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第140話 真面目に甘える


お待たせしました!

よろしくお願いします!٩(๑'﹏')و


やばっ……もう140話(実質138話)ですね。

10話前くらいに、もうそろそろ終わるだろうなぁ~と思ってはいたんですけどねぇ(白々しい顔)

1話あたり3000字は越えてますから……ひぇぇですね!



 


 ――ここまで珈琲が飲みづらいと思ったことが、果たして今まであっただろうか?


「…………(ゴクゴク)」

「…………(ニコニコ)」


 向日葵が然り気無く、隣へと移動して来た。それについては別に、問題という問題は無い。

 だが、隣に来てからどんどん会話は減っていき、今もこうして沈黙の状況になっている。

 それなのに、向日葵の顔は沈黙してる状態とは思えない笑顔。とても楽しそうな顔で……それがまた、何となく気まずくて、珈琲の味がよく分からなくなってきている。


「……飲み終わったら、帰ろうかね」

「マスター、青さんがアイスコーヒーのお代わりだそうです!」

「今日はずいぶんと長居だけど、大丈夫なのかい?」


 時計を見れば、もう七時前になっていた。

 マスターが注いでくれているお代わり珈琲、それを飲むくらいの余裕はある。ただし、あと一杯くらいが限界だろうけど。


「今日は家に連絡してあるので」

「まぁ、うちはゆっくりしていって貰って構わないのだが……。それはそうと、向日葵ちゃんはいったいどうしたんだい?」

「どうもしてませんよ?」


 本人がそう言い切っていても、他の人から見れば向日葵の違和感は分かるものらしい。

 学校でもこれぐらい表情豊かであるのなら、間違いなく今より人気者になれるだろう。

 だがこの向日葵、学校に行けば無意識の内にキリッとして過ごしている。

 それは、もしかするとマスターも知らない事情だろう。

 その事を知っているのが俺だけなら、俺くらいは自由にさせてあげないと。


「そうかい? うーん……なんだか年頃の女の子って感じがするんだがなぁ」

「私だって一応、年頃なのですけど?」


 マスターが一瞬だけ、『しまった!!』という感情を隠す笑みを浮かべた。

 でも、マスターの言い分も分からないではない。どうしてもここで働く向日葵は、華の女子高生という雰囲気は無いからだ。

 こうして同じ学校の人と横に並んで座っている姿が、マスターにはちょっと珍しく感じたのだろう。

 ……いつもは正面に座っていたから尚更に。


「まぁ、ほら……向日葵はしっかりしてるからねぇ。マスターの気持ちも分からなくは無い」

「もっと、褒めても良いですよ?」

「はいはい。良い子良い……」


 自分の手を向日葵の頭の方へ寄せたところで、慌てて引っ込める。

 むやみやたらに女子の髪を触る男はあまり良くないとか、聞いた記憶を思い出した。もちろん、情報源は碧である。


「あっ……」

「おい、そんな頭を撫でられたかったみたいな反応をするんじゃないよ。撫でちゃうだろ?」

「じゃあ、もっとそんな雰囲気を出します! ……って、どうすれば良いんでしょうか?」

「真面目なのか、甘えん坊なのか……。長女で後輩だと変な部分がミックスされるのな」


 元々真面目でしっかり者の向日葵と、甘えるという事が緩和された後輩向日葵のハイブリッド――つまり、ハイブリッドサンフラワー。

 別々の向日葵が、一つになり『真面目に甘える』という新たな向日葵として誕生したということだ。

 意味はよく分からないが、そういう事なのだろう。


「まぁ……青君が見ていてくれるなら、問題は無いんだろうね」


 マスターが去った後も、向日葵は一人甘え方について思考を巡らせていた。

 おそらく今日中には出ないであろうその答えを、俺は知っている。何故なら、我が家に対神戸青の甘えスペシャリストが居るからだ。


(まぁ、向日葵にああはなって欲しくないから、出来れば別のやり方を見付けて欲しいかな)


 仮に家に向日葵を招待する事になったとして、その時の碧の反応が何となく予想出来るのが面白くて、笑いそうになった。


「……んー、どうも分かりません。妹と弟もしっかりした子達ですから真似しようも無いですし」

「じゃあ、その下の子達にどう甘えられたいかを考えてみたら?」

「なるほど! それは盲点でした。では、失礼しますね?」

「えっ?」


 ギュッ。ギュッ、ギュッ。ギュ~~~ッ!!


