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第136話 何でもとは言ってない


すいません、なんか頭痛が痛いので短めで……

昨日の漫喫でめちゃ咳してる人居たから、その人にうつされたかも……


とりあえずお待たせしました!

よろしくお願いします!


※最後の方、生徒会室に向かうと書いてありましたが、保健室です。うっかりです。訂正しました。

 


「そーいえば、もうすぐ体育祭ですねぇ」


 マノンの一言で、もう明後日に迫っている事を思い出した。

 明日の金曜日は通しの練習という予定になっている。つまり、実際と同じように行進したり、本気ではやらないだろうけど走ったりだ。


「そうだな、マノンもひま後輩も初めてだろ?」

「はい! やっぱりイベント事は盛り上がりますね!」

「私はあまり運動は得意じゃないので……」

「向日葵ちゃん! 楽しみ方は人それぞれですよ!」


 マノンが先輩らしいことをしている事に驚きと、少しの嫉妬があった。

 でも、たしかにマノンの言った通りかもしれない。楽しみ方は人それぞれ――俺は保健係として体育祭を傍観している時間が多いだろうけど、そこでの楽しみもきっと何かあるだろう。

 米良先生とか米良先生とか米良先生とか……。


「ん? メールだ……」


 ポケットが震え、スマホを取り出すと麗奈さんからメールが届いていた。


「どうしたんです?」

「あ、うん。麗奈さん……生徒会長が明日の準備を放課後にするらしく、人手を欲しがってて」


 生徒会の人達は勿論、それ以外にも運動部の連中も手伝いをするらしい。それでも、人が多いに越したことは無い――要約すると、そんな感じのメールだ。

 麗奈さんの頼みを断る俺じゃないが……。


「ほうほう。青さん、私は暇ですよ!」

「それは助かる。えっと……だから、ひま後輩。すまんが今日も放課後は……」


 心残りは、ひま後輩との時間が削られる事だ。遅れて喫茶店に行くとしても、そこで話せる時間は短くなるだろう。


「うぐぐ……」

「ど、どうしたんです? 向日葵ちゃん?」

「いえ……私の中でも葛藤がいろいろと」


 難しい顔をするひま後輩。さしずめ、バイトがあるから手伝えないという感じだろうか。

 優しいひま後輩らしいけど、こういうのは暇な俺やマノンみたいな人間が手伝えば良いのだ。ひま後輩は暇じゃないからな。

 なら……あまり嘘を吐くのは良くないけど、ここは帰りが遅くなると家に伝えて、少しでも喫茶店に長く居れる様にするくらいはするべきだろう。


「マノン、ちょっとお水を注いで来て欲しい」

「……はいはい。もう、本当に仕方ないですねぇ」

「助かる」


 頼んだ事のお礼に助かるはおかしいかもしれないけど……マノンにはそれで良い。それで伝わる。それが『スーパーウルトラハイパーデラックスマノン(あらため)』だ。


「青さん……すいません、お手伝いしたいんですけど」

「気持ちだけで大丈夫だぞ。麗奈さんの頼みは断らない様にしてるから手伝いに行くけど、後でちゃんと喫茶店にも行くから」

「それも、それもですけど……学年も違いますし……一緒に居られる時間は少しでもと……でも、バイトしないとぉ~」


 少し俯いて、そこに見える顔は究極の二択に悩んだ雰囲気を纏っていた。


「彼氏役もあんまり上手く出来てないな。ゴメンよ、ひま後輩」

「いえ! そんな!」

「何かして欲しい事があったら、遠慮なくね」

「でしたら……その……」


 ひま後輩が何かを言いそうだったその瞬間、顔の横を何かが通過した。


「はい!! お水ですケド!」


 横を見ればマノンの腕がにょきっと伸びていた。振り向けば、笑顔のマノン。手の先には水の入ってない空っぽのコップ。


「水……」

「うっかりマノンちゃんが出ちゃいました、てへっ!」

「いや、良いんだけど……狙った?」

「ナンノコトデスカー。それで! 青さん、何でも願いを聞いてくれるとかなんとか言ってましたよね!? ね!!」


 言ってない。『何でも』なんて特に言ってないのだが、マノンの目がもう「言ったと、言え」と言っている。

