阿子の章 「お泊まり女子会4〜夜更かし〜」
阿子の章 「お泊まり女子会4〜」
お風呂から上がったあと、私達はまたたくさんの話をした。
乃蒼のエクレアの話は聞いていて辛かった。彩綾の初恋の話もなんだかちょっとキュンとしてタケルを見る目が良い意味で変わりそうだ。去年の文化祭の話や今年の乃蒼の誕生日の話。彩綾の抱く普通が故の苦悩は、乃蒼はどう感じただろう?けどこの2人なら色々な事を2人で乗り切るような気がする。余計なお世話はかえって2人の邪魔になる。私達はそっと見守っていれば良い。必要な時に手を差し伸べるだけで十分だと思った。
「今何時だろ?…わぁ!1時だって!」
て事はすでにこの4人で12時間はいるという事だ。なのに全然飽きない。まだまだ足りないって思った。
「じゃあ寝る前に教えて欲しいことがあるの」
私が乃蒼の肩をガッシリ抱くと怯えた小動物は
「な…ナンでショうカ?」
と声を震わせた。
「ははっ笑。出た!乃蒼のカタコト」
「終始こんな感じだったの?」
「しばらくはず〜っとこんな感じでしたよ笑。それでも乃蒼ってどっちかって言うと喋る方だから徐々にカタコトじゃなくなってはいきましたけどね」
桜はどちらかと言うと最初喋らない子だった。桜が私とまともに喋るようになったのはいつからだったっけ?もう忘れてしまった。
「で、私が知りたいのはその人と話すのが苦手だった乃蒼がなんで秋とだけは友達になろうと思ったか、ってこと」
「あ〜それ私もずっと気になってたやつ!なんで?どうして?なんで秋だったの?タケルじゃないのは何となく納得出来るけどどうして秋なの?」
彩綾がまくし立てると乃蒼は眉に皺を寄せ困っていた。
「いやぁ、いつか聞かれるとは思ってたけど。困ったなぁ…ちゃんとした理由なんてないんだよねぇ実は笑」
苦笑いを浮かべる。けどそんな説明じゃ私達は納得がいかない。まぁ私達を納得させるために乃蒼は生きているわけじゃあないんだけど。
「何て言うんだろうなぁ?なんか決められてたっていうか、啓示っていうか運命っていうか…」
「「運命!?」」
桜と彩綾がシンクロした。
「あ、もちろんそんな大層なもんじゃないよ」
「ちゃんと教えて。知りたいっ」
桜の気持ち、わかります。知りたいのです、あなた達2人のお話。
「わかった。けど最初に言っておくけどちゃんとした理由はないからね?オチが付かなくても知らないですよ?」
わかったよ、乃蒼。オチは私達がつけてあげる笑。
「1番最初に秋に会ったのって、実は学校じゃないの」
キタコレー!マンガとかアニメでよくあるヤツだー!
「え?でも乃蒼って入学前に引っ越してきたんだよね?秋のこと、何で知ってたの?」
「知ってたわけじゃないよ。だから最初名前も知らなかった。ただ、制服の寸法測りに行った時、試着室で隣にいた男の子は若くて綺麗なお母さんと一緒だったの。それで、制服も同じ学校だしここにいるって事は私と一緒で新一年生なんだな〜って思ったくらい。最初は秋じゃなくて花さんの方が印象に残ってたなぁ。若くて綺麗で」
「まさか入学前に秋花の2人とイレ乃蒼が会っていたとは…」
「ううん、その時私はお父さんといたの。イレーヌはおばあちゃんが入院したからってフランスに帰ってたんだぁ」
イレーヌか。乃蒼サヤの話ではかなり強烈なキャラクターみたいだからちょっと会ってみたいな。けど怖いな笑。
「その時はそれで終わったの。それだけだったらきっと私、秋と友達になろうなんて思わなかったな〜」
その時は、か。
「次に会ったのは制服を取りに行った時。私は1人で行ったんだけど、その子はまたお母さんと来てた。なんか凄い楽しそうに話ししてたし仲良いんだなぁって思った。その日会った時は制服を買いに行った日が同じだから出来上がる日も同じなんだろうなってくらいにしか思ってなくてこの時も別に不思議に思わなかったの。けど、教科書を取りに行くじゃない?本屋さんに。あれってすんごい重たいからお父さんの仕事が終わってから車で書店に行ったの。そしたら、また居たのよ笑。だけどその時は1人だった。あんなに楽しそうに2人で制服を取りに来てたのに、凄い悲しそうな顔して1人であの重たい教科書をリュックに詰め込んで背負ってた」
あれを1人で持って帰ったの?笑。やるな秋。少年時代の亀仙人の修行みたいになってただろうな笑。
