表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/159

第117話 星には届かなくとも


お待たせしました~

書いては消して……そもそもここで書くべきか迷って消して……

でも、書こうと思ったので書きました!

異論、批判、賛同の言葉は受け付けてますよ

(´ω`)


よろしくお願いします!


 


 夜中はやはり肌寒い。ただ、崩れるかと思った天気は今の所、大丈夫そうだ。

 風が吹いている訳ではないが、空気が冷たい。

 それでも……外に出て正解だったと思う。窓から視える範囲の夜空よりも、外に出て見上げたこの夜空の方が圧倒的に綺麗だったから。


 大きく光輝く星から小さく薄い光まで、天体に詳しい訳では無いけど、凄く遠くに存在しているという事は知っている。

 果たして、どのくらい遠くにあるのだろうか?

 もしかしたら今現在において、崩壊や誕生している星があるのかもしれないな。


「綺麗ですねぇ……」


 玄関から少し出た道の真ん中で、二人揃って空を見上げている。

 この辺りは住宅街で、ビルの様に高い建物は、ちょっと遠くにあるマンションくらいなもの。

 灯りも消えている家が多くて、それが夜空をより綺麗に見せていた。

 人の声も車の音も聞こえない静寂な空間。

 手を伸ばしても届かないと分かっているのに、ついつい空に向かって手を伸ばしてしまう。


「何を掴もうとしてるんです?」

「いや……何となくだ」


 自分のしていた行動が、どこかセンチメンタル過ぎて少し恥ずかしくなった。

 伸ばした手も、何も掴まぬまま、ゆっくりと元の位置へと戻ってくる。


「公園の方までお散歩にいきませんか?」

「……そうだな。それも良いかも。ベンチもある……暗いけど大丈夫か?」


 月明かりと街灯で真っ暗という程では無いけど、それでも暗い事には変わらない。

 いつも見ている風景さえ、昼と夜じゃ違って見えるもので、曲がり角の先には何も無いと分かっているのに、何かあるのではないかと疑ってしまう。

 恐怖心というのは――いつだって『分からない』から出てくるものだと思っている。

 過ぎ去った過去を後悔する人は居ても、恐れる人はきっと居ない。人がいつだって恐れるのは未来についてだけだ。


 マノンが霊的な曖昧なものを怖がるタイプかは分からないけど……いや、たった今分かった。


「ちょーっと、歩きにくいかな?」

「勘違いしないでくださいよ? 青さんをヤバいオーラから守ってあげてるだけなんですから」

「安っぽいツンデレだなぁ……やっぱり、暗い夜道とか怖い?」

「いえ、それは全然平気ですけど。ただ、あらゆるオーラが霞んだ青さんを視ているので……」

「――マジかよっ!? ちゃんと勘違いしてた!! なんかゴメン!!」


 あらゆるオーラが何なのかは分からないが、思い込みの力が発揮されて、見えない何かが居る……そんな気配を感じる。

 マノンとの距離はゼロ。軽く組んでいた腕を、俺ががっちりと確保した為、今度はマノンの方が歩きにくくなっているみたいだ。

 公園まではそう遠くないけど、その間に何回振り返っただろうか……。


「ほら、着きましたよ?」

「お、おぅ……。何か疲れた……座って休もう」


 二人で背凭(せもた)れのあるベンチに腰かける。

 三人は座れる長さはあるが、真ん中に、二人並んで。


「こんなに星が綺麗なら、碧も起こせば良かったかもな」

「……ですね。でも、それはまた今度で。今はこのキラキラも私が独占です」

「も?」

「も、です」


 俺の視線は遠くの空に固定している。きっとマノンも同じ体勢を取っているだろう。

 しばらく会話が無くなって、二人の間には自然の音だけが流れていた。

 日付は変わって、今日はもう土曜日。日曜日にはマノンは家を去っていく。

 神戸家の総意としては、ずっと居てくれて良い……そういう気持ちだ。

 でも、マノンはそれを伝えても帰って行くのだろう。決めた期間が終わるからだけじゃなく、養護施設の方や一緒に暮らしている子の為にも、きっと。


「日曜日は……何時頃に?」

「まだ特に決めてはいませんけど……」

「荷物は運ぶから」

「はい。ありがとうございます」

「それと、あとは……」


 何か言おうとして、マノンを見た。


 マノンと目が合って、何を言おうとしたかなんて、すぐに忘れた。あまりにも真剣な瞳に、何も言えなくなっていた。


 それまで吹いてなかった風が、髪を揺らす程度に吹き抜ける。


