第118話 駄目にしない為には
お待たせしましたー
よろしくお願いします!(´ω`)
前回で50万字こえてたみたいですね!
やったー?(*^o^)/\(^-^*)
「残念ですが、離れます……」
「そうしてくれると助かる。碧が俺のベッド使っちゃってるし……マノンは碧の部屋で寝るよな?」
確認しなくても当然と思うことを、あえて口に出して確認したのは、念の為である。
スーパーアマエンボモードを搭載してしまったマノン……今の状態だと何を言い出すか分かったもんじゃない。
それこそ、一緒の布団で寝ると言い出してもおかしくない状態だからな。
それは倫理的というか、俺の理性的にも良くはない。
マノンを背負っている時、背中に当たる感触について気にしない様に振る舞っていたが、実は……かなり照れの限界がギリギリだった。
「むー……」
「頬を膨らませてもダメです」
「兄妹なら変な気は起こらない筈ですよっ」
「ぐっ……」
ベッドで寝ている碧を視界に入れて『はい』も『いいえ』も使えないと悟った。
マノンの強かさは相変わらずで、答えの無い言い合いになれば勝てる気がしない。
ならば、少し卑怯でも強引なやり方で乗り切るしか俺には残っていない。
「マノン、ちょっと……」
「ん……なんですか?」
自分の部屋から出て、碧の部屋にマノンを連れていく。
そして――碧のベッドの掛け布団を捲り、状況にまだ追い付いてないマノンを、そこに横たわらせた。
「えっ……えっ?」
「お前が寝るのを待ってから、俺は部屋に戻るよ。そうすれば、寂しくも無いだろう?」
「……あっ。は、はいですっ! あの、あのあの……」
「どうした?」
「私が寝るまで、手を……握ってて……欲しい……です」
「もちろん。今日はもうゆっくりと寝な。おやすみ」
「はい……おやすみなさい、お兄ちゃん」
ゆっくりと目を閉じたマノン。
俺は、その手が自然と離れる瞬間まではそこに居ようと考えて、何もできない、少ししか動けない状態でただ待っていた。
――瞼が重たくなってきた所までの記憶はあるのだが、そこから先の記憶は途絶えた。
◇◇◇
「お兄ちゃん? お兄ちゃーん! 起きて、朝だよー!?」
「んン……? あれ、碧……?」
「もぅ、マノン姉も全然起きてくれないし! 碧のベッドだよ!?」
時計を探す。ポケットにスマホがあることを思い出して、時間を確認すると、朝の六時。休日というのを考えると少し早い起床だ。
おそらく、早く起きた碧が部屋に俺達が居なくて探しに来たのだろう……。
変な体勢で寝落ちしたから身体が痛く、まだ眠っていたかったのだが、起こしてくれた事は助かった。
意識が覚醒してから、布団も何もない状態に寒さを感じていた。……ただ、布団に入れている手だけは暖かい。
「おはよう碧。すぐ退くから……」
「どうしたの?」
自分の部屋に戻って寝直そうと思い、手を離そうとしたのだが……不思議と離れない。
いや、これは全く不思議な事じゃない。意図してやってれば離れないのにも説明が付く。
俺が離そうとして離れないという時点で、もう結論は出ているのだが……そうだな。離れないのなら、それはもう仕方ないよな。
「碧、実はマノンがお漏らしをしていてだな……碧のベッドが大惨事になっている」
「えぇーっ!?」
繋いでる手に反応が現れた。ギュッと握ってくる手で、起きているのは既に明らかだったが、確信に至った。
「落ち着け碧、マノンは寝たフリで忙しいんだ。なら、俺達もそのマノンの頑張りに乗っかってやるのが優しさってやつだ」
「う、うん……」
当然、マノンはお漏らしなんてしていないのだが、手を離して貰うにはマノンに起きて貰うのが早いという為だけの策である。
あと、もう一押しって所だな。
「流石に高校生でお漏らしはな……。だから碧、マノンが起きても……」
「何も無かった様にだね、おに――」
「――お兄ちゃん!? それ、凄い風評被害ですぅ!!」
ガバッ――そう表現できる程、マノンは勢い良く上半身を起こした。
そんなドッキリに驚く碧。それと、手が離れたし作戦は成功だ……そう冷静に考えてると見せ掛けて、内心で冷や汗を掻いている俺。
俺も碧も「ドキッとした」と一言で表せるが、意味は百八十度違っていた。
「おはようマノン」
「意地悪です、意地悪です! 青さんは意地悪です!」
「マ、マノン姉……起きてたなら起きてよね! びっくりしちゃったでしょ!」
碧が驚いたのはマノンの行動そのものらしいが、俺は発言の方に驚かされた。
『青さん』と『お兄ちゃん』……マノンの中で『お兄ちゃん』の方はまだ定着はされていないのだろう。だからこそ、少し危うく感じたのだが……。
二人で居る時なら、まだ違和感があるものの、許容出来ない事もない。
ただ、知り合いや人前で同級生に『お兄ちゃん』と呼ばれるのは……俺に対する反応が『同級生に兄妹ごっこをさせている変態』というものに変わるんじゃ無いかと、心配になる。
