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第147話 あっという間に過ぎるよね



お待たせしました!

更新がちょっと遅いのは、暑さのせい……

あと、お絵描きが楽しい(毎日描けてる訳じゃないけど、ちょこちょこ)


では、よろしくお願いします!



 


 焼いたり冷やしたり溶かしたりなんやり……いろんな工程を経て完成した三つのお菓子が、人数分の食器に分けられ目の前に並んでいる。

 制作時間はまちまちな様子で、最短と最長で十分から一時間くらいの差はあっただろう。


「わぁ~、美味しそう!」

「そうだな。それにしても良かったな? 碧の分も用意してあって」

「うん!」


 おそらく一人分がやや小さくなってはいるだろうが、兄としてはみんなの優しさがありがたい。

 テーブルに座れる人数にも限界がある為、俺と勝也はソファーに座りながら食べる事にした。

 女子と男子で、お菓子に対しての盛り上がり方も食べるスピードも違うだろうし、最適といえるだろう。


「青、誰がどれを作ったか分かるか?」

「分かるぞ」


 用意されたお菓子は『生クリーム乗せパンケーキ』『抹茶のパウンドケーキ』『イチゴミルク』の三つ。

 まず、食べなくともイチゴミルクがのののの作った物だと分かる。作業の少ない且つ被らないドリンクというチョイスはのののらしい。

 難しいのは残りの二人だが、マノンのちゃっかりとした性格を考えれば――答えは導き出せる。


「パンケーキが紅亜さん、抹茶のがマノン、イチゴはのののだな」

「ほぉ……その心は?」

「まぁ、食べれば分かるって」


 勝也はまずイチゴミルクを一口飲んで、抹茶、パンケーキという順に少しずつ食べていった。

 だが、俺の答えが合ってるとするのなら……正しい食べ順とは言えない。


「あぁ……たしかに青のは正解かもな」

「馬鹿だなぁ~……強烈の甘さを誇る紅亜さんの作った物を最後に食うとは……」


 マノンのちゃっかりとしている部分とはつまり、甘さが口に残り続ける紅亜さんのパンケーキの後で、自分の作った甘さ控えめな抹茶のパウンドケーキを食べさせる事で美味しさを加速させるところにある。

 だから正解の順番は、イチゴミルク→パンケーキ→抹茶のパウンドケーキ→イチゴミルクだ。

 どう頑張ってもイチゴミルクの甘さはパンケーキによって(かす)まされる。のののはイチゴを甘さ寄りではなく甘酸っぱさを活かすべきだっただろうな。


「まぁ、甘さに慣れてる俺なら順番は特に関係なく全部を吟味(ぎんみ)できるけどな」

「いや、これは流石に無理だろ……本体も甘い上にクリームも甘いんだぞ?」

「大丈夫大丈夫。いただきます…………あま~い」


 太る味にしか感じないが、食べれない程じゃない。

 これが対決なら判定しなくちゃいけないんだよな……う~ん。何を基準に判断するかで結果は変わってきそうな感じだ。

 とりあえず……よく味わって食べますか。



 ◇◇



「さて、食べ終わった訳ですけど……青さん?」

「みんなの作ったやつは美味しかった……それで、良いんじゃないかな!」

「ヒヨりましたね青さん……そんなのは許されないんですよ!」


 嘘は言っていない。でもマノンは、そんな答えじゃ納得しないらしい。

 順位を競うのが苦手なのに、順位を決めるのが苦手じゃないはずがない。

 差はほとんど無いとしても、一位と二位にはとんでもない差があるように感じてしまう。それを一存で決めてしまうのが心苦しい……。

 たしかにマノンの言う通り、俺はヒヨっている。


「どうどう。でも、順位を付けるのは難しいんだぞ? 例えば碧が今アメでも渡して来たら一位と言えるんだが……そんな逃げ道も無いじゃん?」

「むむっ。イチゴミルクは美味しかったですか?」

「めちゃ美味いぞ」

「パンケーキは?」

「それもめちゃ美味かったな」

「じゃあ……抹茶のパウンドケーキはどうです?」

「普通に美味かったな」


 紅亜さんものののも結果を待っているのか、何も言わず座ったまま俺とマノンの会話を聞いている。

 のののは元から本気で勝ちにいっていないのか、どうでも良いという雰囲気にも見える。


「碧ちゃんはどれが一番美味しかった?」

「うーん……暇な時間にお兄ちゃんと勝也さんに宿題を手伝って貰えた事かなぁ」


(おぉ……我が妹ながら上手い事を言う。とてもスムーズに逃げに走る姿はいったい誰に似たのやら……)


