第24話 君は今日からひま後輩!
君の名は。良かったですね(´ω`)
その後に投稿するのこえぇヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!
湿気のお陰だろうか、前の雨の時と同じくのののの髪が跳ねていない。教室に入って最初に思ったのはそんな事だ。まぁ、ただペチャッているだけだが。
「おはようののの」
「神戸、おはよう」
今日ものののは読書に勤しんでいる。毎日よくそんなに読めるもんだなぁ、と感心する程に。
「ののの、月にどれくらい読むんだ?」
「……そう多くない、小説なら五冊程度。他の本を五冊程度」
月に十冊くらいか。どんな本を読んでいるかまでは分からないが、俺からしてみれば十分に多い。そうだな……今日は髪を整える必要は無さそうだし、俺ものののに倣って本でも読むとするか。
「……晴耕雨読」
「いや、のののは晴れてても動かずに本読んでばっかだろ? その四字熟語自体は嫌いじゃないけどさ」
朝のホームルームが始まるまでの間、俺も読書に勤しんだ。
◇
「今日の午後はお伝えしていた通り、体育祭での同じ赤組となる上級生や下級生との顔合わせや、体育祭の競技に関する打ち合わせがありますので、昼休みが終わったら体育館に集合してくださいね。他は……特にありません。以上ですので各自、一時間目の準備に入ってください」
ホームルームも終わり、一時間目の準備を終わらせた時に勝也から呼ばれた。
「どうした勝也?」
「いや、特に用はねーけど暇だしな」
まぁ、いいけどさ。実際に授業前の休み時間は、トイレに行くか誰かと話すかがほとんどで大抵は暇だ。
「雨だな」
「だな~」
不毛な会話を数回交わし、一時間目が始まった。最初の授業から英語とか……どんよりだよまったく。
◇◇◇
英語、数学、化学、古典というラインナップを乗り越えてようやく昼休みだ。なんだか今日はやけに一日が長く感じて、これが雨の力なのか……と、一人考えていたら勝也から朝ぶりに呼ばれた。
「行こうぜ~青」
「そうだな、行こうか食堂に」
俺は昨日、お母さんから頂戴した五百円玉を財布からポケットに移し、勝也と二人で食堂へ向かった。
雨が降っている為、流石に外で遊ぶ奴等は居らず、みんな校内に引っ込んでいる。これは急がないと食堂が混む可能性があるな。
「勝也は何にすんの?」
「俺はそうだな~和食……中華……洋食……どれにすっか悩むな。ここはそうだな、和風ハンバーグ&エビチリ定食にでもすっかな?」
うちの学食にそんなのあるのか……? 和風ハンバーグはきっと、大根おろしが乗ってるやつで……それにエビチリまで付いてくるのか?
欲張りセットと言えばまだ聞こえは良いが、このメニューを考えた人はたぶん、天然だろうな。天然っぽいもん。
「それ……いくらするんだ?」
「四百九十円だぞ。税込で」
ほーう……ほうほう。なるほどなるほど。はっ? ……マジかよ。
「誰か知らないけど、そのメニューを作った人は天才だな! 早く行こうぜ、売り切れる前に!」
ワンコインで買えるのなら、その天才的な料理をありがたく享受しよ。天然と思ったが、それは……アレだ。褒め言葉のやつ。けして、掌は返していくスタイルではない。
学食に着くとそこそこ人は居るが、二人くらいなら座れない程では無さそうだ。俺達は食券を購入し、順番を待って料理を受け取った。何これ……めちゃくちゃ美味そう。
「席は……おっ、奥が空いてるっぽいぞ」
「おけ。ついでに水も注いで行こうぜ」
食堂の入り口から最奥の壁際に空いているカウンター席を見つけ、先に給水器に寄って水をコップに注いでから移動した。
給水器に近い席に人が多く、次は入り口付近で奥の方の席はどちらかと言うと人は少ない。俺的には人の少ない方が落ち着いて食べられるし、水のおかわりが少し遠い点を除けば良い席だと思っている。
「よっこらせ……それにしても美味そうだな」
「あぁ、これで五百円とかファミレスも驚きだろうな」
ハンバーグが特別薄い訳でも、エビが小ぶり過ぎる訳でも無い。なのにこの値段だ、毎日は利用しないがたまになら本当に有能な学食である。
「「いただきます」」
ハンバーグを一口サイズに切り分け、和風ダレの掛かった大根おろしを多目に乗っけて口へ運ぶ。……美味い。なんて言えばいいだろうか、とにかく……美味い。
「おい、青。エビがプリプリしてるぞ、うめぇ」
「おっ、マジだな……うめぇ。今度からこれ食おうかな?」
俺と勝也が和風ハンバーグ&エビチリ定食についてあれこれ語っていると、食堂が少し騒々しくなった。俺達が来た時よりも更に人が増えた食堂の中を見渡すと、皆が注目している場所……というか人が分かった。
「勝也、アレ見てみ」
「ん? 誰だあれ?」
灰色のツインドリルにお嬢様の雰囲気に勝ち気な瞳。
「ほら、この前話したお嬢様だよお嬢様!」
「あ、あぁ! あれな。確か、一年の灰沢向日葵。お嬢様も学食とか来るんだな……豪華な弁当を食ってるイメージだったが」
確かにそれはある。俺以外の食堂に居る人達のほとんどが珍しく思っているみたいだし、皆が考える事は同じなのだろう。
入り口からあまり動かずに周囲をあちこち見渡している所をみると、食堂を頻繁に利用している……という訳でも無さそうだ。むしろ初めてだろうか?
