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メデューサ、彼氏を作る 作者:松屋大好 練習中
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第2話 メデューサ、知らないふりをする

淫魔のブリジットがいった。
「セシル、ひょっとして、この人間があんたのいってたコ?」

小声だったが、獣人系の生徒たちには聞こえていたらしく、人狼や人虎、兎人たちの大きな耳が、くるりと彼女の方を向いた。

あのメデューサのセシルと、転入生の人間が知り合いなのか。彼らは特大のゴシップを期待して、そば耳を立てている。

そのほかの生徒たちも、転入生が彼女の前で急に立ち止まったのをいぶかしんでいる。とくに、元彼の魔神族のデズモンドは、人垣の向こうから背伸びし、鬼族のように鋭い目つきで彼女とダニエルを睨んでいた。

下級生の小鬼の女子たちが小声でいった。
「うそ? セシルお姉様とあの人間に、なにかあるの?」
「いがーい。ちょっとショック」
「だよね。セシル様に人間の知り合いだなんて」

ダニエルの横にいた、ハーピー族の校長が耳障りなキンキン声でいった。
「あら! セシルさん! あなた、ダニエルさんとお友達なのかしら? よかったわあ! うちには人間族が一人もいないでしょう? 彼がうまくやっていけるか心配だったの。これで安心だわあ」

「何がです?」
セシル自身もびっくりするほどに、冷たい声が出た。

校長の尾羽がペタンとお尻についた。
「その、あなたが彼の友達なら、って」

「友達じゃありません。前に少し見かけただけです」

場の空気が、急に和らいだ。
ああ、そりゃそうだよな、と誰もが口々につぶやく。
彼女の隣で、ブリジットが嬉しそうに息を吐いた。

セシルはダニエルの顔を見ることができなかった。どんな表情をしているのだろう。怒っているに違いない。彼氏になってもらおうとまでしていたのに、友達ですらないなんて。

彼女は手の中のドライフラワーを握りしめた。無茶な話だけれど、これに気づいて欲しい。彼からもらった花を大切にしているのだ。

彼がどんな顔をしているかは、すぐにわかった。右耳の上から生えている、まだ若い蛇が、いらぬ気をきかせて首を伸ばし、真正面から彼を見たのだ。

蛇との共感覚により、多少ぼやけてはいるが、映像が脳の視覚野に入ってきた。

ダニエルは平然としていた。
怒りというよりは、諦めに似た表情だ。
上級種に裏切られるのは慣れている。そう言いたげだった。

ーーーーーー

セシルは、つまみあげたミートボールを見つめた。

今日のランチは召使いのザラが腕を振るったらしい。これは彼女の得意料理だ。最上級の海羊肉を骨ごとすり潰して、塩、胡椒をしたあと、ワインに少々漬け込み、オート麦の粉をまぶしてこねる。団子状に丸め、ビーツトマトといっしょに3時間煮込めばできあがりだ。屋敷の使いが、昼休み直後に届けてくれたおかげで、まだあたたかく、食欲をそそる匂いを漂わせている。

「食べないの?」
ブリジットが、昼食がわりのチョコレートパフェをスプーンでつつきながらいった。

二人はいつもの木陰に寝転がっていた。
体の下には、ブリジットの召使いが持って来たファルビア絨毯を敷いている。砂漠の民が10年かけて魔力を織り込んだ布地が、意思をもって二人を柔らかく包んでいる。

「お腹いっぱいなの」

彼女の言葉が終わる前に、髪の蛇の一匹がつまんでいたミートボールをかっさらった。彼女が嗜める前に素早く飲み込む。

ブリジットが片眉をあげた。
「あんたの髪の毛は違うみたいだけど? 白状しなさいな。午前の長休みのときに来た人間の男、あれが、あんたが地下に降りたときに出会ったっていうコなんでしょ?」

「誰にもいわない?」

「あんたとわたしの仲でしょ?」

セシルは頷いた。
「あなたのいう通りよ、ブリジット。あのコがそうなの。あー、もう。なのに、わたしったら! 友達じゃありません、だなんて!」

「なにいってるの。あれでよかったんだよ。メデューサと人間が友達だなんてありえないもの」

「そんなことない。ありえるよ」

「ないない、あんただって、内心そう思ってるから、ああいったんでしょ?」

「そんなことないよ! 彼とは本当に友達なの!」

「ふーん、本当にそうなら、その友達ぶりを証明してあげたら?」
ブリジットが、細長いスプーンでセシルの後ろを指した。
蛇たちのリーダーが後方を確認する。

校舎の前庭は、ちょっとしたすり鉢状になっている。底には清らかな池が広がり、海神たちの彫像が水面から突き出している。三頭竜の口は噴水となり、水が天高く吹き出していた。池の周囲には、ベンチとテーブルが数十台並んでおり、大勢の生徒が食事を楽しんでいる。その周りを芝生の丘が取り囲んでいた。

いま、テーブルの一つにダニエルが座っていた。

隣のテーブルに座っていた女子たちが、あわてた様子でランチセットを片付けて席を立った。

誰もがダニエルを遠巻きに眺めていた。
視線の半分は好奇心、残り半分は明らかな敵意だ。人間など、この学園に相応しくない。多くの生徒が、そう考えている。

ブリジットがいった。
「お友達といっしょにランチするチャンスだよ?」

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