 それまで座っていたマノンが立ち上がり、一歩、二歩と歩いてから振り返った。


 星空を背景に、月明かりに照らされるマノンは、どこか神秘的な雰囲気があった。


 そんなマノンが、ゆっくりと口を開いた――。


「――好きです。青さん、私は青さんが……大好きです」


 マノンの言葉が身体に入って、全身を駆け巡った。

 言葉が最後に辿り着いた心臓が、バクバクと鼓動を強く、速くしている。

 真剣な瞳を向けてくるマノンからは、冗談やドッキリなんて雰囲気は微塵も感じない。


 ひま後輩と付き合った事で、マノンとの間に距離が出来てしまったと思っていた。

 でも、マノンの言葉で、告白で……。

 マノンの瞳はただ真っ直ぐに、気持ちはココロへ伝わってくる。

 甘ったるい雰囲気に流された訳でも、周りに後を押された訳でも、このシチュエーションを準備していた訳でもない。


 だからこそ――告白は真剣なんだと、理解させられた。


 俺は、ひま後輩と付き合っている。そんな言い訳はつかえないし、つかってはいけない。

 いつもヘラヘラしてる様に見えていた、おちゃら系のマノン。

 だからと言って、今の本気のマノンの気持ちに対して、嘘や冗談を言ってはならない。

 真剣には真剣に、答えなければ……そう思った。


 急な事で、頭の中はずっとごちゃごちゃしている。

 心でも嬉しい気持ち、照れ臭い気持ち、他の気持ち。いろいろと混ざっては訳の分からない事になっている。

 それでも俺は立ち上がって、マノンよりも更に数歩分だけ、遠くまで歩いた。

 ただ、勇気がなくて振り返る事はできなかったが……。


「マノン」

「……はい」


 全然出てこない声、喉元で止まっていた言葉を何とか振り絞って名前を呼んだ。

 その瞬間に、自分の中で覚悟が決まったのだろう。

 深呼吸を一回。それだけで、言葉達は出て来てくれた。

 一文字一文字に気持ちを込めて、俺はマノンに伝えた――理由の分からない(あふ)れそうな涙を、ギリギリの所で(こら)えながら。


「――。ごめん。好きな人が居ます。だから、マノンとは付き合えない」

「……ッ。私じゃ、私じゃ駄目なんですか……青……さん」


 その声に心臓が掴まれたぐらいの息苦しさを覚えた。

 痛く、悲しく、苦しいぐらいのマノン声。

 それでも、俺はちゃんと伝えなければと言葉を重ねる。


「マノンと付き合えば、毎日が楽しいと思う。結婚すれば、先の人生が楽しくなる。そう思うよ」

「じゃあ……どうして……」

「そんな世界(みらい)を捨てる覚悟をしてでも、好きになった人が居る」


 静かだからこそ、小さい音も聞こえてくる。

 鼻をすする音、小さく漏れでる涙声。


「……上手くいく保証、なんて、ありませんよ?」


 そうかもしれない。


「今ならまだ……私が、手に、入るんですよ?」


 こんなチャンス、二度と無いのは分かってる。


「後で、な……泣いたって……知りません、よ?」


 その時はひとつ、馬鹿な男だと笑ってやってくれ。


「私はまた、大切と思う、人と……。独りぼっちに、なっちゃうんですか?」


 すすり泣くマノンに駆け寄りたい気持ちが強くなる。

 だが、今の俺はそうしてはならないとも感じていた。

 今の俺にできる事は、自分の気持ちをちゃんと伝える事だけ。

 マノンがそれをどう解釈するかは分からない。どう思うかも分からない。それでも言葉で伝えるしか、できない。

 だから俺は上を向いて、涙が出ないように踏ん張って、今の想いを……マノンへの気持ちを伝える。


「マノンを一人にはしない。してやらない。これは約束だ。マノンを……家族を見捨てる程、俺はひとでなしじゃないから」


 涙声が強くなって、言葉もたどたどしくなり、それでも……言葉が途切れる事は無かった。

 ちゃんと気持ちの全てが伝わったかは分からない。

 でも、マノンからすすり泣く音が止まった。足音で振り返って、俺の方を向いたのが分かった。


「私を…………私は、家族……です、か?」

「あたりまえだ。お前はもう独りじゃない。俺が居る。碧が居る。お母さんも、お父さんも居る。神戸家に、もうマノンは居るんだよ」


 それがもう俺の中では日常になっている。

 マノンはもう、とっくに家族だ。

 独りだなんて言わせない。もう……言わせたくない。


「あ……青さんっ!」

「んぐっ!?」


 ドンッ――衝撃が背中から伝わる。

 マノンが勢いよく突っ込んで来た。そのまま背中から腕の下を通して手を伸ばして、俺をギュッと抱き締めた。