「おい、青? なんかこっちを見てないか?」
「見てるな……気のせいかもしれないが、目が合ってる気がするし」
二回くらい会ってるし、たまたま知ってる顔を見付けただけだろう。
「なぁ、青。なんかこっちに来てないか?」
「来てるな……真っ直ぐ……こっちに」
たまたま知ってる人を見付けたら話し掛けに行くこともあるだろう。滅多に訪れない場所で知ってる人を見付けたとしたら尚更に……。
まぁ、先輩として頼まれれば手助けくらいしてあげよう。
「百円の男、食堂の利用方法をこの私に教えなさい!」
“おい、青。お前……ぷふ。百円の男って何だよ? ちょっとウケるぞ”
“それは色々とだな”
出来れば笑わないでやってください……お嬢様という話を知らなかったんだ、百円を渡す事くらいあるだろ?
“それにしてもこの子が灰沢さんか。なんつーか、一番の特徴を教えて貰ってねーじゃねーか”
“おい、バカ! デリカシーが足りてないぞ”
「聞いてますの!? それに、聞こえてますわよ。……これだから男は」
「す、すいません……」
勝也が怒られた。女子はそういう視線や会話に敏感だと聞いた事あるし、妹がどこかしらで聞き齧ってきた知識を披露したがるから、そういうデリカシーうんぬんについては知っている。
「え、えっと……アレだよね、食堂の使い方を教えれば良いんだよね?」
「そうですわ。早くしてくださいます?」
俺は勝也に少し待ってて貰い、灰沢さんを連れて食堂を利用するにあたっての流れを説明し始めた。
「えっと、まずは券売機で食券を買います」
「なるほど。……なかなかに料理の品数が豊富なのですわね」
そもそもお嬢様の口に合うのだろうか? 一般人の俺からしたら美味しいけれど。
「俺は迷ったら日替り定食を選びますかね。今日は何食べるか決めてるんですか?」
「そうですわね……私にオススメはありまして?」
オススメか。今日食べてるやつは美味しいし、オススメしても良いけど……少しボリュームがあるからお嬢様には向かないだろう。かといって他にオススメ出来る料理を知ってる訳でも無いしな……何にしよう? もう、うどんとかで良いのかな?
「今日は少し肌寒いですし、うどんとかどうですか? 種類も豊富ですし……素うどんなら百円ですよ。まぁ、お嬢様にオススメするのもどうかとは思いますけど」
「貴方に頼んで正解でしたわ! ……コホン。いえ、百円の素うどん……よろしいじゃないですか。そういえば、貴方とは百円関連の出来事がこれで二回目ですわね」
“おい、百円の素うどんを勧めるか?”
“俺には出来ねーな。相手はお嬢様だぜ?”
“百円の素うどんは良いとてしも……トッピングも無しだなんて”
ヤバイな、お嬢様に百円の素うどんを勧めた男として広まってる。素うどんとはいえ普通に美味い。むしろ、うどんを味わいたいのなら素うどんを食べろと言ってやりたい。
その点、のののは讃岐とかも食べるが基本的には素うどんもよく食べている。
「決まったらお金を入れて、食券を買います。…………はい、それではその食券を調理場に居るおばあちゃんに渡して、半券を貰ってください。素うどんならすぐに来ると思いますよ」
「わ、わかりましたわ。…………これをお願いしますわ」
「はいよ! 素うどん一つ~!」
おばあちゃんに食券を渡した灰沢さんは、俺の所に戻ってきた。
「たぶん、すぐに来るから……今の所に居て良かったと思うよ?」
「いえ……流石に注目が煩わしいですの。分散にご協力してくださる?」
片や好奇心、片や嘲笑。注目の種類が違う。釣り合わないのは隣に居る俺が一番分かってる事を、どうか皆にも分かって欲しいね。
「素うどん、来たみたいですよ。これが一連の流れですけど……大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがたく存じ上げます。ですが、席までのエスコートが終わってません事よ?」
爺や! 爺やは居らぬか! ……居ないか。席ってどこか空いてる所あったかな?
