異世界召還されたけど、異世界が思った以上にフリーダムでした
異世界召還
フルダイブゲームが主流になった現代にとっては、ありふれた世界設定。
MMORPGやRPGはもちろん、シュミレーション、ガンシューティングゲームですら
そんな設定を使っていたりする。
ゲームスタート時は、白い光の中に包まれ召還魔法陣の上に片膝を立てた状態で始まる。
そして、その魔法を使ったであろう賢く美しい魔法使いが、
目の前におりそのまま王が待つ謁見の間へ招かれる。
謁見の間は、玉座に座る威厳にあふれた賢王が、そばには見目麗しい王妃達と
親の血を受け継ぐ美王子・美姫がおり、さらに国の中枢を担う権力者達が周りを固める。
皆の注目を集める主人公。
その主人公が王へと視線を送ると、王はすっと立ち上がり主人公へ突然召還したことを詫び、
朗々と召還した理由を語りだす。
そう、普通であればそんな感じでゲームは、始まるのだ。
・・・・・・そう、うん。普通のゲームであれば・・・・・・。
あ、すみません。自己紹介が遅れましたね。
僕は今年の春、高校生になりました、佐藤 誠一郎と申します。
日本男児、15歳です。
えっと、簡単に状況を説明すると、リアル異世界召還されました。
いま、謁見の間で王からのありがたーいお話を、
顔面と首がズキズキと痛むのを我慢しながら、若干ささくれだった気分で聞いてます。
普通、こういうファンタジックな事にあったら、こうワクワクとかドキドキとかしたり、
「異世界召還キタ────(゜∀゜)────!!!!」とかになったりするんでしょう、が。
うん。なんか、こう、ね。素直に喜べないと言うか。
まぁ、リアルとゲームはやっぱり違うからさ、
召還方法に違いがあっても、確かにしょうがないと思う。
いやね、召還方法が不服、とかね。そういうみみっちい事は言いたくないんですが。
魔法とか説明がつきにくい方法で人を呼ぶわけだから、
普通じゃない方法ってのは重々わかっちゃいるんですけどね。
登校しようと玄関を開けたら、即落とし穴っていう。
どこぞのお笑い番組かよ!って方法なのは、
しょうがないと思う。うん、しょうがないよ。うん。
ただ、ただね、何が腹立つ勝手かってさ。人間、うっかり穴に落ちりゃ、そりゃ驚きますよ。
いつも通りに靴をはいて、両親へ「いってきまーす」と言って、
後ろから「いってらっしゃーい」と返ってくるのを聞きながら、玄関のボタンを押し、
ドアがシュ!ってスライドしたのを見て、一歩踏み出したら、「ぱかん」って地面が開きました。
地面「ぱかん」の瞬間、「嘘でしょ!?」って思ったけど、これ、マジ。
そりゃ、コロッと落ちますよ。ええ落ちましたさ。綺麗に落ちましたよ。
颯爽と罠にハマりました!もう本当にビビったよ!チビるかと思ったよ!!マジ玉ヒュンだよ!!!
ていうか、普通どう考えても引っかかるでしょ。
引っかからない人いる?いないでしょ!!いや、絶対いないね!!断言してやる!!!
あとね、穴に落ちた後。ここもね。ちょーっと、腹に据えかねると言いますか、
もう少し何とかして頂きたい所でしてね。
地面と言うか、岩?石畳?が見えた瞬間、ぎゅって目をつぶったから、
目は大丈夫だったけど、顔がもげるかと思った。
ああ、そうだよ。顔面。顔面着地。
そう、記念すべき異世界への第一歩が顔面とかさ・・・
ふふふ・・・泣けるでしょ?
事実、涙が出ました。顔と首が痛くて。
不恰好でももう少しマシな体制で召還してよ。ホンっとに。
人は頭が上で足が下。こう向きが決まっております。
せめてさ、体からビタンッって感じでも・・・
あ、やっぱりそれも痛そうだからなしで。
それからもね、悪い意味で期待を裏切らない展開と言うか、なんと言うか。
僕が顔を押さえて唸ってもがいてる時に、
周りからバカにした笑い声が上がるし、ぼやけた視界(涙目)で顔を上げれば、
顔面蒼白で肩で息をしている立っているのもやっとな美しい女性が、
涙を流し心の底から申し訳ない表情をして僕を見ていてた。
たぶん、この人が僕を召還したんだろうなーとか思ってたら、
こちらに来ようと体に鞭打って動き出した途端、
後ろからいかにも下種な兵士が美しい女性を引きずるようにどこかへ連行していった。
その美しい女性は、連れて行かれまいと必死に抵抗していたようだけど、
体に力が入らないようだし、抵抗むなしく「ごめん、なさい・・・」と掠れた声を投げかけてくれた。
で、何で兵士が下種かどうかわかるかだって?
弱った女性を無理やり引きずるような事自体、ほめられた事じゃないし、
そいつ、僕と目が合った瞬間、ブッて吹き出して笑いやがったからだよ。
で、僕がやっと立ち上がれるようになって、目の前に現れたのは、
これまたものすごく下種そうなお姫様と王子様。
え?何で何にもしてないのに下種かどうかわかるかだって?
