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第137話 放課後の準備



お待たせしました!

よろしくお願いします!


※前話の最後に生徒会室へ向かった的な事を書いてましたが、保健室への間違いです。失礼しましたm(__)m

 

 放課後に職員室や保健室のある棟に来る生徒は少なく、教室棟を抜ければ生徒でごった返す波に巻き込まれる心配は無かった。

 到着した保健室。ドアは開け放たれており、中に先生が居るのは廊下からでも分かった。


「米良先生、失礼します」

「あらぁ、神戸君。それと谷園さんねぇ~。待ってたわよぉ~」


 米良先生に挨拶して、保健室の中へと入っていく。マノンもペコっと軽くお辞儀をしてついて来る。

 そう言えば……と、前にマノンと勝也とで保健室に来た際は米良先生はタイミング悪く居なかった事を思い出した。

 ちょっと前の体育祭練習の時に、話しをしているから特に問題は無いだろう。マノンのフランクさなら仮に初対面であっても、心配は無用だと思うけど。


「もう少しで準備出来るから、座って待っててねぇ」

「あ、はい……手伝いましょうか?」

「ううん。大丈夫よぉ」


 何の準備かは分からないけど、大丈夫らしいので座って待つ事にした。

 マノンは保健室の中を見渡している。そして、『ある物』目掛けて歩き始めた。

 その『ある物』を目の前に、深呼吸を二回して集中力を高めている。凄い気合いだった。

 踏み出すのを少し躊躇っている様子にも見えたが……ようやく意を決したのか、その『ある物』に両足を乗せた。


「う、うそ……。嘘です!! こんなの嘘に決まってますっ!!」


 そんな台詞を吐いて、すぐに『ある物』――そう、体重計から降りていた。

 お腹や二の腕を摘まみながら戻って来るマノンに、掛ける言葉が見付からない。言葉を必死に探すもロクなのが思い付かない。

 パッと見だと変かが無い様に思えるが、体重計は嘘を表示しない。どこまでも現実を突き付けてくれる。


「はぁ……あ~~~~!! はぁ……」

「……まぁ、何て言うの? その…………もういっそ、お菓子食うか?」

「それですよっ!! 絶対に青さんのせいで太った!! 絶対に青さんのせいで太ったんですっ!」


 分かる。誰かのせいにしたくなるよね、受け入れがたい現実って――そういう視線をマノンへ向けた。あえて何も言わない。

 そんな視線を送れば、当然としてマノンはムキになって怒ってくる。だからここで、軽く方向性を変えてあげれば良いのだ。


「今ので少しは燃焼できたんじゃない? まぁ、今のやり方は良くないけど……シェイプアップは手伝うよ」

「はっ!! た、たしかに……なんてなるとお思いです?」

「えっ……あ、あれ? マノンさん? お怒りですか……?」

「こっちは太らされているんですよ!? 女の子の怒りが収まる訳ないんです! ギギギィ~」


 マノンは扱いやすい、と油断していたのが裏目に出てしまった。

 お怒りは収まらず、シャドーボクシングでアップを始めたマノン。そして俺の右肩、右腕が次々に拳の標的になって殴られていく。痛くは無い。


「あらあらぁ、仲が良いのねぇ~」


 白衣を脱いで、セーターにタイトな黒のミニスカート。そして黒のストッキング。何故かさっきまでは掛けていなかった眼鏡を掛けてお色気三割増しの姿の米良先生が居た。

 準備をしていた筈の米良先生なのだが……手にビニール袋を持っているだけ。どんな準備をしていたのか、一見しただけでは分からない感じだ。

 それでも、何も解決していないマノン件も米良先生のお陰で、一件落着にしておける雰囲気になった。


「先生、青さんが私のお腹をポッコリさせた件について認知してくれません!」


 ――なってなかった。そう思ったのは俺だけで、むしろ始まった感まである。というか、酷くなっていた。


「何その語弊が生まれそうな言い方!?」

「大丈夫よぉ~。男なんて、責任感を持たせてぇ~自尊心をくすぐってあげればぁ~、すぐに印鑑ポンって押すからチョロいのよぉ~」

「誰も彼もがそんな訳じゃ無いですよ!?」


 マノンがメモを取る素振りをしている。すぐにでも破棄させないと……回り回って碧にまで変な影響が行きかねない。

 碧には真っ直ぐ育って貰いたいと願うのが兄心。米良先生みたいになるのは、まだちょっと早過ぎだな。


「神戸君、谷園さん。お話はそこそこに、そろそろ行きますよぉ~?」

「あ、何か持っていく物とかは無いんですか?」

「必要な道具は本番に……明日もとりあえず運ぶけど、大丈夫よぉ。神戸君は明日の移動時間になったら、保健室に来てちょうだいねぇ?」

「それは……はい。分かりました」


 という事らしく、鞄だけは置かせて貰い保健室を出た。

 養護教諭としてのアイデンティティーを脱ぎ捨て、セクシー教師路線の格好なのかは謎のままだが、マノンも気にしている様子はなく、むしろ懐き始めている為そのまま謎にしておくことにした。


