第125話 約束は切れません様に
お待たせしました!
よろしくお願いします!(´ω`)
いつも誤字脱字の報告、ありがとうございます
m(__)m
「どうぞ、座ってください」
「あ、はい。では失礼して……」
「お茶を淹れてくるわね」
案内されたのは職員室の様な部屋。その部屋の隅に仕切りがあった。
普段は談話スペースとしてお客が来た時や、悪さをした子供達を叱る時に使っているらしいその場に通された。
座高のやや低い硬めのソファーに腰を降ろして、お茶を淹れに向かった静江さんを待つこと数分。急須とコップ、お茶菓子をお盆に乗せた静江さんが戻ってきた。
「お待たせ」
「あ、いえ……ありがとうございます」
「ふふっ、そんなに緊張なさらないで。マノンちゃんが楽しいって言ってたんだもん。余程だと思うわ。……マノンちゃんについては?」
「おれ……僕は知ってます。家族には言いませんでしたけど」
「そう……青さんは優しいのね。はい、どうぞ」
そう言ってくれた静江さんから、熱いお茶を受け取った。
部屋の雰囲気と相まって、正面に座る静江さんと二者面談をしている感覚になる。少しだけ緊張感が湧き出てきた。
「あの……先に、ここでのマノンについて聞いても良いですか? 静江さんから見たマノンの様子というか、いつもの雰囲気というか」
「うーん……。明るくて、小さい子達の面倒も見てくれるお姉さんって感じよ? たぶん学校とかとも変わらないと思うわ。……あの子は自分の弱いところを他の人には見せないもの」
「そう……かもしれませんね。他の人の機微にはいち早く気付いたりする印象はありますし。でも、意外と涙脆かったりするんですよね」
「普段はしっかり者なのに、時々甘えん坊になったりね……ふふ。青さんにはそういう姿も見せているのね。なんだか安心するわ」
二人で知っている限りのマノンについて話し合った。
俺よりも圧倒的に情報が豊富な静江さんだ。話すよりも、話を聞く方が多かった。それでも、家に泊まっていた一週間の話をすると、静江さんは楽しそうに笑ってくれた。
マノンに告白された事も、断った事も……それでも家族で居続けると約束した事も話した。その話した時の静江さんは、ただ優しく頷いてくれていた。
最初は静江さん相手に緊張していた俺だったが、マノンの話を通じて、だんだんと緊張はしなくなっていた。
だからついうっかり、お風呂での出来事も話してしまっていた……。
「アッハッハ! マノンちゃんにお風呂をねぇ~、あらあらそれは恥ずかしかったでしょう?」
「いやまぁ、ホント……仕方ない状況でしたけどね。その時は冷静に対応しましたけど、思春期にはキツかったですよ」
「まぁまぁ、若い内は何でも経験って言うでしょう? アッハッハ」
静江さんが下ネタで爆笑である。
まぁ、笑い話にしてくれるなら、俺のあの時の恥ずかしさも救われるというものだが……うん。めっちゃ、笑ってるな。
「は、ははは……は、はぁ……」
「お待たせしましたですよー?」
一緒になって笑っていた勢いが無くなった頃に、マノンが戻ってきた。そろそろ話題も尽きかけていたし、この空気も変えて欲しかったから正直助かった。
「マノンちゃん、コップ持ってきなさいね」
「はーい」
お煎餅をパリパリ。マノンがコップを手にやって来て、隣に座る。
そんな何でもない行動ですら、今の静江さんは思うところがあるのか、ニコニコと笑顔になっていた。
「どうしたです?」
「ううん、何でもないの。何でもないから、とても嬉しいのよ」
「静江さん……よく分からないのですよ?」
マノンの頭上にはクエスチョンマークが出ているみたいだが、さっきまで静江さんとマノンについて話していた俺は、静江さんの言っている事が分からなくもない。
たぶん……こういった施設だから、その施設長でもある静江さんは『何でもない』という事を尊ぶのだろう。
何でもない。当たり前。それが目の前にあるから笑顔になれる……静江さんはどこまでも、子供達の事を一番に考えているのだと思った。
「協力しますよ。おれ……僕にできる範囲でですけど」
「うふふ。ありがとうね、青さん」
「むーっ……なんか私だけ分かってないみたいでむーって感じですけど! 青さんが分かっているっぽいのが特にです」
「ふっ……」
「なっ……!! なにを勝ち誇ってるんですかっ!? その、腹立つ顔やめて欲しいんですけどっ!」
静江さんがまた笑った。
その後も三人でお喋りをしていたら、いつの間にかだいぶ時間が経っていた。
「じゃあ、そろそろ帰ります。今日はありがとうございました」
「こちらこそよ。楽しかったわ。また、いらしてね?」
「青さん、入口まで見送ります」
マノンの何かしらの力が働いた結果、静江さんとは部屋を出る所でお別れした。
別れ際にも、いつでも来て良いと念を押された事だし、いつか施設が何かで忙しい時でもあれば、マノンを通じてお呼ばれでもされようかな……なんて考えた。
