第25話 ブラック! 見参!!
風邪気味で鼻がずびずびじでまず……。
みなざんも気を付げで、私ばまだ熱はででないがらぜーぶ。
俺達三人が体育館に着く頃には既に生徒の大半は集まっていて、それぞれ駄弁りに興じていたり、後方の空いているスペースを使って遊んでいる男子生徒の姿もあった。
体育館での並び方として、校長先生が話をしたりする壇上? 演壇? そこを正面に見て左側から一年生、二年生、三年生の順に並んで座る。だから、既に来ている生徒も大雑把に座っている様に見えてその実、それぞれの座るだいたいの位置に集まっていたりする。
「では……私は一度あちらへ行きますわ」
「そうか、また後でな~ひま後輩」
「また後で~。青、俺達も座って何かしてようぜ」
ひま後輩と別れて、俺達は体育館の中央付近に座り話始めた。話題は勿論、ひま後輩の事である。
「予想外だが……意外と話し易かったな。青は?」
「たしかに、見た目とは違って根は良い子だったりしてな」
言い方が多少は上からだったり、言葉遣いで遠い存在に感じるが……素うどんを食べる姿を見る限りだと、何やら近い存在の様にも思える。単純かもしれないが。
「スタイルも良いしさ、一年の中で話題になるのも頷けるな。もう少し時間が経てばさ、二年三年の中でも話題になるかもじゃね?」
「でも、告白を全部断ってるって話だし、その話が広まらなかったら犠牲者が増えるだけなんじゃ……?」
ひま後輩は自分の考えがあって断っているみたいだし、それは良いとしても……告白を断る事で何かしらの弊害というか、良くない事が起こるんじゃ無いかと心配になってくる。
「そうだ、勝也もたまに告白とかされるんだろ?」
「まぁ、たまに?」
くっ、羨ましい……。
「断った後ってどんな感じなの? 何かしら問題が起きた事とかあった?」
「うーん……。男と女じゃタイプっつーか、やり方というか手段が違うと思うぞ? けど……たまに告白されるレベルの俺でさえ、断った後にはちょっとあったぞ。ま、そんな逆恨みの様な事をする奴は本当に稀だけど」
……やはり、モテる人はモテる人で大変な事があるんだなぁ。きっと勝也も告白して来た女子Aとその友人達から何か言われたりしたんだろう。
「というか、付き合ったら付き合ったで大変な事もあるだろ? ま、それは青の方がよく知ってるとは思うけど」
「いや、まぁ……人と付き合うのって色々と覚悟しないと、とは思ったかな?」
例えば友達が減ったり、友達が少なくなったり、友達が……まぁ、全員が離れた訳じゃないからまだ平気だけど。
「まぁ、勝也とアイツが残ってくれたから別に良いけどな?」
「あぁ……っと、噂をすればだな。おーい、“ブラック”」
ブラックと呼ばれた男。一年の時に俺や勝也と同じクラスで、二年では一組になってしまい離れてしまったが、一年の時はよく話していた。
俺もブラックも休み時間に教室から出る方ではなく、なかなか会う機会がない。遠くから見掛けた事は何度かあるが、特に話し掛けたりはしていなかった。
「――――黒川楓、見参ッ!」
何かのアニメに影響されているのか、決めポーズをしながら登場した。ブラックは漫画アニメ研究部という、漫画を描いたりアニメを観賞する部活に入っている。この前は休みだったのか、サインを貰いに部室を回った時には居なかった。
「ま、座れよブラック」
「そうだぞ、溜めに溜めながらの自己紹介はどうでもいいから座れよブラック」
「キャッスルにブルー、ノリが悪いぞ!」
ブラックは俺をブルーと呼び、勝也をキャッスルと呼ぶ。円や寺が分からなかったから城になったという経緯だ。そもそもの話、俺と勝也がブラックと呼ぶのも、自分からそう呼べと言って来たからだ。
「そうだブラック、昨日は部活休んだのか?」
「いきなりどうした、ブルー? もしや……ついにアニ研に入る気になったのか? いつでも歓迎するぞっ! まぁ、昨日は歯医者に行く予定だったから休んだ」
なるほど。まぁ、アニ研に入る予定は無いからこの話はもう流しておこう。
「ブラック、一組はどんな感じよ?」
「キャッスル……友達の作り方を教えてくれまいか? うっかり忘れてしまってな!」
「ブラック……お前……くっ」
一年の時も実際に話すようになったのは、夏休みが終わった後の二学期からで、たまたまブラックが読んでいた漫画を俺も知っていたからである。それがなければ、今こうして話しているかも怪しい。
ブラックを男目線的に言えば、見た目が悪い訳じゃない。が、何せオタクだ。特有のヤツがある。少し早口だったり、好きな物の話になると他を置いて最後は一人で盛り上がったり……。オタク同士ならいいのだが、アニメに興味無い人からすれば、話す事が無いならどんどん近寄らなくなるだろう。
「てか、二組に遊びに来ればよくね?」
「なんか、逃げたと思われるのが嫌だから……その内な」
「いったい誰に思われるんだよ……」
俺の発言は不粋な発言だったらしく、少しだけしょんぼりとさせてしまった。
「それはそうと、聞いたぞブルー! 新山某と別れたそうじゃないか! それってつまりは、二次元こそ至高と気付いたという事だろ?」
「そういう話をこんな所で出すのは禁止じゃん!?
