第109話 だ、誰だね君は!?
お待たせしました!
よろしくお願いします!٩(๑'﹏')و
「遅いぞ、青!」
「あっ、そうだった!! サンキュー勝也」
次の時間割は体操服に着替えて外だと言うのに、すっかり忘れてゆっくりしていた。
勝也が俺の体操服を持って教室の外で待っててくれなかったら完全な遅刻となっていたかもしれない。今でさえギリギリ感はある。
「最近、仲良いのな?」
「まぁ……そうだな。勝也なら大丈夫か?」
「ん? 何がだ?」
「いや、ちょっとな。かくかくしかじかで、付き合ってるんよ今」
「は……はぁ!? ちょ、何だよ! かくかくしかじかって! そこだろうよ、大事なとこ!!」
「かくかくしかじかは……まぁ、歩きながら話そう」
ひま後輩に後で説明した事を言わないといけないが、勝也に事情を説明した。
それを静かに聞いた勝也は、似合わない思案顔になっていた。
これは、勝也の知ってる情報からいきなりの急展開だから困っているだけなのかもしれない。
割りと話しているけど、何でも話している訳じゃないから仕方ないんだけど。
「なぁ、青……」
「なんだ?」
「いや……ちょっと灰沢さんに確かめたい事があるんだけど」
「……あ、あぁ! はいはい、別に遠慮しなくて大丈夫だぞ」
体操服に着替えて急いでグラウンドに向かうと、まだ先生も来ていないし整列をしている訳でもなく、なんとかセーフだった。
同じ様にギリギリまで時間を使っていたひま後輩を探すと、すぐに見付けられた。
一人ポツンと佇んでいるのは逆に目立つ。ただでさえ目立つのだから、二重に目立っていた。
「勝也、あそこに居たぞ」
「きめ……はえーな。先生はまだだよな? ちょっと聞いてくるわ」
「おい、今キモいとか言おうとしたよな? なぁ、ちょっと!?」
走ってく勝也は止まらず進む。
すぐに見付けたのがそこまでキモいとでも言うのか。解せない言われ様だな。
俺は自分が並ぶ辺りから後方の、空いてるスペースに向かう。人が少ない所に居ることで、ひそひそ話を聞かない為にだ。
どうせすぐに、集合が掛かるだろうしな。
「思ったそばからだな」
数十秒前にチャイムが鳴ってから少ししてから、先生がタタッと走ってくる。
それに合わせて、皆が自分の並ぶ場所へと動き出した。
「はい、えー。体育祭がいよいよ来週に迫ってますが、予定として、来週の金曜日は前日の予行練習として一日時間を使う事になってます。それで、次の水曜日の午後は各組で団結力を高める時間として予定してますので、いろいろな準備をする時間が今日しかありません」
根元先生の話を聞いて簡単に纏めると、手の空いてる男子はテント運びやら、道具を運ぶ作業やその他。手の空いてる女子はグラウンドの草むしり(二回目)をするという事らしい。
何かの係りや仕事がある生徒は、その作業をすればいいとのことだ。
俺は保健係としての仕事があるから……あるのかは分からないけど、そっちに行けば良いということだな。
「三年と二年の男子は体育倉庫からテントを運び出すように。一年は私について来てください、作業を手伝って貰います。女子はグループに分かれて……袋は山田先生が持ってきているので取りにいってください。では、始め!」
根元先生の話が終わり、三年と二年の男子はゾロゾロと歩き出し、一年男子は根元先生について行き、どこかへと去っていった。
流れから離れる様に俺は一人、米良先生の元へと移動した。
「先生」
「あぁ、神戸君ね。はい、特にやることなんて無いわよ?」
「えぇ!? 困ります!」
「困るも何も……そうねぇ。じゃあ、応急処置の練習でもしておく?」
「了解です! 先生のサポートとして頑張りますよ!」
「サボる口実でここへ来たのでしょう? 別に張り切らなくてもいいわよぉ。私、暑苦しいのは得意じゃないの」
思惑が完全にバレていた。だが、さすが米良先生と言うべきか、大雑把とセクシーさにパラメーターが振りきっている。
眼鏡の奥にある気だるげな瞳から、だんだん上がってきた気温を嫌っているのが伝わってくる。
「そうそう神戸君? 当日は、午前中の二種目に出るのよね?」
「あ、はい! 午前中の最初と最後の競技ですね」
「そう……分かったわ。保健係が怪我しちゃ駄目よ?」
「先生……日陰に行きますか?」
「そうね。ここは少し暑いわね……」
何だか今日はいつもに増してやる気を感じられない。養護教諭としてそれで良いのだろうか……。
とりあえずパイプ椅子を運んで、日陰に移動する。
だが、応急処置の練習と言っていたが道具も何もない。テーピングはこの前やったから大丈夫だが、何もなくて大丈夫なのだろうか?
