第117話 星には届かなくとも
お待たせしました~
書いては消して……そもそもここで書くべきか迷って消して……
でも、書こうと思ったので書きました!
異論、批判、賛同の言葉は受け付けてますよ
(´ω`)
よろしくお願いします!
夜中はやはり肌寒い。ただ、崩れるかと思った天気は今の所、大丈夫そうだ。
風が吹いている訳ではないが、空気が冷たい。
それでも……外に出て正解だったと思う。窓から視える範囲の夜空よりも、外に出て見上げたこの夜空の方が圧倒的に綺麗だったから。
大きく光輝く星から小さく薄い光まで、天体に詳しい訳では無いけど、凄く遠くに存在しているという事は知っている。
果たして、どのくらい遠くにあるのだろうか?
もしかしたら今現在において、崩壊や誕生している星があるのかもしれないな。
「綺麗ですねぇ……」
玄関から少し出た道の真ん中で、二人揃って空を見上げている。
この辺りは住宅街で、ビルの様に高い建物は、ちょっと遠くにあるマンションくらいなもの。
灯りも消えている家が多くて、それが夜空をより綺麗に見せていた。
人の声も車の音も聞こえない静寂な空間。
手を伸ばしても届かないと分かっているのに、ついつい空に向かって手を伸ばしてしまう。
「何を掴もうとしてるんです?」
「いや……何となくだ」
自分のしていた行動が、どこかセンチメンタル過ぎて少し恥ずかしくなった。
伸ばした手も、何も掴まぬまま、ゆっくりと元の位置へと戻ってくる。
「公園の方までお散歩にいきませんか?」
「……そうだな。それも良いかも。ベンチもある……暗いけど大丈夫か?」
月明かりと街灯で真っ暗という程では無いけど、それでも暗い事には変わらない。
いつも見ている風景さえ、昼と夜じゃ違って見えるもので、曲がり角の先には何も無いと分かっているのに、何かあるのではないかと疑ってしまう。
恐怖心というのは――いつだって『分からない』から出てくるものだと思っている。
過ぎ去った過去を後悔する人は居ても、恐れる人はきっと居ない。人がいつだって恐れるのは未来についてだけだ。
マノンが霊的な曖昧なものを怖がるタイプかは分からないけど……いや、たった今分かった。
「ちょーっと、歩きにくいかな?」
「勘違いしないでくださいよ? 青さんをヤバいオーラから守ってあげてるだけなんですから」
「安っぽいツンデレだなぁ……やっぱり、暗い夜道とか怖い?」
「いえ、それは全然平気ですけど。ただ、あらゆるオーラが霞んだ青さんを視ているので……」
「――マジかよっ!? ちゃんと勘違いしてた!! なんかゴメン!!」
あらゆるオーラが何なのかは分からないが、思い込みの力が発揮されて、見えない何かが居る……そんな気配を感じる。
マノンとの距離はゼロ。軽く組んでいた腕を、俺ががっちりと確保した為、今度はマノンの方が歩きにくくなっているみたいだ。
公園まではそう遠くないけど、その間に何回振り返っただろうか……。
「ほら、着きましたよ?」
「お、おぅ……。何か疲れた……座って休もう」
二人で背凭れのあるベンチに腰かける。
三人は座れる長さはあるが、真ん中に、二人並んで。
「こんなに星が綺麗なら、碧も起こせば良かったかもな」
「……ですね。でも、それはまた今度で。今はこのキラキラも私が独占です」
「も?」
「も、です」
俺の視線は遠くの空に固定している。きっとマノンも同じ体勢を取っているだろう。
しばらく会話が無くなって、二人の間には自然の音だけが流れていた。
日付は変わって、今日はもう土曜日。日曜日にはマノンは家を去っていく。
神戸家の総意としては、ずっと居てくれて良い……そういう気持ちだ。
でも、マノンはそれを伝えても帰って行くのだろう。決めた期間が終わるからだけじゃなく、養護施設の方や一緒に暮らしている子の為にも、きっと。
「日曜日は……何時頃に?」
「まだ特に決めてはいませんけど……」
「荷物は運ぶから」
「はい。ありがとうございます」
「それと、あとは……」
何か言おうとして、マノンを見た。
マノンと目が合って、何を言おうとしたかなんて、すぐに忘れた。あまりにも真剣な瞳に、何も言えなくなっていた。
