第104話 灰沢向日葵の恩返し
かぁ~
今日明日はPV数少ないんだろうなぁ~
でも、念のために更新しておこうかなぁ~
クリスマス特別編はネタが思い付かない為、ありません(/。\)
「ただいま~」
「あら、遅かったわね青。先に食べてるわよ、早く来なさいね」
玄関を通って、リビングに顔を出すと既に晩御飯の最中だった。
だが、そこに……マノンの姿は無く、碧とお母さんの二人が居るだけだった。
「……」
「何? どうかしたの?」
「いや、なにも」
――なんでもない。
俺はリビングを後にして、部屋で制服を脱いで部屋着に着替えて洗面所に向かった。
手洗いうがいを済ませ、ついでにトイレを済ませておこうとトイレに向かう。
そして、トイレから出てきたマノンと入れ替わりで中に――
「……って、マノン!?」
「あぁ、お帰りなさい。遅かったみたいですね?」
「そうだけど……あれ? 帰ったんじゃ……」
「なぜ?」
「なぜって、そりゃ……いや、何でもない。居てくれて良かった。ちょっとホッとした」
これ以上は、何も話すことは無いといった感じで、マノンは部屋の方に歩いていく。
玄関の方に戻ってみれば、隅っこの方にマノンの靴はちゃんとあった。
家に帰るのを、マノンに会うのを少しだけ億劫に思っていたのに、いざ居ないと思うと不安になった。
それに、目も合わない皆に話し掛けるのは駄目な事だと、何故か勝手にそう思い込んでいたけど……どうやら違うみたいだ。
居てくれたことにもホッとしたが、話せる事にもホッとしている自分がいる。
むしろ、俺からどんどん話し掛けていった方が、今ホッとした自分が存在しているように気持ちが分かりやすく表れてくれるのかもしれない。
皆が嫌がるかもしれないというのを無視すれば、だが。
「あ~、こういう時にやっぱり携帯って便利だよな……っと、トイレトイレ」
こういう時にひま後輩にパッと連絡が出来ればな、と思った。
この作戦とでも言うべき行動はひま後輩が考案したものだ。勝手にやらかして台無しはひま後輩にも悪いし、俺も嬉しくない。
とりあえず明日相談してからにするのが……無難だろうな。
◇◇◇
六月一日。ついに六月に入り、体育祭まで今日を合わせて十日となった。
その前日の金曜日には、通しの練習として一日が潰れるだろうし、実質は九日というところだ。
学校に着いてから勝也と挨拶をした以外はただ自分の席で静かに過ごし、いつもより時間の進みが遅いと体感しながら午前中を過ごした。
そして昼休みになった今、昨日の思い付きを相談すべくひま後輩に会いに来ていた。
「ふーん。私という彼女がいながら、他の女子生徒の方に積極的に話し掛けていく、と。そう宣言しているのですわね?」
「あ、いや! そういうつもりは無くて……」
「少し声が大きいですわよ。今のは冗談ですわ」
「あぁ、ごめん。でも、ビックリさせないでおくれ……焦ったぞ」
「いつの間にか、帰ってしまった罰ですわ!」
拗ねた表情を見せるひま後輩は、すこしだけ子供っぽく見えた。
今日もうどんを食べているが、今日はその上に野菜と海老の天ぷらが乗っている。俺の奢りだが。
だからかは分からないが、いつもよりもご機嫌そうである。
「まぁ、時間が時間だったしね? でもほら、今日は部活が休みでしょ? 昨日よりは話す時間も多いんじゃない?」
「し、仕方ないですね。青先輩がどうしても私と話したいと言うのでしたら……」
「いや、そこまでは言ってないけど」
「――はい?」
「すいません、思ってます! 話したいと思ってますから、笑顔で怒らないで」
見るだけならただの笑顔の筈なのに、怒りが伝わってくる。女優だ。ひま後輩は技巧派の女優だった。
天ぷらの貢ぎ物など関係なく、怒る時は普通に怒るみたいだ。