「受付時間の18:30ギリギリに行ったのは私達2人だけでさ。さすがにその時は『あ、この子またいる』って思ったよ。それにこないだの楽しそうな笑顔から一変して暗い表情をしてたから、何かあったのかな?って心配になっちゃった。けど別に友達でもないし話したこともないから私はそのまま本を見に行ったの。したらね、またいんのよ笑。おっきいリュック背負った男の子が哲学書のコーナーに。自分で言うのもなんだけど小卒そこそこの子どもが哲学書のコーナーにいるって、なんか凄い違和感なんだよね。だからちょっとだけ興味が出て来たの。この子はここでどんな本を手に取るんだろ?って」
いやいや乃蒼さん、小卒そこそこで哲学書読む人はここに2人もいますけど?笑。あ、そうか。私達も御多分に洩れず違和感のある存在でした。
「私は本を探すフリしてその子が手に取って買うかどうか悩んでる本のタイトルをチラッと見てたの。結局その子は5分くらい悩んで買わずに書店を出たんだけど、私は気になってその子が手に取っていた本を買ったの。タイトルもあんまり見ずに」
「なんて本だったの?」
やっぱり桜も本のこととなると気になるよね?私も笑。
「『高度次元からの啓示』っていうカナダ人哲学者の書いた本でした」
知ってる?と私が聞くと聞いたことないと桜が答えた。まぁ私達にだって知らない本はたくさんある。
「どんなことが書いてたの?」
そう、そこが重要だ。
「要はスピリチュアルメッセージの事が書かれてました」
危ない、危ないよ秋。カルトな匂いがプンプンするよ。あんたその日どうしたのよ?
「私はあんまりそういうの興味ないっていうか好きじゃなかったんです。あんまり宗教色強すぎるの苦手で。だから三浦綾子とかもあんま好きじゃなくて…」
「なんでー!塩狩峠は凄く良い作品なんだよ!」
まって桜。忘れてはしないかい?
「積み木の箱だって名作だよ!あれ凄く良いんだよ!」
「や、好きじゃないってだけで読みはしましたよ?けどやっぱり私には合わない」
「プロテスタント思想が強いってこと考慮しても、三浦綾子は偉大な作家だよ」
ここでたまらず彩綾が間に入る。
「あの…先、続けてくれないかな?本線から逸脱してます」
ごめん彩綾。本のことになるとちょっと熱くなっちゃって。それにしても乃蒼ったら!今度『銃口』を貸してあげよう。
「うん。好きじゃなかったんだけどせっかく買ったから全部読んじゃおうって思って我慢して読んでたの。そしたらここ最近の事が本に書いてた」
「ここ最近の事って、まだ名前も知らなかった秋のこと?」
乃蒼がうなづく。
「その本に書いてた事は、偶然を偶然として見逃してはいけないって事だったの。高度次元からあなたに向けた意味のあるメッセージをあなたはきちんと気づけていますか?って。最初に会った時から秋の事を認知してた。そして偶然また会った。そしてまた次も。同じ人に偶然3回会ったでしょ?そしてその人の事が気になって、手に取っていた普段なら絶対買わない本を買ってみた。そしたらそんなことが書いてた。だから私はちょっと考えてみました。あの人は私のなんなんだろう?私にとって何か意味のある人なのかな?あんま信じてないけど、高度次元というものが存在するとして、ならその高度次元は私に何を伝えようとしてるんだろうって」
その手のモノは受け手の解釈次第でどうとでも受け取れる怖いものだ。良ければいい。悪ければ深い闇だ。
「けど私はやっぱりそういうの信じてないしのめり込みたくないし、どちらかといえば敬遠してました。それは今でもそう。けどその時はちょっとだけ賭けをしてみたんです。もしその賭けに負けたら今回だけそのメッセージとやらを受け入れてみようって」
「その賭けって?」
乃蒼はあの時のことを思い出したのか苦笑いした。
「もしあの子と同じクラスになったら、私はあの子と友達になるっていう賭け」
3人が一斉にのけぞった。
「6分の1。確かにありえない数字じゃないけどそこまで続くとさすがに私でも信じちゃうかも…」
「だよね?いや〜怖いっ!高度次元怖いっ笑」
私達歳上組も思わず唸ってしまう。
「じゃあクラスに秋がいて驚いたでしょ?」
彩綾の問いに乃蒼は目を見開いて
「そりゃもう驚いたよ!探す必要すらなかったもん。私の席の隣に座ってた」
うわぁ!そこまで丁寧に啓示しなくてもさすがに気付くよね?笑。
「なので秋と友達になるのは決めてたの。ただ1つ大きな問題があったんだよねぇ」
大きな問題って?と桜。
「私、友達の作り方知らなかったんです。どうやって話しかけて良いかわかんなくて。勇気を持って話しかけようとするときに限って秋は席を立ってどっか行っちゃうし。しばらくは何にもできなかったなぁ」
「あんたらしいわ。で、きっかけは?」
「エクレア」
エクレア?
