最終話 右隣の席に元カノが居ますが前を向きます
お疲れ様ですた。
最新話で飛んでる方は、一話前を読んでない可能性があるので、ひとつ戻ってくださいな!
夕陽が差し込むグラウンド。
一、二時間前の騒がしさが嘘の様に静まり返っていた。
俺以外に居るのは後片付けをしている生徒のみ。だがそれも、あと少しで終わるだろう。
「青さん」
背後から聞こえた声に反応し、振り返る。そこには制服姿に着替えた紅亜が立っていた。
夕陽が良く似合う。やはり俺の彼女はとても可愛いと、改めて気付いた。
「帰ろう」
「はい!」
マノンが碧や白亜ちゃんを送ってくれたお陰で、こうして二人で帰れている。借りが一つ増えてしまったが仕方ない……。
紅亜が隣に来て、一緒に歩き出す。今こうして二人で歩いて、喋って、楽しくて……またこんな風になれるとはつい先日までは思ってもいなかった。
すれ違って、背中合わせでもう顔を見れないのではないかと思ったりした。でも、歩き出せば――歩き出しさえすれば、地球の丸さが導いてくれたのか、こうしてまた二人一緒になれた。
今日が楽しくても、明日は楽しくないかもしれない。それでも、どんな日になろうとも、紅亜となら……そう考えている。
「そのメダル、ずっと着けているつもり?」
「ふふっ、だって今日のMVPですもの!」
紅亜の首からぶら下がっているメダル。金メダルを模したそのダンボール製のメダルは『MVP』と書かれており、今日の体育祭で一番活躍した生徒に贈られた称号だ。
「ま、一年生の遅れを巻き返すどころか抜き返したあの場面は盛り上がったしな」
「ありがとう。はい、青さんにもメダル掛けてあげる」
「え、なんで?」
「知らないの? オリンピックの選手だって、メダルを手に入れたら大切な人に掛けてあげるのよ?」
首から外したメダルをを、紅亜に掛けて貰う。
手に持つとなおのこと安っぽいメダルに思える。だが、紅亜から貰う金メダル……少し重みとか温かさとか、そういうものを感じた。
「似合ってますよ」
「活躍は何もしてないけどね」
「――ううん。青さんは私にとって……いつだって一番ですから」
「……それは、ちょっと照れますね」
頬を掻いてみる。照れてる俺が可笑しいのか、紅亜は少し笑った。
「そうだ! 折角ですし、写真撮りませんか?」
「……さっき、沢山撮ってなかった?」
「二人っきりはまだでしょ?」
後輩や先輩、体育祭終わりに紅亜は多くの人と写真を撮っていた。それだけ人気があるという事だ。
一応マノンや碧、白亜ちゃん達みんなで、写真は撮っている。集合写真みたいな感じで、たしかに二人っきりではまだ撮っていない。
「えっと……光の当たり的に反対の方が良いですかね」
「うん。あ、青さん……もう少し近付いて貰わないと」
撮る役は俺が任されて、スマホを持って限界まで左手を伸ばす。
胸の中にすっぽり入る様にして、紅亜が近くに居る。こんな写真の撮り方は始めてで、手が震えてしまう。
「ちょっと待って……ぶれるなぁ。タイマーにする?」
「それは駄目! このままが良いの……頑張って青さん」
ギュッと服を捕まれ、より密着度が上がる。
めちゃくちゃ恥ずかしいのだが、心拍数が上がっているのが紅亜にはバレてしまっている。
「私も……ドキドキしてるんだよ?」
そんな事を言うもんだから、よりドキドキが止まらなくなる。
頑張って震える手を押さえて、シャッターチャンスを狙う。
控えめにピースする紅亜さんがとても可愛い。だからこそ、シャッターを切るタイミングが難しい。
「いくよ。はいっ……チーズ!」
カシャッ――二人の姿が世界から切り取られ、保存される。
想い出がひとつ、増える。二人だけの大切な想い出が。
きっと、これから沢山増えるだろう写真の一枚目。きっと、記念となる。いつまでもこの日の気持ちだけは、忘れる事はないだろう。
「……好き。って言ってみます」
「……私も。って言ってみます」
――自然と手を繋いでいた。
いつまでもこうしていたいと思いながら、歩き出した。
もうこの手を離さないようにしないといけない。
大切な人を大切にする為に――。
◇◇◇
「う~ん。この写真の俺、なんでメダルなんてぶら下げてるんだ?」
「あ、パパ! おサボりは、ダメなのですよ!」
後ろから衝撃が背中に伝わる。そして、およそ十七キログラムの重さがのし掛かり首から可愛い可愛い顔がこちらを覗いていた。
「紫音! マノンおばちゃんの真似ばかりしたらお馬鹿になっちゃうぞ!」
愛しき娘、紫音。周りの何にでも興味を持つ年頃になった。
「パパ、なにみてるの?」
「ん~、昔の写真だよ」
「パパとママだ!」
「うん。まだ高校生の頃だね。それで、紫音ちゃんは何しに来たのかなぁ~」
紫音を背中から前に移動させて、抱っこする。サラサラで綺麗な髪を手櫛してやると、とても喜んでくれる。
大人になって反抗期とか来たら……なんて考える日もあるが、今はこうして抱っこ出来る事を喜び楽しんでいる。
「あ! ママがね、おひるごはんできたって! よびにきたんだよ?」
「ありがとうね、紫音ちゃん。一緒に行こうか」
紫音を抱きかかえたまま、リビングへと移動する。
周りには引っ越し用のダンボールが沢山置いてある。このアパートでの暮らしも楽しかったが、ようやく一軒家に住めるまでに貯金が貯まって……今はその準備に追われていた。
「ねぇパパ? マノンおばちゃんとのののおばちゃんはいつくるの?」
「午後には手伝いに来てくれるって」
リビングからは、とてもとても……とても甘い香りが漂っていた。
最近……言いづらくて言えていないが、甘い物が胃にくるようになっていた。俺の自慢できる頑丈な胃が、だ。
「わぁ! おいしそう!」
「紫音、まだ手を洗ってないでしょ。めー、よ? ほら、あなたも」
「あぁ……紫音、洗いに行こうか」
台所に立つ奥さんの姿。腰まである髪を一つに結んで、せっせと世界レベルのパンケーキを作ってくれていた。
手を洗って、席に着く。俺が座り、正面に紫音が座り、パンケーキを運んでくれた嫁が最後に隣に座る。
「あなた、今日も愛情を沢山込めましたよ」
「お、おぅ……いつもありがとう、紅亜」
「あー! ママ、わたしのには~?」
「もちろん、たっぷり愛情を込めてるわよぉ~」
「やったぁー」
決して裕福ではないと思う。でも、コツコツと。本当にコツコツと頑張って、今の生活を送っている。
昔は隣ばかりを気にしていた、俺と紅亜。でも、今は――。
「おいしぃ~」
「ははっ」
「うふふ」
愛する我が子の成長を見守る為に。
俺達夫婦は前を見て、今日も手を取り合って生きていく――。
『右隣の席に元カノが居ますが前を向きます(完)』
ご愛読ありがとうございました★
まだ、1回目ランキング、1位ののの特別√(ののほほ双子√予定)とか他キャラ√がありますが、それはゆったりやっていくとして、とりあえず完結です!
お疲れ様でした!٩(๑'﹏')و
その内、新作でもまた書いた時は、よろしくお願いします!
では、ノシ
感慨深いです……
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