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第105話 褒めようと意識すると難しいよね


お待たせしました!


短めですが

よろしくお願いします!(´ω`)


(外は)ツン! (内は)デレ!

そんな感じでしょうかね


 


 教室に戻って来たが、残念な事に勝也は居なかった。

 自分の席に着いて、とりあえず次の授業の準備だけはしておいた。

 紅亜さんとマノンは、離れた席で女子のクラスメイトと話をしているが、のののは自分の席でココアを近くに置きながら本を読んでいる。


 ――よし、褒めるか! ……と、すんなりいければ苦労は無い。

 のののもマノンと似た対応だとするなら、俺は言葉が出なくなるかもしれない。

 のののは元からマノンよりも圧倒的に口数が少ない。今やそれすら無くなってる可能性だってある。つまり……無視されるかもしれない。


「ののの?」

「…………なにか?」


 言葉はくれる。だが、視線はくれない。

 本を読んでいる時には、今までだって普通にあった対応だし、おかしい事じゃない筈なのに……返ってきた言葉が「なに?」ではなく「なにか?」だったことに、もの凄く距離を感じてしまった。


「あ……えっと、本! 借りてた本だけど……読み終わったよ」

「そう。なら、受け取ります」

「あ、うん……」


 のののの右手が伸ばされる。早く本を渡してと催促されている。

 何か言葉は無いかと短い時間の中で考えるが、思い付くよりも先に、本がのののの手に渡った。


「お、面白かったよ!」


 最後まで考えて、結局はそんなありきたりな台詞しか出なかった。

 のののはまた本を読み始めた。

 やはり、勝也の力を借りる方が良いかもしれない……。俺だけじゃあまりにも無力過ぎた。

 次の休み時間に、コツくらいは教えて貰わないとな。



 ◇◇◇


 五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、教室中の空気感が一気に(ゆる)んだ。


「青~」


 さっそく勝也の元へ……と思った矢先に、逆に勝也の方から声を掛けられた。

 一番後ろの席は、こういう時にありがたい。移動しても他の人の邪魔になりにくいからな。


「どうした? ちょうど俺も勝也に話があったんだけど」

「いや、また何かあったのかと思ってな……」

「まぁ。まぁ……まぁね。でも、大丈夫だ」

「喧嘩か?」

「喧嘩じゃないけど……勝也に女の子の褒める方法を教えて貰わないとヤバい」

「ヤバいのか?」

「ヤバいな」


 せっかくひま後輩が許可を出してくれたのに、不甲斐ない結果に終わるのは申し訳ない。それに、女の子をベタ褒めできるなら良いが、褒め下手は絶対に良くないだろう。

 そこで、女の子の扱いが上手い勝也先生にレクチャーしてもらう。これで、俺の褒め上手スキルも向上するに違いない。


「女の子の褒め方ねぇ……」

「得意だろ?」

「ただ素直に、思った事をそのまま言えば良いんじゃないか? 可愛いなら可愛い。凄いなら凄いって」

「チャラいって思われないか?」

「そんなん、言い方だろうよ。だから、素直にって話だ」


 素直に……か。難しいな。

 今の俺は、褒めなきゃという気持ちが前に出過ぎてしまいそうだ。良いところを探し出して褒めようと思っていた。

 それは……駄目なんだろうか? 素直とは呼べない……か。


「例えば勝也なら、紅亜さんをどう褒める?」

「う~ん。褒められ過ぎてる人は少し難しいな。何言われても新鮮味が薄いだろうからな。たぶん……内面的な部分を逆戻りに褒めると良いと思う」

「なるほど。なんか、緊張するな……」

「いや、褒めるだけだろ? 難しく考えすぎだっつーの。お前の好きな『ギャラクシー宇宙少女ゆかり』のラビリット=サッチ=デストロイちゃんを褒めるならいくらでもワードが出るだろ? それと同じ感じで簡単で良いんだよ」


