第17話 ツインドリル!? いや、それよりも……
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(´ω`)
お昼の時間を少しばかり過ぎた頃、料理が完成したとの報せが届いた。麗奈さんが笑顔で言いに来たのである。
「ひっひっふーひっひっふー……よしっ!」
「おい、どうしてそんなに気合いを入れる必要があるのだっ!?
安心しろ、手順は間違っていない」
問題は手順では無いのだが……。料理が下手な人の特徴として、味見をしない、感覚に頼る、そして一番厄介なアレンジをしたがる。という物があるけど、麗奈さんはそれ全てをクリアしている。
麗奈さんは色んな知識があるから、栄養になると言って絶対に合わないだろう食材をぶちこんで来る事があるのだ。
俺は覚悟を決めて、部屋からリビングへと移動した。移動してすぐに気付いた。――あぁ、やっちまってる……と。お母さんと碧の席の前には美味しそうなオムライスがある。
「さぁ、青! 食べよう……って、違う違う。青は一つ隣の席だよ」
くっ……せめてもの抵抗として一つだけ、何故か黒っぽい料理のある席からズレたのだが、やっぱりこっちが俺の席か。お母さん、碧はとても可哀想な人を見る目をしている。哀れんでるんじゃなくて、心配しているんだろうな。
「わ、わぁ! 俺のだけ特別感出てますねー」
「当たり前だろう! 私が一生懸命作ったのだからな!」
お母さん、碧……どうして麗奈さんを止めてくれなかったんだい? 黒っぽいんだよ? 焦げてるならまだ良かったのに、焦げて無いのに黒っぽいんだよ?
「麗奈さん、同じ材料で同じ手順で作ったんですよね?」
「いや……」
あっ、否定の台詞から入ってるぞこれ。やっぱり何かやらかしてるのかぁ……。
「やはり、オリジナリティーが必要だと思ってな。一手間掛けさせて貰ったのだ。安心して食べて良い、栄養はバッチリだから!」
「そうよ、青。麗奈ちゃんが一生懸命作ってくれたのだから。残さず食べるのよ?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん! 食べられる食材しか使ってないから!」
悪魔母さんと堕天使碧から逃げ場を……元々無いけど塞がれた。大丈夫、耐性は出来てる。吐かなければセーフだろう。
「では、麗奈さん……いただきますね」
「あぁ、自信作だ!」
お米の部分……ケチャップライスは黒い何かで包まれた下にあると思った。思っていた。が、そこにあるのは黒い米。もう、訳が分からないのだが……とりあえず、一口サイズにスプーンで掬って口へと運ぶ。
「うっ……」
ま、不味い。シンプルに不味い。今後、ゲ○味と言われたらこの料理を思い浮かべる程には不味い……。口の中では歯が咀嚼を拒み、喉はソレを通す事を拒んでいる。
「どうだ……青?」
「せ、成長してますよ……麗奈さん……っぷ」
何が……とは言わないけど。これ以上喋るとウップしてしまいそうだからな。
「麗奈ちゃん、碧、私達も食べちゃいましょう?」
「はい、いただきます」
「いただきまーす!」
三人は美味しそうなオムライスを食べていく。片やクロライスである。……でも、せっかく作ってくれた訳だし。そう自分に言い聞かせながら、俺も一口一口食べていった。
◇◇◇
「「「ごちそうさまでした!」」」
「ご……ごち、そうさま……でした」
た、食べきった。……俺はクロライスを食べきったぞ!!
「青、美味しかったか?」
「……成長しました……ね。ほら、食べきった……のが、その証し……です」
た、耐えた。それにフォローまで出来たし、男としての魅力度が一つくらい上がってる筈だ。
「そうかそうか。やっぱり練習した甲斐があって上達しているのだな!」
もう、お母さんも碧も何も言わない……というか言えないんだな。
だって――こんなに嬉しそうなんだもんな。
「えっと……片付けくらいは俺がやるよ」
「話は聞いたけど、麗奈ちゃんと何か体育祭の事で決めてるんでしょ? いいわよ、片付けくらいお母さんがやっておくから。頑張るのよ麗奈ちゃん!」
俺と麗奈さんはお母さんの優しさに甘え、部屋に戻って作業を再開した。麗奈さんは紙に何かを書き込み、俺はひたすら案を出す。
休憩を挟みながらも夕方まではし続け、麗奈さんは帰る時間になった。
「青、今日は助かった。礼を言うよ」
「いえ、このくらいならいつでも……麗奈さんが倒れても困りますしね。無理になる前に出来ることがあったら頼ってください」
麗奈さんが頑張りすぎて倒れる事は多分無い……とは、思う。きちんと計画を立てれる人だからな。だから、これは気持ちの話だ。
「ありがとう。その時は頼らせて貰うからな! では、また」
「はい! それでは」
麗奈さんのお家はすぐ近くにあるため玄関でお別れだ。見送った後は特にすることも無いし、部屋でゴロゴロだ。貴重な休みを満喫するためにもベッドから動かない、うん。今日はもう何もしなくて良いな。良いよね? 良いんだよ。よし、漫画でも読んで寝ちゃおうっと。
――日曜日。この日曜日というモノは本当に不思議で、気付いたら外が暗くなっているのだ。何もしてないのに暗い。チラチラと時計を見てはいたが、いつの間にかこんな時間になって夜がやって来ている。
「あぁ~明日は学校かぁ~、テストがあるわけでも無いのに行きたくないぃぃ~」
たぶん、世の中の大半が休みの次の日は学校へも仕事にも行きたくない気持ちが心を占めてるはずだ。
「ん~……ん? ……あっ、やべっ! 宿題やって無い! 忘れてた! ……ってか、何でやってないんだ金曜日の自分!」
過去の自分に愚痴を言いながらも、やらなかった自分が悪いんだと分かってるから、急いで宿題を用意して取り掛かる。
タンタンタンタンと足音が聞こえて来て、俺の部屋の扉が開かれた。
「お兄ちゃん、助けて~! 宿題やってなかった!!」
「安心しろ、お兄ちゃんもだから! それと、ノックくらいしろよな?」
休みのギリギリまで宿題を忘れてる妹の分からない所は教えながら、自分の宿題も終わらせていく。
何とか眠くなる時間の前に終わらせる事は出来た。俺と妹は来週は先に終わらせようと誓い合うが、きっと週末には忘れてるだろうな。
――こうして日曜日の貴重な時間は過ぎていった。
◇◇◇
翌朝、珍しく早起きした俺は――当然の如く二度寝をしていた。そして、いつも動き出すギリギリの時間になるまではベッドと共に過ごして……やっと今起きたところだ。
朝食も食べきり、身支度を整えて家を出た。いつも通りの時間、いつも通りの道を歩いて学校へとやって来たが……
「トイレ、トイレ!」
大の方では無いのが救いだが、急にお花を摘みに……男版が分からないからそう言うけど、とにかくトイレに行かないと。
「ここからなら体育館横のトイレが近いかな? 早く、砂漠を潤しに行かないと」
うん、今のは男版としてそのうち流行りそうだな。流行らないか。誰かしら言ってそうだけどな……ん?
