第120話 買い物は直感で
お待たせしました!
いろいろやってたら少し遅れましたね
よろしくお願いします!
「くっ……」
「勝也、流石にもうそろそろ買った方が安いぞ?」
ゲームセンターに来た俺達が遊んでいるのは、メダルゲームでもレーシングゲームでも対戦ゲームでもなく、クレーンゲームだ。
お菓子やぬいぐるみ、フィギュアなんかが景品としてある中で、勝也は積まれてある、崩せば大量ゲットとなるお菓子を狙っていた。
既に、千円分は越えていると思う。俺は他の場所で、小さいクマのぬいぐるみを手に入れていたから勝也が幾ら使ったのか、正確な金額は分からないけど。
「いいや! ここまで来たら引けねーぜ!! あと一回……あと一回だけ」
「それ、フラグに近いやつだから。はぁ……じゃあ、俺も一回だけ助けてやるよ」
「お、サンキュー。あの、あそこの……分かるか? 頑張ってズラしてあるとこだ!」
「はいはい……」
ピロピロピロと音が流れて、勝也に指示された場所の近くを狙っていく。
「おい、もう少し右にした方が良いんじゃねーか!? あーあー、手前過ぎるって!!」
ピロピロ……ウィーン……ガタンッ――ゴトゴトゴトゴト。
「……ぉぅ」
「いや、何かゴメン! 全部勝也の物で良いから、そんな目で崩れたお菓子の山と俺を交互に見ないで!」
崩したのはクレーンゲーム的には正解のはずなのに、何故か間違った気分になってくる。
最後の美味しい所を奪ってしまった訳だから、勝也の気持ちも分からなくはないが……しょうがないじゃないか。割りと得意なんだよクレーンゲーム。
「おい、青。そのクマのぬいぐるみは幾らだ?」
「知らん……けど、ワンコインだな」
「ご……五〇〇円だよな?」
「……せ、せやでー?」
勝也が察してしまったのか、肩を落としてトボトボと歩き出した。その様子を目で追っていくと、両替機の前で立ち止まり少しして戻ってきた。
「青、託す!」
「いや、プレッシャーよ!」
「単価の高いフィギュアでトントンに……いや、利益を!」
小銭を握らされ、どうやら俺は、悔しがる勝也の敵討ちを取らないといけなくなった。
得意ではあるけど、フィギュアを一回で取るほどの実力はない。運が良ければその可能性もあるが、調子が悪ければ千円でも取れない日だってある。
「まぁ、やるだけやるけどさ。恨んでくれるなよ」
「大丈夫だ! 一個取ってくれれば儲け!」
勝也の欲しいフィギュアの所まで行き、クレーンゲームのタイプを確認する。
二本の突っ張り棒の上に箱のフィギュアが置かれてあるタイプ……これは、ハマるとほぼ取れなくなってしまうし、縦から横にズラしてから棒の間に落とさなければならない、所謂『投資型』だ。
三つのアームで掴んで出口まで運ぶだけのタイプなら、割りとすぐに取れる気はするが……とりあえず頑張りますかね。
「――それから九〇〇円を投入した神戸青は、冷や汗を流していた」
「ナレーション止めて! 一個は取ったじゃん!?」
一回一〇〇円のゲームを三回目で取れたのが、逆に辞められなくなっていた。それでもう残りが一〇〇円しかない。
「もう止めよう……取れる気がせん」
「そうか、ならジュース代にするか」
「そうしてくれ、フィギュア一個にお菓子いっぱいなら勝ちでしょうよ」
「青は、その小さいぬいぐるみだけで良いのか?」
「あぁ、これね。碧のランドセルにちょうど良いかと思って取っただけだからな」
「あれな……自分だけ出費するって何か嫌だな。青、他にキーホルダーサイズのぬいぐるみを取っておいた方が良いんじゃないか?」
ふむふむ……その手に乗る俺じゃない。
この後で、マノンへのペンケースを買わねばならぬのだからな。
「さっさと行こうぜ、本当に金を使っちまいそうだ」
「おい、青! ゲーセンに来たらプリ撮らねーとだろ?」
さも当然と言わんばかりの声のトーンで、勝也はそう言った。
あれはカップル、もしくは女子グループ専用というイメージが俺の中にはあった。
だから、勝也からの提案は意外というか、むしろ驚きだった。
「男子が? 二人で?」
「あー、青って意外と写真とか嫌いだもんな」
「それもあるけど、そこじゃないというか……男子でプリクラって普通か?」
「普通じゃね? バスケ部のメンバーとはたまに撮るぞ?」
部活に入っているとそういう事もある……か。
プリクラなんて、撮った記憶がほとんどない。あるとすれば碧とだろうが、その記憶も曖昧だ。
「今ってほら、スマホとかに画像来るじゃん? そうするとアップするじゃん? 拡散されるじゃん……怖いじゃん?」
「分かった、分かった! そうじゃんじゃん言うなって、SNSの類いに載せたりしねーから!」
「それなら、まぁ」
「よし、じゃあ撮ろう!」