 ◇◇


 グラウンドまでやって来ると、既に運動部達が準備を始めていた。

 男子達はテントの部品を運んだり、サッカー部のゴールネットを別の場所へと運んでいた。

 女子の運動部はそれよりも軽い物の運搬。三角コーンや各種競技で使う小道具を運んでいた。

 天気予報では明日も明後日も運良く晴れの予報。外に出してオッケーとの指示が出たのだろう。


「テントは運動部の子達が設営してくれるからぁ~、神戸君と谷園さんは~、椅子と長机の準備をお願い出来るかしらぁ?」

「あの……ポンと置かれてあるやつですか?」

「そうよぉ~。とりあえず立てといて……長机は横に二つ並べて、パイプ椅子はあるだけ作っといて貰えるかしらぁ?」

「分かりました。マノン、行こう」

「ガッテンですよ!」


 グラウンドの北西。去年と同じで、放送席や来賓の方々が座る場所として予定されている所から左の端に救護テントが設置されるみたいだ。

 さっそく、グラウンドを突っ切ってその場所へ向かう。

 そして、着いて五分――作業が終わり、やる事が無くなった。


「二人居てこの作業量だな」

「ですねぇ」

「当日はクーラーボックスとか、薬とか絆創膏とか運ぶんだろうけど……キツくは無さそうだ」

「良いことじゃないです?」

「あぁ、良いことだな。出来ればみんなには怪我をして欲しくない……そう一番願ってるのは俺かもしれないぞ」

「サボりたいからですか?」

「そうとも言う」


 米良先生が居ない事には勝手に何かをする訳にもいかず――しようとは思っていないが――並べた椅子に座って、マノンと話ながら待っていた。


「おっ、珍しいじゃん?」

「あ、勝也」

「勝也さんです! サボりです?」

「いや、これでも働いてんだわ」


 勝也もバスケ部、つまり運動部。野球部サッカー部陸上部の外の競技の人達が駆り出されてると思っていたが、そうでも無いらしい。

 勝也から話を聞けば、メインの仕事を振り分けられているのは外の運動部。勝也みたいに室内の運動部は、女子と同じ小道具の運搬……その中でも重たい綱引きの縄とかを運ぶ作業をしているらしい。

 そんな時に、遠目で作業している俺達を見付けてわざわざ来てくれたみたいだ。


「青はだいたい分かるけど……谷園さんは? なんで?」

「一言は表せない、とっても深い事情がぁ……」

「マノンも暇らしい。まぁ、米良先生が戻って来ないから結局は俺も暇何だけどな」

「こっちも、そんなに人要る? ってくらい手伝いが居るからなぁ~、実際暇なんだわ」

「ほーん。じゃあ、勝也もちょっと座っていきなよ。椅子ならあるぞ! お茶とかは無いけど」


 勝也を入れて三人。会話の幅もテンポも良くなった。

 勝也の言うとおり、グラウンドを行き来している生徒は思ったより多いみたいで、特に一年生らしき子達は張り切って作業をしていた。


「円城寺先輩! 保健室のテント立てても良いっすか?」

「おっ、山下はそっちの手伝いに振られたのな。分かった、今どく」


 勝也の後輩? らしき子とその他複数名がテントを立てに来てくれた。同じ部活か知り合いなのかは、その一年生が体操服姿だから判断が難しい。

 勝也が離れた場所に俺とマノンも避難して、その一年生達が組み立てていくさまを見ていた。

 先輩として手伝えれば格好良いのかもしれないが、その一年生達は難なくスムーズに組み立てていく。手順を知らない俺が入るのは、逆に迷惑になりそうなくらいに早い。

 もしかしたら、既に幾つか完成しているテントの内、この子達が組み立てたテントがあって、だから、テント作りの作業がスムーズなのもしれないな。


「山下、お疲れー」

「うっす。円城寺先輩はこの後どうするんすか?」

「そだなー、ボチボチ時間が来たら帰る。お前も無茶して怪我すんなよー」

「うっす。じゃあ、俺いきますね!」


 山下君とその他のお陰で、日陰が出来た。

 さっそく、机の位置を微調整して休憩の続きを再開させた。


「青さん。米良先生、どこに行ってるんでしょうね?」

「さぁ……と、言ってるそばからじゃない? ほら、あっちの方」

「あれは間違いなく米良先生だが……。あれ、眼鏡にセーター? ……何か三割増しくらいでセクシーじゃね?」


 さすが勝也。そこを分かってくれると信じていた。

 遠くからゆっくりと歩いて来ている姿は、男子生徒が振り向き、目で追い掛け、数人は誰かとぶつかるレベルで色香を振り撒いていた。


「そろそろ不健全図書……というか不健全人間認定されてもおかしくないな」

「まったくだな」

「青さんも勝也さんも……というか男子はみんな米良先生が好きなんですね」


 抑揚の無いマノンの声に、心では肯定しても表面では完全に否定をしてみせた。


「お待たせぇ。円城寺君も遊びに来てたのねぇ~」

「まぁ、人が足りてるみたいなんで」

「そう。でも、ちょうど良かったわぁ~」


 机の上に、保健室を出る時から持っていたビニール袋を置いて、米良先生はいつもの様に柔和な笑顔をしながら空いている椅子に座った。


「体育祭で一番多い怪我は擦り傷なのよぉ。捻挫もあるけどぉ、やっぱり転んだ時の擦り傷なのねぇ。だから神戸君には処置の流れとか覚えて欲しいと考えてたの~」

「そう、なんですね?」

「ちょうど男女の怪我人役も居るからぁ~、練習しておきましょう? 当日に混乱したら大変でしょう?」

「たしかに」


 それで勝也が居たのをちょうど良いと言ったのか。

 怪我人がいつも一人ずつ来るとは限らないし、騎馬戦とかだと複数が怪我する事も十分にあり得る事だ。

 先生のサポートとして、すぐ対応出来る様にはしておかないと本当に役立たずなだけで終わってしまう。

 処置は出来るけどやらない状況――というのが、一番理想なのかもしれない。


「ごめん。マノン、勝也、少し手伝って欲しい」

「もちろん良いですよ!」

「あぁ、俺も大丈夫だ」


 とりあえず、米良先生の言った通りに動くことを意識して、やってみますかね。





誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


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