第11話 勝也……出来る男だな
よろしくお願いします!
「青、今日も食堂か?」
「まぁ、弁当忘れたから仕方なくな~」
今日は寝坊したからな……これは、お母さんの事を馬鹿に出来ないなぁ~。
「じゃあ、一緒に行こうぜ! 俺も今日は学食にしようと思ってた所だし」
珍しい。勝也はいつも購買で惣菜パンを買うか弁当の筈だ。だが、これで一人で食べるなんて事にならなくて助かった。
「神戸、私も」
どうやら、のののも今日は学食のようで俺達は一緒に教室を出ることにした。したのだが……。
「青さん! どこに行くんですか!? 一緒にお弁当を食べようと言ったではありませんか!」
「そんな話は聞いていない。俺達は学食に行く所だよ」
言ってないではありませんか! ……というか、転入生なら引っ張り蛸だろうに。
「学食! そこは弁当を持っていって食べてもいいんですか?」
そういえばたまにそんな人も見掛けるな……友達が学食にしてる時についていって一緒に食べてる人。混んでる日は一番迷惑がられるからあんまりやる人は居ないけど。
「まぁ、駄目って訳じゃないとは思うけど?」
「良かった~みんなで早く行きましょう!」
まさかとは思うが……ついてくるつもりか?俺はまぁ、良い。勝也も大丈夫だろう。でも……。
「……目立つ」
「そんなぁ~ののさん、イジワル言わないでくださいよぉ~」
のののは嫌がるだろうな。すこぶる嫌そうな顔をしている。だが、今の話題は転入生だけじゃない。
「すまん、ののの……多分、俺も今は悪目立ってるから我慢しておくれ」
「分かった。気にしない」
「扱いが違いませんか!? でも、許可が出たならついて行きますけどね!」
谷園を加えた俺達四人は食堂へと足を運んだ。
◇◇◇
やはり学食に行くまでも転校生の谷園は目立ったし、食堂に近付けば近付くほど、昨日の俺と紅亜さんの食堂でのやり取りが広まっているのか、俺への視線もそこそこあった――が、一番の視線を集めているのは“紅亜”さんだ。
勝也が先頭を歩いていた俺にそっと近付いて小声で話し掛けてきた。
“青、いつの間に居たのか……気付いたか?”
“いや、人の視線と話し声が後ろの方に集中してるのに気付いて振り向いたら居たって感じだ”
先頭を俺と勝也が歩いていた為、後ろにさりげなく紛れられたら気付けなかった。
“一つ前の休み時間に、昨日の……食堂の事について知ってる奴からたまたま話を聞いたんだけどさ、その……何? まぁ、気にするな?”
“うん。頑張って励まそうとしてくれた気持ちだけは受け取っておくけど、どうすんの? 紅亜さん、ついて来てる……よね?”
どういう理由でついて来ているのかは分からないけど……ちょっと、気まずいかなぁ。
“今は谷園さんと話してるから大丈夫だとは――巳良乃さんが大丈夫じゃない……のか、これは? 顔が下を向いてるし”
勝也に言われて俺と勝也の後ろ歩いているのののを見てみると、出来るだけ目立たない様に下を向いて、頭が俺の背中にくっつきそうな距離感で隠れるように歩いていた。
「ののの、せめて顔をあげないと危ないぞ?」
「大丈夫。神戸の後ろに居るから」
大丈夫……なのかな? でも、目立たない事に関していえば確かに目立っていない。身長差もあるし、目立つ奴等もいるしな。
「急に止まるかも知れないぞ?」
「平気。ぶつかるのが神戸なら」
“と、言うことでのののは大丈夫みたいだぞ?”
“全然分からないけど、青がそういうなら構わんさ。……青と新山さんが別れてから四日くらいか? 二人の間に険悪な空気ってのは流れてないみたいだな?”
険悪……では、確かに無い。かと言って、ほのぼのとしている訳でもないけど。俺にこの感じを上手く表現するのはちょっと難しいかな。
“そう……だね。険悪ならお互いに無視すればそれでいいんだけど……そうじゃない場合は、どう接するのが正解か分かんなくて少し困ってる感ある”
“あるあるだな。別に友達的な感じで良いんじゃないか? 別れたといっても相手の全てを否定的に見る必要もないしな。ただの新山紅亜さんとして接していれば良くないか?”