“ごめんね、朝からこんな所に呼び出して”
“ええ、朝の……それもこの様な時間帯に呼び出して、いったい用事って何ですの?”
誰かが体育館裏で話してるみたいだ。誰かは知らないけど声は聞こえて来るし、朝練終わりの運動部かな?
「えっと……その、あの、す、好きです! 僕と付き合ってください!!」
おぉ……。今の声はハッキリと聞こえた。間違いなく告白だろう。朝からとは珍しい……上手くいくことを祈ってるよ。断られたりなんかしたら一日がツラくなるからね。俺はそんな事よりトイレに行かないとだから。
誰かも知らぬ男声の主にエールを送り、トイレで用を済ませた。
「ふぅ~早く教室に行かな……っと!?」
「っ!? ……んぐっ……ぐすっ……お前はたしか二年の……ちっ!」
トイレから出た所にスポーツウェアを着た男が泣きながら走って来て、俺の前で舌打ちをしてそのまま走り去っていった。おそらくあれが告白主なのかな?
フラれたから八つ当たりなのか? ……俺の応援を返して欲しいね。俺だって八つ当たりはしていないというのに。というか、舌打ちは酷くない?
「顔は悪くないよ、自信を持ちな。俺に八つ当たりするその心を改心したなら、次は成功するさ……ふっ」
聞こえもしない距離まで離れたいるが、あえて上からアドバイスをしておく。
見たこと無い顔だったし、二年生では無いはず。三年生って雰囲気でもない……たぶん、今年度に入学した一年生だろう。だからちょっとだけ先輩風を吹かせておこう。
そんな事より、一年生の五月と言えばまだ入学してから一ヶ月である。そんなすぐに告白なんて普通はしないだろう。そうとう競争率の高い女子だと考えていいな。一年生にそんな可愛い子って居るのかな? 部活に入ってないから後輩に知り合いが居るわけでもないし、その辺の事はまったく知らない。
「ちょっとそこの貴方……いつからこの辺に?」
うーん、勝也にでも聞いてみるか? バスケ部はイケイケだしその辺についても知っているだろう。
「そこの、二年生の人ですわ! 聞いておりまして!?」
さっきの少年も俺に見られるなんて思わなかっただろうし、フラれた後じゃ自棄になったりするか……さっきの事は許してあげよう。
「ちょっと! この私が話し掛けてあげてますのよ!? こっちを向きなさい!」
くそぅ……やっぱり俺かよ。そうだよな、この辺には俺しか居ないし当たり前か。
「はい、えっと……何でしょうか?」
「いつからこの辺に居たのか聞いておりますのよ!」
これはなんて答えるのが正解なんだ?
①たまたま今通りかかっただけですよ。それと、胸が大きいですね。
②実は、少し前から……そんな事より胸が大きいですね。
③その髪型似合いますね。ツインドリルですか?それよりも……。
うん、よし! 逃げよう。余計な事を口走りそうで怖いからな!
でも……本当にスタイルの良い子だな。灰色のツインドリルや口調はお嬢様っぽいし、ちょっとキツめな瞳もよく見れば可愛いく思える。
そうだ! ジュース一本くらい買ってあげれば、さっきの告白に感しては何も聞いてない事に出来ないだろうか。これは逃げる為の百円だ。逃げる為とその胸に払う百円だから――つまり安い。
「はい、これでジュースでも買ってくれ。君も急がないと遅刻になっちゃうぞ! じゃあな!」
「えっ……ちょ、ちょっとお待ちになってくださいましっ! あ、あの……」
別の学年なら会うこともそんなに無いだろうし、逃げよう。というか、遅刻しそうでヤバイからな。
「やばい、遅刻遅刻~」
少女漫画にありそうな台詞を言いながら、俺は靴すら履き替えて無かった為、急いで玄関口の方まで走り上履きに履き替えた。後は階段を上って――
キーンコーンカーンコ~ン
「うぇっ!? マジで間に合わなかっただと!?」
急いで教室に入ったが、既に教壇に立ってホームルームを始めていた桜先生に注意されてしまった。今度、あの百円返して貰おうかな……。
麗奈さんのターンはまたそのうち!(あるかないかは知らない。)
おっ、出会いか?出会いの予感?(こいつ、ただでさえ扱いきれて無いのにまだキャラを増やすんか……)
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