第108話 無敵ですわね
お待たせしました!
数日書かないだけで前話の内容を忘れる作者ですぞ!
今年はまだ、おみくじを引いてないですが、きっと大吉なので大吉と思って過ごしてます。
では、短めですがよろしくお願いします……(スリスリ)
「到着……です!」
「なるほど……たしかにここなら人は通らないかもしれませんわね」
校舎裏のベンチ。教室や食堂でお昼を食べるのがほとんどだと考えると、誰も来そうにないスポットだ。
「はぁ~、今日は風が心地良いねぇ」
「たしかにそうですわね……座りましょうか」
二人でベンチに腰掛け、ひま後輩が間に弁当を広げていく。
思ったより多くない……? と思っていたけと、実際に多かった。
タッパーに詰められたおかずの種類の多さ、主食となるサンドイッチの種類も豊富だった。
彩りの良さも相まって、お腹が空いてくる。
「ピクニックみたいな……どれも美味しそうだね」
「自信はありますわ! 青先輩、どうぞ召し上がりください」
「ありがとう。いただきます……っと」
割り箸を渡されたが、まずはサンドイッチから手に取った。
カツサンドにツナにタマゴ、ハムレタスなんかもある。
「ま、迷うなぁ……これは」
「遠慮せずに食べてくださいませ。沢山ありますから」
「そうだな。じゃあ順に食べていくよ」
サンドイッチをもぐもぐ……美味い。
唐揚げをもぐもぐ……美味い。
サラダをもぐもぐ……美味い……?
魚のフライ……もぐもぐ……美味い……。
何かがおかしい。
サラダなんて誰がやってもほとんど変わらない筈なのに、何故かいつもより美味しく感じる。
トマトなんてどちらかと言えば嫌いな部類なのに、それすら美味しく感じてしまう。
これが、ひま後輩マジックというやつなのか……。
「お口に合いますでしょうか?」
「なんか……ゴメン。語彙力が無くて美味しいしか言えない……けど、うん。とっても美味しいよ」
「良かったですわ」
ひま後輩は食べる時間より、食べてる俺を見ている方が多い様に思えた。
別に面白くないだろうに、ずっとニコニコしている。
なんだか、自分からひま後輩の方を向けなくなって、正面を向きながら変な体勢で弁当を食べ進める事になっていた。
「ふぅ……。お茶も用意してるのはさすがだねぇ」
「日頃のお礼ですもの。準備は万端ですわ」
「お礼って……それならむしろ、俺がひま後輩になにかしてあげなきゃなぁ~って思っていたのに」
「な、何でですの?」
「いや、それはほら、俺の方が助けて貰ってるじゃん?」
「いえいえ! 私の方が助かってますわ! 青先輩が居るだけで私は助かってるのですから!」
居るだけで助かるって、いつの間にひま後輩の中でそこまで崇められてるのかは不明だ。……が、やっぱり俺の方が助けられてるのは事実だろう。
「何かして欲しい事とかあったら、遠慮なく何でも言ってね?」
「なん……でも?」
「そこだけピックアップされても困るんだけど……俺に可能な範囲でお願いしたい、かな?」
ひま後輩に何かしてあげたい気持ちがあって、でも、何をしたら喜んで貰えるかは分からない。
なら、いつもの作戦だ。本人にして欲しい事を教えてもらう。
この美味しいお弁当に釣り合う事を俺が出来るのかは別として、可能な限り……言葉の綾じゃなく、本当に可能な限りの事はしてあげようと思っている。
ひま後輩の頼み、そのひとつとて叶えてあげれないとなると、“ただの青”なら良いのだが、“青先輩”としては失格だからな。
「ひ、ひとつだけ……ですか?」
「それも、可能な範囲ならということで」
「えー、悩みますね。悩みますわ。悩みますの」
正面を向いて考え出したひま後輩に、これはチャンスと、ここぞとばかりに横を向いてお弁当を食べ進める。
どんな要求をされる、してくるのかに少し興味がある。
何かと意外性のあるひま後輩だし、予想外のお願いにも驚かない様にしておかなければ。
唐揚げを頬張りながら、逆の立場で、俺がひま後輩にお願いできるとしたらどんなお願いをするだろうか……と考えてみた。
