第110話 米良先生の暇潰し
お待たせしました!
『宇野宮さん』を1話から改稿して、続きを書こうと思うのですよ
(更新はこの作品を優先させますが)
よろしくお願いします!
「ふむふむ……その会話をしていたのが昨日一昨日くらいだったと」
「えぇ、たまたま私の席の近くで話されておりまして……」
「そっかぁ~」
予想ができない訳じゃない。
水曜日の午後にあった体育祭関連の、競技毎による移動練習で俺が騎馬戦に出ない事を知ったのだろう。
それを、俺が逃げたとか不戦勝とか思ったのだろうな。
とは言え……そんなすぐに告白できる行動力が凄いと思うのだが。
だが、分からない事もある。
紅亜さんと付き合えたのなら、勝ち誇った感じで報告しに来るのも分かる。失敗したのなら、来ないだろう。
なのに彼は、失敗した上でやって来て……ひま後輩との仲の良さを問うてきた。
俺が紅亜さんを諦めてひま後輩と仲良くする事にしたのかを確認する為に来たのか……それとも。
「やはり新山先輩はおモテになるのですわね」
「ひま後輩だって男子人気は凄いんだぞ?」
「先輩は男子ですわよね?」
「何その確認!? 俺が女々し過ぎてもう分からない的な!?」
「い、いえ! そこまで“は”いってませんわ!」
なんか、ひま後輩の本音が少し漏れてた気がした。
「まぁ……良いか。紅亜さんは学年問わずにモテるみたいだぞ。ひま後輩は一年生を中心に人気が出てきているっぽい」
「そうですか……人気が出ても仕方ないのですが」
「ひま後輩、人気があってもボッチだもんね」
「青先輩には言われたくないのですが……」
人気があっても近寄り難い雰囲気からボッチのひま後輩。
俺の場合は嫉妬からきて避けられているだけで、ギリギリボッチではない。
どちらかと言うとひま後輩の方がマシに思えるな。ボッチだけど将来性のあるボッチだ。
ただ、俺は現状が割りと嫌いではない。友達が居ない訳ではないし、それに――
「何より、俺にはひま後輩だって居るからな! ボッチじゃない」
「……っ!! な、なら! 私も……一人じゃありませんでしてのことよ…………ですわぁ!」
「なんか、語尾がおかしくなってたぞ? あと、顔赤い」
「何でもないですわ! 青……青先輩がいきなり言うから!」
たしかに一人じゃないというのは嬉しい事かもしれない。
こんな風にひま後輩が素直に反応してくれる分、そのありがたみがより鮮明に伝わってくる。
「ははっ」
「何笑ってますの!? もう、六時間目が始まりますから行きますわよ!」
「始まりも勝手に始まってくれれば楽なのにな……」
「あっ、青先輩の評判ですが……最悪でしたわよ?」
「知ってた」
評判が悪いのは元々だし、絶賛だだ下がり中なのも分かっていたけど、最悪か。
成績も見た目も普通で通してきたけど、ついに人間性が最悪になってしまったか……それだけ聞くとクズ人間みたいでちょっと嫌だな。
次の時間くらいは草むしりにでも参加してみるか?
「メンタル強いと、私は評価してますわ」
「うん。それ、時と場合によっては悪評だから」
六時間目の挨拶の為に、集合が掛けられるであろう場所までひま後輩と歩いて行く。
ただ、挨拶が終わればすぐに戻るつもりだ。
あまり長いすると、自意識過剰かもしれないが、女子からの視線がツラいからな。
◇◇◇
「神戸君、キミは何をしてるのかなぁ?」
「米良先生、見ての通りですよ」
「分からないから聞いてるのよぉ~?」
「いや、本当に見たままの『椅子草むしり』です」
「逆に辛くないの、それぇ?」
椅子に座りながら、手の届く範囲だけ草をむしるという『椅子草むしり』は体勢がちょっとキツいし、近くに草が無ければ何もできないという欠陥がある。
午後で眠たくなってくる時間帯。米良先生も眠たいのか、語尾が伸び始めていた。
「いや、もうこの辺に抜く草がないので止めますが……」
「そうしなさい~。変だからねぇ?」
「眠たいんですか?」
「退屈だからねぇ」
保健室の先生とて教員。退屈発言は如何なものだろうか……全面的に賛同なのだが。
「さっき、巳良乃さんが足挫いたって言って来てましたよ。嘘でしたが」
「嘘……ね。ふぅん? 面白そうねぇ……神戸君一人なのにもちょっと飽き飽きしてた所だし、呼んでみようかしら」
「えぇ……酷い言われようなんですが。でも、怪我したみたいではなさそうなので、呼ばなくて大丈夫だと思いますよ」
「神戸君には嘘か本当か判んないでしょう? 本当に痛めてたら大事になるのよぉ?」
本当なら大事になるかもしれないが、のののは普通に歩いて戻って行った。