慣れた手付きで写真のアレコレを選んでいく勝也に「女子力」と言ってみたが、そこは流された。
やはり女子専用と言わんばかりのポーズを強要されているが、そこはやはり、反骨精神の塊と自称している俺のハートでほとんどをピースサインで写った。
プリクラの醍醐味はここからなのは知っている。
だが、やたらと目が大きくなっている自分の顔をあまり見たくなくて、お絵描きタイムは勝也に任せることにした。
勝也から好きな言葉を聞かれて、何となくさっき食べた物を思い出して「餃子」と答えたが……もしや、それが反映されてしまうのだろうか。
勝手が分からないから良いか悪いかも分からないな……ただ、あまり人に見られたいとは思えない。顔を隠して誰かに見せるとしても、得られる情報が餃子だけとか……もう、ね。って感じだな。
それから少しして、勝也がシールと共に戻って来た。
「ほい、青の分」
「おー……碧の机にでも貼り付けてやろうかな」
「いや、そんな事したらさすがに嫌われるだろ……後で画像は送るわ」
「へいへい。じゃあ、そろそろ雑貨店に行くか」
「おう」
昼飯のラーメン屋で一時間。ゲームセンターで四十分程。
なのに、雑貨屋でマノンのペンケースを選ぶのに掛かった時間――およそ、五秒。
ペンケースの置いてある場所に行き、ざっと見てピンと来たのが一つだけあった。迷うこと無くそれを手にした事で、驚きの短さで店を出ることになったのである。
ケースというよりは、巻物タイプのペン入れ。色は青色。一目見て「あっ、これだ」と思った。
巻く関係で、許容量はそれほど多くないけどデザイン性は優れている……はずだ。
勝也に意見を聞けば良いかと思ったのだが、聞けば迷っていただろう。そうなると、そこからどれくらい時間が無駄にされたか分かったもんじゃない。
普段は慎重派ではあるけれど、こういう買い物くらい自分の直感を信じてみるのも良いだろう。
「とりあえずは、ミッションはコンプリートだな」
「どうする? ゲーセンに戻る?」
「散財する未来しか見えねぇ……別のとこにしよう」
「あー、じゃあ……ここじゃないけどバッティングセンターは?」
「おっ、さてはあのバッティングセンターだな? ついでに街にも戻れるし、良いかもな」
勝也と歩きながら話して、次なる目的地を決めた。今から帰れば電車の込み合う時間帯も避けられるだろうし、暗くなる前に街に戻っておけるのは何かと安心だ。
少し遠出した割にはあっさりと退散する事も、勝也は特に気にしていない様子だ。わざわざ付き合ってくれている側だと言うのに。
バッティングセンターで、一プレイくらいは奢ろうと心に決めて、ショッピングモールから出て電車へと向かった。
◇◇
「じゃあ、青。また月曜な」
「おう! 今日はサンキュー」
日が暮れ始め、バッティングセンターで空振りしまくった俺達は駅で別れた。
「明日は筋肉痛だな、これ」
普段は使うことの少ない筋肉達を、フルスイングで活用しまくった結果――もう既に体の節々が少し痛くなっていた。
完全に暗くなっていたら帰っていたかも知れないが、まだオレンジ色の空が、俺にギリギリまで行動するのを許可してくれているみたいに感じて、とある場所に足を運んでいた。
そう――喫茶ハチミツへ。
「彼氏役はおやすみって言われたけど……報告しないといけないしな」
店の前まで来た所で、少し立ち止まっていた。
マノンの事、ひま後輩にどう説明すれば良いか分からずに。
そもそも冷静に考えてみれば、嫌われてると思っていたマノンに告白される事が不思議に思える。
ひま後輩と付き合っていると知って、嫌われたと思ったのだが……あれは、気を使って距離を取っていてくれたのかもしれない。マノンの優しさだったのかもしれないと、今はそう思える。
普通は嫌いな人には告白しないだろうし、嫌われた件は俺の勘違いだったのだろう。
リスクがあるという話をしていたから……勝手に俺が、そう思ってしまったのかもしれない。
よく考えてみれば、嫌われてはいない様な気もするし。距離を取られたとは感じたが、それはひま後輩の作戦の範疇に過ぎない。
それを俺がどうにかしないといけなくて、頑張ろうと決意したのに……本心では嫌われたらもう無理、と心のどこかで諦めていたのかもしれない。
「紅亜さんの嫌いな格好をするっていうのも……もしかしたら、俺とひま後輩に気を使って、なのか? 考え過ぎかなぁ?」
いつまでも店の前で悩んでいても答えは出そうになかった。
急に来たらひま後輩はきっと驚くだろう。それでも、前ほど重く感じなくなった喫茶店のドアを開けて、俺は中へと入っていった。
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