第100話 何か意図があるんですよね?
100話!
書いたり消したりで……お待たせしました!
ちょいと長めです!
「お兄ちゃん、朝だよ~」
体を揺さぶられる感覚と共に目を覚ました。
俺が「おはよう」と返したのに油断したのか、碧はこれから二度寝しようと企んでいる兄の心情に気付かないまま部屋を出ていった。
感覚では、まだ時間的な余裕があると確信があった。だてに二度寝ばかりしている訳じゃない。その辺はしっかりと学習しているのだ。
「碧ちゃんの言った通りですねぇ……」
「うぐッ――」
シャーッと開かれたカーテン。そこからの太陽の光が眩しすぎた。二度寝しようとしている者にとっての天敵……その名も太陽光。防ぐ手段は頭まで布団を被せるしかないのだが……。
「させませんよっ! もう朝なんです、起きてください!」
「うぅ……眩しい……灰になる……」
「吸血鬼でもあるまいしシャキッとしてくだいよ、青さん!」
「まだ、寝れる……」
言葉の攻防戦が繰り広げられるも、布団の無い二度寝など二度寝に非ず。俺に勝ち目なんて元から存在せず、しぶしぶ起きる選択をするしかなった。
ご満悦なマノンについて行く感じで、朝食が並んであるリビングへと向かった。
焼いてあるトースト、スクランブルエッグ、サラダとジャムと牛乳。一見にしてよくある朝食と思う内容ではあるが、実はそうそう無いメニューではないだろうか?
ドラマや映画では出てくる事もある朝食だろうが、一般家庭においては、サラダが付く事は少ないだろう。スクランブルエッグか目玉焼きで違うという家もあるはずだ。
だからこの、『ありそうでなさそうな朝食』は逆に新鮮さを纏っていた。
「さ、青さんも食べてください」
「やっぱり二度寝しようとしてたんだね、お兄ちゃん!」
「青、今日はマノンちゃんチョイスの献立よ」
マノン、碧、お母さんと順番に話すことを「あ、うん……」の言葉だけで返し、牛乳を一口だけ飲んで喉を潤した。
パンにジャムを塗るか、ケチャップを足したスクランブルエッグを挟んでサンドイッチにするか……少しだけ悩む。
碧もお父さんもジャムにしているみたいだから、あえてサンドイッチにするのも良いかもしれない。
『……続いて、八位は天秤座のアナタ! 今日は平凡な一日になりそう。ラッキーカラーは灰色! 続いて……』
テレビから流れる星座占いを碧とマノンが真剣に観ている。
占いは自分が一位の時にしか信じないものだが、第八位なのに平凡な一日と言われれば……実を言うと、そこまで悪い気はしていなかった。五月の最後の日、平凡で終われるならそれが一番だ。
「あー、二位かぁ~惜しい……。ラッキーカラーは白? 白……白……白亜ちゃん?」
「いや、それはどうなの?」
「あっ! 水瓶座が一位ですよ! 今日は私の日と言っても過言ではありません! ラッキーカラーは……赤? つまり……紅亜?」
「……そうだな」
『最下位は残念、蟹座のアナタ……ラッキーカラーは青色……』
占いが一通り終わった。ここで一位や最下位でも別の番組や雑誌では、また順位が変わってくる。何を信じるか、そもそも信じないかは結局、自分次第というやつだな。
だが、せっかく見た占い。それを信じるなら、俺のラッキーカラーは灰色。碧やマノンの理屈に当て嵌めると……灰沢の苗字を持つひま後輩が今日のラッキーアイテムとなるのだろう。どう活用すれば良いのかはわからないけれど、とりあえず会ったら褒めとけば間違いはないだろう。
実際、ひま後輩自体に灰色的な要素があるのかと聞かれれば……いや、意外とあるかもしれない。華やかに見えてボッチ気味というグレーな高校生活を送ってたりするし。
トータルで見れば平凡な後輩と、平均的に平凡な俺。平凡で平穏な一日を送るにはもってこいな人物かもしれない。