なるほど。元カノとかそういうフィルターを通さずにただの紅亜さん、として接すればいいのか。過去は過去として。今すぐに割り切れる訳ではないが……現在は現在として向き合う方が良いのだろうな。
“ありがとう勝也。普通にするって……難しいな、どうやら色々と意識し過ぎていたみたいだ”
“おう”
「青さん! 円城寺さん! 何をコソコソ話しているんですか~!?」
「べ、別に? 何を食うかって話だぞ。な、勝也?」
「そうそう。で、青は決まったのか?もうすぐ食堂に着いちまうぞ?」
全然決まってない……どうするかな? うーん……そうだ、あれにするか!
「迷った時は日替わりかな、やっぱり」
「良いねぇ~、俺もそれにすっかな? 青、俺が席を確保しておくから俺の分も頼めるか?」
これだけ人数が居るなら、役割を分けた方が効率的か。
「了解だ。席を四つ……じゃないか。五つ頼んだ」
勝也は俺に日替わり定食の代金を渡すと、先に席の確保に向かった。それに谷園もついて行き、俺とのののと紅亜さんは食券を買う為に券売機の列に並ぶ事にした。というか、紅亜さんが一緒に居た理由が本当に謎なんだけど……。多分、谷園と仲良くなったからとか、そんな理由だとは思うんだけどさ。
俺達の順番が回って来て、俺は日替わり定食を二つ購入した。のののは今日もうどんにするみたいで、紅亜さんも日替わり定食を買っていた。食堂のオバちゃんに食券を渡して料理を待っているが――――ここまで誰も喋らずに、ひたすら無言である。
のののは元からあまり話す方ではないし、俺も内弁慶気味だから人の多く行き交ってる場所では大人しい方だ。他所から見れば噂の事もあって、俺が気まずくて何も話せない状況……と、いった様子に見えているのかもしれない。
「はいよ! 日替わり三つとうどん一つね!」
「ありがとうございます」
「……ども」
「ありがとうございます!」
料理を受け取った俺達は勝也と谷園の居る席へと向かった。
◇◇
「ほい、勝也の分。今日の日替わりは豚の生姜焼き定食だと」
「マジか! 当たりの日じゃねーか! ……前に来たときは野菜炒め定食だったからなぁー、そのランダム制を楽しんじゃうとこあるけど!」
うちの学食はメニュー数が豊富な為、週単位の日替わりではなく月単位の日替わりとなっている。うどんや野菜炒めなんて日もあれば、今日みたいに男子高校生には嬉しいメニューの日もあり、勝也みたいに楽しんでる生徒も多い。決まって三一日のメニューは少しだけ豪華、なんて話も聞いた事がある。
「へぇー! 学食も凄いんですね! 私も今度利用してみますかねぇ~、ののさんはうどんを頼んだのですね?」
「美味」
のののはうどんばっかりだな。猫舌なのに冷たいうどんじゃなく、温かいうどんだ。
「確かに美味しそうです~! それで~……紅亜はなぜ“そっち”に?」
「えっ!? い、いや、他意は無いわよ? ふ、普通に空いていたからこっちに座っただけでっ!」
勝也と谷園がテーブルを挟んで対面になって座り待っていた。その右隣に料理を持って来た俺とのののが座った。と、すれば、男子側と女子側に別れて座ると思うのが普通だろう。――まさか、当然の様に躊躇いも無く隣に座るだなんて思わないだろ?
「まるで昨日の……」
「ののの! うどんだけだと栄養が偏るだろ? 生姜焼きを一枚あげよう」
危ない……生姜焼きの一枚を犠牲に口止めしておこう。変な事を口走らない様に。
「……これも美味」
“おい、あれって”
“やっぱり、許して無いんじゃ……”
“昨日の今日だしな”
“多分、そうとう……”
“だな”
“怒ってるに違いないわね……”
“きっとよっぽどの事をされたんだわ……”
「青、ちょっとみんなの分の水持ってくるぜ」
「ありがとう勝也」
勝也が自分のトレーから食器類を降ろして、水を取りに行ってくれた。ああいう事をサラッと出来るからモテるんだろうな。今度、参考にでもしてみるか……。
「なんか、凄く見られてませんか?」
「そ、それは……ほら、転校生のお前が居るからだな! 良かったな、有名人だぞ?」
「えー! ど、どうしましょー? 有名っすか~?いやー、困りすねぇ~」
よし。谷園さえ誤魔化す事が出来れば問題は無いだろうな。
谷園がサインの練習とか言い出した辺りで、勝也が水を運んで戻ってきた。
「はい、どーぞ」
「ありがとう勝也」
「いただく」
「どうもです~」
「ありがとうございます!」
「青、また耳を貸せ……」
「ん? 今度は何を……?」
“いや、周りが話してる事を聞いてきたんだが……”
“谷園の事? それとも……”
おそらく紅亜さんの事……だろうな。勿論、谷園の事を話している人も居るだろうけど。
“八:二で昨日のお前等の事だ。みんなの認識によると、どうやら別れた原因が青にあって、新山さんはそれを許してない。それで、気まずい思いをさせようと隣に座るっていうドSっぷりを発揮させている――という事になっている”
なるほど。そういう事になってるんだ……。
・別れた原因が俺……まぁ、正しい。
・紅亜さんはそれを許してない……多分、正しい。
・気まずい思いをさせようとしてる……実際に少し気まずいから正しい。隣にも座ってるしな。
・ドSっぷり……ちょっと分からないけど紅亜さんはドSって感じはしない気がするからこれは保留。
“うん。割りと当たってる気がしてならないんだけど、それで?”
