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第146話 パーティーではないよ



お、お待たせしましたぁ……

夏は嫌いなんです(・_・)



 


 学校からスーパーへ。

 道すがら、俺と勝也は二人で前を歩きお話しをしていた。


「……で、どういうつもりだ?」

「普通に食べたくない? 女子の手料理って」

「そりゃ、食いたいけど。でも、なんか、勝負みたいになってるぞ?」

「くくっ、良い感じだろ?」


 狙い通りに事が進んでいると思っているのか、勝也は笑っている。

 だが、落とし穴がひとつあることに……まだ勝也は気付いていない。食材を選ぶ所から始めてしまうと、一人がヤバい物を作ってしまうという事を。


「せめて……うん。何か理由を付けてこっちで食材を選ぼうぜ」

「どして?」

「……激甘パンケーキとか俺以外に食える人いるの?」

「――っ!! それは無理だ!」

「ばっ、声がデケェ!」


 運良く俺達の会話が聞こえていた訳じゃなかったみたいで、やや不審に思われつつもギリギリセーフといったところだった。

 女子サイドの三人も何を作るか、今話している所だ。つまり、今割り込んでおくのがベストのタイミングとも言える。

 勝也に軽い肘打ちで、合図を出す。それだけで勝也は意図を汲んで、立ち止まって振り返った。


「ここは場を盛り上げる為に、材料は俺と青で買うと提案させて貰うぜ」

「えぇ~!? マノンちゃん特製DX惣菜を作る予定だったんですけど」

「あ、あぁ……だから、それぞれ……何て言うの? 方向性? カテゴリー? まぁ、料理のジャンルを教えてれればこっちで何となく買ってみるから」


 そうそう。

 これで、砂糖まみれパンケーキという食べ物もシンプルうどんという食べ物もマノンちゃん特製DX惣菜という謎の食べ物も出てくることは無くなった。

 紅亜さんとのののが予想した料理を作るかは分からないけど、だいたい合ってると思う。


「で、それぞれ……何を作るつもりだ?」

「軽い物が良いんでしょ? やっぱりスイーツかなぁ」

「……私はデザートにする」

「えっ!? ののさんは絶対うどんだと思ってました。これはもう仕方ありませんね! ここは乙女のスウィート対決といきましょう!」


 よく考えたけど……ただ駄弁る感じなのが家に行く目的だったよね? 最初……。

 勝也が隣に戻って来た事で、再び俺達は歩きだしてスーパーへと向かった。


 ◇◇


「青、デザートなんて作ったことあるか?」

「昔、手伝い程度で何かやった記憶はあるが……材料を全部覚えている訳じゃねーな」

「だよな。かと言ってホットケーキミックスとか買うのはなぁ~?」


 俺と勝也は絶賛、材料選びに苦戦していた。

 スマホを駆使して最低限というか、よく使う物は既にカゴに入っている。卵や薄力粉や無塩バターなどだ。

 砂糖なんかは家にあるものを使えば良いし、たまたま目に入った抹茶パウダーやココアパウダーもたった今カゴに入れてみた。

 だが、何か差となる材料がなければ、みんなが同じ物を作らざるを得ない状況になるだろう。


(それだと面白くないしな……何か違いの出る物ってないかな?)