「まぁ、良いですわ。……少し話が脱線しましたね」
「あぁ、うん。それで、どう思う? 逆に俺から話し掛けるってやつ」
「それに関して……実は驚いたんですよ? そこにたどり着くまでにもう数日は掛かると思っていましたから」
「……思っていた?」
「はい。話さない状況と言いますか、少し距離ができた環境に慣れた辺りで、『毎日がつまらない』と相談が来る思っていましたから」
「それ、マジ? 今、考え付いたとかじゃなくて?」
「はい。それくらいの予想は簡単ですわ。退屈と思い始めた所で、青先輩にはあえて話し掛けさせて、お三方が掛け替えの無い人達と知って貰おうかと……」
そうか。そういう計画があったんだな。勝手に動かなくて正解だった。
正直に言うと、皆にどう説明したのかも教えてくれないから行き当たりばったりの行動かと少し思っていた。
そのステップに入るまでもう数日掛かると思われていたのに……次の日には話し掛けたいとか言っちゃったのか。ちょっと恥ずかしいな。
あれだな、ひま後輩に寂しがり屋とか思われてそうだ……。予想が簡単って言われたのも地味に凹む。
「青先輩って……」
「待った! 大丈夫。言わなくて大丈夫だから、自分でも思ってるから」
「案外、寂しがり屋さんなのですわね。少し可愛らしいですわ!」
「鬼かっ! ひま後輩、鬼かっ!」
「あら~? この前ハチマキで角を作ってくださったじゃないですか、そう……鬼のような」
ぐうの音も出ない。完敗だった。
そうか、俺って寂しがり屋だったのか……。そんなつもりで生きてきた訳じゃないから、しっくり来ないというか、まだ受け入れられて無いというか。
「やっぱり、二日か三日くらい我慢してみようかな」
「いえいえ、その必要はありませんわ。まぁ、反応は様々でしょうが……私の彼氏という事だけは忘れないでくださいましね?」
「なら、彼氏っぽく『あーん』でもしてあげようか?」
「お願いしますわ」
「えっ? マジか……」
垂れている髪を軽く掻き上げ、目を閉じて、食べ物が運ばれて来るのを口を静かに開いて待っている。
言い出した俺が、箸すら動かせず止まってしまうくらいに色気のある仕草だった。
「はらうひてふははい……」
「あっ、はいはいすぐに……あ、あーん」
「はむっ。ん~~っ! 美味しいですわ」
「そ、そうか。良かった」
弁当に入っていたミートボールをひま後輩に食べさせると、嬉しそうに柔らかく笑った。
つられて笑顔になってしまうくらいに、幸せそうだ。
「もう一個、食べる?」
「食べますわ」
「あーん」
「あむっ……美味しいですわ」
なんだろうか、この感覚は。ついつい餌付けしたくなる感じだ。
友達の飼っているペットに懐かれて、ついつい食べさせてしまう感じに近い。それか、小動物がエサをもぐもぐしているのを見て、可愛らしく思うやつだ。
「なんか、食べてるひま後輩って可愛いよな」
「うっ……それは悩む褒められ方ですわね」
「そうなの? シンプルに褒めたつもりなんだけど」
「なら、そう受け取っておきます。でも、それは良い傾向ですわ」
「……ん? どういうこと?」
「青先輩は知らないでしょうが、女の子は“可愛い”と褒められたいものなのですよ。今まで、可愛いと褒めた記憶はありますか?」
ひま後輩の言ってる事は理解できる。男だって格好良いと言われたいものだ。
だけど、ハードルが高い部分もある。小物を褒めるとはその難易度が違ってくるし、純粋な気持ちで褒めたのにチャラいと思われたらなんか嫌だし。
「あんまり……ないかなぁ」
「まぁ、でしょうね」
「でしょうね!? いや、うん。良いんだけどさ……」
「私だって手当たり次第に『格好良い』や『素敵ですね』なんて褒めませんよ? ですが、アピールする際には有効な手段と考えていますわ」
