第149話 諸行無常の響きあり
お待たせしました!
セルフファンアートでマノンちゃんが描けました٩(๑'﹏')و
まだまだ絵は練習中ですけどね……( ノД`)…時間が、欲しい!!
よろしくお願いします!
体育祭当日の朝。
いつもより体が軽く感じるのは、十分な睡眠を取れたからだろう。
マノンからの着信が増えているプラス、チャットも何通か届いていた。あまり無視するのも悪いと思い『うい』とだけ返信しておく。
体は軽くとも寝起きは寝起き、頭はそう働いてはいないみたいだ。
「どわっしゃー! どわっしゃーだよお兄ちゃん!!」
「……斬新な起こし方だな、碧」
「だって! 昨日、マノンちゃん、チャット、お兄ちゃん、寝てた!!」
「碧、助詞使っていこう……女子だけに」
「ん?」
ベッドから出て、碧と一緒にリビングへ向かう。いつもなら二度寝をするのだが、なんとなくそんな気分にならなかった。
「それでお兄ちゃん、どういうこと!? 昨日の今日だよ!」
「どうどう……」
部屋を出てすぐに、碧が捲し立てる様に聞いてくる。
お茶を濁すのも限界があるだろうが、妹相手にペラペラと話せる内容でもない。単純に恥ずかしい。
こういう事の説明はマノンが適役だろうし、後で頼んでおく必要があるな。お菓子をエサにすればやってくれるだろうし。
「碧、白亜ちゃんと親友なんだけど!」
「お、おう…………え? どういう心配してんの!?」
トーストの香りがするリビングで、お父さんは新聞を読みながら座っており、母さんはテレビを見ていた。
土曜日という休日をゆっくりと過ごす予定なのか、俺と碧の席にはパンが一枚ずつとジャムが用意されてあるだけであった。
「あんた、今日体育祭なんでしょ? 早く行かなくて良いの?」
「あぁ、うん。時間的にはいつもと変わらないから」
「そ。碧にお昼ご飯持たせるから、合流しなさいね? 一応、マノンちゃんの分も作っといたから」
「あいあい。碧、一般の入場は八時三十分過ぎてからだからな」
「分かった」
パンを食べ終え、着替えの為に部屋へと戻る。
スマホを見ると、着信が一件。またマノンかと思いながら開くと、相手は紅亜さんからだった。
「やばっ、すぐに掛け直さないと!」
ドアが閉まっているのを確認して、紅亜さんに電話を掛ける。
コール音が……やけに響いて聞こえてきた。
『もしもし、青くん?』
心臓に悪いコール音が三回鳴り、そして耳元に、紅亜さんの良い意味で心臓に悪い声が届いた。
『あ、はい! その、着信があったから……』
『う、うん。あのね……その、おはようって言おうと思って……もしかして起こしちゃった?』
『だ、大丈夫ですよ。起きてましたから』
『な、何で敬語……なの?』
自然と敬語になっていた。意図してた訳じゃないから、何でと聞かれたとて答えられるものじゃない。
そもそも電話が得意では無いのだ。通話機能の無い『ちょこライン』を好んで使っているのもそれが理由なくらいだし。
相手の声が耳元で聞こえてくるのは緊張するのに……それが、紅亜さんとなるとその緊張はより大きくなる。
『その、まぁ……気にしないでください』
『分かった。青くん、おはよう』
『おはようございます、紅亜さん』
『うん! あっ……ののさんの日記、読んだよ』
急に声のトーンが下がる。読んだ事ある者なら、そうなるのも仕方ない。のののの喜ばしい内容もたしかにあるのだが、暗いはなし
もしかすると挨拶とは建前で、その事について学校へ行く前に話しておこうとしたのかもしれない。
『驚いたでしょ? いろいろと』
『うん……いろいろと』
主にのののの過去。そして、俺との関係。両親の関係と言った方が正しいのかもしれないけど。
知ってしまえば、今後、神戸青を語る場で巳良乃ののは欠かせなくなっていくだろう。
