第121話 日常的な晩御飯
お待たせしました!
何かこう……休みの日に限って書く意欲が湧かないんですよね(笑)
という事で遅くなりました、よろしくお願いします!
カランコロンと音を鳴らして、お店に入ると込み合う少し前の時間だからだろうか、人は少なかった。
「青君、いらっしゃい」
「どうもですマスター」
いつもの調子で挨拶を交わし、俺の用件が分かっているかの如く、マスターは向日葵さんを呼んでくれた。
そしてすぐに、バタバタと音を立てながら、三角巾にエプロン姿の向日葵さんが姿を現した。
「あ、青さん!? ど、どうして?」
「いやぁ、助かったよ青君。どうしてか今日の向日葵ちゃんは調子が悪いみたいでね、珍しく食器を割っていたよ」
「そ、それは私の不注意で……青さんは関係ありませんよっ」
向日葵さんの失敗談は初めて聞いたかもしれない。
普段からしっかり者だからだろうか、ありがちなミスですら珍しく感じる。
「向日葵さんも失敗するんだね?」
「私を何だと思っているんですか……?」
「向日葵さんは……向日葵さん?」
「青さんの語彙力に期待した私が馬鹿でしたね。それで、どうしたんですか? ま、まさか……」
「酷い言われようだが、うん。ちょっと、ひま……後輩に用事があって」
向日葵さんにではなく、ひま後輩に。
その差異に勘付いたのか、向日葵さんは「いつもの席で座っててください」とだけ残して、厨房の方へと戻っていった。
言われた通りに座って待っていると、二人分の珈琲を持った向日葵さんが戻って来た。
「どうぞ。ここからは、ひま後輩ですわ」
「ありがとう。そうさな……迷ったけど、黙っていた事も時系列通りに説明するから、とりあえず聞いて欲しい」
「……分かりましたわ」
話すか迷っていたマノンの事。
過去の事だけは『とある事情』としたが、マノンが家族の温かさを知りたかった事、家に泊まっていた事、告白された事、そしてその結果について、ひま後輩へと話した。
途中で突っ込みたい部分はあっただろうが、ひま後輩は最後まで何も言わずに聞いてくれていた。
「――それで、みんなに嫌われているかと思っていたけど、実は気を使ってくれているだけなんじゃないかと。まぁ、距離が出来たからひま後輩の戦略通りなんだけどさ……とりあえず、そう思いましたマル」
「…………なるほど」
伝えるべき事は伝えた。これが、ひま後輩の戦略に沿った出来事では無かったのは、俺にも分かっている。
だから、どういう反応が返ってくるのかは謎だった。今のところ、何かを思案している状態で止まっている。
聞かれた質問に対して返事をする準備は整っているのに、ひま後輩から何かを聞いてくる事もない。
「青先輩……お電話お借りできますか? 谷園先輩に繋いで欲しいのですが……」
「え、あぁ……うん。オーケー」
しばらく待って出た言葉がそれで、俺は意図がよく分からないままに、マノンへと繋いでスマホをひま後輩へと渡した。
一言「失礼します」と言って席を離れたのを黙って見送って、する事がない代わりに珈琲へと口を付ける。
ひま後輩がマノンと、どんな話をしているのか気にならないと言えば嘘になる。でもそれは電話さえ終わればひま後輩が話してくれるだろうと思って、今はただ待機している。
そろそろ外が薄暗くなってきたタイミングで、電話を終わらせてひま後輩が戻って来た。
電話中に、ひま後輩のご飯の魔力に魅せられた客達が何人も店に入って来ていた。そろそろ、俺はお暇しないといけないの時間となってきた。
話は気になるが、全部を聞いている時間は無いだろうな。
ひま後輩には向日葵さんとして、バイトを優先させて欲しいと思っている。
「電話、どうだった?」
「そうですね……問題はないかと」
「そ。なら、今日はもう帰るとするよ」
「ふ、深く聞かないのですか?」
「ひま後輩が問題ないと言うなら、それはつまり大丈夫って事だろうよ。それに……そろそろ、向日葵さんとしての時間だろ?」
今まさに、マスターが注文を聞いているが、調理をするのは向日葵さんだ。そろそろ動かなければ仕事が滞ってしまうだろう。
珈琲は奢ってくれるという事で、お店の好意に甘えておくことにした。それから、向日葵さんに手を振って、真っ直ぐ家に帰って行った。
◇◇
「ただいま~」
家に着いて玄関に入ると、ほのかに晩御飯の匂いを感じた。きっと中華だろうという予想を持ったままリビングに入ると、その予想は簡単に、でも良い方に裏切られた。
「やっと帰ってきた。早く手を洗ってきな」
「ご、豪華~」
「碧も手伝ったんだよ! お兄ちゃん早くしてっ」
中華もあった。ただ、和と洋もあった。
お母さんが張り切ったのだろうけど、それにしてもバリエーション豊かでお腹が空いてくるメニューだ。
碧に急かされた事もあるし、急いで部屋に荷物を置きに戻って手も洗ってから、リビングへと戻って来た。
「お帰りなさい」
「あぁ、ただいま」
ゴハンを多めに盛り付けたマノンから、茶碗を受け取る。