「イレーヌがまたエクレアを持たせてくれたの。私はあの遠足の日以降あまりエクレアを食べる事はなかったんだけど何故かその日の朝イレーヌはエクレアを持たせてくれたの。ある意味それも啓示だったのかなぁ?ともあれエクレアというアイテムは秋に話しかける口実になるって思ったよ。だけどまだ問題があったの。秋にあげるってことは前や後ろの子にもあげないと不自然でしょ?たった1人に話しかけるのもままならないのに2人も話さなきゃいけない人が増えるってどういう事よ!って私はあの時嘆いたね。お昼食べ終わったら秋もどっか行っちゃうし…。結局また私はあの時みたいに1人でエクレアを食べたよ」
さっきの話を思い出す。乃蒼の遠足の時の話。
「けどさ、ご飯食べた後にエクレア5個はキツイよ笑。プチじゃないよ?フルサイズ!しかもご丁寧にやや大きめの。食えるか!っての。だからまた余っちゃったの。2個だけ。さすがに捨てるくらいなら家に持って帰ろうって思った時、秋が教室に戻って来たの。で、紙袋見て『それ何?』って聞いてくれて。私は『エクレア。たクサンあッテ食べきレナいノ』って初めて秋と話したの。そしたらめっっっっちゃ可愛い笑顔で『俺エクレアすんごい好きなんだよ!ちょうだい!』って言うの。私が紙袋ごと渡すと大きいのに一口で口に入れて『何コレっ!甘っ!激甘っ!笑。やっべぇ超美味い!俺いま超幸せ笑」って言ったの」
乃蒼もすごい幸せそうに笑う。
「私がそのセリフに驚いてるのにも気付かないで2つ目も食べちゃって『ごちそうさま。こんな美味いエクレア食べたの初めてだよ。また余ったらちょうだい笑』ってまたさっきみたいに超絶可愛い笑顔で笑うの。それからかな?秋の方から話しかけてくれて。気付いたらカタコトじゃなくなってて普通に話せてた」
私は声に出して言いたい。しかも真っ先に言いたい。
「秋って、笑ったら可愛いよね」
「「「わかる〜〜〜!!!」」」
あ、やっぱりだ笑。
「ねぇ彩綾、あれって昔からなの?」
「そうですよ〜。昔っから可愛いの秋って。桜子さん、羨ましい?ねぇ羨ましい?」
「ぐぬぬ…。いいなぁ幼馴染。彩綾、変わって」
「ダメです〜。私の特権なんです」
「じゃあ乃蒼、その運命的出会いポジション変わって」
桜、ちょっとがっつきすぎじゃなくて?
「ダメです笑。こんな出会いなかなかないってわかってるので簡単には手放しませんよ」
乃蒼は両手を桜に向かってつっぱねる。
「ズルい〜。私もなんかそういうの欲しい〜」
桜、ホントにあんたって子は。今を必死に生きすぎだよ笑。
「阿子さんはさすがに羨ましくないですよね?なんてったって野島さんの彼女なんだし」
「彩綾。私はねぇ、こうみえて賢いんだよ?」
後輩2人は「は?」という顔をした。待て、失礼な!