のののの今後の動向については、非常に気になるところではある。紅亜さんに至っては、昨日の出来事と日記のダブルパンチで今日の気まずさ倍増しているだろう。
『言っておくと、俺も知ったのは割りと最近でして……』
『まったく、そんな気配というか……いつも通りな感じがしてたから……』
『どうする? って聞いたら、どうもしないってのののが言ったからね』
隠してるという感覚では無かったが、これは立派な隠し事だ。
だが、言うわけにはいかない。今後、こういう案件が出た場合……ちょっと考える必要がありそうだ。
言わなくていい事と言わないといけない事。その判定を握るのは紅亜さんで、ラインをちゃんと決めておかないと再び関係が拗れかねない。
『あ、あの! こういう話は……言わないといけなかった部類に入りますか……ね?』
『あ……えっと~……ううん。お互いに、話せる事は全部話して、話せない事は誤魔化さずに話せないって言って……その、上手く言えないけど、そんな感じでどうかな?』
お互い正直に――つまりはそういう感じなのだろう。
マノンが家に泊まりに来た事は話そう。でも、どこに住んでいるかは俺の口からは言わないでおこう。
ひま後輩が甘えん坊後輩というのは話そう。でも、バイトしている事は言わないでおこう。
そんな感じで良いかは分からないけど、とりあえずゆっくりと歩み寄る為にそんな感じでいいだろうか。
『わ、分かりました。そんな感じで……』
「お兄ちゃん! 遅刻するよーっ!!」
「あ、おう!」
時計を見ると、たしかにそろそろ登校の時間が迫っている。
自分から電話を切るのは苦手だが、紅亜さんもそろそろ動くかもう動いているだろうし……やるしかない。
『どうしたの?』
『碧が時間を教えてくれて……じゃあ、ちょっと、また、その……また後で、ね?』
『あ、本当だっ! 私もそろそろ出ないと……青くん、また後で』
通話が終わり、一度大きく息を吐き出した。思ったより緊張していたみたいで、肩の力が抜けていくのを感じた。
「お兄ちゃーん?」
「はいはい」
碧の声にハッとして、急いで制服に着替えていく。
体操服とハチマキを鞄に詰め、スマホをポケットに入れて部屋を出て、リビングに居る家族に一声掛けて家を出た。
土曜日に制服で学校へ向かうという帰宅部ではありえない状況が、平日と休日のいつもと違う空気感を更に深めている。
それが理由というのが少し……あとは、やはり体育祭というイベントにちょっと緊張しているのだろう――いつの間にか早歩きになっていた。
何だかお腹も痛くなる。ゆっくりに歩く方がより緊張するだけだと、早歩きのまま学校へと向かった。
◇◇
校門に飾られた双翼祭と書かれたアーチ状の看板を潜り抜け、教室まで進んで行く。
階段を上って教室のある階に着くと、即見付かった。待ち構えていた……腕組みのマノンに。
「やっと来たですね! 『うい』ってなんですか! 『うい』って!!」
「あっ、マノン。今日、うちの母さんがお前の分の昼飯も作ったってよ」
「ほ、本当ですかっ!? 早速お礼のメールを碧ちゃんを通じ……って、そうじゃない!! 騙されるところでした!」
(駄目だったか……マノンも騙されなくなったな)
ファイティングポーズを取ったマノンが、右手を『シュッ、シュッ』と言いながら突き出して、闘争本能を剥き出している。
それを俺も右手で受けるが、ただ時間を浪費しているだけで何も解決しない状態だ。
「マノン、お前の聞きたい事は分かる。でも、ここは俺じゃなく紅亜さんに聞いてくれ。そして……あわよくばお前がチクったであろう碧にも説明してくれ」
「ふっ……そうでした。紅亜の方が簡単に話してくれるに決まってましたね! 青さん……あでゅーです!!」
「同じクラスだけどな」
もう紅亜さんは来ているのか、マノンは教室へと走って行った。
(おっ? ……まさか、アイツ教室で話すつもりじゃ無いだろうな?)