それまで吹いてなかった風が、髪を揺らす程度に吹き抜ける。
それまで座っていたマノンが立ち上がり、一歩、二歩と歩いてから振り返った。
星空を背景に、月明かりに照らされるマノンは、どこか神秘的な雰囲気があった。
そんなマノンが、ゆっくりと口を開いた――。
「――好きです。青さん、私は青さんが……大好きです」
マノンの言葉が身体に入って、全身を駆け巡った。
言葉が最後に辿り着いた心臓が、バクバクと鼓動を強く、速くしている。
真剣な瞳を向けてくるマノンからは、冗談やドッキリなんて雰囲気は微塵も感じない。
ひま後輩と付き合った事で、マノンとの間に距離が出来てしまったと思っていた。
でも、マノンの言葉で、告白で……。
マノンの瞳はただ真っ直ぐに、気持ちはココロへ伝わってくる。
甘ったるい雰囲気に流された訳でも、周りに後を押された訳でも、このシチュエーションを準備していた訳でもない。
だからこそ――告白は真剣なんだと、理解させられた。
俺は、ひま後輩と付き合っている。そんな言い訳はつかえないし、つかってはいけない。
いつもヘラヘラしてる様に見えていた、おちゃら系のマノン。
だからと言って、今の本気のマノンの気持ちに対して、嘘や冗談を言ってはならない。
真剣には真剣に、答えなければ……そう思った。
急な事で、頭の中はずっとごちゃごちゃしている。
心でも嬉しい気持ち、照れ臭い気持ち、他の気持ち。いろいろと混ざっては訳の分からない事になっている。
それでも俺は立ち上がって、マノンよりも更に数歩分だけ、遠くまで歩いた。
ただ、勇気がなくて振り返る事はできなかったが……。
「マノン」
「……はい」
全然出てこない声、喉元で止まっていた言葉を何とか振り絞って名前を呼んだ。
その瞬間に、自分の中で覚悟が決まったのだろう。
深呼吸を一回。それだけで、言葉達は出て来てくれた。
一文字一文字に気持ちを込めて、俺はマノンに伝えた――理由の分からない溢れそうな涙を、ギリギリの所で堪えながら。
「――。ごめん。好きな人が居ます。だから、マノンとは付き合えない」
「……ッ。私じゃ、私じゃ駄目なんですか……青……さん」
その声に心臓が掴まれたぐらいの息苦しさを覚えた。
痛く、悲しく、苦しいぐらいのマノン声。
それでも、俺はちゃんと伝えなければと言葉を重ねる。
「マノンと付き合えば、毎日が楽しいと思う。結婚すれば、先の人生が楽しくなる。そう思うよ」
「じゃあ……どうして……」
「そんな世界を捨てる覚悟をしてでも、好きになった人が居る」
静かだからこそ、小さい音も聞こえてくる。
鼻をすする音、小さく漏れでる涙声。
「……上手くいく保証、なんて、ありませんよ?」
そうかもしれない。
「今ならまだ……私が、手に、入るんですよ?」
こんなチャンス、二度と無いのは分かってる。
「後で、な……泣いたって……知りません、よ?」
その時はひとつ、馬鹿な男だと笑ってやってくれ。
「私はまた、大切と思う、人と……。独りぼっちに、なっちゃうんですか?」
すすり泣くマノンに駆け寄りたい気持ちが強くなる。
だが、今の俺はそうしてはならないとも感じていた。
今の俺にできる事は、自分の気持ちをちゃんと伝える事だけ。
マノンがそれをどう解釈するかは分からない。どう思うかも分からない。それでも言葉で伝えるしか、できない。
だから俺は上を向いて、涙が出ないように踏ん張って、今の想いを……マノンへの気持ちを伝える。
「マノンを一人にはしない。してやらない。これは約束だ。マノンを……家族を見捨てる程、俺はひとでなしじゃないから」
涙声が強くなって、言葉もたどたどしくなり、それでも……言葉が途切れる事は無かった。
ちゃんと気持ちの全てが伝わったかは分からない。
でも、マノンからすすり泣く音が止まった。足音で振り返って、俺の方を向いたのが分かった。
「私を…………私は、家族……です、か?」
「あたりまえだ。お前はもう独りじゃない。俺が居る。碧が居る。お母さんも、お父さんも居る。神戸家に、もうマノンは居るんだよ」
それがもう俺の中では日常になっている。
マノンはもう、とっくに家族だ。
独りだなんて言わせない。もう……言わせたくない。