「神戸君、道具が無いからやめましょうか……」
「大丈夫じゃなかったか……。先生、保健室まで取りに行きましょう?」
「取って来て貰えるかしら?」
「先生の頼みならもちろん、オッケーですが……さすがに駄目でしょう」
「そうねぇ~。じゃあ、少し行ってくるから待っておきなさいよ?」
「分かりました。でも……帰って来てくださいよ? 本当にサボりになるのは周囲の目が怖いので」
先生を送りだし、座ったまま草むしりをしている皆を見ていると、罪悪感が生まれてきた。
向こうから見て「なんなんアイツ」と思っている女子も少なくはないだろう。
だが、残念なことに「何かするか……」とはならないのが神戸青だ。女子に混じって草むしりするくらいなら男子の方の作業をするし、男子の作業をするくらいなら何もしない方を選ぶ。
つまるところ、単にやる気がない。……米良先生の事をどうこう言える俺ではなかったな。
先生が保健係へ向けて歩き出してから十分は経過しただろうか、まだ帰ってこない。
「保健室から出たくなくなったのか……いや、でもさすがに」
先生の安否というよりは、自分の保身の為に先生を心配している。五分くらいなら往復だし、まだ時間が掛かるのだろうと思えるが、十分越えてくると、もしやサボったのか? と疑いたくなってくる。
「足挫いた」
不意に聞こえた声におっかなびっくり振り返ると、いつの間に来たのか、のののが背後に立っていた。
声色、表情、草むしりという作業からするに、足を挫いたというのは十中八九は嘘だろう。
だが、仮に本当だとしたら一大事である。俺は米良先生の座っていたパイプ椅子に座る様に促した。
「ののの……サボりは駄目だぞ?」
「足挫いた」
「とは言ってもな……先生が道具を取りに行ったっきり戻って来なくてな。ちょっと、行って……」
「痛いのに」
「たしかに、患者を置いていくのはどうかと思うけど、湿布とか取りに行かないとだろ?」
「神戸……さ――ううん。やっぱ、戻る」
何かを言いかけたのののだが、座っていた椅子からスッと立ち上がり、草むしりをしていた場所へと戻って行った。
何の違和感もなく歩くのののだが、それについて言及はしないでおこう。
結局、何をしに来たのか分からなかった。でも、のののの事だから何かの意味があったんだとは思う。自分の為か誰かの為かも分からないけど。
「ごめんね、待たせちゃったかしら?」
「いえ、まぁ……大丈夫ですけど、先生? 道具はどこに?」
「あらぁ~? おかしいわねぇ。たしか、机の上に……神戸君、お願い出来るかしらぁ?」
マジで何しに行ってたんだと、同級生だったらツッコミを入れている所だが、米良先生は先生である。
俺は言いたい事をグッと我慢して、保健室へとダッシュした。
机の上に用意されていたプラスチックの透明なケースを持って、また米良先生の下へ戻る。ここまでの往復、およそ三分である。
◇◇◇
先生とグダグタでゆっくりな感じで五時間目の時間を過ごしていたら、女子だけではなく男子からのヘイトも集めてしまったかもしれない。
組み立て式テントの部品を運んでいる男子を、座りながら米良先生と見ていたのを、見られていたからな。
つまり「深淵を覗く時……」という状況だ。
「先生、カウンセリングとかしてましたよね?」
「嫌よ? 神戸君は精神ケアの必要ないでしょう?」
「俺だって傷付く事だってあるんですよ?」
