第19話 デートじゃない、散策だ
総合評価がほぼ10000です!ありがとうございます!!嬉みです(´ω`)
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今回はラブコメらしくデートっぽい話ですかね。
チャイムが鳴り教室へと戻らねばならない時間。つまり、紅亜さんから逃げ切ったと思ったが……図書室から教室へと移動してる間に、問い詰められていた。
「神戸君、本当にマノンと一緒じゃなかったのね?」
「んだんだ、おらはずっと図書室に居たべよ。な? ののの」
「んだんだ」
完全に悪ふざけであるが、素直に谷園とあの現場に居たと言う訳にもいかず嘘がバレない為にも訛って誤魔化している。
「新山さん、谷園と一緒に居たら……何かヤバい事でも?」
「うっ……それは」
「あのですねぇ~、先程――モガモガ!? ンムーッ!」
全力で口を封じに動いたな。先程の件は知ってるのに意地悪な聞き方したけど、そんなに隠す様な事では無いと思う。告白されるなんて中々あるわけじゃ……って、紅亜さんなら別か。俺が無いだけか。
「モガモガ……」
「マノン、何も言わなくて良いから! 神戸君も何も無かったから気にしないで。さ、早く戻りましょう」
おっ、これは谷園のファインプレーだな。意図せず会話を終わらせられたんだからな。その後の授業中も休み時間も特に疑われる事も無く、過ぎていった。会話をすればボロが出ることを危惧したのだろう。
「青~、今朝の件だけど……部活の後輩に聞いておくから夜にでも連絡するわ」
「サンキュー。勝也も部活頑張れよー、じゃあな」
用事があるというのののと部活に行く紅亜さんにも挨拶をして、俺は帰路に着いた。――――後ろからついて来る谷園を無視したままで。
◇◇◇
「さ、どこに行きましょうか!?」
「いや、帰るよ? 学校が終わったら……帰るよ?」
結局、校門を出た所で捕まった。谷園の言い分としては――
『引っ越して来たばかりで、まだ街に何があるかも良く分からないから案内して』……と、言う事らしい。
『勝手に散策して欲しい、案内するのは校内だけで十分だろう』……と、言うのが俺の言い分だけど、俺の心は半ば諦めている。暇だからな。
「と、言っても案内する場所なんてなぁ~、電車で移動していいならもっと大きい街があるんだが……」
「何でも良いですよ? 洋服店とか食べ物屋さんとか!」
休日に出掛ける方じゃないから、知ってる店とか入ったことある店はそれほど多くない。どうしたものかね……。
「うーん、ここで悩んでも仕方ないか……谷園、お前の家の方角ってどっちだ? そっちで知ってる店があれば色々と教えるけど」
「えっと、学校がここで駅があっちですから……あっちですよっ!」
ここから右方向か。俺の家が左側だから反対……でも、谷園の住んでる場所の方が店は沢山あった筈だ。最後の手段として……あの店を紹介するかな?
「じゃあ、行くか。とりあえず散策でもすれば、俺も気付かなかった店を発見出来るかもだし」
「はい、見つけに行きましょ!」
◇◇
「おぉ! あの人は健康的なオーラで、あっちの人は恋の悩みを抱えてますねっ! あっ……青さん見てください! あの人、上手く隠してますがカツラですよ!」
俺達はとりあえず商店街に向けて歩き出した。……どうして谷園はこんなに落ち着きがないのだろうか。あと、最後のは絶対に言っちゃ駄目だから! せめて気を使ってウィッグって言ってあげて!
