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第128話 相合い傘



お待たせしました!

よろしくお願いします!


 


「あま~い」


 紙パックのココアを飲んで、ポツリと呟いた。誰かに聞こえる声量じゃなく、つい漏れ出た感じで。

 教室の端の方では、紅亜さんが数名の女子と机を合わせて昼御飯にしている。勝也は教室に居ないから、もしかしたら外か体育館にでも遊びに行っているのかもしれない。

 そして、のののはいつも通りに自分の席で静かに読書をしていた。

 髪は所々、少しだけ跳ねていた。今日は湿度が少し高めだし、上手く纏められ無かったのだろう。

 それでも、前よりは幾分もマシと言える。やればできる子――それがのののなのだが、ちょっとだけ寂しさも感じていた。


「なに?」


 視線に気付いたのののが、本を閉じて、顔だけを俺の方に向けてきた。

 特に用がある訳でもないのに、女子を見詰める行動は(いささ)か不審過ぎたな。

 いくら隣の席とはいえ、いくらのののとはいえ、見られるというのはいい気分にはならないだろう。

 俺の手には紙パックのココア――これしかない……か?


「あ、いや……その、飲む? ココア。飲みかけだけど」

「飲む」

「飲むんだ……。はい」

「うん。……ん、ん。あまぁい」


 今更、同じストローだとかは気にしない。逆なら少し気にするけど、自分の口を離れたものなら俺が気にしたって仕方ない。のののが大丈夫と言うならば、それまでの話だ。

 ただ、相変わらず表情には出てないけど、美味しそうに飲むのののの姿を見られたのは良かった。ただのココアだが、ニマニマと頬が緩んでいるののの姿は珍しい。

 感想が同じなのは、まぁ……前より少しだけ面白く感じる。


「あ、雨……やっぱり降ってきたか」

「雨……」


 俺の声に釣られる様に、のののも窓の外を見る。小さく呟くその声は、ちょっと困ってる風にも感じられた。

 それほど激しく降ってはいない雨だが、やはり傘を持ってきたのは正解だっただろう。あと数時間で降り止むとは思えなかった。


「……。次の授業まで寝るか」


 一度視線を外からココアに戻したのののは、左手でココア持つと、また外を眺め始めた。反対側を向いてしまったためにその表情は見えないが、今とてもアンニュイな雰囲気が出ていた。

 その様子を確認した俺は、ゆっくりと机に伏せて、時間を潰す事にした。


 ◇◇◇


 そして放課後。部活が無くなったという声や、筋トレメニューに変わっただの、そんな声が飛び交う中で……俺も静かに帰る準備を進めていた。

 無事に紅亜さんにも十円を返せたし、残すことは何も無い。今日はもう帰るだけである。


「青さん、青さん!」

「あっ……そうだ。マノン、はいチーズ」

「えっ……ピ、ピース?」


 スマホカメラの準備をして、マノンを撮影。これは、盗撮に含まれないし、マノンもポーズを取ったということで誰からも責められる事はないだろう。

 碧から頼まれていたマノンの撮影は、これでオッケーだ。少しでも元気になってくれれば良いのだが……まぁ、そのうち治りはするだろうけど。


「今の、碧に送っても良いか?」

「あぁ、そういう事ですね! ついに私を待ち受けにするのかと思いましたよぉ~あはは」

「なんだよ『ついに』って……まぁ、こっちの用件は済んだけど、マノンは何の用だ?」

「いえ、バイバイをしに来ただけですっ!」

「なるほど……マノン、また明日」

「はい! また明日ですよ青さん! ののさんも、またです」

「うん」


 マノンが去り、一人、また一人と教室を出ていく。

 鞄に持って帰る物を入れ込み、さて……と思った矢先、ふとのののの席の方を見たら、いつの間にかそこにのののの姿は無かった。サイレントで帰っていた。


「……うーん」


 何となく気になっていた、のののの雨を見詰める雰囲気。

 玄関口まで急ぐ――まさに今というタイミングで、傘も持たずに雨の中へ進入して行かんとするのののの姿を見付けた。

 若干の躊躇(ためら)いを感じられる足の運びだ。おそるおそる……でも仕方なくといった感じで。


「のの!」

「……っ!?」


 思わず、アダ名ではなく本名で呼び止めていた。とは言っても一文字減らしただけなのだが……。

 それでも効果はあったらしく、ビクッとしたのののが前へ出そうとした足を逆に下げ、なんとか寸の所で濡れる前に間に合った。


「か、神戸……」

「どうした!? か、傘は?」


 俺の問いに、のののはハッキリと答えない。モゴモゴと口を動かしてはいるが、言い難い事なのか、何も言ってはくれない。

 予想……というか、だいたいの事は状況が教えてくれている。単純に傘を忘れたのだろう。

 友人が多い人なら、多くなくとも居る人ならどうするか。答えは簡単――『傘に入れて貰う』だ。

 だが、のののは……友達がちょっと少ない。それに、口下手だ。つまり、最も頼みやすいマノンが帰ってしまった時点で一人で濡れて帰る最後の決断を下してしまったのだろう。そういう所、あるしな。