“あぁ、怒らせた側の青の評価がまた一段と下がってるな。あの優しい新山さんを怒らせるなんて相当だ……って感じで”
そう……か。それなら別に良いか。時すでに周りからの評価は低いし。
「まぁ~た、秘密の話ですかぁ~?」
「違うぞ、有名人の谷園をどう広めて行くか悩んでたんだ……な、勝也?」
「そ、そうだぜ?有名人だからな!」
苦しい……咄嗟の言い訳というのは頭の回転が速い人じゃないと、とても苦しくなってしまうな。
「なるほど~、それなら仕方ないですねぇ~。秘密にしておきたいのも頷けますよ! ……でも、オーラで分かりますからね? 悪巧みじゃないから見逃しますけど」
小声で最後のを付け足して来たが……くっ、流石に嘘ってバレるか。谷園を広めるなんて一ミリも考えて無いのが顔に出たのか?
谷園は観察力が優れているみたいだしな。
そこからは周囲からの視線を浴びながらもそれを気にせず、会話を挟みながら昼御飯を食べていた。一番最初に食べ終わったのは勝也で、猫舌だから仕方の無い事だが……のののが一番最後に食べ終わった。
「ごめん」
「良いよ、食べ終わってすぐに動く予定があった訳じゃないからな」
「そうですよ、巳良乃さん! 私も食べたら少し休みたいと思っていましたので」
「じゃあ、そろそろ戻りますか~?」
別に予定があったわけでもないし、食後の休みは必要だろう。皆も気を使ってでは無く、本心だろうな。
「次の授業って何だっけ?」
午後一の授業は眠気との戦いという面があるからな。教科によってはヤバいだろう。
「数学だったと思うよ?」
「マジかー、満腹だから危ないな……」
結局、その後の授業では一番後ろの席という油断から寝てしまった勝也が怒られたりもしたが、それ以外は特に何もも無かった。そして、全ての授業が終わり放課後となった。
◇◇◇
「青、そう言えばさ~、メッセのやり取りする『アプリ』とか……『ツナガッター』とかやってなかったよな?」
「まぁ……な。そういうのは気軽に電話が来そうなアプリだったし、全然使って無い。『ツナガッター』もアカウントはあるけど放置してあるし」
スマホを持ち始めた頃はそういうアプリも取ったが、電話で時間が取られるのとシンプルに電話が嫌いな事もあって使わなくなっていった。
「最近、従来の連絡系アプリから電話機能だけを取って、しかもアカウントのIDを自分で決めれるから電話番号の流出とかも無いチャットアプリが出たんだけど……それなら取ってみない? いつもやり取りをするメールより気軽に連絡が出来ると思うんだけど?」
「広報宣伝部長か何かなの? ……まぁ、電話機能が無いならそのアプリを取ってもいいけどさ」
メールよりチャット形式の方がやり取りのし易さは上だろうし。
「よしきた! たしか、携帯を忘れたって言ってたよな? 俺のIDを渡しておくから帰ったら連絡してくれ」
「了解。これは……アプリを持ってる人同士で直接IDの交換をしないといけないのか? ……だとしたら中々良いかもな」
知ってる人ばかりとか、よく連絡する人に絞れる点は高評価したい。
「イタズラで適当なIDを打ち込んでヒットさせる奴もいるから、数字だけとかはやめた方がいいぞ? ……ほら、これが俺のIDだ。じゃあ、部活に行くから夜にでもメッセを飛ばしてくれ」
「おーう。じゃあ俺は帰るな。部活頑張れよ――――っと! 勝也、そのアプリの名前は!?」
「忘れてたぜ! ちょっとだけ繋がれるアプリ、名称は『ちょこライン』だ!」
やっぱり、勝也は広報宣伝部長か何かじゃないだろうか?
誤字脱字がありましたら報告お願いします!
(´ω`)
他にも分かりづらい点、読みづらい箇所がありましたら教えてください(今後に活かしたい心構え)