第20話 たしかにお嬢様っぽかった
メリークリスマス……イブ!
風呂に入ってサッパリした後、部屋に戻ると勝也からチャットが届いていた。
『朝に言っていた子の事、分かったぞ! 後輩に聞いてみたら、一年生ならほとんど知ってる子らしい』
そうだったのか。一ヶ月程度でそんな有名に……まぁ、目立ちそうではあったけども。
「『やっぱり、一年生だったんだな』……っと」
ピロン!
タイミングが良かったのか、俺の返信にすぐ返事が帰って来た。
『後輩に特徴だけ伝えて名前とかを聞いたからよ、俺が一目惚れしたんじゃないかとか疑われたんだぜ?』
『ま、それはともかく、名前は灰沢向日葵。これは、噂だが……どこぞの社長令嬢なんじゃないかって話があるらしいぜ?』
うん。確かにあの雰囲気はお嬢様って感じだったし、そう思えば、気品が漂っていた気もする。
思い返すと、そのお嬢様に百円とか渡しちゃってるな、俺。もしかしたら、渡した直後に鼻で笑われていた可能性もある。だとしたら、ちょっぴり恥ずかしくなってくるな……。
「『口調とかお嬢様っぽかったし、あり得るかもな!』うーん……通ってる高校は私立だが、本物のお嬢様が居るのは珍しいんじゃないだろうか?」
俺が通っている学校は……勉強での成績、スポーツ等での成績が一定以上あれば、補助金や助成金制度が適用されて授業料が安くなる。
これは、学校の地位向上や学校名を売るために優秀な者を集めようと、学校側が掲記している策の一つである。
この策は、『私立はちょっと……』と、金銭的な問題で諦めてしまっているが、優秀な何かを持っている子を援助する為にあるんだと、俺は思っている。もしかしたら、在校生の成績向上のきっかけにするつもりの策かもしれないが……な。
とにかく私立の学費は高い。大抵の生徒は勉強がそこそこ出来るし、この制度を利用して授業料を下げているのが普通だ。……ちなみに、俺くらいの成績があれば適用はされるみたいだから、大抵の生徒は利用している。
勉強に加えて、スポーツまで優秀な人は更に免除されているらしい。ごめんね! お父さん、お母さん。普通な成績しかなくて。
だからつまり、本物のお嬢様ってのは意外と居ないんじゃないかと思っている。俺が知らないだけで、お金持ちの子は実際居るんだろうけど。
ピロン!
送った返信にまた返事が届いた。
『青は知ってるかもだが、見た目から既にお嬢様っぽいらしいな?それで、逆玉の輿を狙って告白する一年が結構居るらしいぜ? 俺の後輩も玉砕したってよ!』
今朝に見掛けたのが勝也の後輩でない事を祈っておこう……。でも、告白とかされるんだな。今朝のが初めてって訳では無さそうだし……まぁ、大変ですねって感想しか出てこないけど。
「『社長令嬢と付き合うとか……後々の事とか考えたら面倒そうな事の方が多い気もするけどな~』」
『たしかに、マナーとか厳しそうだもんな~。ムリムリ、俺には無理だな』
勝也はやれば出来るのだろうが、基本的に堅苦しいのは苦手だもんな。俺もだけど。
「『確かにな。まぁ、そのうち良い所の坊っちゃんと付き合って結婚するだろうさ』」
『だな。じゃ、情報の提供料って訳じゃ無いけど……今日の宿題の最後の答えを教えてくれ! 頼む!』
……まぁ、等価交換かな? いや、別に答えくらい教えてあげても良いから俺の方が得してる感あるけど。
俺は勝也に答えを教えて、その日は零時になる少し前までパソコンでアニメを観て過ごした。
◇◇◇
翌朝、学校に到着すると何やら勝也を中心にして男子の十二名程度が集まっていた。
何の集まりなのか……聞こえてくる声を拾ってみると、どうやら今日の四時間目にある体育の授業は、体育祭で行う競技の練習をするらしい。その為、体育祭におけるクラスリーダーである勝也が、騎馬戦に出る男子を集めて四人の三チームをこの時間で作っているらしい。
俺は出ないから関係無いけど。
「神戸、おはよう」
「おはよう、ののの」
挨拶をして、少しボサボサの髪をいつも通りに整えてあげる。その間、のののは読書している。
「神戸君、おはよう。今日の体育は楽しみですね!」
「おはよう新山さん。そんなに楽しみ……なの?」
なんだかウキウキしてる様子の紅亜さんだ。スポーツが好きな人って体育祭の練習も楽しめちゃうのかね?
「神戸、ありがとう」
「はいよ」
読書はしていても、ちゃんと整え終わったらお礼を言ってくれる。たとえ習慣になっていたとしても、毎日お礼を言うのは、のののの良い所だな。
「神戸君、頑張りましょうね! 二人三脚!」
え? あっ……わ、忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
そうだった! 俺、百メートル走と二人三脚だったじゃん! 今日の体育の授業は走るだけかぁ~楽だな……なんて考えてたけど!