「今日は俺が先に家を出ようかな。いつもより早く起きたし」
「一緒に行くのもアリですよ?」
「寝坊でもしたらな」
「その手があったですね! 逆転の発想です!」
「……いや、二人そろって一緒に遅刻とかしたらヤバいからするなよ?」
会話を挟みつつ朝食を食べ終えた俺は、着替える為に部屋に戻った。
この部屋で寝て起きたマノンに、何か漁られてないかと気になって、周囲を確認してみる。だが……特に何かされた気配はない。
「さすがに疑い過ぎか……」
何もないならそれで良いと、さっそく平凡な一日というのを体感して、あの占い番組だけは信じても良い気になってきた。
リビングに戻り弁当箱を受け取った俺は、早々に家を出発した。
先に家を出た理由は、いつもより早起きしたからという単純な理由もあるが、宿題をのののに教えて貰うことを思い出したというのもある。
所々に雲は浮かんでいるものの、気持ちが良い程の晴れ模様。
少しずつ気温が上がってきて、ちょっと走れば汗ばむ様になってきた。六月になれば衣替えの季節だが、いくら半袖になったところで暑いのには変わりない。
半袖は良いものだが、気温は上がらないでくれ。そんな事を考えながら小学生より少しだけ速いペースで歩いた。
◇◇◇
駅を通り過ぎた所にあるコンビニ。
のののに宿題を教えて貰う代わりに、チョコでも買おうと思って入ろうとした瞬間――青いパッケージやラベルのお菓子や飲み物が入った袋を手にした、同じ学校の制服を着た女の子と目があった。
そういえば……と、そこで思い出した。
家がそこそこ近いのなら、この通学路を通るだろうということを。
それでもこの時間に会うというのは、珍しいことに違いない。
「あっ、青くん……おはよう」
「おは……ようございます」
朝練は無かったのか、それとも休んだのか。どちらにせよ、コンビニから出て来た紅亜さんと鉢合わせたのが今の状況だ。
“あの”日曜日から一日空いて、今ここで何を話せば良いのか、突然過ぎて何も浮かんでこない。挨拶を返したのですら精一杯だ。
紅亜さんの表情が硬い。たぶん、それは俺も同じだろう。
指摘されなくても自分で気付いている。上手く表情を作れていないと。
俺は何を隠そうとしているのだろうか。紅亜さんは何を取り繕うとしているのだろうか。
表情に出やすい俺達が、表情を作ろうしていることから分かることは、『思うことはあるが、言いづらい』という事くらいだ。
「い、一緒に……その……」
「チョコ、買ってくる。待ってて」
紅亜さんが言い切る前に、入れ替わる様にコンビニに入った。
一箱だけ買う予定のチョコを二つと、ついでに灰色じゃないけどカフェオレを買ってコンビニを出る。
「お待たせ」
「うん」
「あ、朝練は?」
「今日は休み」
「そうなんだ……良かったね?」
不思議と、のののと話してるみたいな会話になってしまっていた。
本人から抗議はあるだろうが、会話が下手くそになると、みんなのののみたいになってしまうのかもしれない。ぎこちないだけなのだが。
他の人がそんな風になると、慣れてる俺ですら話しづらい状況が生まれるだけみたいだ。
「…………」
「…………」
会話がほとんど無く、ただ歩幅を合わせて歩いているだけの状況。
気まずさだって、少なからずある。あの話題に触れて良いか分からない。白亜ちゃんに聞いた紅亜さんの過去に関しても、触れない方が良いのかもしれない。
紅亜さんから話さないと俺も話せない。俺から話さないと紅亜さんも話せない……のだと思う。お互いに考えている事は同じなのに、同じだからこそ沈黙が生まれてしまう。
でも、このままで良いとは思っていない。この蟠りを時間に頼って解決してたら何十年掛かるか分からない。
だから結局、話さないという選択肢はない。