「ひま後輩、可愛いよ」
「……ッ! た、多用はお勧めしませんわ! あと、私に言う時は試しで言わない様に!」
なるほど……もっと褒める、か。
今まで紅亜さんやのののを“凄い”とか“頑張ってる”とか思って言った事はあったかもしれないけど、シンプルに“可愛い”と褒めた記憶はほとんど無いかもしれない。
マノンだって良い意味で“アホ”とか“バカ”だとかは思っていたけど、仕草をよく観察すれば可愛い所が沢山あるはずだ。
「分かった。やってみるよ、例え無視されてもね」
「……頑張ってください」
「うん、じゃあそろそろ戻るよ」
「も、もうですか? まだ時間はあると思うのですが」
「たぶん、すぐには褒められないからね……心の準備とか褒めるポイント探しとかしないと」
「そうですか……」
「じゃあ……放課後は下駄箱の所で待ち合わせな?」
「は、はい! すぐに行きますわ!」
ひま後輩に軽く手を振って、俺は教室に向けて歩き出した。
勝也に女の子の褒め方講座なんかを開いて貰うのも良いかもしれない、後で聞いてみようかね。
◇◇
行ってしまった。でも、楽しかった。
危なかった。でも、嬉しかった。
本当はもう少し一緒に居たかったけど、私には止められなかった。
味方で居てくれる人の、味方になると決めたから。
――先輩だけは何も知らないで頑張っている。
――本当は皆、何が起きているか知っている。
新山先輩も、巳良乃先輩も、谷園先輩も……。
三人には、先輩が離れて愛想を尽かした演技をして貰っている。もちろん、先輩への気持ちをちゃんと聞いた上で、だ。
先輩が本気になる為に、本気で演技してくださいと伝えている。でないと、意味がないと説明を加えて。
一番早く理解してくれたのは、やはり巳良乃先輩だ。逆に時間が掛かったのは新山先輩だった。
そして、三人にも本当に先輩じゃないと駄目なのか、もう一度、自身に問い掛けて貰っている最中でもある。
――とはいえ、だ。これは結局の所、茶番でしかない。
先輩を、自分の気持ちを知る為と言って騙している。
三人には、事情を話した上で、先輩を騙して貰っている。
きっと、先輩は許してくれるだろう。騙されていたことさえ笑って「良いよ」と言ってくれる。
――茶番狂言。これは、底の見えた薄っぺらい計画だ。
先輩の為という気持ちに嘘は無い。
こんな私に寄り添ってくれた先輩への恩返し。先輩の助けになりたい気持ちは本気だ。
でも、私欲の部分も嘘じゃない。
私が先輩の“何になる”でもなく、ずっと“ただの味方”だと笑って言える様になるための。
だから……今だけ、今のこの期間だけは。
例え、先輩が私をただの後輩としか見てないとしても。
「もう少し、ゆっくりでも良いですのに……」
今にも食堂を出そうな先輩の背中を、見えなくなるまで追い掛けた。
それから私は、残っているうどんを食べ始めた。
天ぷらは、最後のお楽しみとして取っておいたのだ。
私は、好きな物は最後に残しておくタイプだから。
今は私が、先輩の彼女。
それが最後になれば良いと思いながらも、確実に訪れる別れを、少しでも長くなれと願いながらただ待っている。
出汁が染みて柔らかくなった天ぷらを噛る。噛んで、飲み込む。あっという間に無くなっていった。
当然、食べ終われば「ごちそうさま」と言わなければならない。
私は器を返却口にまで持っていった。
いつもは「ごちそうさまでした」と伝えるのを、今日だけは「ありがとうございます」と伝えて食堂を後にした。
◇◇
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
皆の信じる、ひま後輩を信じた人はどれくらい居ましたかね?ぐふふふふふ(´ω`)