「谷園、キョロキョロしてるとぶつかるぞ?」
「ですけどぉ~、人が居るとつい見ちゃうんですよぉ!」
また、オーラやら何やらの話か。人が少なくて車も通ってない所なら別に良いが……この辺はキョロキョロするには少し危ないからな。
「あっ! 良いこと思い付きましたよ! 青さん青さん、制服の裾掴んでますから連れて行って下さい!」
良いこと……自分に都合の良いことだな、これは。でも、いつの間にか離れてた……なんて事になりかねないし、しょうがないか。
「はぁ……せめて鞄にしてくれ」
流石に制服の裾は……ね。シワが、うん。シワが出来ると困るからな。
「おぉ、意外……でも、無かったですね。えへへっ、青さんはそういう人ですもんね!」
「人を見るのも良いけど、ちゃんと店の方も探せよな? あと……鞄に掴まるように言ったじゃん!?」
何、ナチュラルに制服を掴んでんだこいつは……。
「これは青さんの肩に負担を掛けない様に気を使ってるんですよっ! 察してくださいな」
「いや、気の使う場所おかしくない!?」
あぁ……これは、俺が妥協するしかないのか? なんだろ、譲ってばかりな気がしてくる。
「青さん、駄菓子屋ってありますか? あるなら、そこにアタックしましょう! 私、好きなんですよ駄菓子って」
「……了解、こっちだ。手、離すなよー」
◇◇◇
「青さん、コレとコレが当たりですよっ!」
「何なの? お前のオーラって無機物にも有効なの?」
駄菓子屋にある駄菓子の中には、アタリ付きのがある。要は、アタリが出たらもう一本! ……的なあれだ。十円から百円分の駄菓子と交換出来るタイプもあって、谷園が俺に言ってきたのはそのタイプの駄菓子だ。
こいつの観察力や洞察力が優れているとはいえ、流石にこれは無理があるんじゃなかろうか。
「じゃあ……お前の言った方の一つを買ってみるよ」
「どうぞどうぞ! ですが、アタリは一日一回ですよ? 子供達の楽しみを奪いたい訳じゃないので」
どうも、こいつの気の使い方はおかしい。
不幸中の幸いだって、そもそも不幸の方がデカいのと同じように、谷園に気を使われたとしても、そもそも谷園が面倒事を持って来ているのだ。
「これ一つください」
「はいよ。十円ね」
店番をしている老年の貴婦人。つまり、皆のばあちゃんに十円を渡して早速中身を確認してみる。
『アタリ! 十円』
んんん……何だろうこの気持ちは。アタリはアタリだ。アタリなんだけど……んんん。
「どうです、青さん?」
「確かに当たったよ? 当たったけど……プラマイ、ちょっとプラ過ぎてイマイチ盛り上がらない」
むしろ、現金じゃないだけマイナスに感じる。
「で、でも……当たりは当たりですよね! ね!」
「それはそうだけど……この当たりも商品と替えてくるか。はい、食べて良いぞ」
さっき買った駄菓子は谷園に渡して、同じ商品からもう一つテキトーに選び、十円分の当たり券と交換して中を確認してみた。
『アタリ! 二十円』
「……んおぉ!? 谷園! 谷園! 俺の方が上だぞ! 見ろって! ほらほら!」
「ぐ、偶然ですよっ! そんなの!」
確かに偶然かも知れないけど、なんか嬉しい。もしかしたら谷園が最初に選んだ二つの内、もう一方は高額だったかも知れないけど……結果をみれば、谷園より俺の方が上である。
「へへっ、何か俺もオーラが見えた気がするけど?」
谷園のオーラに対する意識を煽ってみよう。どう反応するかな?
「……なんですと?」
あっ、ちょっと煽り方を間違ったかな?
「いや、その、すまん。そんなに怒ら……」
「や……ぱり……やっぱり! 青さん、信じてましたよ! いつか、青さんもオーラが視える様になるんじゃないかと! そうですかそうですか、このタイミングで覚醒しましたか。ふふっ、これは楽しくなりますね~」
“お兄ちゃん、あの人達さっきからアタリで喜んでるよー?”