「マノン、将来はどうすんだ? 高校卒業とかしたらさ」
「そうですね……いろいろ考える事はありますけど、私も静江さんみたいになれたら良いなって思います」
「なるほどな。お前なら良い母親になれるよ」
「プロポーズです?」
「ばっかお前、ただの比喩表現だっての」
施設の長である静江さんは、ある意味みんなのお母さんなのだろう。
マノンなら……人の感情に気付いてあげられるマノンなら、たしかにこういう職業はピッタリかもしれない。
誰かの心に寄り添えるのが、マノンの良い所なのだから。
「そうだ……忘れない内に」
「ん?」
まだ建物の玄関に来た所だ。施設の入口で渡した方が雰囲気的には良いのかもしれないけど、俺は買ってきたプレゼントを今渡す事にした。
深い意味はない。ただ、別れ際だと恥ずかしさが増すだけだと思ったからだ。
「これ、前に碧の前で嘘吐いただろ? ペンを壊したって。それだけじゃないけど……とりあえず! ペンじゃないんだけど、筆箱的なのを買ったから。その、お礼的なアレで……差し上げます」
俺は鞄から包みを取り出して、マノンの前に差し出した。
両手を出したマノンの手の平にポトンと落とすと、それを大事そうに抱え込んだ。
そんな大層な物じゃないのだが……喜んではくれているみたいだった。
「あの! あのあの、これは部屋で開けるので……」
そう言ったマノンは自分の服のポケットから、小さい包みを取り出して、俺に押し付ける様に渡してきた。
「こ、これも部屋に帰ってから開けてください!」
「これ……」
「私も用意してたんです。青さんが用意してたのは、少し意外でしたけど……」
「そうか……ありがとう。家に帰ってから開ける」
「はい!」
二人で施設の入口まで歩く。
ここでお別れという場所に着いたというのに、やはりと言うかなんと言うか……すぐに解散というのが出来なかった。
一分、一秒でも長く、マノンと話していたい気持ちがあった。チャットでも、明日の学校でも話そうと思えば話せるというのに……今の時間を大切にしたいと思った。
「うん、その……俺が居なくても家に居て良いから」
「はい。勝手に部屋で寝ていても起こさないでくださいね?」
「あぁ……ん? いや、それは起こすけど!?」
「えぇ~? 私は青さんが青さんの部屋で寝ていても起こしませんよ?」
「そりゃ、俺の部屋だからな! いや、来てるならむしろ起こせよ? 怖いから」
軽口で会話を続ければ続けるほど、ふと会話が途切れた瞬間に帰らないといけない感覚に襲われる。
その感覚は、心のどこかで分かっているから感じるものなのだろう。いつまでもそうしている訳にはいかないぞ……と分かっているから。
「青さんが寂しがってくれてるのと同じで、私も寂しいです。でも、嬉しい気持ちもあるんです」
「嬉しい……?」
「はい! ここで離れても、離れるのは物理的距離だけだと分かっていますから。離れても離れないココロがありますから。それだけで、私は嬉しい気持ちになれるんです」
「そっか。そっか……そうだよな。もう俺達は、月火水木金土日で家族なんだ。ずっと寂しがっててもいけないよな」
「ですです。一年ずっと家族です! ですけど……」
俺とマノンの間、空いていた一人分の距離をマノンが飛び込んで来た。
ぶつかる勢いで……受け止めてくれるのが当然とでも言うか様に。なんの躊躇いもなく、一人分の距離を飛んで来た。
「――っ!!」
「ふふふー。でもやっぱりちょっとだけ寂しいので、ぎゅーってするのです」
「いきなり来たら危ないだろ?」
「妹を受け止められない兄さんなんて、兄さん失格です! でもまぁ、青さんは私の兄さんなので転んでも許してあげますよ」
「これまた謎な理論だなぁ」
マノンからすれば、結局は何でも良いのかもしれないな。どれだけ変わっても、失敗しても、格好悪くとも。俺がマノンの兄として、ちゃんと兄でいる限りは。
それから何度も手を振りながら離れて行き、俺は家に帰ってきた。
さっそくマノンから貰ったプレゼントを開けてみる――。
「これは……ミサンガ?」
三色の青色系統の糸で編み込まれていた紐が、包みから出てきた。
たしか……自然と切れたら願いが叶うというジンクス的なのがあるんだっけ?
「んー……と、よし!」
足首と手首でどちらに着けるか少し迷って、どうせなら着けていることが分かりやすい手首に巻こうと決めた。
四苦八苦しながら、自力で手首にミサンガを繋げた。マノンがくれたミサンガ、心做しか心理的距離がちょっとだけ近付いた気がした。
「さて……このミサンガにどんな願いを込めてみようかな?」
どんな願いでも叶えてくれそうなミサンガである。なら、込める願いは――――。
◇◇
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