第154話 ちょっとした混沌
お待たせ!したすた!すたすたスタ丼!
少し短めですが、よろしくお願いします!
「へぇ……学校の碧はそんな感じなのな」
「はい! いつも一緒に居て楽しいです」
そんな会話をしていると、足音が近付いてくるのが分かった。
先に戻って来たのは灰沢家の方だ。両手に双子の手を持って、仲良く戻って来た。
そして、それから少し遅れて碧達も戻って来た。
「お兄ちゃんお待たせ! 白亜ちゃんもお兄ちゃんのお世話ありがとねっ」
「クラスでですね~、碧ちゃんが可愛がられたので遅くなったです。青さんの妹という事は秘密にしておきましたよ!」
え、何故に? いや、別に良いけれど……。
碧が妹だと知られて俺が困る事はないけど、俺が兄だと知られると碧が困るかもしれない。おそらくだが……もう接点はないだろうけど。
「早く移動する」
のののが先に進んでいた。その後を追う様にマノンが移動し始めて、全員が動き出した。
俺と勝也と蓮君は男子組として、最後尾を歩いていた。
「いつメンって感じだな」
「いつメンってなんですか?」
勝也の一言に、まだ小学生の蓮君が食いつく。
「いつものメンバーの略だ。まぁ、仲良しグループって意味だな」
「なるほど、ありがとうございます!」
眩しいくらいのイケメンオーラを二人から感じる。おそらく一般的な女子が目の前に現れたら、俺を自然とフレームアウトさせるだろう。
「蓮君って、三年生くらい?」
「いえ、四年生ですよ。特技はサッカーです! あと、料理と裁縫ですかね」
「わ、分かるぅ~?」
何が分かるのか、言った俺が一番分かってない。ただ、イケメン子供に合わせてみただけ。
料理はそんなに出来ないし、裁縫はしない。サッカーは走り回るからキツいからなぁ。イケメンも大変だな。
のののについて行き、辿り着いたのは特別教室とプレートが貼ってある部屋。他の教室とは雰囲気が少し違っていた。
「ここは……青さんにも紹介して貰ってない部屋ですね?」
「いや、まぁ……来ないしな」
特別教室棟の三階までは来る事があっても、その上に立ち入る事はない。四階は空き教室があるだけ、という情報しか知らなかったからだ。
まさか……のののがここに居たとは、な。
のののが教室の鍵を開けて、中に入っていく。机、床、窓、ロッカーに違いは無いけれど、大型モニター、パソコン、冷蔵庫……設備が相当グレードアップしている。
「すげぇ……」
そんな一言が自然と出てきた。
「机……一個しかないですよ?」
「それは仕方ない。ビニールシートで我慢する」
慣れた様子で、ロッカーから大きめのビニールシートを持って来る。教室の中央にそれを広げて、その上にみんなが座っていく。
十人ともなれば結構な輪になる。向日葵を挟む様に双子ちゃんが座り、そこから時計回りに、勝也、マノン、碧、白亜ちゃん、紅亜、俺、のののの順で一周。
みんながお弁当を広げ、青空の下ならもっとピクニック気分に浸れたかもしれないが、今でも充分だ。
「――ん?」
何故か視線を感じる。隣からも正面からも。それを一周見渡して、ようやく気がついた。
「あぁ……うん。えっと……はい、いただきますっ!」
「「「いただきます!!」」」
最初はやっぱり、これじゃなきゃ始まらないよな。
◇◇
「青さ~ん、私にもサンドイッチくださーい」
「勝手に取りなさいな」
「青さん……わ、私もサンドイッチ貰って良いかな?」
「もちろん! 紅亜ならいくらでも」
「なっ!? 私と対応が違い過ぎるんですがっ!」
そうだろうか? 首をかしげて、そんな顔をマノンにしてみる。
その反応にご立腹なのか、手に持っていたサンドイッチを口に詰め込み始めた。それがどういう意思表示になるのかは分からないが……おそらく怒っているのだけは間違いないな。
「んグッ!? ウググググ……」
「一気に詰め込むからだ……ほら、お茶」
「んぐ、ンぐっ、んグッ……プハァ! ふぅ……危ないところでしたね」
マノンを蔑ろにし過ぎた結果――暴飲暴食で太られたとしても責任は取れない。冗談はそこそこに、変わらず接する事を心掛けていこう。
「ふむ……。皆さんどうやら何かを履き違えているみたいですねぇ……?」
唐突に、碧がそんな事を言い出した。女の子座りで探偵みたいに腕を組んで。
そんな碧が何を言い出すか気が気じゃないのは俺だけだろう。
「お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんですよ? 神戸青ではなく、神戸青『神戸碧の兄』までが、お兄ちゃんですよ? 分かりますか?」
――分からない。お兄ちゃん、何も分からないよ碧。
俺の存在が急におかしな方向に行ってる気がする。
「ふむ……哲学的だな」
勝也の何も考えてない台詞は置いておくとして、場の空気が変になったこの状況をどうにかしなければならない。
「理解した。私なら妹まで面倒を見れる」
「……っ!! 私だって碧ちゃんを放っておく真似はしませんとも!」
のののと紅亜は理解が及んだらしい。
二人の言葉を聞いて、俺もようやく考えが理解できた。つまりは「遊びには付いていくから、除け者にしないでね!」という事だろう。
兄離れできない妹。まだ小学生だし、それくらいの可愛げはあって良いかもしれない。ただ……まさかとは思うが、デートにまで付いて来る気ではないだろうな。
(知れば来るだろうな……さすがに内緒で行動しないとな)
「ふっ……モテモテだな、青」
「何か、勝也に言われてもな……」
俺よりも余裕でモテている勝也に言われても、弄られているとしか思えない。というか、完全にチャンスとばかりにイジってきているな。
「……それよりののさん? ちょーっとだけお話が……」
「断る」
紅亜のお誘いを一刀両断。右と左でのやり取りを間で聞いている。
「ののさん? さっきより距離を縮めてない?」
「気のせい。新山紅亜は許容範囲を広げるべき」
「なっ!? べ、別に怒ってはいませんけど? これからはちょーっとだけ……そう、ちょーっとだけそういうのを指摘する立場なので!」
「フッ」
「鼻で笑われたぁ!?」
言葉でのののに勝つのは厳しい。それは俺にも分かる気持ちだ。
ポーカーフェイスから繰り出される抉る様な言葉のジャブ。それに、自分の方が立場が上である感を出すのが上手い。
「ののの、あまりイジメないでやってくれ」
「神戸が言うなら今日はここまで」
「うぅ……いつか、ののさんにちゃんと勝たないといけないのね」
紅亜が落胆しつつも何かを決意している。のののは余裕そうだ。
碧はマノンと、勝也にまでも範囲を広げて自分の立場を語っていた。
灰沢家は……揃って行儀が良い。このメンバーだから出せる雰囲気かもしれないが、一言で言えば混沌だった――。
◇◇◇
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