何か料理を作って欲しければ店に行けばいいし、手を繋ぎたいならそう言えばひま後輩は繋いでくれそう。
改まってお願いするなら……と考えると、たしかに悩ましいかな。
「難しく考えなくていいよ?」
そう伝えてみたものの、当のひま後輩はずっと悩んでいる。
「えーっと、えーっと……そうですわ! お返ししますよ!」
「ん、んんん?」
お返しが何なのか分からなかったが、ひま後輩がサンドイッチを手に取り、俺に差し出してきたことで理解できた。
昨日の『あーん』のお返しがしたかったのだと。
だが、これは今の『神戸青の危険と思う行為ランキング』の上位となっている。
「た、食べて……くださらない?」
「食べる! 食べるよ!? あ、あーん……」
「うふふ、食べさせる側も良いですわね」
俺は周囲を確認してからホッと胸を撫で下ろした。
それからひま後輩に、今の行為の危険性と現状を伝えておいた。
ひま後輩に直接聞こうとした人物は居なかったのか、やはり、この事については知らなかったらしい。
俺達は言うなれば他の生徒から距離を置かれてるペアだ。俺とひま後輩ではニュアンスが変わってくるが、情報戦にとことん弱い二人と言える。
「まぁ、あれだよね。『うちはうち、よそはよそ』そんな感じで良いのかもね」
「ですわ。他の方を気にしてても仕方ありませんもの。私が居て、青先輩が居る……それだけで贅沢ですわ」
微笑んでみせたその表情。本気で言っているけど、本気で思っているという訳ではなさそうだった。
ひま後輩は自分で思っているより、もっと社交的だと俺は思っている。
だが、無責任に「友達作れば?」なんて言えない。
ひま後輩は最初に少し失敗して、今も周囲の期待に応えようとして本来進むはずだった道とは違う、別の道を進んでしまった。
そんな事を考えてもどうしようもないのは分かってるが……“もしも”というやつを考えてしまう。
ひま後輩が俺と出会ったこと……それを、良かったか悪かったか判断するには時間が要る。失敗だったと思うかどうか、時間が必要だろう。
この先、笑わせる事もあれば怒らせてしまう事だってあるはずだ。
友達作りに関しては、無責任に何かを言うつもりは無い。言える筈もない。
……だからせめて、ひま後輩に対しては責任を取れる言動を心掛けないといけないのだ。
なら俺は、俺のできる事は――。
「ひま後輩の隣に居る今くらいはさ、青先輩は贅沢なんかじゃなくて普通に思わせてみせるよ。その上で、約束する。ひま後輩の手助けになるって」
小指を出すと、自然な流れでひま後輩も小指を出してくる。
急な俺の宣言に驚いた表情をしているが、構わずに小指を絡めて約束を唱えた。
「私は……満足ですのに。私より私を考えてくださるのですね」
「それは、お互い様でしょうに。俺達は“何者”だ、ひま後輩」
「味方ですわ」
「そ、味方。それに、今は恋人だ。無敵だろ?」
一生味方。一生なんて言えば、子供の言う戯れ言と捉えられるかもしれない。でも俺は、これから先もひま後輩の味方であると毎日思うだろう。
――ただ、恋人は期間限定だ。
つまり、いずれは訪れる別れというのが存在している。
恋人から戻る瞬間は必ずくる。でも今は、それから目を逸らし、先送りにし、ただ隣に座って笑っていようと思った。
「えぇ、無敵ですわね」
「ひま後輩の私欲、押し付けてくれて良いからな」
「は、はいっ! 先輩……甘えますよ? 覚悟してくださいましね!!」
ひま後輩が甘えるなんて想像が難しいけど、ドンと来いだ。
残っているお弁当を食べきって、昼休み終了五分前のチャイムが鳴るまで、ベンチでまったりと過ごした。
次の授業が体育祭関連というのをすっかり忘れて。
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします……(スリスリ)
今年は、
手をハエの様にこするでお馴染みの作者として、『(スリスリ)』を多用していこうかと今思いつきました。
明日には使ってない可能性すらある(´ω`)
では、本年もよろしくお願いします……(スリスリ)




