第133話 メモリー
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
デザートも食べ終わり、少し落ち着く時間になっていた。
のののは、ぽーっとしている。なななさんも同様にだ。そして俺も、出されたお茶をチミチミと飲んでいるだけである。
「青ちゃん」
そんな時間に終止符を打ったのは、なななさんの呼び掛けだった。
「あ、はい……何でしょうか?」
「青ちゃん、堅苦しいのはやめにしましょ?」
「えっ……あ、えっと……それはどういう事ですか?」
「話し方よ。もっといつも通りで話して」
いつも通りと言われても、大人を相手にする時は多少の堅苦しさなんて普通だと思う。
なななさんも、のののと一緒で省略しながら話すタイプだ。だから堅苦しいにも、何か別の意味も含んでいるのだろう。それはきっと、今日呼ばれた理由に繋がるものだと思うのだが……。
「それはその、徐々に――という事で、どうでしょう?」
「ううん。今からよ」
「思ったより意思が強い!?」
「そうそう。青ちゃん、そういうので良いからね?」
うんうんと頷くなななさんだが、思ったより言った後に恥ずかしさがやって来て、俺は目を別の場所へと逸らした。
「ちょっと待っててね」
そう言ったなななさんは、徐に立ち上がって席を外した。
数分も経たない内に戻って来たその手には、長方形のそれほど厚くない箱を持っていた。
「お待たせ。はい、青ちゃん」
「えっと……これは?」
箱を渡されたが、思ったよりもずっしりとした感覚があった。だからそのまま開くことはせずに、一旦、テーブルの上に置かせてもらった。
視線をなななさんに向けると、ただ見つめ返されるだけ。渡されたのが答えでもあるのだろうけど……。
「開けますよ?」
一言だけ口にして、箱の蓋を取った。中にあったのは一冊の本。
(いや……アルバムか?)
サイズからそう予測して裏側に置いてあったそれを取ってみると、やはり正解だったらしい。表紙には英語表記で『MEMORY』の文字があった。
表紙を開き、一枚目。そこにはのののとなななさんの二人で撮った写真が貼られてあった。家の中で撮られた写真なのは分かるが、いつの頃なのかはちょっと分かりづらい。けど、写真と今とを見比べてみる限り……今よりも少し前ぐらいだろう。
「最近のですよね?」
「やだ、青ちゃんったら……それは三年も前の写真よ」
「えッッ!?」
「なんで驚く?」
あまりこの話題を広げてはいけないと、俺の第六感が危険を教えてくれた。
なななさんは喜ぶのかもしれないが、のののからすると成長してないと言われている様なもの。そういうのに敏感に反応して怒るからな、のののは。
次のページを捲ると、小学校の入学式の写真や小さい頃の写真が貼られてあった。
パッと見じゃその事を流してしまいそうだが……これ全て、なななさんの写真なのだ。
のののによく似ているが、よく見ればその違いは幾つかの部分で分かる。主に写真の粗さとかだけど。
また次を捲る。そして、また捲る。
途中から無言になって、アルバムの中を……なななさんの思い出を、ただ覗き見ていく。
「そこからよ。青ちゃん」
あからさまに俺の手が止まったのを見て、なななさんはそう言った。
その写真は、とある大学の前で撮られた写真。ななさんが居て、そんなななさんに寄り添う女性が居て、その隣に双子らしき人物が並んでいる。
「うちの両親と……ななさん……と、だから、この人が……」
「うん。翼君……青ちゃんの叔父さん」
若い頃の四人。二十年近く前の写真。今じゃ、すっかり歳も取っている。
止まった手をまた動かして、捲る。大学の頃の写真が今までで一番多かった。それだけなななさんにとっても楽しかった頃という事なのだろう。
春は花見をし、夏は海水浴やバーベキュー、秋は文化祭なんかがあって、冬はクリスマスパーティーをしている。どの季節もどの写真でも四人は笑っていた。
そして卒業式の写真を最後に、その次のページはもう……のののと二人っきりの写真になっていた。
笑っている様で笑っていないななさんと、笑ってない様で笑っているののの。なんとなく俺はそこで手を止めて、アルバムをソッと閉じた。
「ありがとうございました」
「……うん」
そこでまた沈黙の時間。静かで少し重たい空気が流れている。
俺はアルバムを箱に入れた時に、ハッと思い出してスマホを取り出した。これは見せておかないと……と思っていた写真だ。
「昨日撮った写真ですが……妹です。名前は碧って言います。碧玉とかに使われる漢字で碧です」
「そう……碧ちゃん。明るそうで、可愛い子ね。お母さん似なのね」
渡したスマホの画面を見ている筈なのに、なななさんのその表情は、どこか遠くに想いを馳せている感じがした。
「ありがとう青ちゃん。紹介してくれて」
「今はまだ恥ずかしがっているみたいなんで……いつか連れて来ますよ」
「うん……そうだ。青ちゃんに書いて欲しい物があるんだけど」
なななさんが、どこからともなく一枚の紙を取り出した。
ただ、よく見てみると何かの紙の上に白い紙を重ねてきた。その上の白い紙の方は、所々が丁寧に切り取られていて……それで二枚重ねだと気付くことができた。
「これって……何ですか?」
「大丈夫よ。ここに名前を書いて貰うだけでいいから」