 意味もなく精肉コーナーに寄り、勝也と二人で肉を焼いて焼肉のたれを付けて食べたら良くね? という男子ならではの会話をしつつ、ぐるっと店内を見て回った。

 女子グループはどこか日陰で休んでいて、店内にまでは来ていない。

 不公平を無くす為とは言ったものの、本音を言うと……『俺と勝也のお財布事情が微妙』という格好悪い所を見せない為だったりする。

 二人合わせてギリギリな感じだ。だから余計な物もあまり買えないでいる。


「生クリームとギリ買えそうなイチゴ。こんなとこか?」

「だな。あとは家に何かあることを祈るのみ」

「……青ならこの材料で何作るよ?」

「ショートケーキかクッキー……ぐらいか?」


 パッと思い付くのがその二つくらいだ。普段からお菓子作りをしない男子ならそんなもんだろう。

 勝也も似たような物で、これでどう差が出るのか想像力の乏しい頭で考えながらレジを通し、三人の待つ場所へと戻って行った。


「おまたせ」

「おかえりです~! ちゃんとお買い物は出来ました?」

「ま、最低限は用意した……と思う。あとはマノンの腕次第だな」

「余裕です!」


 そうドヤるマノンとは対照的に、静かにスマホを触っているのののだ。紅亜さんは買い物袋の中に砂糖が無いのに気付き、それについての心配をし始めていた。


「ののの、そろそろ行くぞ?」

「うん」

「今更だが……別にスイーツで縛る必要は無かったんじゃない?」

「スイーツ違う。デザート」

「……同じじゃない?」

「同じくない」


 どこかでデザート=スイーツと考えていたが、ののの曰く「普通の果物もデザート。スイーツは甘い洋菓子」との事だ。

 つまり、買ったイチゴがそのまま出てくるパターンとかが、のののの場合はあり得る訳だ。

 他の二人が何かを作ったとしたら、ののののシンプルイチゴが手抜きの様に思えるが――安心安定のイチゴ。それはそれで、普通に強い一手になるだろう。

 最低限練乳を用意すれば良いし、ちょっと手間を加えてイチゴミルクというのも良い。イチゴから発想を広げると、結構なアイディアは出てくるな。


「……ののの、イチゴ使うの禁止にしようか」

「むっ……それは困る」

「ならせめて、一手間加えるのが最低条件にします」

「計画練り直し。スマホ見る」

「はいはい、転ばない様にな」


 片手でスマホ、もう片方の手は俺の鞄に伸ばしてのののはデザート情報を集め始めた。

 そのままの体勢で我が家へと帰っていく。

 感覚派のマノン、理論派のののの、経験派の紅亜さん。誰がどんなスイーツを作るか、少し楽しみになってきたな。


 ――十六時を少し回った頃、家に着いた。

 家に居たのはお母さんだけで、事情を軽く話すと冷蔵庫の物は使って良いとお許しを頂けた。

 ただし『制限時間は五時三十分まで、片付けもちゃんとする事』という条件付きだ。

 調理時間と食べる時間を含めて一時間と少し……やや短い気もするし、軽い物という条件なら丁度な気もする時間だ。


「よーしっ! さっそく作っちゃいますよー」


 マノンが意気込んで、さっそく調理に取り掛かり始めた。


「ただいまなんだけど!!」


 丁度そのタイミングで、玄関から強めの意思が込められた帰宅の声が聞こえて来た。


「お、神戸妹か? しばらく振りだな」

「勝也はそうか……まぁ、前とあんまし変わってないぞ」


 そんな話をしていると、リビングの扉が開いてランドセルを背負った碧が現れた。


「おぉ~、いっぱい居る……あっ、珍しい人も居る!」

「ういっす」

「碧、手洗いしてきな~」

「あーい!」


 キッチンに居る三人とも何らかのアイコンタクトを取ってから、トタトタと洗面所の方へと走って行く。

 数分も経たない内に、戻った碧。部屋へは戻らずに、ランドセルを持ったまま戻って来た。


「何? 連絡あったけど何してるの? パーティー?」

「みんながお菓子作ってくれるんだって」

「本当!? 碧の分は? ある? ある?」

「んー……俺と半分こだな」


 それほど多く……碧が満足する量の材料は買っていない。そこだけは、少し我慢して貰う必要があるな。


「相変わらず仲良いな」

「そうか? こんなもんだろ」

「いや、だいぶ良いと思うぞ? まぁ、三つ四つも離れてたらそうなのかも知れないけどさ」

「よし! 宿題でもやりますか、お兄ちゃん」


 自由人な気質がある妹だ。反抗期が来るまでは仲良くするつもりである。

 でもいつか、来るべきその日からは距離感がどうしても出来てしまうだろう。それもまぁ、必要な期間とは思う。たぶん凹むが……。


「暇潰しに宿題でも手伝うか、な? 勝也」

「そだな。まぁ、勉強は苦手だが小学生の問題なら何とかなるだろ」


(ふっ……甘いな勝也。小学生の問題とか忘れてて解けないパターンだぞ。特に算数とかな)


 話が聞こえていたのか、何故かキッチンでマノンも勝也へ意味深な視線を向けていた。きっと俺と同じ気持ちが込められているのだろう。


「そういえば、神戸妹は明日来るんだよな?」

「体育祭でしょ? お弁当持って行くよ!」

「え? 碧が?」

「だって、外で碧達と食べるんでしょ?」

「そうなの?」

「そうだよ!」


 そうらしい。碧達というのが誰の事かは置いておくとしても……まぁ、一回教室に戻る手間が省けると思えば楽だな。


「じゃあ、お兄ちゃん救護テントの所に居るから」

「え、何で?」

「係りだからな。あ、でも一般の方には対応してないから勝手に怪我人とか連れてきちゃ駄目だぞ」

「いや、それは場合によるよ……」

「神戸妹なら……言えば救護テントから観戦出来るかもな。身内特権で」


 米良先生ならそれも許してくれるかもしれない。

 昼飯時はさすがに場所を移動するとして、空いてれば教室か……食堂は人が込み合うから、どこか人の少ない場所に行かないとな。


「他のみんなは応援席に居るから、そっちに行って良いんだぞ?」

「良いの? 行っちゃ駄目じゃないの?」

「さすがに席に座るのは駄目だと思うけど……応援席の裏とか近くなら大丈夫だ」

「じゃあ、行こうかな! お兄ちゃんの近くに居てもしゃーないし?」


 しゃーないし……あながち間違って無い。体育祭を見に来たのなら、もっと動いた方が楽しめるしな。

 案内とか、マノンに頼んだ方がいろいろ連れてって貰えるだろうし。


「しゃーないとは、また辛辣な……」

「あ、チョコの匂いがするんだけど」

「はいはい、完成までに宿題を終わらせような」


 すぐに注意が散漫してしまう年頃の碧。

 宿題ひとつ終わらせるまで、こっちも気を抜けない。

 キッチンからはたしかに甘い香りがしている。見れば、三人がいろいろと動いている。


「あっ! マノンちゃん、お兄ちゃんが見てるよ!」

「いやん」

「あまり床とか汚してくれるなよ。あと、見てないぞ」


 まぁ、見てたけど……別にそれは、マノンだけじゃない。

 のののはスマホ見てるな……とか、紅亜さんは砂糖をほぼ独占してるな……とか、ちゃんと見てた。


「ほら、向こうも作るのに集中してるから碧もな」


 また集中力が乱れている碧を机に向かわせる。

 マノンの一際デカい鼻唄をBGMに、お菓子が出来るまで時間を潰す事にしましょうかね。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)



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2020/1/11~。新作ラブコメです! 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
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