 なされるがままに、なされた。

 シンプルなハグに始まり、腹部から背中に手を回してみたり、勝手に膝に頭を乗せてみたり。

 向日葵はどうやら、一度行動し始めたらわりと遠慮の無いタイプらしい。

 向日葵が弟達にハグされたいのはよく分かったが……それはやっぱり、家族愛の話で先輩に対する甘えじゃない気がしてくる。やってみたらと言ったのは、俺なんだけど。


「これは……うん。違うんじゃない?」

「……いえ、これはこれでアリでした」

「アリなのかよ! 実は何でもアリだったりしてない? 向日葵の判定って実はかなりユルいんじゃない!?」

「……ハッキリ言いましょう。私がしたい事を青さんが全て許してくれれば悩む必要が無いと思っています」


 ……どうやら、向日葵なりの答えは出たみたいだ。

 俺は「もはやそれ、後輩的な甘え方という概念から離れてない?」という言葉を口から出さずに、ソッと飲み込んだ。


「……ソウダナ」

「です!」


 代わりに出た言葉は、何の変哲も無い肯定の意味を含めた相槌の言葉だけだった。



 ◇◇


 アイスコーヒーを更に追加されない為に、最後の二、三口分を一気に飲み干した。


「じゃあ、今日は帰ろうかな」

「む、私の珈琲が飲めないって言うんですか?」

「いや、飲んでたのマスターの珈琲だしな」


 飲みの席での面倒臭い上司みたいな事を言い出した向日葵。

 だが、時間的にもそろそろ……という感じになっている。


「向日葵ちゃん、向日葵ちゃん。青くんに送って行って貰ったら良いんじゃない? 今日はもう大丈夫だからね」

「本当ですか!? 青さん、青先輩! 早く帰りましょう!! ……あぁ、私が準備して来ないとでしたっ」


 ガタッと席を立って、そのまま俺の分のコップまで持って店の奥へと消えていった。

 微笑ましすぎの慌てっぷりに、マスターも微笑みを浮かべていた。


「おそらく食器を洗ってると思うから、もう少し待ってあげてね」

「えぇ、はい。じゃあ、お会計だけ先に……」


 アイスコーヒー三杯分。内訳、俺二杯と向日葵一杯。そのお会計をして店の入口付近で向日葵を待った。

 ――会計から待つこと五分。制服姿に戻った向日葵が戻って来た。

 ツインドリルヘアーで制服がいつもの向日葵が、同じ制服姿でも髪型が違うだけで、何だか別人に見えてくる。


「さ、青さん。ゆっくり帰りましょう」

「もう夜だから急いで帰るよ。じゃあ、マスターまた来ます」

「マスター、お疲れ様でした」

「はいよ。気を付けてね」


 喫茶店を出て、一先ず大通りの方へと歩き出す。


「そう言えば向日葵って家近いの? それとも電車?」

「近いですよ。近い方が長く働けると思いまして、バイトはこの辺りで探していたんですよね」

「なるほど……それであの日、ここで会った訳なのな」

「運命的ですよね!!」

「ノーコメントで」


 向日葵について行く感じで、隣を歩いて家まで送っていく。

 向日葵曰く、家はオンボロアパートらしい。それを聞いて提案した『途中までにしようか?』という俺の考えは、案外あっさりと却下された。


「気にしないで大丈夫ですよ。私も気にしません」


 ――と、いう事らしい。

 歩くことおよそ十分。住宅街に入ったくらいの場所に目的地のアパートが建っていた。

 たしかに向日葵の言う通り、築何十年も経っていそうなアパートだった。


「ありがとうございました、青さん」

「こちらこそ、ありがとう向日葵」

「はい……その、もう一回だけ……良いですか?」

「ん? ……まぁ、良いよ?」


 何が……とは聞かずに了承を出す。そういう話に纏まったから。


「では、失礼して……」


 ギュ~~~~~~~~~~ッ!!


「今日イチの長さですネ……」

「あと、五秒は充電が必要そうです」

「誰か通ったら、物凄く気まずいものがあるな」

「困るのは青さんの方なので、問題なしです!」

「……なんか、アパートの二階に居る子と目が合ってる気がするんだが?」

「それは……マズイですよッ!?」


 向日葵がバッと勢いよく離れたと思ったら、すぐにアパートの方を振り返る。

 そこにいる二人の小学生らしき男の子と女の子。おそらくだが……向日葵の妹弟達だろう。

 手を振ってみれば、ちゃんと振り返してくれる良い子達だ。


「あれだな……恥ずかしいからハグは今後なるべく禁止の方向で」

「うぅ……仕方ありませんか……。では、またギリギリを探したいと思います」

「いや、あれだよな? 後輩的な意味でだよな?」

「もちろんですよ。後輩的に……ふふっ」


 悪巧みを考えているかの様に口角を上げて笑顔を作っていた。

 そしてそのまま、向日葵はアパートの方へ一歩、二歩と下がって行く。


「じゃあ、また明日」

「はい。また明日」


 俺に背を向け歩き出したのを確認して、俺も向日葵に背中を向けて歩き出した。


 ――なお、家に着いたのが八時頃。流石に遅すぎると怒られたが、それはまぁ……仕方ない事だと黙って受け入れた。

 宿題がある訳じゃないし、今日はもう……早めに寝てしまおうかな。





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