紅亜さんの隣を歩いてるだけで良しとしてはいけない。どう転ぶかは分からないけど、そんなのは当然だと割り切るしかない。
「チョコ……食べる?」
「食べる」
だが、何も踏み込んだ会話はできないまま、俺と紅亜さんは学校に到着してしまった。
紅亜さんと一緒に歩いているのが驚きなのか、同じように登校している生徒がヒソヒソと話している。
そんな周囲の反応に今更どうこう言うつもりはない。直接言われるなら、まだ返す言葉もあるのだが。
教室の自分の席に着いてしまえば、もう二人きりの空間ではなくなる。紅亜さんは女子グループとの会話があるだろうし、俺は凝視してくるのののへの説明が必要そうだし。
「今日、朝練なかったらしい。たまたまだ」
「何も聞いてない」
「目がそう尋ねてたんよ。それよりも……のののに宿題を教えて欲しくて早めに学校来たんだ。そこんとこ、お願いしていい?」
「仕方ない……ただ――」
「もちろん、タダでとは言わない。チョコを買ってきてる」
先ほど紅亜さんに渡したやつとは別のチョコを一粒のののに献上する。のののが何かを要求してくると踏んで、抜かりなく用意したのだ。ただ、全部をあげてしまうにはまだ早すぎるが。
数学の問題集を広げる俺の横に、椅子ごと移動してきたののの。一応はやっている問題集をのののに見せて、間違っている所をピックアップしてもらった。
結果……計算ミスしている箇所が少しと、諸々間違っている問題が幾つか見つかった。やはり頼って正解だったと安堵しつつ、マノンだけを責められないなという気持ちになった。
「ののの、助かった」
「お安い御用」
「うっかりミスは無くさないとだなぁ~」
「うっかりは良くない」
問題集を解き終わり、読書に戻ったのののを真似て、俺も文庫本を取り出した。
教室の後ろのドアから入ってきたのか、マノンの「おはよー」が教室中に響く。
「青さん、ののさん! おはよーですよっ」
「おーう」
「……おーう」
「気の抜けた挨拶ですね……。真似しちゃって、何ですか? 兄妹ごっこですかぁ?」
「「――――ッッ!?」」
文庫本を読んでる姿勢は崩さずに、目だけをのののに向けた。
マノンの鋭さは相変わらずで、驚かされる。偶々というのも理解はしているのだが、それでものののを確認してしまった。
さすがに目だけで読み取るのは難しいが、のののも驚いているのだろう。「何だコイツは……」なんて思っているかもしれない。だとしたら、全面同意なのだが。
「そんなことより大丈夫か? 宿題。のののに教えて貰ったけど、俺ですらめっちゃ間違えてたぞ?」
「そりゃ青さんだからでしょう、よっ! とは、言いつつ私も教えてほ……いや、さすがにののさんに頼るのは良くないですよね! 紅亜にでも聞いてきますですよ!」
「……“面倒じゃない”」
いや――駄目だ。逃げろマノン。
その思いが通じたというよりは、気付いていたのだろう。だから、紅亜さんに頼むと言って逃げようとしている。さすがの判断力だ。のののからオーラ的な何かを感じ取ったのかもしれない。
誤魔化した笑顔を振り撒きながら、マノンが少しずつ離れて行く。
危なかった……全く答えが同じ問題集とか怪しまれて当然だ。そうでなくても、のののの目を欺くことは難しい。
「残念」
「ま、まぁ……俺達は本でも読んでおこうぜ」
「うむ。神戸、早く読む」
「ほいほい、ちゃんと読んでますよ~」
「神戸、神戸」
「ん? どうした?」
「チョコ、食べてあげる」
そうですかい、と。猫にチョコは駄目らしいけど、のののだからな。とりあえず買ってきた分は全部渡した。
ちょっと口角が上がって、ご満悦な表情をしたのののだった。
「太る……とかは言わない方が良いんだよな?」
「うん。アウト」
「ごめんなさいね」
「そもそも、太らない」
女子に聞かれたら嫉妬の嵐だろう言葉だが、のののの場合……果たしてどうだろうか?