“あと、オーラとか言ってるな……妹よ、目を付けられる前に逃げよう”
「「……」」
――俺ト谷園ハ冷静ニナッタ。
「出ようか」
「ですね。他の所に行きましょうか……」
駄菓子を出た俺達は商店街を歩き回ったり、古着屋やファーストフード店やファミレス、チェーンの珈琲店を見て回った。というか、俺が教えられるのはこのくらいしか無いんだけどね。
「いやー、楽しかったですよ青さん! ありがとうございます」
「どういたしまして。……最後にもう一ヶ所、行けるか?」
谷園が時間的に一ヶ所くらいなら大丈夫と言うので、俺は行き付けの……と、言っても月に一度か二度程度しか行かないが、安い珈琲と美味しいケーキが食べられる喫茶店へと連れていく事にした。
その店は、四十代の店主が本業とは別に趣味程度でやっているらしく、宣伝もしていないし、店先には看板すら置いてない。
たまたま見付けた時に、思春期真っ盛りだった俺はクラスの人も知らない喫茶店……というのに憧れて、すぐに店へと入って行った。
珈琲もケーキも美味しいし今も俺だけが知ってる喫茶店という感覚に浸っているが、谷園には教えても良いと思えた。内心では誰かと共有したがってたのかも知れない。
「ここだ。喫茶『ハチミツ』……分かりにくい場所だろ?」
「たしかに……普通に素通りしそうな立地にありますし、開いてるのか閉まってるのか良くわかりませんね? ですが、よくよく見れば雰囲気の良さそうなお店です!」
俺達が店に入ると、店内には店主とその奥さん……それに常連さんだろうか、初めて見るおじさんが居て三人で話していた。店主がこっちに気付いたから中断させてしまったけど。
「いらっしゃい。おや……青君、隣の子はお友だちかい?」
「そうですよ。最近、転校して来た転校生でして……ちょっと、街を案内してたので、最後にここに寄ったんです」
「あらあら、可愛い子ね。どこでも空いてる席に座ってちょうだい! とりあえず珈琲を二人前で良いかしら?」
せっかくだし、ここのケーキを谷園に奢ってあげる事にした。ケーキは奥さんが作っているらしいが、本当に美味しい。高級品には敵わないかも知れないが、俺はここのケーキが一番好きだったりする。
「はい、先に珈琲。ケーキもすぐに持ってくるからね!」
「ありがとうございます」
「どもです……んぁ~美味しそうですねぇ~」
この店は静かだ。勿論、良い意味で。時間の流れが遅くなったのかと思うほどゆったりしている。珈琲を口に含み、その苦味を楽しむ。でも、やっぱりミルクを入れてマイルドにしてしまう。どっちも美味しい……ふぅ。
「青さん、このケーキ美味しいですぅ!」
「だろ? 毎週来たいんだけど、お財布の事情的にね。ここに通う為にバイトしようかと最近は考えてる」
土日のどちらかでバイトをするか、平日の学校終わりでバイトをするか迷っている。ここに通う為のバイトだから一日働けばそれで十分だろうしな。
「その気持ちは分からなく無いですよ~」
「だろ? 谷園、ここの事は内緒だぞ? 個人的な理由だが、雰囲気が壊れるなら人が居ない方がいい」
俺の発言が聞こえていたのだろうか、マスターが苦笑いしていた。
「青君……まぁ、ここは私の趣味だからね。それでも良いんだけど……あっ、でも今度、バイトで人を雇う事になったんだよ」
バイトを? この店で? 手が足りないなんて事は無いと思うんだけど……。
「考えてる事はだいたい分かるけど……女の子なんだけどね、料理も一通り作れる技術はあるみたいだし、この店でも土日だけはケーキ以外にも食べ物を提供しようと思ってて。ちょうど良いタイミングだったから雇ってみようと思い立った訳だよ」
「なるほど……個人的にはパスタとかハンバーグとかあると嬉しいですね!」
カフェ兼レストランみたいになるのかな? 絶対に来よう。
「青君、旦那はあんな事言ってるけど絶対にコレで選んだんだよ? まったく……」
そう、奥さんが胸の前で手を動かしてジェスチャーを送ってくる。なるほど。でも、奥さんも本気で嫌がってる訳では無さそうだし、会った印象は悪く無い子だったのかな。
何はともあれ……楽しみである。
「ご馳走さまでした! 美味しかったです」
「お粗末様。お口に合ったようで良かったわ! また、食べにいらっしゃいね」
「よし、じゃあ今日は帰るか。また来ますね」
俺達は店主と奥さんに挨拶をして喫茶『ハチミツ』から外へ出た。外の喧騒が聞こえて来ると、本当は別世界なんじゃ? とも思える。
「大通りまで一緒に行くか?」
「はい、お願いしますっ!」
人通りの少ない場所から多い場所へ。ここからなら帰る道も分かるという事で、谷園とはお別れだ。
「じゃ、また明日。学校で」
「青さん!今日は楽しかったです、ありがとうございましたっ!
よろしかったらですけど……また一緒に街を散策しないです?」
散策か……まぁ、それも悪くは無いかもしれない。
「まぁ、都合が良ければでいいなら」
「はいっ! 十分です、じゃあ……またです!」
軽く手を振り合った俺達は、反対方向に足を進めて帰路に着いた。
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
谷園、お前も中々に可愛いじゃないか!
٩(๑'﹏')و