 席に座り直したマノンが、勝手に話を進めていく。そのパワフルさに、ひま後輩が引き気味だ。


「やりましたね。向日葵ちゃん! 青さんが何でもしてくれるって言ってますよ!!」

「そ、そうですわね……って、あれ? マノン先輩、ミサンガなんかしてましたっけ?」

「あっ、これですかっ? これはですね……むふふ、秘密ですよ!」

「なるほど、青先輩から貰ったのですね?」


 一発で見抜かれているマノン。その驚いた顔が本気なのかわざとなのか、判断が微妙に難しい。


「ど、どうして分かったんです!?」

「いえ、マノン先輩の知り合いと私の知り合いの中で共通なのが青先輩しか居ませんので……勘というか、選択肢がそれしか無かったというかですね」


(マノンがバツの悪そうな顔をしている……これはこれで珍しいものを見たぞ)


 俺にフォローをしろという視線を寄越してくるが、残念な事に俺も友達は少ない。俺が何か言っても傷の舐め合いにしかならず、マノンが何か言っても嫌みになる。


「誰も救われねぇ……沈黙は金、沈黙は金」

「あの、あのですよ、向日葵ちゃん。向日葵ちゃんは素敵ですから、きっとこれから友達沢山できるのですよ?」

「え? あ、えぇ……はい?」


 全くピンと来てないのはひま後輩だけ……それが唯一の救いだったのかもしれない。

 そうこう話している間は、時間の流れも早く感じる。昼御飯も既に食べ終わり、食休みしていた時間もそろそろ終わりだ。

 最終的な会話の着地点は、俺が何かをする――という曖昧な誓約をさせられて、その場は解散となった。


 ◇◇


 昼休みが終わり、五時間目、六時間目、七時間目が終わって、桜先生による、簡単なホームルームがいつもの流れなのだが、体育祭が近いという理由もあってか、今日は少し長めになっていた。


「――という事で、前日に怪我するとか無いように。体調管理もですよ!」


 そんな風に……みんなに対して注意を促しながらも、きっちりと明日提出の宿題を配っている。

 一様にテンションが低めなのは、その理由が大きいだろう。


「はい、じゃあ……配る物も配ったし、終わりです。帰ってよし!」


 その一言はいつも通り。運動部は明日からの為に設営の手伝いに行き、文化部や帰宅部は帰ったり残ったりしていた。

 麗奈さんとの軽いやり取りで、俺とマノンはこれから保健室へと行く事になっている。

 俺が保健係というのを把握していた麗奈さんによる指示だ。後は米良先生の指示に従えば良いという指示を受けたが……つまりこれは、麗奈さんからの誘いを断ってても普通に先生から呼び出される規定路線だったのかもしれない。

 マノンという手伝い……俺にとってプラスになるのは、それだけみたいだ。


「神戸、しっかり働く」

「のののも背負った鞄を机に戻して、手伝ってくれて良いんだぞ?」

「肉体労働はしない主義」

「頭脳派だからか?」

「頭脳派だから」


 むふふ、と笑って帰っていくのののを見送って、まだ準備が終わってないマノンを待った。


「ふぃ~、今日の宿題も面倒臭そうですねぇ」

「頭脳派では無いとして、肉体派……でも無さそうだよな、マノンって」


 汗なんて掻いていないだろうに、額の汗を(ぬぐ)うポーズをしながら現れたマノンに、そんな事をつい言ってしまった。


「いやそれ、青さんにだけは言われたく無いんですけど……」

「マジトーンはやめてくれよ……本当(マジ)っぽいじゃん」

「マジですし?」

「マジかよ」


 たしかによくよく考えずとも、帰宅部で成績はマノンと然程(さほど)変わらないとなれば、頭脳派でも肉体派でも無いかもしれない。

 マノンはコミュニケーション能力が高いから総合点では負けてる可能性まである。


「まぁ……あまり疲れる作業じゃない事を願いながら行きますか」

「そですね。鞄はどうします?」

「とりあえず鞄を持って保健室に行くぞ。鞄もそこに置かせて貰えば良いしな」

「なるほど! じゃ、行きましょ青さん!」


 教室を出た俺とマノンは、真っ直ぐ保健室へと向かった。






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