そんなことを言えばまた怒られてしまうだろうし、俺は口を閉じて読書に戻った。
そろそろ、朝のホームルームだな。
◇◇◇
四時間目の数学。俺はのののの力を、マノンは紅亜さんの力を借りたお陰でどうにか乗り越えた。
誰に問題を当たるのか分からない、かなりトリッキーな生徒の当て方をしてくる先生なのだが、俺もマノンもドヤ顔で授業を受けていた。お菓子とのののに感謝だな。
「さて……勝也、昼飯だけど」
「わりぃ! 今日はバスケ部の集まりが昼にあるんだわ」
「マジかー……あっ。いや、オッケーだわ。ラッキーアイテムに会いに行かねばだった」
「ラッキーアイテム? なんだ、それ?」
「朝の占いの話だ。俺の平凡を担ってくれる筈だからな」
俺は弁当箱を片手に食堂へと向かった。
今日も今日とて学食を利用する生徒は多くいて、賑わいが凄い。
目的の人物を探してみると、やはりというか、すぐに見付ける事ができた。
食堂内の奥の方で佇む姿は、相変わらずの近寄り難さを演出している。そりゃ、友達作りも難航するだろうと思う程だ。だが、既に味方である俺は気にせず近付き、真正面に座ることだって可能だ。一年の男子生徒の視線はちょっと痛いけれども。
「よっ、ひま後輩」
「あら、青先輩。お一人ですの?」
「勝也がバスケ部の集まりがあるみたいでね。あと、ひま後輩は今日のラッキーアイテムだからな」
「なんです……それ?」
「占い……いや、まぁそれは別にいいんだけど」
今日も素うどんをチュルチュルと食べている。バイトで稼いでいる筈だが、ほとんどを家計の方に回しているのだろう。
さすがはひま後輩という言葉しかでない。
「弁当のオカズ、少し食べるだろ? 遠慮は無しとして」
「では……はい、いただきますわ」
マノンが早起きして作ってくれたものだけど、こればっかりは許して欲しい。ひま後輩なくして、青先輩は存在しないのだから。
ひま後輩の前だけでも、先輩らしく在りたいというちょっとした意地だ。
「美味しいですわね」
「伝えておくよ。それで、最近どう? 学校の方では」
「ぼちぼちですわ」
「ぼちぼちか」
「青先輩はどうですの?」
「五月は……なかなかだな」
「なかなかですか」
ほぼ毎日がハプニングの連続だった気もするし、過ぎ去ってしまえばそんなもんか、みたいにも思える。
「ひま後輩ってさ、将来はこんな人と結婚したい! とか考えたことある?」
「藪から棒ですわね……そりゃ、無いこともないですけど」
「へぇ~」
「ほどよくムカつく感じですわね……青先輩はどうですの? よくご自身の近くに女の子を侍らせているみたいですが」
「刺さる言い方だな……そりゃ、無いこともないけど」
意趣返しが決まったのがそんなに嬉しいのか、ニンマリしている。
先にやった俺が言うのもなんだが、煽り過ぎるのはよくないな。引くに引けなくなりそうになる。
「青先輩って、巳良乃先輩が好きなのですか?」
「ド直球だな……」
「まぁ、そこは後輩ですし?」
「好きか嫌いかで言えば……好きだな」
「では、谷園先輩は?」
「同じだな」
「新山先輩……も同じと言うんでしょうね。女の敵です」
「ちょっと辛辣じゃない? ひま後輩……辛辣」
机に突っ伏して凹んでますアピールをするが、よく考えればひま後輩に非はなかった。むしろ、正しさしかない。
三人の女の子の名前を挙げられ、全部に好きと答えた男が居たとする。客観的に見ればどうだろうか……なるほど、間違いなく女の敵認定されるだろう。
「ひま後輩……助けておくれ。ラッキーアイテムでしょ?」
「まぁ、頂いたお弁当分の助力は致しますが……。で、どなたが一番なのですか?」
「――えっ?」
「――はいっ?」
聞こえてはいる。ただ、急な質問に対しての回答の準備が整う前に、頭の回路がショートした。
「えっ……マジですの?」
「すいません……けっこう心の中がゴチャついているというか、良い所も悪い所も知る機会が多かったと言いますか……いや、すいません」
「はぁ~、後輩である私じゃなかったら幻滅ものですわよ?」
「私めは、どうすれば……良いのでしょうか?」
会話を聞かれてさえいなければ、悪い噂の先輩と目立つ後輩が一緒にランチをしている絵になるのだろう。実際は、後輩に恋愛相談をしている情けない先輩が居るだけの絵でしかない。
どっちにしろ綺麗な絵ではないかもしれない。主に俺のせいで。
「私も恋愛経験なんてありませんよ?」
「それでも、女子目線が欲しい。例えば、俺がA子さんとひま後輩を好きだとする。そしてそれを、A子さんもひま後輩も気付いているとする……どう?」
「いや、どうって……A子さんも“その”ひま後輩という方も青先輩を好きだと仮定するなら、やはり負けたくないと思うのではないでしょうか? 青先輩を放って、女子サイドを語るのならですけど」
負けたくない、か。それは相手を蹴落としてでも……という意味で捉えても良いものだろうか?