「あ……青さんっ!」
「んぐっ!?」
ドンッ――衝撃が背中から伝わる。
マノンが勢いよく突っ込んで来た。そのまま背中から腕の下を通して手を伸ばして、俺をギュッと抱き締めた。
「私……面倒な女です」
「そうか」
「フラれたのに、まだ青さんが好きです」
「マノンとは恋人に……ならない」
「それでも、もう……良いんです。家族って言われたのが私の人生において、一番嬉しい言葉みたいです」
「マノンが家に居ることだって、習慣になって、日常になって、すぐに常識になると思う」
「青さん」
「どうした?」
「……ずっと好き! 大好きです!」
「ありがとう。マノン」
マノンからの抱き締める力が強くなる。
掴んだモノを、二度と離さないとでもいうかの様に、強く、強く。気持ちを腕に込めているみたいに。
「家族……家族! 青さんが、家族です!」
「い、犬みたいに顔をグリグリするなよ……」
「えへへ……涙でマーキングです。女を泣かせた罪は重いのです」
「そうかい」
「罪には罰があるものですよ?」
「減刑を求めたいのですけど?」
「しかたないですね。なら、青さんの罰は『一生、私に優しくする事』。これで手を打ちますよ」
「……甘んじて受け入れます」
「じゃあさっそく、ナデナデして慰めてください……お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん!?」
急な呼び方の変化に驚きつつも、頑張って手をマノンの頭まで伸ばそうとしてみたが……どうやら俺の身体はそこまで柔らかくは無いみたいだった。
背中の真ん中にあるマノンの頭に手が届かない。
「と、届かないんだけど……」
「青さん、踏ん張ってくださいね……よいっしょ!」
「――っとと」
俺の胴体にあった手を首筋に移動させたマノンは、そのまま俺に飛び乗ってきた。
おんぶの格好。でもたしかに、これなら頭はすぐ近くにあるし、手は届く。
「青さーん。お兄ちゃーん」
「お、おう……」
「次は私をフッた罰ですがー……」
「それも!? あー、いや……はいはい。甘んじて」
「これからいっぱい甘えるんで、甘やかしてください……ね?」
「俺は身内には甘いと、お墨付きだからな。安心して、甘えると良いさ」
「うん。今の青さん……星よりも綺麗なオーラしてます」
「伸ばしても伸ばしても星には届かないけどさ、マノンの手、伸ばせば届く所に俺は居るだろ」
「ずっとですよ?」
「家族って、そういうものだ」
「じゃあ……安心です」
「……そろそろ帰るか。俺達の家に」
「――はい!」
俺はマノンを背負ったまま、公園を抜けて、帰路についた。
いつの日か、今日の事を思い出す日もあるだろう。
自分の選んだ道を後悔するか、そのままで良いかはその時まで分からない。
でも、現在の俺ができるのは、選んだ道の先に何があるかを考える事じゃない。選んだ道を走り続ける事だ。
それだけが、今日を後悔しない唯一の方法とも思える。
背中に居るマノン。
告白は素直に嬉しかった。でも、断った。
だからこそ、もう中途半端では居られない。
やれる事を全てやって、そして――――。
「お兄ちゃーん」
「はいはい。でも、同じ年齢だろ?」
「誕生日順ですよ~」
「そっか。でも、マノン? ちょっと甘え過ぎじゃない?」
「消えたいと思っていた時に、お兄ちゃんに出会ったんです。そして今なんです……甘えちゃ駄目ですか?」
「うっ……まぁ、そう言うなら……良いけどさ」
俺はその瞬間に、理解した。世界の真理の一端に触れたと言っても過言ではないかもしれない。
家に着いてから降ろそうとしたがマノンは離れず、靴を脱ぐときも、部屋に戻る時までくっ付いていた。
「部屋に戻ったけど……」
「もう少しだけー」
「……はいはい」
ただ、俺が弱いのかもしれない。それでも前までなら、ちゃんと言っていた……と思う。
関係が変わってから、どうにも調子が狂う。
――やはり兄は、妹には勝てないみたいだ。
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幸せは人ぞれぞれ……
(それっぽい事を言う奴……)




