第143話 きみにはきみの、おれにはおれの
お待たせしました!
珍しく朝に投稿!(今から寝るやつ)
よろしくお願いします!
「青春……です?」
「言葉の意味なら分かる……けど?」
こんな質問をいきなり投げつけた俺が悪いのだが、二人を悩ませてしまったらしい。
「まぁ、文字を読み解くなら……青はまぁ、俺じゃん?」
「ツッコミませんよ?」
「すみませんでした……。青は青葉とかの『若い』って感じで、春は『出会い』『別れ』の季節ってイメージじゃん?」
「まぁ、そですね……。そんな感じはたしかにしますけど……」
――そんな感じがする。つまり、だいたいの人はその程度なら文字から読み取れるという訳だ。
だが……どうもそれが、自分の青春という実感が湧かない。
卒業式を青春の終わりと思う人が居るかもしれない。たしかにそうかもしれないが、別に終わりを感じたい訳ではない。
むしろ今。この二年生という時期で、いったい何が青春なのかを知りたい。知ろうとしている。
「ざっくりとしたイメージはあるけどさ、それの大半ってアニメやドラマ、小説から得た知識じゃない? 自分に当て嵌めて考えるとイマイチしっくり来ないんだよな~」
「それで私達に聞いてみた、と」
「米良先生がやたら青春、青春って言うしな」
よく考えてみれば、ここには友達の少ない俺とのののとまだ学校行事を通過していないマノンという面子だ。
答えらしい答えは出ないかもしれない。
「たしかに、小説から得た。でも、それは誰かの体験。誰かの思い。触れるくらいは出来る」
「ののの?」
「女子における、青春はおおよそひとつに集約される」
「……あぁ! はい! はい! 私は分かりましたよ! 『アオハルだぜっ!』って事ですね!」
マノンの語彙力は置いておくとしても、ののの的にはそれも正解らしく頷いていた。
アオハルだぜ……たしかに、何だか眩しい響きだ。
音に視覚情報としての眩しいがくっつくのは、普通に考えればおかしな話だ。
それでも違和感がそこまでないのは、つまり青春は眩しさを含んでいる……と言い換えられるのかもしれない。
「マノンさん、貴女にとって『アオハル』とは?」
「……そうですねぇ。難しい質問です。えぇ、とても難しい質問ですが……一言で言うなら――きゃきぇがえ……」
(大事なとこで噛みやがった!!)
「一言で言うなら――かけがえの無いもの……ですか、ね」
マノンは何事も無かったかの様に、両肘をテーブルに乗せながらそう言った。
良いこと(?)を言っている筈なのに、微妙に頭に入ってこない残念具合だ。
「そうか」
「そうか……って、この私の言葉に何か不満でもあるってんですか!?」
「い、いや……そういう事じゃなくて。案外普通の事を言うもんだから、逆に? みたいな?」
「まさかの私自身に不満がッ!? もう私じゃ……満足出来ないってんですか……」
驚いたり凹んだり、構うたびに表情が変わるマノンの一人芝居はプツンと脈絡もなく突然終わらせるのが吉。
マノンに不満なんて無い。でもそれを言うと、また調子に乗るのは見なくとも分かるというもの。だから、言わない。
言わなくとも……俺が黙れば自分の勝ちだと勝手に判断するだろうし。
「青春、人それぞれ。結局」
「まぁ……のののの言うとおりなんだろうけどさ」
結局は、結論は、結果は――人それぞれ。納得するもしないも人それぞれ。うん、間違いないな。
「その上であえて聞こう。のののにとって青春とは?」
「……追い掛ける、こと」
「追い掛ける?」
「い、言わない! 終わる、終わり!」
のののの青春のその真意は、直接教えてくれないらしい。
追い掛ける。のののが追い掛ける物、者、モノ……。
深読みし過ぎかもしれないが、のののを知った今。のののの言葉は前よりも深く読み取れる。
あぁ、たしかに。青春は人それぞれなのだろう。
マノンにはマノンの。のののにはのののの。俺には俺の。
「むふふ~、青さん青さん!」
「ん?」
「青さんにとって、青春とは?」
「そうくるか、そうくるよな。そうだなぁ……」
出会い、別れ、時間、人、場所、良い事、悪い事、喜び、哀しみ――いろいろある。いろいろあれば悩む。いや、悩める。
「今を悩める事。今を悩んで考えていくこと、それが俺の青春なんだと思う」
「おぉ~、青さんが珍しくおちゃらけていません! 意外ですね」
「意外言うな……」
「私も! 私ももう一つ思い付きました! 青さんもののさんも紅亜も勝也さんも向日葵ちゃんも、私は好きなんですよ。つまり私の青春は……好きを増やすことです!」
何だかとても恥ずかしい会話をしている気が、今更ながらにしてきた。
自分なりの青春の暴露など、恥ずかしさしかない。
よくよく考えてみれば、臆面もなく好きとか言うマノンが異常で、隠すのののが普通の反応だろう。