重要な書類にありがちな、名前の上にフリガナと書かれてある紙だ。その枠線は書類にしては珍しい茶色をしていた。
何だか、緑色の紙を一緒に連想してしまう色味をしている。
「ななさん?」
「なぁに、旦那ちゃん?」
同じ呼ばれた筈なのに、何故だか違和感を感じる。
それに、ただ名前を書いて欲しいというのも怪しい。
「この白い紙の方……取っても良いですよね?」
「駄目よ?」
「婚姻届だとバレちゃうからですか?」
「バレちゃうからよ?」
「今バレましたよッ!? もしかしなくても叔母から姑になろうとしてますよね!?」
なななさんに動揺した感じではなく、ただイタズラがバレた子供の様に笑った。
バレる事を前提とした……とても分かりにくい冗談。もしくは悪ふざけだったのだろう。もしあのまま名前を書いていたら、そのままドッキリと言わずに流していたのかと思うと、なななさんの冗談はとても心臓に良くない。
「違うのよ? だって……婚姻届を出す前だったから……青ちゃんにとって私は、叔母であって良いのか……って」
「いや……その言い方は、なんか……ズルくないですか?」
「だから、いっそ妻になろうかと」
「……はい?」
なななさんが重ねていた白い紙を剥がすと、やはり婚姻届だった。別にもう、そこには驚かないが、妻の名前を書く場所を見てみると――たしかに『巳良乃なな』と書かれてあった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
「うふふ。もちろん冗談よ? 青ちゃんったら……面白いのね」
「お母さん、また冗談のレベルが高くなった」
「ありがとう、のの。やっぱりユーモアは大切よ」
冗談には冗談なりの声のトーンがあると言うことを、誰かこの親子に教えなえればいけない。
あと、本当に冗談への力の入れ方が凄すぎるのも良くないと早く教えた方が良い。心臓に……とても心臓に悪いから。
「なんか、アルバムからの温度差で……どっと疲れた……」
「でも……青ちゃんが、ね?」
「はい?」
「私を叔母と思ってくれてるって知れたから……意味のある冗談だったわ」
たしかに、最初はのののの名前が書いてあると思ったから、思わず叔母から姑に……なんて事を口にした。
何だか行き当たりばったりなのか、全て計算しての行動なのか、この親子に限っては本当に分かりにくい。迷惑らしい迷惑は無いが、毎回の様に精神的に負けた気になってしまうのが難点だ。俺にとっては、だが。
「だがらもう、アルバムはもう片付けてくるわ」
「まさかそれすらも俺から一言引き出す為に……?」
「うふふ」
頭が良くて、頭の回転も速い人は恐ろしいと身をもって体感した瞬間だった。
「神戸、ちょっと来る」
なななさんがリビングを出てからすぐにのののがそう言った。
連続では流石に騙されないと思う時点で、きっともう術中に嵌まっているのかもしれない。
不信がりながらも同じくリビングから出て行くのののについて行き、着いた場所はのののの部屋だった。
「待ってて」
部屋の前で待たされる事、数分。やっと部屋から出てきたのののが手にしていたのは、さっきのアルバムよりも小さいサイズの本の様なもの。
「日記」
「日記か」
「私が分かる」
「さっきのアルバム……みたいな感じか?」
「そう」
「読んで良いものなのか? 日記って、あまり人に見られたい物じゃ無いだろ?」
「良い」
「良いんだ」
「良い。でも、帰ってから一人で読んで。あの後輩にも秘密」
念を押すのののに、俺は「わかった」と返した。
それからまたリビングに戻り、しばらく三人でお喋りをしていた。時間が九時を越えた頃、ななさんが名残惜しむ感じを出しながらも、家の最寄の駅まで送ってくれると提案してくれた。
「また私も行く」
「ののは留守番してても良いのよ?」
「送り狼」
「まぁ、ののったら。お母さんに向かって……。青ちゃん、ちゃんとののを叱らなきゃ駄目よ?」
「もう、ノーコメントで……」
それからすぐに帰る準備をし始めたのだが、忘れてたと言うなななさんが持ってきたカメラで、俺達は写真を撮った。
その中の一枚、三人で並んでいる写真はどうやらアルバムに追加してくれるらしい。
「じゃあ、駅まで……よろしくお願いします」
「遠回りするわ」
「それって普通は言わずにこっそりやるやつですよね!?」
なななさんの運転する車で夜のドライブをちょっとだけ楽しんだ。
ラジオから流れてくる知らない曲を聞きながら、ただ静かにしているだけだったが、それでも楽しかった。
到着時間は……予定通りに遅れたが、それでも目的地には到着した。
「では、ありがとうございました」
「青ちゃん、堅苦しいのは無し」
「えっと……その……。ははっ……すぅ~……ありがとう、なな叔母さん! また明日な、ののの!」
ちょっと声が変な感じになった気もするけど、恥ずかしさを我慢しながらだとこれでも頑張った方。褒めて欲しいくらいだ。
「またね、青ちゃん」
「また明日」
その言葉を残して、車は遠ざかって行く。
俺はのののから渡された日記を読む為にも、家までは軽く走っていこうと思った。
ちょっと冷たい空気も、所々が明るい夜の景色も、行き交う人も……全てをひっくるめて、気持ちの良い夜に感じた。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
次の話は少し長くなる……かも?本文も投稿する日も