 ブラックに勧められた漫画のキャラであるデストロイちゃん。

 たしかに褒める言葉はいくらでも出てくる。最近、四巻が出てついに主人公のユカリちゃんが惑星でバトルトーナメントに出場する前まで進んだ。


「勝也はユカリちゃん推しだったろ? どうよ?」

「当然、百の言葉じゃ足りねーよ」

「ふっ……。サンキュー勝也。なんか、できる気がしてきた」

「そうか、頑張れ」


 勝也の席を離れて自分の席に戻って、深呼吸をする。

 次の授業で使うノートを開き、隅っこの方に良い所を書き出していった。大きく書くと恥ずかしいから小さめに場所を区切って。


 授業が始まっても隙を見ては書いていく。

 書けばハッキリと分かる。知ってる事が多いように見えて、まだまだ少ないな……と。

 せっかく褒めるのなら、ありきたりな部分は少なめでいきたい。紅亜さんの表面的な部分は、たしかに勝也の言う通り今更だろうしな。


「難しい……難しいぞ……」

「おーい、神戸。何ブツブツ言ってんだー? ここ、答えてみろー?」

「え!? あ、はい! 難しいです!」

「たしかに聞いてなきゃ難しいな。ちゃんと授業聞いておけよ~」


 今日の俺は、一度怒られたくらいで考えを止める神戸ではない。

 今日から……いや、今から勝也に言われた素直さとやらを、ここぞとばかり発揮させてみたいと思う。

 ただ、今は授業中だから今と言っても授業が終わった後からだけど。



 ――終了のチャイムが鳴った。

 だが、今日は七時間授業だからあと一時間ある。いつもだったら嫌がるところだが、今日は一秒でも長いと助かる。


「ふぅ……。ののの」

「……なにか?」

「今日は自分で髪を整えたんだな。よく、似合ってるよ」

「……………………にゅ」

「にゅ?」

「…………」


 思った程の手応えがまるでなかった。ちょっと期待しすぎだった……が、とりあえずは良しとしよう。反応があっただけ、まだ良かったと思うしかない。

 嫌われてるというのを加味して、覚悟して、それでも心を強く持っておかないとやっていけないからな。


 次は反対側に居る紅亜さんだ。だが、紅亜さんをどう褒めていいのか悩ましい。

 容姿も学力もスポーツも褒められ馴れている紅亜さん。褒める箇所が少ない分、難易度が高い。

 のののの時も軽い様子見からのスタートだったし、今回もとりあえずはそんな感じから始めてみるか。


「く、紅亜さん?」

「何ですか?」


 いつものパッチリした目元は半分くらいで輝きがほとんど無い。声の抑揚も無く、どこまでも平坦に俺の耳へと届いた。

 だが、不思議と俺に湧き出た感情は“悲しい”ではなく“懐かしい”だった。

 (すさ)んでた中学時代の紅亜さんが、そこに重なって見えた。


「あ、いや……その、横顔キレイ……って、そうじゃなく! あの……何でも、無いです。ごめんなさい」

「……そ、そう? あっ……な、なるべく話し掛け無いで。今はそんな気分じゃないの。一人にしておいて」


 一人で居たくて他者を拒絶する言動。昔は慣れるのにも時間は掛かったが、俺は紅亜さんの心の優しさを知っている。それに、嫌われているなんて考えてみればほとんどそうだったじゃないか。

 やはり話してみて正解だった。いろんな事を確かめられるし、思い出せる。


 ――ただ残念なことに、紅亜さんへの褒め方もあまり成果は感じられなかった。俺は人を褒めるのが下手くそなんじゃろうか……。


 反省の仕方も分からないまま、七時間目の授業が始まり、あっという間に放課後に突入した。


 帰りの挨拶の後、今日は部活に向かう人達よりも早く教室を出た。

 たぶん、初めて帰宅部らしいスピードを発揮してみせた気がする。走る訳ではないが、瞬間速度的には誰よりも速かった。


 ……と、思っていたのだが。


「私の方が早かったですわね」

「嘘だろ……俺も最速で来たんだけど?」


 下駄箱で靴を履き替えて外に出ると、玄関を出たすぐ横にひま後輩が既に立っていた。


「授業が終わった後にすぐホームルームでしたの。最後の授業が担任でして」

「くっ……」

「あらあら、残念でしたわね! おーほほほ」


 高笑いが似合うことで。

 俺の所も桜先生の授業なら、ホームルームもほぼ無しに等しいから早かったのに。残念だ……けど、それで終わるのはなんか(しゃく)である。


「……ふーん。さてはひま後輩、そんなに早いって事は相当楽しみにしてたんだな?」

「なっ……い、いえ! いえいえですわ!」

「そーなんだ……俺は楽しみだったのになぁー」

「あっ、いえ! 私もその……楽しみでしたわ」


 俺のニンマリとした笑顔を見たひま後輩は、いつも以上に目を吊り上げて袖を掴んで揺すってくる。やはり、叩かないあたりがお嬢様っぽいな。


「ごめんごめん、早く『ハチミツ』に行こう」

「もうっ! なら、はーやーくー歩いてくださいまし!」


 学校を出るまでひま後輩に背中を押されながら、俺達は喫茶店まで寄り道せずに真っ直ぐ向かった。






誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)


ひま後輩の株が爆上がってる予感!!

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