「ちょ、マノン……ちょ! ちょ、ちょっ!」
慌ててマノンを追い掛ける。既に教室に入りかけていて、手遅れ感が凄い。
「くーれあ~~!」
「うおぉぉい! バカ! マノン、マジバカ! マジマノン!!」
追い付いて伸ばした手よりも、口から出るマノンの声の方が早いのは当然で、教室にその声は響いてしまった。
マノンの声に反応してみんなが振り向く……が、そこに紅亜さんの姿は無くみんなも元通り、さっきまでの状態に戻っていった。
(た、助かった……とりあえずマノンの頭を叩いておくとして。何で居ない事に気付いてないのか……)
マノンが俺の顔を見て残念そうな顔をするが……俺はホッとしていた。
ただ、俺も少し気まずい部分が無い訳ではない。紅亜さんではなく、のののに対して。
体育祭というイベントの日だと言うのに、いつも通り自分の席に座って本を読んでいるののの。他の人は浮かれている感じがある中、のののだけはいつも通りだった。
本当はどうなのか分からない。ただ、いつも通りには見えているだけなのも分かってしまう。
「うい、勝也」
「おう。あ、青! 体育祭の後に打ち上げをやろうって話になってんだけど……」
「ふっ。もちろん行かねーぜ」
「そか。じゃあ、明日か明後日にでも俺達だけでやるか」
「助かる」
勝也と挨拶を交わして、自分の席に着く。
本を捲る手を止めないのののに、何て声を掛ければいいのか。そもそも掛ける言葉なんてあるのか。
こういう時だけはちゃんと来ないマノンを、少し恨むのは八つ当たりでしかないと分かっている。
何を言っても嫌な奴にしかならなそうで、言葉が出ない。
話かなくとも分かる事はある。だが、話し掛けなければ何も進展は無い。
朝に紅亜さんと電話した事で、昨日までとは違うと分かったみたいに。
「ののの」
「うん」
「今日は……髪、どうしようか」
本調子じゃない俺から出る言葉なんて、これが最大。
綺麗に飾る言葉なんて無く、格好付ける事なんてできず……それでも話し掛けないという選択も出来ない俺に出来る精一杯だ。
「神戸の……うん。好きにして良い」
「そっか。じゃあ……ポニーテールにでもしようか」
「……うん」
教室の端の方で行われる、いつもの日課。二人の日課。挨拶代わりの日課。それを今日も、また次も、そのまた次もやっていくだろう。
変わるものがあれば変わらないものもある。
変わる中でも変わらないもの。変わらない中でも変わるもの。
諸行無常とはよく言うが、たしかに本質だと思う。変わらないものなど無いのかもしれない。
ただせめて……それを出来るだけ長く、変えたく無いものを変わらない状態に保つ努力をしてみても良いはずだ。
「他の結び方を、ネットで調べておくよ」
「うん!」
のののの髪を結び終えて、自分の席に着く。
そのタイミングで、紅亜さんが教室へと入って来た。
クラスメイトと挨拶を交わしながら、自分の席へと到着する。右隣の席へと。
目が合う。お互いにちょっと微笑む。だが、それだけ。
大々的には言わないでおこうという気持ちが、きっと紅亜さんにもあるのだろう。
「ののさん。ちょっとだけ、良い?」
「……仕方ない」
来て早々、紅亜さんが声を掛けたのはのののだった。そして――。
「マノン、貴女もよ」
「ギクッ!?」
いつの間にかそっと近付いて、聞き耳を立てていたマノンも捕まった。
のののが立ち上がり、紅亜さんと連行されるマノンを追って教室を出て行く。話す内容はおそらく、昨日の事だろうとは思う。
なら、俺も勝也には話す義務がある。手助けやお節介を焼いてくれた親友には話さないと、流石に不義理過ぎるだろうから。
「勝也、ちょっと」
「ん?」
「内緒話」
「うい」
紅亜さん達が教室を出て右に行ったのを見ていた。だから俺は、勝也を連れて左へと曲がって突き当たりの階段付近にまで連れていった。
「どしたよ? 連れ出すとは珍しい……」
「じ、実は……」
「……ハッ!? ま、まさか青お前! 男に目覚めたとかじゃねーだろうな!? 俺はノーマルだぞ!!」
「ちっげーよっ!! おまっ、ふざけんなし!!」
ここは主に上の階に行く一年生が使う階段だ。聞かれていたら変な噂が広がりかねない。
それはお互いにデメリットしか無い内容だろうに、よく口から出したものだ。
勝也がノーマルという立場で話す、よく考えると俺にしかダメージが無い内容だからか、最悪だな勝也。
「はぁ……じゃあ、どうした?」
「あぁ、内緒な? まぁ、もうそんな気力も無くしたけど……あれだ、紅亜さんと上手くいった。それだけ」
「ほぉ~」
「……反応薄いな?」
「ま、そうなる気はしていたしな。はい、おめでとおめでと」
やけにあっさりな勝也が先に教室へと歩き出す。
下手に盛り上がったとて困るしか無かったが……こう普通過ぎるのも、言った後の次の言葉、いったい何を言えばいいのか分からなくなる。
勝也の横に追い付いて歩くが、よく見るとちょっとニヤついていた。『悪い』というよりは『わりぃ』笑顔だ。
「よくないニヤつきだな?」
「ハッ、そりゃ目の前に面白二人組だぞ? からかわない手は無いだろ?」
「さすが勝也、悪い意味でヤな奴だな……」
「そう褒めるな! 時と場所は考えてやんよ」
意地悪な中に見せる優しさ……と、見せ掛けた結局は意地悪。
女子は勝也のこういうところに魅せられる……というな騙されるのだろう。よくよく観察すれば、勝也は意外と『わりぃ』奴だ。
――それでも、助けてくれる所には感謝しないことも無い。面と向かって言わないけれど。
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