今日はマノンの為の会だと言うのに、少しだけ申し訳ない気持ちはあるが……全員の分を用意しているという事は、もしかするとマノンが言い出してやっている事なのかもしれない。あくまで予想だけど。
「あなた、一言ありますか?」
「そうだな……いや、ここはマノンちゃんに挨拶を貰おうかな?」
「わ、私ですか!?」
全員が着席して、お母さんお父さんの順に流れた会話の矛先がマノンへと刺さった。
本日の主役はマノンなのだから、何か一言貰うとしたらマノンからが妥当だ。ただ、急に話を振られてワタワタしているマノンである。何も考えてはいなかったのだろうな。
「えー、その……神戸家の皆様には多大な迷惑を掛けてしまって」
「そんな事ないよ!」
「そうね。むしろ助かっちゃったくらいだもの」
碧とお母さんの援護に、マノンの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。
「あはは、ありがとうございます。その、とにかく、凄い感謝している事を伝えたいのに、私はちょっぴりバカでして……上手い言葉が見付からないのですよ。だから一言だけ……」
息を吸って、吐き出して。落ち着いたかと思いきや、ちゃんと伝わるのか心配そうな顔をして。
それでも最後には明るい表情を作って……いつものマノンが、俺達家族に向けて気持ちを伝えてくれた。
本当に短く――だだ「皆さん大好きです」と。そう言ってくれた。
「わぁ~!」
「え、えへへ……恥ずかしいですね」
碧がパチパチと拍手して、俺もお母さんもお父さんも同じく拍手をした。
「あら、イヤね……こんな歳になると涙腺が弱くなっちゃって。あなた、ティッシュ」
「はいはい。私の分も残しておいてくれよ」
それからみんなで晩御飯の時間を楽しんだ。
料理を食べて、話して、笑いあって。だが、楽しい時間というのはあっという間で、気付けばもう……皿が空いてからだいぶ時間が経っていた。
「青さんに、デザートを用意したんですよ」
そう言って、マノンがキッチンの方から何かをチンして持ってきた。
「得意料理を頼まれてましたけど、ふと思い出したので……作ってみましたよ、ごま団子」
「それたしか、ちょこラインで本当にちょこっとだけ言ったやつだよな? よく覚えてたな……」
「もちろんですよ! どうぞ、食べてみてくださいっ」
「そか。ありがとうマノン」
外がサクサクで中はトローリ……とても甘く美味しいごま団子だった。
「お兄ちゃんだけずるーい!」
「はいはい……ほら、半分食べな」
「あー……んッ!」
碧も頬っぺたに手を当てて、もにゅもにゅと食感を楽しんでいる。甘い物好きの碧も、マノン製のごま団子の味にはご満悦の顔をしている。
食後のデザートを楽しむ俺達の様子を見ているお母さんが、ポツリと呟いた。
「マノンちゃん、本当に帰るの? 帰らなくても良いのよ?」
「いえ……はい。でも、またお邪魔させて頂きたいと思ってます」
料理の時以外も家事や炊事でお母さんとマノンは、よく一緒に居た。寂しがる気持ちは、案外強かったのだろう。
「お母さん、マノンは呼べば来るから心配ないよ」
「言い方が引っ掛かりますねぇ……青さん」
「来るだろ? ……え、来ないの?」
「……来ますケド。来ますけど!! 特別感が、薄れます!」
「いらねーだろうよ、特別感は」
もう、この家にとってマノンはお客様じゃない。だから俺は、特別じゃなく普通に迎え入れる為にも、いつだって気軽に呼び出すつもりだ。
マノンだって、来たい時にフラッと立ち寄って、居たいだけ居ていいのだし。
「言うようになったわね、青」
「……ん? よく、分からないけど」
「青のこういう所、あなたに似てますね」
「そ、そうかい? どうだろうね……ははは」
たぶん、褒められたのだろう。よく分からない時は、褒められたと思ってた方が気持ち的には上がるものだ。
お父さんの空笑いは……別にいいか。気にしなくても。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻る」
「お兄ちゃん、宿題する? 私もする! しない? する?」
「あー、そうだな。宿題終わらせておくか」
お土産を隠しておくとか、明日の事とか、一瞬でいろいろと考えた。
碧は嗅覚が良いから危険だ。碧へのキーホルダーは見付かって良いとしても、マノンへのお土産は明日にまで秘密にしておきたい。
「碧、マノンとコンビニにお菓子でも買ってくると良い。ちなみにお兄ちゃんはお金が無いぞ」
「な、情けない……お父さーん」
「夜だから、一緒に行こうか。皐月は何か要るかい?」
「そうね。なら、シュワシュワをお願いね」
お母さんの言うシュワシュワとは炭酸ジュースだ。俺もちゃっかりとお父さんにおねだりして、ジュースをお願いしておいた。
三人が買い物に行き、お母さんが洗い物をし始めた。
よし、今の内に部屋の片付けをせねばな!!
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
《宇野宮さん》と《アイテムチート》も十万字越えましたよ!