「ちょっと!あんた達は私のことバカだと思ってたの?」
心外だぞ2人とも。
「あ、そんな事ないですよ」
「そうですよ。だって特進じゃないですか?」
そうよ。タカと一緒のクラスになるためにめっちゃ頑張ったんだからね!
「あのバカの陰に隠れてるけど、あいつさえいなかったら私は国天、桜は英天と数天、そしてコースケは社天と理天なんだからね?」
2人は目を見開いて驚いている。
「桜子さん英天なんですか?私も!一緒ですね!私は数学が苦手だから数天は無理ですけど」
「2人とも…こんなに可愛いのにそんな頭が良いなんて。ズルい。私なんて天の字ないのに…」
だから、頑張ったのよ凄く!
「阿子さぁ、なんで急に自慢話始めたの?」
あ、そうだった。
「つい熱くなっちゃって忘れてた。いい彩綾?私はこう見えて賢いの。だから自分が何ができるか、どこにいればいいか、何を手にできて何を手にできないかはわかってるつもり。だから私はタカの彼女で満足だよ。なのに秋の幼馴染や運命的出会いなんて望んだら、きっとバチが当たるよ」
タカの彼女という今いる場所でさえ奇跡だというのに。
「けどもし野島さんと付き合ってなかったら?望みますか?」
乃蒼がとても難しい、いや難しくはないか。困る質問をしてくる。
「ここは本音で言ってもいい?」
「いいに決まってます」
乃蒼に変わって彩綾がそう答えた。
「じゃあ、やっぱ羨ましいよ。小さい頃の秋を見てみたいし、そんな小説みたいな出会いをしてみたい」
「それは、秋のこと…後輩じゃなくて男の子として好きって事ですか?」
今度は彩綾が困る質問をふる。
「それは…」
思わず苦笑いしてしまった。
「うん。いや、う〜ん笑。どうだろ?秋のことは素直に可愛いと思う。体育祭の時、3組にケンカ売りに行った時なんかはカッコいいと思った。ぶっちゃけると、きっとタカを知らなければ秋のことをいいなって思ったかもしれない。私、男見る目は自信あるから、絶対秋はいい男になると思う。だけど…もしタカがいなくても私は秋に想いを伝えることは出来ないかな?ただ『いいなぁ、可愛いなぁ、素敵だなぁ』って思うだけだと思う」
「どうしてですか?」
彩綾が眉を下げる。
「ん〜、笑。2人は知ってるのかもしれないけど、私は知らないもの」
「知らないって、何をですか?」
今度は乃蒼が眉を下げた。
「秋が誰も見てないと思った時にたまに見せる悲しそうな顔の理由。それってきっと秋にとって大切なことなんだろうと思って。それを知らないで好きになる事は出来ないかな?なんか大事なことを隠されてるようで、付き合ってても、ちょっとツラい」
タカと殴り合っているときの秋はとても楽しそうだ。怒っているときだって、楽しそうに見える。だけどあの顔の時だけは、秋はツラそうに見えた。もしも私が秋を本気で好きになったら、その理由を知りたいと思う。そして出来ることならなんだってしてあげたい。秋の抱える悲しみを取り除くのは私でありたいと強く思ってしまう。私はそういう性格なのだ。
「乃蒼、知ってる?秋のそういう顔」
「ううん。見たことない…か、それを見てても気付かないのかもしれない。それって入学前に1人でいた時のあの顔なのかな?」
はぁ…。私はこの2人が好きだ。撫でくりまわしたくなるくらい可愛い後輩だ。だからこそ今言わなくてはならないことが出来た。できれば嬉しい楽しいだけがいい。けどそれは無責任なことと同じだ。好きだからこそ苦言を呈することをしなければならない時なのだ。だから言わなきゃ…。ちゃんとこの2人に教えなきゃいけない。
「2人は秋の何をみてたの?私達よりもっと多くの時間を秋と一緒にいるあんた達が知らないで、どうして私や阿子が気付いてるの?」
言わなきゃいけないことの出だしを桜がしてくれたのは予想外だった。そういう物事をズバッと言う事はこの子は得意じゃないと思っていた。いや、得意じゃない。得意じゃないけど言わなきゃいけないほどにこの2人のことを桜は大切に思っているのだろう。
