ。でもまずは、お母さんの料理を食べてからだな。
◇◇
ご飯を食べ終わってすぐにケーキを食べても良かったが、少しお腹が空いてからにしようと思う。俺は碧みたいにスイーツが別腹に入る事が無いからな。
「碧、お兄ちゃんモンブランだから。分 か っ て る ね!?」
「……ははっ。お兄ちゃん、嫌なら部屋に持って行く事をオススメするよ! 碧は欲望を抑えきれない……よ? 無意識でつい……ね」
いや、自制しようよ……。冗談だと思うが、冗談じゃない時がこっちからしたら冗談じゃない。うん……そうだな。部屋に持って行こう。
部屋に行き、スマホを手に取るとチャットが来ていた。グループトークの方だ。
「しまった……そうだったな。谷園と今日の夜にグループで恋バナしようとか約束したっけ……。うわぁ……既に始まってるし、なんか、何かなぁ……」
谷園には悪いがそんな気にはなれないというか……。
『うーん、やっぱり放課後デートならカフェとかか?』
『私は一緒ならどこでも良いと思いますね』
『本屋』
「って、えぇ!? 紅亜さんものののも参加してる!?」
俺はこの会話のスタートから流し読みをして、状況を把握していく。発端は谷園で、紅亜さんが乗って、のののが乗って、勝也が加わったのか……。
「最初の議題が好きなタイプは、まだ分かるけど……勝也以外が優しい人と言うのはどうなんだろうか……」
勝也だけ真面目に答えてるのが、逆に浮いている感があるな……。そろそろ俺も会話に参加するかぁ。今の議題は放課後デートか。
「『ごめん、遅れた。駄菓子屋とかも良いと思う』……あっ」
送ってから気付いた。これ、自爆だわ。
◇◇◇
家に着いてから青くんにチャットを送ろうと思ってから……既にどのくらいの時間が経過しただろう。
家には着いた。今日はまだ白亜は帰って来てないみたいで、一人で自分の部屋に入り部屋着にも着替えた。それで、ベッドにダイブした私は……まだ青くんにさっきの事を送れていない。何て言ったら良いのか考えてる段階から進んでない。
「『あれは、先輩です!』……何か違うわね。『今日は部活が早く終わったから』……って、これも違う」
書いては消して、書いては消して……文面が上手く纏まらなくて、一旦スマホから手を離した。
ベッドの上でひたすら考えて――――私は眠っていた。
◇
「今何時!?」
眠っていた事に気付いたのは起きた時で、時計を見るとまだ五時を回った所だった。久し振りに早めの帰宅で気が緩んでいたのかもしれない。
「晩御飯……作っておかなきゃ」
忙しいお母さんと、部活で遅くなる私の代わりにいつもは白亜が作ってくれるのだけど……せっかくだから今日は私が作っておこう。
「白亜ー……あれ? まだ帰ってないのかしら?」
そろそろ暗くなるし、少し心配だけど……帰って来た時の為に、先に料理を作っておこうかな。
リビングに行き、冷蔵庫の中を確認する……そうね。オムライスにしましょうか。白亜も私も好きだし簡単だしね。
「ふんふふーん、ふふんふふーん」
クセという程では無いけど、料理の時はつい鼻歌が出てくる。一人で作っている寂しさを紛らわせる為かもしれない。
料理が完成してから少し経った後に、ようやく白亜が帰って来た。もう、六時だ。でも、いつも私が帰って来る時まで一人な白亜を注意する気にはなれなかった。
「お姉ちゃん! 今日は早かったんだね?」
「うん、部活が早く終わってね。白亜は? 遊んでたの?」
ランドセルを背負ったままだから、帰って来て出掛けた訳じゃなさそうね。
「うん! 碧ちゃんと文房具を買いに行って、そのまま碧ちゃんのお家で遊んだの!」
「そう? ちゃんとお礼は言ってきた?」
外で遊んだ訳じゃないなら少し安心ね。最近はどこに何が潜んでいるか分からないもの。
「うん! 碧ちゃんとそのお兄さんにそこまで送って貰った時にもちゃんと言ったよ! お兄さんにはお菓子も貰っちゃった」
「あら、それならいつかお姉ちゃんも一緒にお礼を言わなきゃかしらね?」
白亜の話を聞いていくと、そのお兄さんとは碧さんのお宅に行く途中で会って、制服を来ていたから近隣の高校じゃないか……という話だ。残念ながら、校章とかは覚えてなかったみたい。
「さ、オムライスを食べましょ。今日は自信作よ! 先に手洗いをして来るのよ?」
「うん! すぐに!」
私達は二人でご飯を食べた。片付けは白亜がやってくれるみたいで、私はお母さんのオムライスにラップをかけて、先に部屋へと戻った。
「あ……青くんに送らないと……」
ピロン!