自分が嫌われるのには、少しばかり耐性が付いた気がする。
だが、自分のせいで誰かと誰かが仲違いをするのは……どうにも落ち着かない。自己犠牲という訳ではないけど、それならいっそのこと……なんて風にも考えてしまう。
「なるほど……なるほど。でも、一人を選ばないといけない訳だよね? 普通に考えて」
「そうですわね。そこは人それぞれに基準というか、価値観があると思いますわ。その人じゃないと駄目な理由がきっとありますわ。A子さんとひま後輩。普通に考えればひま後輩一択でしょう」
「お、おう……」
「ですが……青さんがA子さんを選ぶことだってあります。ひま後輩は持っておらず、A子さんは持っていて、それが青さんの求めるモノだった場合です」
「難しい……とても難しいぞ、ひま後輩」
「何を今更なこと言っているんですか? 難しいから良いんじゃないですか? 恋愛って」
――難しいから良い……たしかにそうかもしれない。難しいからこそ、大切にできるものだってあるのだから。
ふと、ジグソーパズルを思い浮かべた。
ひとつひとつ合うピースを探しては繋いでいくあの作業が、恋愛において、お互いを少しずつ知っていく過程に似ている気がした。
お互いの合わない部分の価値観を強引に繋げたりはせず、別のピースを経て、受け止めていく感じとか。
恋愛とは、誰かと作るジグソーパズル。そう言っても良いかもしれない。
「でもさ、ひま後輩。自分の中の一番ってやつ……やっぱり難しくない? あれこれ考え過ぎちゃうんだけど」
「まぁ、十人十色ですものねぇ。この昼休みの間に何か掴める良い方法がないか考えてみましょうか。消去法とか荒療治とか」
「その二つだけは……なんとなく却下で」
食べ物で例えるならば、誰しも好きな物は沢山あると思う。
一番好きと言っていた食べ物でも、成長するに従って順位に変動があるかもしれない。
甘い物には甘いなりの、辛い物には辛いなりの良さがある。ジャンルの違うものを混ぜて一番を決めるのはなかなか難しい問題だろう。
それでも、最後には一番を決めなければならない。……多少の荒療治は覚悟した方が良いかもしれない。
「青先輩。私は青先輩の味方ですよ」
「……どうした急に?」
「いえ、それだけは分かっていて欲しくてですね。一つ妙案が浮かびました」
「マジですか……さすがはひま後輩と言うしかないですね」
「ですが……多少のリスクと言いますか、最悪取り返しのつかない事態にもなりかねないと言いますか……」
物事はスパッと話すひま後輩にしては、歯切れが悪い。
言葉通りにリスクがあるのだろう。
やるか、やらないかは俺に決めさせるつもりなのだろうが、言ってくれた通り、ひま後輩は味方だ。
絶対的な味方である以上、提案は鵜呑みにする勢いで受ける覚悟は持っている。内容によっては悩むだろうが、最後にはひま後輩への信頼が勝つだろう。
「俺の為に考えてくれた案なんだろ? ひま後輩は味方。なら、リスクだってバッチ来いって話」
「そう……ですか。すぅ~~っ……はぁ~……」
深い深呼吸を数回繰り返した後に、ひま後輩は真剣な顔付きでその妙案とやらを教えてくれた。
「青先輩、私と付き合いましょう」
「分かった…………えっ? …………えっ!?」
既に受け入れるつもりで待っていたから、言われた言葉を吟味する前に了解の返事をしてしまっていた。
ひま後輩にその意図を問い詰める前に、周囲に今の話が聞こえてないか確めてしまったのは、俺が小心者である証拠だろう。
視線をひま後輩に戻しても、冗談で言った訳ではないのが分かるだけで、結局は何も分からなかった。
俺の五月。いや、俺のラッキーアイテムよ……というか、平凡な一日という占いよ! ……うん。
よし、決めた! 俺はもう、占いなんて信じないぞ!
元カノといとこの間に挟まれ、家に女の子を泊め、後輩と付き合う男の図……
ひま後輩の思惑とは――いかにッ!!
誤字脱字その他諸々ありましたら報告お願いします!(´ω`)
下の方にその機能があるとか……