 勝也は洗い物に逃げている。率先してキッチンへと逃げていった。


「トイレ」

「ののの、エスコートは居るか?」

「神戸、それはどうだろうか」

「ソダネ」


 どうやらマノンの追及を回避するのはどう頑張っても無理そうだ。

 味で言えばマノンのお菓子が美味しかった。

 普段は食べないお菓子で言えば、生クリーム乗ってるパンケーキも良かった。

 お手軽さを言うならば、ののののドリンクも捨てがたい。

 別にマノンのお菓子以外も美味しくない訳ではなく、ちゃんと美味しいのが決められない要因でもある。

 今まではそんな事を思った事は無かったが……誰かしら砂糖と塩を間違えてくれよ、と今はちょっと考えている。


「……味で決めていいなら。抹茶の仄かな甘さが際立ったマノンのパウンドケーキが一番だ」

「そですか! なんか、思ったほど盛り上がりませんね!」


(俺が散々渋ってタイミングが無茶苦茶だからね! ゴメンね!?)


 紅亜さんも特に残念がってる雰囲気は無いし、マノンもめちゃくちゃ嬉しいという訳でも無さそう。

 シンプルにみんなでお菓子を食べて盛り上がっておけば、こんな微妙な空気にならずに済んだと思う。……そう思うのは後の祭りってやつだろうか。


「仕方ない、一位のマノンには神戸家の秘蔵っ子である碧をわしゃわしゃ出来る権利をプレゼントしよう」

「碧ちゃん、今お兄ちゃんに売られましたよ?」

「ワタシニ、アニハイナイ」

「じょ、冗談だ碧! ずっと秘蔵っ子で居てくれ~」


 結果、一位で特典が付く事も無く、シンプルにマノンが一位という結論だけを迎えてスイーツ対決は幕を降ろした。

 のののもトイレから戻って来て、後はみんなで帰るまでのんびり過ごす方針になった。

 マノンは碧と遊んでおり、勝也は俺の部屋から漫画を勝手に持ってきて読んでいる。

 みんな各々で過ごし始めた中……俺の家に来なれていない二名が、テーブル席に座ったまま少し落ち着かない様子でいた。


(そういえば……のののもお母さんも、特に会話をしていなかったな)