・・・その二人はいまも僕のことを指差しながら、バカ笑いしてるからだよ。しかも、現在進行形。
この時、キレなかった自分自身をほめてあげたい。
それで、少しして笑いが落ち着いたのか、バカ姫様が息も絶え絶えでよじれる声を抑えながら
「わらわについてまいれ」とか言ってきたので、とりあえずついて行った。
そう、右も左もわからない状態で、明らかに権力者とわかる奴等にたて突くほど、
僕はバカじゃない。今はしかたない。今は落ち着け。と、深く息を吐き、念じながらついて行った。
とろとろと歩く二人の背中を射殺すような目で見ていたら、
これでもかと豪奢な観音開きの扉。サイズ的に考えたら門に近い。
高さ3メートルほどで、横も2メートルはある。
おそらく、この先は謁見の間。
この先にいる人たちでこの世界での身の振り方の殆どが決まる。
ただ、現状を鑑みると期待はまずできない。残念ながら。非常に残念だが。
しかし、期待値をできるだけ下げていれば些細な事でもきっと好印象に感じるはず・・・!
・・・そして、そのときは来た・・・!!!
「面を上げよ」
王に促され、その御尊顔を、見ようとするが周りがまぶしくてよく見えない。
その煌びやかに装飾された謁見の間は息を呑むような・・・
贅沢の限りを尽くし、反吐が出るほどの悪趣味空間だった!!!
極めつけは、人一倍輝く王の姿だった。
輝く理由は太い体へ金銀財宝を鎧のようにくくりつけていたため。
これはただの「THE・愚王(成金デブ)」。
ちょっと涙が出そうになったが、顔面着地の痛みを思い出し何とか耐える。
たしかに、バカ姫とバカ王子を見てみれば十分予想できた。
そうこれは想定の範囲内!!こんなことで僕の心は折れない・・・!!きっと・・・
考えれば、この親あればこの子ありを地でいっているさまを見れたのは反面教師としては、
ありがたくに使えたかもしれない。
が、振り回されるこっちの身にもなってほしい。
しかも、周りを固める側近連中達も金と賄賂とすねの傷で出血多量になりそうな怪しいやからばかり。
偏見もあるかもしれないが、もう否定する要素が自分の中で考えられない。
その後、愚王様のありがたーい自画自賛に塗れた聞くにも耐えない戯言をものすごーく簡潔にすると、
①もう国民から絞るだけ絞ってるからお金が絞れない。
だったらもっと領地を広げればいいじゃん!
②自国の領土はほとんど開拓済みだから、
有益な未開拓のところを極貧相を鞭打って開拓させよう!
③未開拓地の結ういつの問題は、魔物がいっぱいいるから、効率よく広げられない!
自国の屈強な兵士を使うのがもったいないから、勇者召還してみた!
でも、呼んでみたら端にも棒にも引っかからないかもしれない奴だったから
期待はしてないよ!安心してね!!
一応勇者なんだから、がんばって魔物殺しまくって開拓に貢献してね!
④あと魔物の元締めっぽい魔王もついでに殺せたら殺しておいてね!
⑤それで、一番重要なのがこの国が満足するまでの財産が稼げたら、
元の世界に返してあげるから安心して働いてね!
それまで馬車馬のように働いてね!そうじゃないと
元の世界に返さないからそこんとこも、ヨロシコ!
絶望した!!!!!!!!!!! こいつら、ただのクs・・・おっと、言葉が・・・
腹の底から湧き上がる怒りと、心底悪態を突きまくっても飽き足りない
この衝動をどうしてくれようか・・・。
これ、さまざまな点を百歩と言わず、万歩引いてもダメな国だ。
これは本当にどうしてくれようか。と、鬱屈しかけていたところに。
愚王が嬉々として、
「おお、伝え忘れておったわ、貧弱であっても鍛えれば戦力として使い物になるかも知れん。
そこでだ、昨今さまざまな功績を挙げ頭角を現しおったこの『黒騎士』を
指導員としてつけようではないか!
そやつは武力としても申し分ない!よき指導員となるであろう!
勇者よ粉骨砕身の研鑽を積むように!」
今言われた人物に該当しそうな人が謁見の間にいなかったので、周囲へ視線を走らせると、
いつの間にか現れた、漆黒フルフェイス、漆黒フルプレートで
怪しさ万点過ぎて信用するしないとかの次元ではない人物。
まさに『黒騎士』が僕のすぐそばにいた。
その黒騎士が動くと思った瞬間、いつの間にか肩を組まれていた。
「これから、血反吐が出るまでしごいてやっかんな!」と豪快に告げた。
挙動はおかしいしが、あの美しい女性の次にまともな人っぽい雰囲気だ。
胃のキリキリ少し治まった気がする。
ふと、黒騎士が僕の耳元に顔を寄せると声を落として
「あとオフレコだけど俺、愚王が言ってた魔王だから。絶対内緒だかんな!」
と、
と、、
と、、、奴が僕に告げた。
黒騎士、、、、キサマもか・・・!!!!
漆黒フルフェイスの中にいやらしく笑う顔が幻視できそうなきがする。
僕は流れそうになる涙をこらえ、ウザイほど煌びやかな空中を見据え涙をこらえた。
僕の明日が・・・見えない・・・!!