「2人にとって秋はたまたま学校が一緒で気が合っただけの級友なの?いつか学校が離れたら、次第に連絡を取らなくなって時々思い出して懐かしむような旧友になるの?クラス会で『久しぶり、元気だった?』とか近況を聞くようになるの?」
桜は淡々と2人に問いかける。
「そんなこと無いですっ!」
乃蒼が声を張り上げる。
「そうですよ!秋は大事な友達です」
そして彩綾も。
「その言葉になんの説得力ないよ、2人とも。彩綾はこの中で1番秋と時間を共有してきたはずなのになんであの顔を見たことがないの?乃蒼は私達と仲良くなったきっかけをくれた秋をどうしてもっと見てあげないの?」
2人は何も言えなくなった。
「その様子だと彩綾も乃蒼も知らないんだね。あの顔の理由。私も知らないけど、あれはその時ちょっと悲しい事を思い出しちゃった、なんていう一時的なもんじゃないのくらい私にだってわかるよ。秋には乃蒼や彩綾やタケルや私達や、他にもたくさん話をするような人がいるだろうけど、あの顔をする時だけ秋は孤独だよ。もしかしたら花さんすらもその時の秋の中にはいないのかもしれない」
孤独、ね。孤独は辛いよね。その痛みは私や桜やタカやコースケ、4人全員が知っていて、最初に私達が共有できた感情だ。
「私はそれでもああやって笑える秋を凄いと思ってる。コースケやタカでさえあんなふうに出来なかった事を秋は当たり前のようにしている」
そうだね。私達は孤独に浸っているだけで何にもせず、ただふてくされているだけの4人だったね。
「私達と秋が出会ってしばらくしてまた図書室に秋が来た時、5人で話が盛り上がったの。もう爆笑しててさ。けど話がひと段落して秋が窓の方見たその横顔がひどく悲しそうで。さっきまで笑っていたはずなのに。そのギャップに私は秋のことがちょっと怖くなるくらい」
私もその表情を見てしまった。すぐ桜と目が合った。この子はきっと重たくて黒い何かを背負ってるんだなと直感した。でなけりゃ12歳の男の子があんな顔なんて出来ない。
「それからかなぁ。秋のこと気にするようにしたのは。私達の方からその理由を聞くこともできなかったしね。だから私達は秋といる時は精一杯一緒に居たよ?その時の全力で秋といたよ。2人はそうじゃなかったの?」
私達のモットー、今を死ぬ気で生きる。
それでも後悔がないわけではない。ああすれば良かった、こうすれば良かったと思う日なんてほぼ毎日だ。だけど、それでもどこかで「その時の全力だった」と思える。それは今日の私を慰めてくれる。明日の私も全力で生きていける。だから私達が秋に理由を聞かないのは私達なりに全力の理由がある。
「私はいつから秋がいるのが当たり前になってたんだろう?」
力無く乃蒼が呟いた。
「私は秋に守られてばかりで、救われてばかりで、だからいつか秋が苦しい時に絶対力になろうって思ってたのに…。それがもう始まっていることに気づきもしないで。私は、サイテーだ」
「それを言うなら私の方だよ。誰よりも秋といたのに気付かなかった。ううん、違う。私は秋に何かあっても花さんがなんとかするんだろうなってタカをくくってたんだ。私なんかより花さんが助けた方が秋の力になれるって思って、私がしてあげられる事はないんだってそう思ってたんだ…。幼馴染の大事な時に気付いてあげれないならまだしも、気付く気もなかったなんて。私の方が、サイテーだ…」
「はい、嘆かない。大事なのはこれからだよ。で、どうする?2人とも」
私、久々に喋った気がする。全部桜が持ってっちゃったよぉ泣。
「私はずっと決めてたことがあるんです」
乃蒼の顔はさっき呟いた時よりも遥かに目に力がこもっている。
「ずっとって?何を?」