 俺の母さんなら、のののを見れば自然となななさんを思い浮かべるに違いない。

 でも、今はそういうタイミングじゃないと判断したのだろう。それはきっと……のののもだろうな。

 紅亜さんの方は、単純にキョロキョロとしたり目の前のお茶をチビチビと飲んだりと、(せわ)しない。


「二人共、お茶のおかわりは?」

「いる」

「じゃあ、私も」


 コップを受け取って、お茶を注いでから二人の元へと戻る。


「おまたせ」


 紅亜さんとのののが横並びで座ってくれているおかげで、俺は何も考える事なくいつもの自分の席へと座る事ができた。

 自分の家なのに、こうも遊びに来てくれる人が多いというのは微妙に緊張する。


「うん」

「ありがとう……もう明日は体育祭かぁ」


 意外にも、話題を振ってきたのは紅亜さんだ。

 振ったというよりは呟いただけかもしれないが、誰かの提供した話に乗っかるタイプ三人が集まった空間では、その呟きは会話の始まりにするしかない。

 最初のチャンス。それを逃せば訪れるのは沈黙だと、今までの経験でなんとなく理解している。


「早いよね、なんか」

「うん。体育祭が終われば夏休み、文化祭……後は部活と勉強。長いようであっという間なんだろうね」


 薔薇色の学園生活を夢見て入学した者も、二年生の半分を終える頃には受験へ向けてだいたいの人が灰色な日常を過ごして行くことになる。

 先は見えないから長く感じ、後ろは過ぎた事だから早く感じる。

 日進月歩を感じている人なんて(まれ)で、大半は気付かぬ内に成長している。

 何事も――あっという間。

 濃いと思っていた五月でさえも、あっという間だったと言う日が来るのだろう……。


「大人の方が……長い」

「そだな。約百年……二十歳から数えると大人になってからは約八十年もあるんだよな」


 卒業後を考えると、こうして集まる事なんて下手したら二度と無いかもしれない。のののの言う長いとは、つまりそういう事だ。

 それぞれの都合で集まれず、距離が開き、疎遠になっていく。

 珍しい話じゃないし、その頃にはそれぞれに新しい知人も出来ているだろう。

 だが、ここでこうして集まったという思い出は、きっと心のどこかにひっそりと残っていくはずだ。高校生活はそれくらい強いものだと思う。


「でも……何年経っても、忘れないと思う」

「なんですなんです? 何の話ですか?」

「マノンみたいな強烈な奴、何年経とうが忘れないだろうなって話だよ」

「むふふ、なんか照れちゃいますねぇ~……これが、忘れられない女ってやつですね」


(ちょっと違うな)


 ふんっと鼻を鳴らして大人ぶった雰囲気を出しているが、もはや誰もツッコミをせずにいる。

 マノンが落ち着いた雰囲気が出せる様になるまで、あと何年の時が必要なのかちょっと気になる。

 もしかしたら……三十手前でも、四十でも五十でも元気なままかもしれない。どうなるんだろうか、コイツは……。


「マノン、進路はどうすんだ?」

「私ですか? 南から北上して……」

「たしかにお前は台風みたいな奴だが、そうじゃない」

「冗談ですよぉ。そですね、たぶん専門学校にでも行きますよ」


 どんなジャンルの専門学校かは気になるが、そこまで詮索はしない。

 マノンの場合、言うつもりなら最初から言っているだろうし。……まぁ一応、予想くらいなら出来るけど。


「青さんはどうするんです?」

「とりあえず大学……やりたい事も特に無い奴の典型だ」

「一人暮らしですか?」

「一人暮らし……だなぁ。たぶん」


 バイトして学校行って、安い家賃のマンションに住んで学費も払って。……たぶん最初は仕送りとかお願いするだろうけど、一人暮らしはしておきたい。


「神戸、炊事洗濯は大変」

「最初はやるだろうけど、炊事がどんどん雑になる未来が自分でも視えるわ……」

「い、一応聞くけど……青くんってどこの大学とか決めてる?」

「まだ絞りきれてないって感じかな? なるべく国立の方向でとは思っているけど……」


 これからの学力の伸び次第では、可能な限り名のある大学へとは思っているけど……とりあえずは受かれば良いやとも思っている。

 のののはきっと有名大学に行くだろうし、紅亜さんも陸上の推薦とかで何処かスポーツ大学に行くかもしれない。

 勝也は知らないけど、どこに行ったとて人気者だろうな。

 そう考えると、進路で一番ふわふわしているのは俺になる。みんなも心配してくれているみたいだし、無事に合格して夢の一人暮らしを現実にする為に頑張らないとな。


「うしっ! 青、そろそろ帰るわ」

「あっ……ホントですね! 結構な時間です」

「マノンちゃん帰っちゃうの?」

「碧ちゃん、また来ますよ。それに明日も会えますし」


 時計の針は、既に五時を回っていた。

 勝也の声をきっかけに、帰る流れへとなる。日が沈む前に女子を帰らそうという勝也の気遣い……相変わらずできる男だ。


「ののさん、駅までご一緒しましょ」

「うん」


 玄関先まで碧と一緒に見送る。

 途中まで方向が同じのののの、マノン、勝也のグループと、反対方向だが割りと近い紅亜さんに別れた。


「じゃあ、青またな」

「おう」

「またお邪魔させて貰いますね!」

「また来る」


 三人が駅の方に歩いて行き、曲がり角を曲がる所まで見送ってから紅亜さんもまた、帰路についた。

 そしてすぐに碧が肘で突っついてくる。その意味が分からない程、心の繋がりが薄い兄妹じゃない。


「すぐお母さんも帰ってくると思うけど、一応玄関の鍵は掛けておくんだぞ」

「うん。ほら早く、置いてかれちゃうよ!」


 一人で帰って行く紅亜さんを送ろうと、後ろ姿を目掛けて小走りで追い掛けていった。







誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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2020/1/11~。新作ラブコメです! 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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