「いや、うん。分かる。だから、最終手段的に職員室に行けば借りれるなんて事も言わないぞ」

「……もう言ってる」

「こ、こほん……とりあえず、うん。帰ろうか」

「ありがとう。神戸」


 それほど大きいと言う訳では無い傘。二人が入るにはちょっと小さい。設計者だって一人用として作ってるのだろうから、当然ではあるだろうけど。


「駅までで大丈夫か?」

「にゅ」

「にゅ?」

「な、なんでもない……大丈夫」


 なるべくのののが濡れない様に、内側へと入れてあげる。

 驚く程に、合わせようとした歩幅はピッタリと合った。きっと、のののも同じように少しだけ合わせようと頑張ってくれているからだろう。

 二人で傘に当たる雨音を音楽に、歩いていく。学校を出た辺りで、のののがポツリと「うっかりした」と言った。おそらく、傘を忘れた理由だろう。

 マノンはのののをしっかり者だと思っている。だから、こんな天気の怪しい日に傘を忘れるとは思っておらず、帰って行ったのだろう。


「……神戸」

「ん?」

「お母さんが」

「ななさん? ななさんがどうしたって?」

「待ってる」

「えーっと……いつ?」

「明日、とか? 明後日、とか?」


 そう言えば、のののとは従兄妹(いとこ)という事実が発覚してから、なななさんとは会う機会もなく、会ってない。

 なななさんはののののお母さん――という認識だったが、今はというと『叔母』だ。まだ実感は湧かないけど……事実としてそうなっている。

 そのなななさんが待ってくれているというのなら、早めに会いに行った方が喜んでくれるかもしれない。


「そうだ碧……はどうすればいい?」

「都合?」

「明日行くとしても、放課後でしょ? 碧もたぶん、大丈夫と思うけど」

「そう。なら、任せる」


 帰ったら碧に話そう、そして両親にも言っておかないとな一応。

 のののを駅まで送って別れた後、俺は喫茶店の方に進行方向を変えて、また雨の中を歩き出した。

 昼休みはなんだかんだで予定を話さなかった為、その話をしに……なんてのは建前で、ただ習慣になりつつある放課後デート(?)に向かっているだけである。

 駅から歩いて十分(じゅっぷん)も経たない間に、喫茶店は見えてくる。今日は雨、いつも以上に人は少ないだろう。

 目の前まできて扉を開くと、カランっと扉の内側に付けられている小さい(ベル)がいつも通りに鳴った。


「こんにちは~」

「おや? 青君いらっしゃい。外の雨は強いのかい? 肩が濡れているよ」

「まぁ、ちょっと二人で入ってたので……。マスター、とりあえず珈琲を……って、あれ? 向日葵さんは?」

「忘れたのかい? 今日は月曜日だよ。珈琲はすぐに持っていくからね」


 しまった、そうか……ひま後輩は部活だったか。

 時刻はまだ四時三十分……部活が終わって来るとしても二時間以上は待ちぼうけになってしまう。


(どうしようか……)


 待つのは確定事項として、いったい何をして待とうかという話だ。やはり、無難に宿題を終わらすのが最適だろうか。

 碧にメールをしておくとしても、結局は時間が余りそうな事に変わりはない。


「まぁ、雨の日くらいゆっくりしても良いかもな」


 雨。喫茶店。珈琲。中々に良いシチュエーションと言えなくもない。好きな四字熟語は『晴耕雨読』。つまりは、今日はまったりして良い日という事だ。


 いつもの席に座って、マスターの珈琲を楽しみに待つ。

 その間に宿題を鞄から取り出して、珈琲が来たらとっとと終わらせる為に、準備だけは先に済ませておいた。

 予想通りの客の少なさと雨が相まって、慣れた喫茶店に居るだけなのに、妙なワクワク感が高まってきた。


「青君、お待たせ。珈琲とついでにタオルね。髪くらいは拭いておきな?」

「マスター! すいません、ありがとうございます」


 受け取ったタオルで濡れた部分の髪と服の水気を吸い取る。

 それから、ホット珈琲で体の内側から冷えた体をポカポカにしていく。

 俺はホッと一息吐いてから珈琲を置き、代わりにシャーペンを手に取って、宿題を片付け始めた。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!


※十円を返した……的な文をちょぴっとだけ付けたしました。完全に忘れてたマル。


初めてレビューを貰ってしまった……

普段頂ける感想もめちゃくちゃ活力になってますよ!

ありがとうございますm(__)m


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