「貴方も自分の座っていた所へと戻るのでしょう? なら、今日は隣で構いません。私の前を歩いて危険が無いようにするのが男性の役割でしてよ?」
「はいよーっと。じゃあ、汁を溢さないようについて来て下さいね」
うどんを持ちなさいと言わなかっただけマシだな。うちの碧なら全部任せて来る。
流石に水は俺が注いで、そのまま運んであげた。勝也はもうほとんど食べてしまっているし、俺も食べよう。
「お帰り」
「おう。素うどんを勧めたら周りが変な空気になっちった」
最後はお嬢様が選んだんだし、俺が悪い訳じゃないんだけどな。
「そりゃ、なるんじゃねーの? 俺も他の奴等も青の立場なら、値段の高い料理から教えていくだろうしな。青みたいに一番安いのから教える奴の方が稀だろ?」
「オススメなんか聞かれたからな。……それで、素うどんはどう?」
「驚きましたわ。百円でこの美味しさを提供できる技術に」
そうか、勝也には笑われたが、本人が満足げならそれで良いだろう。
いずれは、自分でお気に召す料理を見付けるに違いない。そう、自分で見付けるに……だから俺の和風ハンバーグ&エビチリ定食を見つめ無いで欲しい。
「勝也、視線も話題も逸らす何か無いか!?」
「んぁ~……そうだな、灰沢さんって赤組? 白組?」
「私は赤組ですわよ。そう……例えるな、そこのエビチリの様な赤」
勝也を軽く睨んでみたが、白なら白で大根おろしだな。つまり話題が悪いからもう一回だけ軽く睨んでおく。
「おい、今のは不可抗力だろ? んじゃ、えっと……そうだな。灰沢さんって結構モテるって話を後輩から聞いたけど、告白を全部断ってるってマジ?」
勝也……イケメンだから許されるかもしれないけど、ずかずかと踏み込み過ぎじゃないか? だが、ナイスだと心の中で褒めておく。こういうゴシップは自分に関係ないなら面白いし。
「えぇ、お断りしておりますわ。確かに外側で判断されるのも悪い気は致しません。両親から貰った容姿ですもの。ですが、それは人としての器に過ぎないでしょう? やはり、内面を見てからにしてもらわないと……まぁ、そんな機会が訪れるとは私自身も思っていないのですけど」
「……深い」
「青が言うと何か浅くなるよな」
ぐうの音も出ない。……そう思っていたら、勝也とは逆側から聞き逃しそうな小さな音量でぐぅの音が響いた。
「エビチリ……半分くらい食べる?」
「…………こほん。お腹一杯なのですか? それなら仕方ないので頂きますわ。仕方ないので」
半分どころか八割くらいを食べられた……。先に食べ終わった勝也を待たせてしまったが、俺と灰沢さんも食べ終えて今は食後の休憩だ。
「そう言えば、名前を一方的に知ってるだけだったな。俺は円城寺勝也だ。青と同じ二年二組で赤組な」
「たしかに、何回か会ってはいたけど名前を言ってなかったよね。俺は神戸青……好きなように呼んで良いけど、百円の男は卒業したいかな?」
凄く安上がりな男と周囲に思われる可能性があるからな。流石にそれはないか。
「では、私も。一年一組の灰沢向日葵ですわ。書道部に入ってますの。そうですわね……私の方が後輩ですので、好きに呼んで貰って構いませんわ」
今、何でもって……何でもは言ってないか。グレー、灰沢ちゃん、向日葵ちゃん、サンフラワーちゃん、ひまちゃん……ちょっと悩むな。こう呼んでください! とか、馴れ馴れしく呼ばないでください! とかの方が候補を絞りやすくて逆に良かったかもしれない。
「俺はあれだ、灰沢さんでいいかな。女子はだいたい苗字呼びだしな」
「そうだなぁ……後輩ちゃん! うん、後輩ちゃんとか、ひま後輩とかが良いと思う! なんか、ピンときた」
「ひま後輩……。ま、まぁ? 好きに呼べば良いと思うのですわよ? えぇ、どうぞいくらでも好きに呼んで構わないのでしてよ?」
そ、そうですか……。何か口調がおかしかった気もするが、嫌じゃないならその路線で行くか。
「じゃあ、そろそろ体育館にでも行くか」
「そうだな。ひま後輩、片付けも自分でやる範囲だから。まぁ、返却口に置くだけなんだけど」
「そ、それくらいは存じ上げていますわ。では、さっさと行きましょう」
俺達はついでにという事で、三人で体育館まで移動した。午後は話を聞いておくだけの簡単な時間だな。寝ない事だけに注意しておこう。
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