一応言っておくと、二次元に気付いたから別れたって事じゃないぞ。それと、お前の二次元好きも良いかも知れないけどさ、もっと目の前の現実を見ようぜ?」
おっと、三猿の一つ、見ざるのポーズだ。この素早さ……さては現実から目を背ける事に慣れてやがるな?
「そういうブルーは目の前の現実を受け入れ、ちゃんと見てるのですかー? アニメだとブルーみたいな奴は凄く引きずったりするんですが、ちゃんと受け入れているのですかー? そんな人が現実を語れるのですかー?」
言い方がうぜぇ……でも正論の香りがしたので、俺はスッと耳に手を当て、目を閉じる。
「ふっ、憐れだなブルー……」
「ナニモミエナイーキコエナイー」
「青……ブラックも……やれやれ」
俺達は先生が整列を促すまでの短い間、アホみたいだが楽しく、懐かしい時間を過ごした。
◇◇◇
「じゃあ、今から各学年の一組二組は右側へ。三組四組は左へ移動するように。後は三年のリーダーが話を進めるから二年生、一年生は指示に従うように! はい、移動!!」
体育教師である根元先生の話も終わり、俺達赤組は体育館の右へ移動した。白組とは背中を向け合う様な形で壁の方を向いて座り、三年生の団長達が前に出て話始めた。
「はい、まずは自己紹介をしたいと思います。俺は赤組団長をさせて貰う、三年一組の岡田雅也です!
えっと……昨年は白組に負けてしまったので、今年は絶対に勝ちたいと思ってます! 赤組の皆で協力して頑張って行きましょう! よろしくお願いします!」
「えーっと、はい。副団長は二人居るんですが、その片方の飯田沙穂です。困った事があったら気軽に聞いてくださいね! よろしくお願いします!」
「同じく副団長の平島翔太です。まぁ、はい。うちの団長がマジで気合い入ってるみたいなんで、協力してやってください。よろしくお願いします!」
団長、副団長の他に更に二人居て、前に立つ五人で赤組の指揮を取るらしい。クラスの意見はクラスリーダーが集めてからこのリーダー達に持って行く流れみたいだ。それ以外にもクラスリーダーは何かと手伝いがあるみたいで勝也と紅亜さんは大変そうである。
「これから何をするかと言うと、クラスで自分が出る種目はそれぞれ決めたと思います。ですが……まだ順番は決めて無いと思いますので、まずはそれを決めていきます。これは作戦でもありますので、白組に居る友達にも内緒でお願いしますね!」
やっぱりこういう行事でリーダーとかになる人はイケイケだな……なんて事を思っていたら、いつの間にか話し合い的なのが始まっていて、友達の所へ移動している者も居る。
「おい、ブルー……これは何の話し合いだ?」
「知らん。考え事をしていたらいつの間にか始まっていた……こうして俺らみたいなのは取り残されていくんだろうな」
俺の所へさりげなく移動してきたブラックに、冗談のつもりで自虐的に言ってみたら……なんか、思った以上に凹んだ。
「アニメや漫画で、リーダーはイケメンや美少女がお決まりだろ? これは現実が先なのか、漫画が先でそういう風潮になったのか考えてたら……な」
「俺も似たような事考えてた。まぁ、その内何かしらで呼ばれて、全部お任せしてすぐにここに戻るだけだろうし……もう気にしなくても良いんじゃね?」
俺とブラックは早々に輪の中に入るのは諦めた。勝也と紅亜さんは皆の意見を纏めないといけない為、何かしらの紙とペンを手にして色々と書き込んでいる。
流石に離れ過ぎると浮いてしまうという事は分かっているし、皆と近すぎず遠すぎない距離感を保ちつつ、俺達は後ろの方で駄弁り始めた。
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(´ω`)