こんな会話をしていることがもう――。
「何だか、青春って感じですね! ね!」
……そういう事なのかもしれないな。
◇◇◇
お昼休みが終わり、体育祭の予行練習が再開された。
とは言っても、もう出る競技は無い。今日は勝ち負けの点数を付けている訳でもないから、ただ流れていく競技をボーッと見ていくだけである。
そしてもう一人、俺と同じく競技が全て前半に終わった人が救護テントに来ていた。
「神戸、暇」
「俺が暇なのはさ、良いことだと思う」
いつもの様に眠たげな顔をしたのののである。
当然の様にお昼終わりに一緒に救護テントまで戻って来ては、パイプ椅子に据わってボーッとしている。
本人が言うように暇なのだろう。その気持ちは少し分かる。
同じ組とはいえ、応援を頑張っている周囲との温度差は生まれてしまう……だからのののは、その場所に疲れてしまったんだろう。
「先輩達が舞ってるな」
「息ピッタリ」
何故か各組のリーダー達の息を合わせた舞いというか型みたいな体操が、競技になっている。
四分間の演技で、時間をオーバーしないかだとか、動きが揃っているかだとかを先生達が採点するらしい。
三年生のリーダー達が張り切っている理由の一端が、この見せ場となる演目があらからだろう。
毎年、下級生がリーダー達と写真を撮りたがるのは、ここでの格好よさが要因となっているのだろう。
放課後は練習だし、みんなに見られているし、やりたいとは思わないけど……まぁ、格好いいのは格好いい。
来年は勝也がやるのだろう……そして写真をねだられている姿をブラックと妬む。そこまで見える。というか見えた。
「まぁ、うん。人には向き不向きがあるという事で」
「誰に対して?」
「……三年生の俺に対して言ってみてる」
熱中症になる生徒も怪我をする生徒もおらず、競技が終わる度に、ちょっと周囲まで歩いては戻るというのを繰り返していた。
ずっと座っていると案外凝るものだ。
三度目の徘徊を始めたタイミングで、俺の名前を呼びながら掛けよって来る姿があった。
障害物競争でいろいろなアレが、主に男子生徒の注目の的となっていたひま後輩……もとい向日葵だ。
「青先輩、ごきげんようですわ」
「ごきげんよう。本当に機嫌が良さそうだねひま後輩?」
「向日葵です!」
「あ、学校でもそっち……あれ? でも、ひま後輩は青先輩呼びなんだよね?」
「それはそれ! これはこれ! ですわ!」
「えぇ……」
いきなり理不尽をぶつけてくる後輩である。
でも、前よりも学校に居る時の雰囲気が優しくなっている様に感じる。
なるほど……たしかにこれなら、同級生も向日葵に近付き易いだろう。
「あのですね、それよりも青先輩に聞いて欲しい事があったんですわ!」
「もしかして、昼休みのこと?」
「せ、正解です! あ、あれ? どうしてそれを……」
「少し見えたからな。良かったな、向日葵」
「はい! 少し勇気を出してみたら……あぁ、いえ、なけなしの勇気でしたが、持っている分でも何とか足りたみたいです」
苦笑い気味に、謙遜気味に言ってはいるが、ずいぶん頑張ったらしい。
ここぞという時に、自分で一歩を踏み出すのは意外と難しいと聞く。受け身になりがちな人が、自分から動くのは大変なことだ。
世の中には、ここぞって時に一歩を踏み出せる人間と踏み出せない人間がいる。
「凄いな、向日葵は」
「頑張れたのは青先輩のお陰です。では……はい」
ずいっ……と頭を寄せてくる向日葵。
向日葵が言うには俺のお陰。そんな事は無いと思うが、俺のお陰ならばこの要求は正解なのか逆に聞きたい。
「……向日葵?」
「さぁ、さぁ、先輩の喜びは後輩の頭を撫でることですわ」
「なにそれどこ情報なんよ……」
「もちろん、私ですわ。さぁ!」
物凄い圧。
頭が撫でろと言っているぐらいに頭を寄せてくる。
「はい、では心して。……頑張りました、頑張りました」
「うふふ、頑張りましたわ」
みんなが競技を見ているのを確かめてから、頭に手を乗せてあげる。
これで満足してくれてる……みたいだから良しとしようか。
「そう言えば向日葵は、部活動リレーに出るの?」
「いえ、三年生と二年生で人数が足りるらしいので、私は遠慮しましたわ……あ、もうちょっと満遍なくで!」
「はいはい。でも、競技が終わりそうだからもう少しだけだぞ」
もう少しだけ言われるがままに撫でていたら、どうやら満足度がボーダーラインに達してくれたらしい。
競技が終わるとほぼ同時に、向日葵は足取り軽く応援席の方へと戻って行った。
俺もテントに戻ろうと方向転換をするやいなや……ジッと見ているのののとバッチリ目が合った。
『はよ、戻ってきなさい』――そう目が訴えていた。
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……アオハルだぜっ!