「ん? グループトーク? マノンからね。……なになに、『今日、青さんと体育館で話していたんですけど、恋バナしませんか?』なるほど……何それ、羨ましい!」
いや、ちょっと待つのよ。これは……ひょっとしたら使えるわね……。恋バナで、あの部長は興味無いという感じで話をすれば……いける? うん、とりあえずはその路線で行ってみますか。
「『良いわよ! ちょうど暇だったからね』……青くんはまだかしら?」
◇
恋バナは進むけど、青くんがまだ来ないわね……。
『ごめん、遅れた。駄菓子屋とかも良いと思う』
き、来た! 駄菓子屋……良いかもしれないわね。そう言えば、久しく行ってないわね。
『青さ~ん……それはこの前、行った所じゃないですか! 別の別の!』
『……神戸?』
この前……行った……所? ちょ、ちょっと……待って……ね。
うん、うん……うん。って……えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
「『ママママノン!? どううう事かしら!?』」
あっ……誤字が。ま、まぁ……良いわ。それよりも、いつの間に一緒に駄菓子屋に……。
『月曜日の放課後に、街を案内して貰ったんですよ~』
な、なるほど……。案内ね、案内。うん……ま、まだセーフね。
『ほぉ~、それで駄菓子屋にねぇ~?』
『神戸、返事が無い』
う、羨ましい……じゃなくて、この恋バナの間にもっとアピールしないとよね!
「あら? 巳良乃さんから個人で来るなんて珍しいわね……っ!? こ、これは……どういう……?」
◇◇◇
復縁率は二割以下。私の調べではそのくらい。だから時間はまだまた沢山あって、これからだと思っていた。いたのに……。
「新山紅亜。やはり、別れたとはいえ一番厄介」
グループトークを読んでいても、普段の姿を視ていても分かる。
神戸から聞いた話では、二人には誤解があって、それで別れたらしい。
私は人とあまり話せない……でもその分、人の事はよく視る。心理学の本も読んでいる。だから神戸の視線も、新山紅亜の視線の先も……その意味も分かる。
そして……自分の気持ちも、分かっている。
神戸と新山紅亜の誤解が解けるのは……何も問題じゃない。神戸は優しい。新山紅亜がちゃんと謝れば許すと思う。
だから――課題は、新山紅亜に告白させない事。
「方法はある。『相手を勝負に乗せる台詞大全』も知識として詰まっている……でも」
神戸はどう思うかな。新山紅亜とまた付き合えた方が、神戸は嬉しいのかな。私のこの気持ちは隠しておいた方が……良いのかな。
「正解の無い分からない事……なら神戸に聞いてみるしか、私には方法が無い」
私はグループトークから少し離れて、神戸に個人的に送ってみる。
「『神戸、私はどうしたら良い? 悪い子になってもいいのかな?
長文ごめん』」
返信を待つ。少し長文になってしまったけど、伝わったかな? 返事は……まだかな。
ピロン!
『のののが悪い子になってまでしたい事がある……って感じか? うーんと、そうだなぁ……。他の人に何を言われても、それでもやる気持ちがあるのなら、自分の気持ちに従うのが良いと思うぞ? それに、のののが自分から動くなんて珍しいからな。あと、ののの、チャットではこういうのを長文って言うんだぞ』
うん、やっぱり神戸ならそう言ってくれると分かっていた。私は悪い子。でも、決めた……私は神戸に好きになって貰いたい。だから私は、新山紅亜と戦おう。足りない部分は、それを埋めるだけの作戦をたくさん練ろう。
そして私は――神戸青の隣を取りに行こう。
「なら、早速……」
私は、新山紅亜にチャットを送る事にした。私は巳。狡猾に知識を使おう。毒にも薬にもなる知識を存分に。
「ふぅ……ふぅ……よし。『新山紅亜。私は貴女に宣戦布告する』」
『ののの……始動』
と言うことで、のののが本気を出して、先手を打つようですよ。
ようやく、紅亜さんに続いて神戸のヒロインになりたい!
……って、思った二人目が来ましたね!
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