「私……面倒な女です」

「そうか」


「フラれたのに、まだ青さんが好きです」

「マノンとは恋人に……ならない」


「それでも、もう……良いんです。家族って言われたのが私の人生において、一番嬉しい言葉みたいです」

「マノンが家に居ることだって、習慣になって、日常になって、すぐに常識になると思う」


「青さん」

「どうした?」


「……ずっと好き! 大好きです!」

「ありがとう。マノン」


 マノンからの抱き締める力が強くなる。

 掴んだモノを、二度と離さないとでもいうかの様に、強く、強く。気持ちを腕に込めているみたいに。


「家族……家族! 青さんが、家族です!」

「い、犬みたいに顔をグリグリするなよ……」


「えへへ……涙でマーキングです。女を泣かせた罪は重いのです」

「そうかい」


「罪には罰があるものですよ?」

「減刑を求めたいのですけど?」


「しかたないですね。なら、青さんの罰は『一生、私に優しくする事』。これで手を打ちますよ」

「……甘んじて受け入れます」


「じゃあさっそく、ナデナデして慰めてください……お兄ちゃん」

「お、お兄ちゃん!?」


 急な呼び方の変化に驚きつつも、頑張って手をマノンの頭まで伸ばそうとしてみたが……どうやら俺の身体はそこまで柔らかくは無いみたいだった。

 背中の真ん中にあるマノンの頭に手が届かない。


「と、届かないんだけど……」

「青さん、踏ん張ってくださいね……よいっしょ!」

「――っとと」


 俺の胴体にあった手を首筋に移動させたマノンは、そのまま俺に飛び乗ってきた。

 おんぶの格好。でもたしかに、これなら頭はすぐ近くにあるし、手は届く。


「青さーん。お兄ちゃーん」

「お、おう……」


「次は私をフッた罰ですがー……」

「それも!? あー、いや……はいはい。甘んじて」


「これからいっぱい甘えるんで、甘やかしてください……ね?」

「俺は身内には甘いと、お墨付きだからな。安心して、甘えると良いさ」


「うん。今の青さん……星よりも綺麗なオーラしてます」

「伸ばしても伸ばしても星には届かないけどさ、マノンの手、伸ばせば届く所に俺は居るだろ」


「ずっとですよ?」

「家族って、そういうものだ」


「じゃあ……安心です」

「……そろそろ帰るか。俺達の家に」


「――はい!」


 俺はマノンを背負ったまま、公園を抜けて、帰路についた。

 いつの日か、今日の事を思い出す日もあるだろう。

 自分の選んだ道を後悔するか、そのままで良いかはその時まで分からない。

 でも、現在(いま)の俺ができるのは、選んだ道の先に何があるかを考える事じゃない。選んだ道を走り続ける事だ。

 それだけが、今日を後悔しない唯一の方法とも思える。


 背中に居るマノン。

 告白は素直に嬉しかった。でも、断った。

 だからこそ、もう中途半端では居られない。

 やれる事を全てやって、そして――――。


「お兄ちゃーん」

「はいはい。でも、同じ年齢だろ?」

「誕生日順ですよ~」

「そっか。でも、マノン? ちょっと甘え過ぎじゃない?」

「消えたいと思っていた時に、お兄ちゃんに出会ったんです。そして今なんです……甘えちゃ駄目ですか?」

「うっ……まぁ、そう言うなら……良いけどさ」


 俺はその瞬間に、理解した。世界の真理の一端に触れたと言っても過言ではないかもしれない。

 家に着いてから降ろそうとしたがマノンは離れず、靴を脱ぐときも、部屋に戻る時までくっ付いていた。


「部屋に戻ったけど……」

「もう少しだけー」

「……はいはい」


 ただ、俺が弱いのかもしれない。それでも前までなら、ちゃんと言っていた……と思う。


 関係が変わってから、どうにも調子が狂う。

 ――やはり兄は、妹には勝てないみたいだ。




誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


幸せは人ぞれぞれ……

(それっぽい事を言う奴……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《更新中の作品です!!!》

転移物のハイファンタジーですよ!息抜きです(´ω`) どうぞ、よろしくです! 『アイテムチートな錬金術師』

2020/1/11~。新作ラブコメです! 『非公式交流クラブ~潜むギャップと恋心~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