周りからすればごっこでも、俺達からすればごっこ遊びじゃ無い……いや、問題はそこじゃないな。変態という謗りを如何に回避するかだ。
「碧、悪いけど何か飲み物持ってきてくれ。喉が乾いた」
「もぅ~、しょうがないなぁ……お兄ちゃんの部屋からお茶取ってくる」
碧が戻って来るまで、短くても十秒以上はある。
言いたい事をマノンに伝えるには、それくらいでも足りるだろう。
「とりあえず『お兄ちゃん』は二人の時だけ」
「や!」
「プイッ……って感じで可愛くしても駄目だぞ。今はまだちょっと良い方法は思い付かないんだけど……せめて、家の中ではそう呼んでも大丈夫な様にしてやりたいと思ってるからさ」
「大丈夫ですよ青さん。我慢する所は我慢しますから……でも、甘える時は甘えますからね?」
「お、おう……任せておけ」
溜めに溜め込んで、一気に爆発させるタイプだったらどうしようか……。
怒りを溜めて爆発させるというのなら、よくある事かもしれないが、我慢に我慢を重ねて思いっきり甘えるというのは体験した事も聞いた事も無かった。
碧が今より小さい頃も、我慢なんてせずに甘えて来ていたからサンプルにならない。
我慢に上限があるのかも分からなければ、どの程度でどの程度になるのかも分からない。
マノンがキレたらヤバい奴と同類で、溜めてたものを爆発させたら最後……みたいな感じだったら手立ては皆無だ。
もう、自然災害と同じだと諦めて、なされるがままにするしかないのかもしれない。
(こりゃ、少しずつ発散させた方が良さそうだな……)
「お兄ちゃん、持ってきたよ」
「ありがとう碧」
コップ半分くらいのお茶を飲んで、喉を潤した。
同じ量のお茶を注いで、それをマノンに渡してあげる。
「んっ……ぷはぁ。碧ちゃん、ありがとうですよ」
「あー……碧? 俺は部屋に戻って寝るから昼前に起こして」
「んー良いけど、どこか出掛けるの?」
今から二度寝しようものなら、お昼過ぎまで寝てしまいそうな嫌な予感がする。というかほぼ確実に、寝過ごしてしまうだろう。
勝也との約束に遅れる訳にも行かないし、碧を目覚まし時計の代わりのアラームとしておけば、間違いは無いだろう。
「まぁな。勝也とちょっと遊びの約束がな」
「はいはい! 私も行きたいですっ!」
「……いや、急にマノンが来たらおかしいだろ? それと、今回は俺と勝也で出掛ける予定だから」
「……いつ帰って来ますか?」
「昼過ぎからだから……夜には帰って来てると思うけど、そこまで計画してる訳じゃないから分からん」
買い物の中身的にマノンは連れて行けない。
今日が長く遊べる最後の日というのは理解しているけど、マノンへの詫びプレゼントの為だからな。
今となってはこの贈り物をする必要があるのかも曖昧だし、微妙な所だが、きっと理由なら後付けでも何でも……気持ちさえあれば、細かい理由なんてむしろ無くても良いんだと今は思っている。
さっそくマノンには我慢を強いる事になるが……秘密にしたいという気持ちを分かって欲しいと思うのは、きっとエゴなのだろうな。
「じゃ……今日は何が食べたいですか? 頑張って作って待ってますよ」
「何でも……あっ、いや! ……コホン。マノンの得意料理が良いな。できれば魚より肉系で」
「了解ですよ! ……なるべく早く、帰って来てくださいね?」
「分かったよ。じゃあ、部屋に戻って二度寝してくる」
不安そうな顔をされると、つい決めた事を曲げてしまいそうになるが……それは駄目な事だ。俺は振り返らずに、部屋を出て行った。
マノンに優しくしたり甘やかすつもりではあるが、言いなりになったり依存先になるつもりなんか微塵も無い。
ただ甘やかせるだけ甘やかす行為は、マノンを歪な精神状態にしてしまうリスクが伴う。
マノンにはマノンのまま――それでいて寂しい時は甘えられる場所が俺という形。それが俺の思う理想の関係だ。
あくまで理想で、現実はどうなるかなんてまだ分からないし、断言も出来ない。マノンは碧みたいに、遠慮なく甘えられる関係を求めているのかもしれないのだから。
だから、お互いの理想がぶつかって、今後、何かと衝突する事だってあるかもしれない。
でも、それならそれで良いと俺は思っている。
言い合って、それでお互いを理解していけるのならば、それがきっと、一番良い現実の形だろうし。
恋人には、一緒に幸せになりたい人を選ぶと良い。
結婚相手には、一緒に不幸になったって構わない人を選ぶと良い。
そんな言葉をどこかの誰かが言っていた気がするけど……『家族には、ずっと一緒に笑い合いたい人を選ぶと良い』を新たに追加するのはどうだろうか。
まぁ……家族を増やす状況なんてもの、裏家業ぐらいしか滅多に機会は無いと思うけど、きっと人生で笑う回数が劇的に増えると思う。
まぁ、つまりは……マノンを駄目にしない為に、この先の俺がもっとしっかりしないといけないって事だよな。これは。
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