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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
89/807

彩綾の章 「お泊まり女子会2〜変身〜」

「さて、遊ぼうか」

阿子さんの言葉を合図に桜子さんが小さなトランクを持ってきた。

「何が入ってるんですか?」

とても気になる。

「化粧道具一式。お出かけ用のやつだけど」

トランクを開くとそこにはたくさんの化粧品が詰め込まれていた。カラフルで可愛くて私にとってそれは魔法の箱に見えた。

「化粧したことある?」

私も乃蒼も首を振る。化粧なんて高校生になってからするものだと勝手に思ってた。

「どっちからしようかな〜?」

はい!

はい!

「「じゃ〜んけ〜ん…」」

ほいっ!

うぉーーーーーーーーっしゃこらーーーーー!!!

乃蒼がしょんぼり。ごめんね乃蒼。けど、絶対に負けられない女の戦いがここにはあるの。

「眉は整えてんだね」

「まぁ女の嗜み程度は」

「じゃあ彩綾の顔は目鼻立ちがはっきりしてるから…」

何やら肌色の絵の具を塗る。

「これ何ですか?」

「何ですかって…下地だけど?これ塗るとムラがなくなってファンデのノリが良くなるの」

下地???ファンデ???

私は桜子さんにされるがまま塗り絵を顔いっぱいに塗られる。その後なにやらスポンジにクリームを少量乗せ再び顔に塗り広げていく。

「桜子さん、これは?」

「動かない!笑。本当に化粧したことないんだね笑。じゃあ説明しながらやってこう。これはファンデーション。平たくいえばドーランよ。さっきの下地はノリが良くなるのもそうなんだけどファンデを肌に直接塗るとキツいから」

なるほど。しまった、これは後の方が良かった。メモりたい。

「桜子さん、化粧品て高いんですか?」

一式揃えたらいくらするんだろう?

「モノによるかなぁ?さっきの下地はセザンヌのやつで600円くらい。それに無印の青のコントロールカラーを混ぜると超良いんだけど売れすぎでどこいっても品切れしてんのよねぇ。だからコントロールカラーは省略しました。ファンデはUVカットのがオススメ。ファンデーションはその人の肌に合ったモノがいいから色々試してみるといいよ」

「乃蒼!メモって!お願いっ」

「彩綾、すでにメモしてるよ」

さすが乃蒼!やっぱアンタも女の子だね!

「彩綾は鼻筋が通ってるからノーズシャドウも省略。チークに入ります」

ダンスでもするのでしょうか?

桜子さんはコンパクトのようなフタを開け、絵の具筆を何度かなぞらせる。目の下、頬のあたりを何度かなぞる。

「チークを入れると血色が良く見えるよ。私はキャンディドールのリップ&チーク使ってる。900円くらいかな?」

「おおっ!彩綾、可愛い!」

乃蒼が大きな目で私の顔を見る。くっ!誰か鏡じゃ!鏡を持てぃ!

「ん〜、やっぱりマユも描こう」

クルクルっと回して出てきた茶色の色ペンで私の眉毛を軽くタッチする。見たいよぉ〜、早く見たいよぉ〜。

「よし。じゃあ次はアイメイクね。2人がもし買うならグラデーション出来るまで一体になったやつをオススメするよ。んと……あ、これこれ。これオーブクチュールのシャドウなんだけど、これを上から順番にしていくとアラ不思議、簡単にグラデーションが出来るっていう優れものです」

オーブクチュール、聞いたことある。CMで見たことある。

「桜子先生!」

「はい荒木さん」

「それは高いのでしょうか?」

「私達にとっては高いです!化粧品はね、どれもピンキリです!けど高けりゃ良いわけでもありません。肌に合わないと荒れの原因にもなります。メーカーによって合う合わないもあるし、化粧を覚えていく上で自分に合ったものを探していきましょう。乃蒼と別のものを買ってお互いに使ってみながら探すのもお金の節約になります。私が1番いいたいのは自分に合ったものを使ってね。高くてもったいないからって使い続けてもあとで絶対に後悔します。覚えておいてね」

はい!肝に命じます!