あっ、何か視線を感じる……気のせいだと思いたい。
一時間目から三時間目まで上機嫌だった紅亜さんは、いつもより休み時間に人を集めていた。集めるというか集まって来る、だけど。
久しぶりに、ここまで機嫌の良い理由を皆は知りたがっていたのだが、紅亜さんはそれを秘密にしたままだった。
そして、四時間目の体育の為に俺達はグラウンドへ移動した。
◇◇◇
「この時間は競技練習にしたいと思う! 百メートル走や騎馬戦とかだな。流石に綱引きとかの道具の要るものはしないが、長めの紐やハチマキはあるからムカデ競争とか二人三脚は出来るぞ!」
根本先生の説明が終わって、百メートル走の練習を始める者、騎馬戦で隊を組んで軽く練習する者も居る中で――私は、ハチマキを手に青くんの所へと向かっていた。
青っくんと~二人三脚~! 青っくんと~二人三脚~!
ルンル! ルンル! ルンルンル~!
……ど、どうしようかな? 少しだけ大胆に肩とか密着させてみようかな~? まずは、青くんの所に行ってからね!
「神戸君、に……」
「新山さん! クラスリレーの練習をしたいんだけど、どうかな?」
「やっぱり、最後辺りにある種目だし……バトンの受け渡しとか練習しておいた方が良いと思うんだよね!」
えっ? はい? 私は青くんとの二人三脚があるし……そんな事は二人居れば出来る筈だから、今回はパスしたいんです……けども?
「おーい、円城寺君も連れて来たよー! これで、六人揃って練習出来るね!」
「新山さん、女子のアンカーで少し多く走る役を任せちゃってるけど、お願いね! 皆で力を合わせて頑張ろ!」
円城寺君もハチマキを手にしている。という事は、やっぱり二人三脚の方が大切って事よね?
「いや、俺は二人三脚をする予定……」
「まぁ、そう言うなって!」
「そーだぜ勝也! クラス代表で走るんだし、失敗はクラスの皆に申し訳ねーだろ?」
言ってる事は分かるけど、やっぱり二人三脚を……私は青くんとの二人三脚がしたいのに……クラスの代表なのは確かだけど、駄目なのかな?
「うーん……分かった。でも、ペアの谷園さんに一声掛けてくるからちょい待っててくれ!」
「な、なら私もちょっとペアの神戸君の所に!」
この円城寺君という人は中々に良いアシストを出してくれるのよね。助かるわ! ……でも、せっかくの二人三脚の練習がぁ~。
青くんの所へ向かうと、そこには何をしょうか迷っている青くんと何もする気の無さそうなマノンが一緒に居て、何かを話していた。うぅ……ちょっと楽しそう。
「青~、谷園さ~ん」
「ん? どうしたんだ勝也……と新山さん?」
「どうしたんですか? 勝也さん、紅亜」
「えっと、私も円城寺君も二人三脚の練習しようと思ったのよ?
でも、クラスリレーのバトンの受け渡しとかの練習をしようって言われて……」
そんな事言われなければ今頃、青くんと二人三脚していたのに……。何だか、青くんもガッカリしている様に見えなくも無いわね。……間違い無いわ。青くんも、少しガッカリしてるわね!
「なるほど。たしかに、そっちの方が体育祭のメインっぽい競技だし、分かったよ」
「分かりました! お二人共、こちらは気にしないで頑張ってください!」
青くんとマノンに気を使わせちゃったわね……ごめんね、特に青くん。
「悪いな、次の練習の時は二人三脚の練習にくるからよ!」
「あ、青くん! 次は、こっちに来るから!」
次の体育は明後日くらいだったかしら? はぁ……。なんだか全然やる気も出てこないなぁ。上がっていたやる気が全部消えちゃった感じね……。
「新山さん……大丈夫?プレッシャーとかあるかもしれないけど、頑張って。応援してるから! もちろん、勝也もな」
えっ……ま、まさか、私の表情を読み取って!?こういう私の細かい所に気が付くのはやっぱり青くんだけなのよね。
しかも今、私に頑張って……応援してるからって。つまり、紅亜、頑張って……紅亜を応援してるから……って言ったって事よね!?
何だろう、この心から力が湧いてくる気分は……やる気が出てきたわ! 私、頑張れる!
「任せろ!」
「神戸君! 応援しててね! 頑張るから! うん、頑張る!」
その後のリレーの練習はいつもより力が入って、部活の時よりも頑張れた気がする。でも、この時に青くんとマノンが二人三脚の練習をしている事を授業終わりにマノンから直接聞いた時は、無理にでも二人三脚の練習に行けば良かったと、少し後悔してるわ……。
四時間目に体育だと、ちょうどお腹も空くからお昼ご飯も美味しいのよね。今日は青くんもお弁当のようね!
食べ終わったらまた、ちょっと校舎の裏へと行かないと行けないのよね……青くんには見付からないように、こっそりと行かないと。
もしかして、紅亜さんってヤバい奴なんじゃ……いや、可愛い。
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