「去年の文化祭の時から。ずっと思ってたことがあって。もし秋に何かあったら、私は絶対に秋の味方でいるってこと。けどそれじゃ今まで秋が私にしてくれたことに見合わないから、秋の力になるって、助けになるって決めてました。だから文化祭以来、自分を変えようって、成長して強くなろうって思ってました。なのに私はいつか来る秋の辛い時のために自分を成長させる事で精一杯で秋のこと見えてなかった。今できる事は少ないかもしれないけど、秋のことちゃんと見てあげてなかったけど、けど!もしそれが今なら、私は今全力で秋の味方になります!助けになります!私はまだ阿子さんや桜さんや野島さんみたいに秋のことわかってあげられないし何も出来ないけど、だけど出来る事は全部やります!さっき桜子さん言ってましたよね?精一杯、全力で秋と居たって。だから嫌だっ!やれる事すらやらないなんて、絶対に嫌だっ!私も!全力で秋と居たいよっ!」
乃蒼、私思うんだ。あんた秋のこと好きなんじゃないかって。その事自体にあんたは気付いてないんじゃないかって。あんたが秋に対して抱くその想いは友情じゃなくて愛情なんじゃないのかな?そう思えてならないよ。
「ねぇ阿子さん、桜子さん」
思考の途中で名前を呼ばれた。
「もし違ってたらまた指摘してください。私が乃蒼のように全力で秋に注ぐのはなんか違うような気がするんです。あ、乃蒼はいいよ?乃蒼はいいの。けど私にはタケルがいるの。もちろん秋の事を今より大切にしようとは思う。何かあったら絶対に助けてあげたい!けど全力を向ける方向は秋じゃなくてタケルなんじゃないかって、そう思ったの。そうじゃなきゃダメなんじゃないかって思ったの」
彩綾、あんたは自分でどう思ってるかわからないけど賢い子だよ。それから勇気のある子だよ。
「それでいいと私は思う。私だって秋のこと気にかけてるけど、やっぱり私はタカが1番。桜は特別なの。この子は全てに全力じゃないと気が済まないから笑」
彩綾がそれを言えたなら、私だって答えなきゃね。野島貴明の彼女としてズルい私は見せられない。
「桜子さんはどう思いますか?」
「阿子の言った通り。私は自分でそうしたいと思ったことには全力だよ。けど、…2人にあんな偉そうに言っておいてカッコ悪いけど、迷うこともあるよ。全部が全力ってのは全部が1番って事なの、私の中で。けど全部が1番って凄く難しい。だから彩綾が1番大事にしたい事を大事にして。それはその時々で違ってもいいから私みたいに迷わないで。彩綾なら間違えたりしないでちゃんと選べると思うから」
彩綾。桜の言葉、わかってあげてね。桜みたいに迷って自信を無くしたりしないで。とってもわかりづらいけど今の桜の言葉はこの子があなた達を信頼している証なのよ。いつかわかってくれたらいいな。
「秋は何に悩んでんだろう?」
乃蒼は天井を向いた。
「そう言えば秋って、人の話を聞くけど自分の話ってあまりしない方だよね」
彩綾も天井を見上げる。
「寂しいよね。何も言ってくれないなんて」
桜も真似して上を向く。
「私達がどうこうじゃなく秋なりの優しさなのかもよ?迷惑かけられない、とかさ。それか自分1人で解決しなきゃいけない事なのかもしれないよ」
私も上を向く。首が痛い。
「だとしたら、私は何をしてあげられるかな?」
乃蒼、あんた秋のこと好きでしょ?
「そばにいてあげなよ。何もしなくていいからさ」
「はい!そうします」
秋、もう寝たかな?深夜に美少女4人が秋のことこんなにも考えてるよ。この色男〜笑。
「さ、寝よ。夜更かしは肌に悪いんだってさ。もう完全に夜更かしだけどね笑。じゃまた明日ね。おやすみ〜」
「「「おやすみ〜」」」
本当はまだ寝たくない。朝までずっと話してたい。けど、私達にはまだまだ時間がある。卒業したってきっとこの4人の関係は変わらない。私達のこの関係は、今はまだ始まったばかりなのだから。
長いようであっという間の1日が終わる。色んなことがあったなぁ。ご飯作って化粧して、ミシィで雪平くんとお茶して、ピザ食べてお風呂入っていっぱい話して。今日も楽しかった。全力出した。疲れたなぁ。また明日も楽しかったらいいなぁ。
おやすみタカ。
明日は電話するね。