顔には出ないのののだから本当かどうか、隠されたら分からないのもたしかだが……大丈夫だと思いたい。というか、今はちょっと気まずいから呼んで欲しくないだけだが……。
「神戸君、ちょっと呼んできて?」
「お断りです。女子が集まっている空間に入っていくのは難しいので」
「女の子なら恋バナとか聞けて相談にも乗れるし、退屈しないんだけどなぁ」
「男子の恋バナじゃ駄目なんですか?」
「駄目よぉ~。大人ならまだしも男の子の恋バナってドキドキしないもの」
「そ、そうですか……」
米良先生が言うのならそうなのだろうな……。
少し考え込んだ後に、米良先生が立ち上がった。
「面白そうな子でも、見繕って呼んでくるわねぇ~」
「じゃあ、俺は離れてた方が良いですよね? 女子と恋バナするんでしたら」
「うーん……大丈夫よぉ? 誰が好きとか直接的な事は聞かない様にするから。そうねぇ、神戸君も女子の考えとか憧れを知れる良い機会かもしれないわよぉ?」
「はぁ……そんなもんですかね?」
決して速くない歩みで、草むしりしている女子達の方に米良先生は進んで行く。
女子を見繕ってくるという言葉から、おそらく複数人を連れて来るつもりなのだろう。
俺が心配なのは、その子達が俺と同じ場所に居る事でサボり認定をされてしまうのではないか……という事だ。
先生がどんな名目で連れて来るのかは分からないが、事情を知らない人達からしたら、関係なくサボっていると見られるだろうしな。
「はぁー……眠くなってくるなぁ。ホントに」
先生が戻ってくるまで、休み時間と同じ様にダラっとした姿勢で空を仰ぎ見ることにした。
波乱な生活は五月までだと思っていた俺をぶん殴るかの様に、米良先生は女の子達を連れて戻ってきた。
なぜ、そのチョイスだったのかは知らない。
ただ……先生はセクシーさだけじゃなく、『何か』を持ってる側の人間なのだろうと、その瞬間に思った。
◇◇
「ほら、神戸君。名目上は『怪我した子達への迅速な処置の練習』として来て貰ったんだからぁ……ちゃんと座ってなきゃ駄目よぉ?」
「アッ、ハイ!」
「じゃあ、一応はやっておきましょうか。巳良乃さんが足を挫いたとしますねぇ?」
「アッ、ハイ!」
「神戸君は先生が巳良乃さんの足を調べてる間に、テーピングの準備をしておいてくださいねぇ。場合によっては湿布にするからその用意も~」
「アッ……ハイ!」
とりあえず俺と先生の分のパイプ椅子しか用意していなかったのに、今や六つの椅子が置いてあった。
二つはそのまま俺と先生の分。残り四つはというと……。
「先生、私は足を擦りむきました」
「私は、そうですねぇ……打撲って事にしておきますかね!」
「えっと……えっと……熱中症……ですわ」
順番に紅亜さん。マノン。ひま後輩がそう言った。
その三人に加え、最初の足を挫いた設定ののののを合わせた四人が、米良先生によって連れて来られた女子生徒だ。
名目上とはいえ、それぞれの治療の流れはやっておくみたいで、俺の為に先生は言っているのにも関わらず、俺はひたすら返事をするだけの存在となっていた。
「ま、簡単に言えばこんな感じで先生の言った物を取ってくれればいいわぁ~」
「アッ、ハイ!」
「そればっかねぇ……可愛い子を選んできたのが逆効果だったのかしらぁ?」
先生の選んだ基準に納得はするものの……納得できない何かがあるのもたしかで、俺は助けを求める様にひま後輩を見た。
だが、そのひま後輩が一番気まずそうな顔をして、目も泳いでいた。
ひま後輩の予定にこんなイベントは無かったに違いない。というか、こんなアクシデントを想像するのは流石のひま後輩と言えども、困難な事だろう。
「まぁ、神戸君はオマケみたいなものだから良いわね」
「先生からはアダルティーなオーラを感じますね……大人の女性……ゴクリ」
「紅亜ちゃんはたまに保健室に来るから知ってるけど……マノンちゃんとしっかり話すのは初めてかしらね? ののちゃんも向日葵ちゃんもほとんど保健室には来ないものね。良いことだけどね」
咳払いをした米良先生。
そして、皆を見渡しながら、男女共に魅了してしまう凶悪なセクシー微笑みを繰り出した。
マノンなんかは、米良先生の仕草に「おぉ……」と感嘆の声を漏らしていた。
「さ、皆の好みでも聞いていこうかしら?」
俺やひま後輩の気持ちを無視して、米良先生の、米良先生による、米良先生の為の、暇潰し恋バナ大会が……幕を上げてしまった。
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