「先生のカウンセリングは、男子からハブられてる解決法を教えるんじゃなくて……気持ちを前向きにさせることよ? 神戸君は前向きではないけど、後向きって訳でもないじゃない?」
「なる……ほど? でも、それなら“嫌よ”じゃなくて“無理よ”って言うんじゃ……?」
「細かいこと言ってちゃ駄目よ~? 面倒事が増えることになるわ」
ただ、面倒臭いと思っただけなんですね。分かりました。
俺も自分はズボラな方だと思っていたけど、米良先生には敵わない。イメージではあるが、たぶん……先生の部屋は散らかってるんだろうな。服とか脱ぎっぱなしになってそうだ。
そうこう話している間に、五時間目終了のチャイムが鳴り響いた。
話していろいろして話して終わり。多少、嫌われるというのが付くが、とても楽で良い時間だった。
「チャイムが鳴ったわねぇ……このまま休み時間になるみたいよ?」
「行くとことか無いんで、ここに居て良いですか?」
「まぁ……私は一度戻るけど、好きにして良いわよ」
……と、許可が出たという事で、椅子に座って休み時間も待機することにした。
背もたれに体を預けて、空を仰ぎ見る。
口が勝手に空いてしまうが、今は空の青さと雲の白さだけに集中したい気分だった。
陽気な昼下がり、来訪者を告げる足音が聞こえて来た。
まぁ、今の俺に近付いて来る人物なんて限りに限られている。
ギリギリまで声を掛けない事なんかも加味してみると、確実ではないが、一人に絞れる感じもある。
「よ~っ」
「おい、お前に言いたい事があんだけどっ!」
「……はっ?」
予想と全く違う声に、慌てて状態を起こす。
「――誰っ!?」
「ふざけてんのかっ!?」
「たしか……はや、はや……」
「森だっ!」
何故? というよりは、何しに? と言いたくなる人物がそこには居た。
たしか、陸上部の一年生で……そういえば、騎馬戦で戦う宣告をされた様な気がする。
それを言いに来たのだろうか? 謝るつもりは無いけど、彼の文句を聞く準備ならできた。
「えっと……何しに?」
「なんか、灰沢さんと仲良いらしいっすね?」
「まぁ、悪くは無いぞ」
「新山先輩はどうしたんだよ!」
「どうしたって……どうもしてないけど?」
「ちっ……」
いや、何が言いたいのだろうか彼は。
これは完全に、被害者面してもいい筈だ。いきなりのイチャモンに戸惑う事しかできない。
そして、俺が困ってるとやはり、彼女が助けてくれる。
偶然か必然かは分からないが、来てくれるのだ。
「青先輩? どうかされました? たしかあなたは……」
「は、灰沢さん!? いや、何でもないっすよ! はははっ……ではでは!」
森に帰って……間違えた。森が帰って行く。ダッシュで。
前も似た去り際を見た気がするが、今はどうでもいいか。
「助かったよ、ひま後輩。ありがとう」
「あの人と知り合いですの?」
「いや……どうだろ?」
「あー……ですが、あの方も新山先輩にフラれたのですよね。男子が教室で『玉砕数が増えた』とか『お前でも無理なら……』みたいに話していましたわ」
おい、森君? ちょっと約束が違うんじゃない!?
俺を倒して告白すると宣言していたアレはなんだったんだ……?
「ひま後輩、そこんとこもう少し詳しく!」
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