「よし、次はアイライナー。これは大事だよ!目の大きさや形が決まるの。目がブスだと全部ブスだからね!」

「「はいっ!」」

桜子さんがペンシルのフタをクルクルと回し、筆の方を私の目に近づける。怖い…怖いよぉ。先端恐怖症じゃないけどなんか怖い。急に雪平のこと思い出しちゃった。

「ちょっと目閉じて」

良かった!え?桜子さん、そこ目じゃないですよ?はみ出してますって。大丈夫ですか?

「これもランコムのだからちょっとお高い。まぁ徐々に良いものに買い換えていけば良いよ」

「桜子さんは何年くらいで買い揃えたんですか?」

乃蒼、良い質問じゃない。

「ん〜。小学校4年からだから…5年くらいかな?お母さんのお古もらったりプレゼントしてもらったり」

「小4で化粧してたんですか?」

「うん。私あんまり顔色良い方じゃなくて気にしてたんだけどお母さんがさっきのチークをしてくれたの。それからだよ、化粧に興味もったの。なんか男の子が変身ヒーローすきじゃない?似たようなもんだよね笑。けど女の子の化粧は本当に変身できるからリアルだよね」

言われてみたらそうだ。今、私は変身しているのだ。なんかちょっとドキドキする。早く自分の顔を見てみたい!

「目開けて良いよ。そしたら今度はビューラーでまつ毛を上げるよ。ビューラーは、ぶっちゃけどれでも良いよ笑。私のは阿子がプレゼントしてくれたSUQQUのやつだけど、100均の使ってる人もいるから」

「桜子さん、怖い…まぶた挟まれそう」

「彩綾、誰に言ってんのよ笑。ちゃんと目開けててね、大丈夫だから」

ま…まつ毛がひっぱられる…

「そしたら次はマスカラね」

マスカラ。メキシコのプロレスラーにそんな名前の人がいたな笑。けどマスカラくらいなら私にもわかる。まつ毛長くするやつだ。

「よ〜し!あとはリップだなぁ。う〜ん…阿子、何色がいいと思う?」

私はまだ自分の顔がわからない。紫とかじゃなければいいのだが…。

「ノアの9」

「え?」

乃蒼が返事した笑。

「乃蒼じゃない笑。そういうリップグロスがあるの笑。9ね。んと、あった。コンシーラー省略ね。で、グロス塗る時の注意点は、塗りすぎるな!よ。油モノ食べたあとって言われるからね笑」

大体想像できた笑。綿棒にチューブから少量塗り

「はい、咥えて」

咥えてって?いいの?綿棒、咥えるの?

ぱくっ

スッと引き抜く。

「はい口半開き」

言われた通りにする。桜子さんは筆のようなもので塗り広げる。

「弱くない?」

「え?そうかな?あんまり濃いと唇お化けになるしやっぱ目を強調したいじゃん」

「あ、なる。そしたら良いんじゃない?」

「オッケー、完成〜」

かがみ!鏡!カガミ!

「彩綾、綺麗…」

かがみぃ!鏡よこせぇ!!!

「ほら!」

小さなトランクのフタの裏が鏡になっている。そこに写っていたのは14年の間で見たこともない、少し大人びたの私だった。

「・・・・・・・・・・」

「あれ?気に入らなかった?」

「・・・・・・・・・・桜さん」

「ん?」

「私、超絶美人じゃない?」

「それ思ってても自分で言っちゃダメなやつ笑。けど綺麗だよ彩綾」

綺麗ってもんじゃないよ!

「ケータイ!ケータイ!私のケータイ!撮らなきゃ!奇跡の一枚撮らなきゃ!!!」

「待ちなさいっ!」

阿子さんの強目の制止。

「首から下が顔に合ってない!ちょっとおいで。その間桜は乃蒼に化粧しといて」

おっけ〜、と桜子さん。乃蒼は緊張の面持ち。けどきっと乃蒼も綺麗になる。確信がある。この子のポテンシャルは私よりも高い。


阿子さんの部屋はもっとこう、可愛いに囲まれたポップな部屋かと思っていたら意外と落ち着いた感じのものだった。

「ん〜…。よし彩綾、脱いで」

え?まだお昼ですよ?てか私達、女同士ですよ?

「はやく、ほら!」

「わ〜!阿子さんちょっと!ちょっと待って!は、はうぅっ、あ…あんっ!もうこんなところまで!脱がせ上手って、え?いや〜!!!」

10秒足らずで私はブラとパンツ姿にされた…。

「これ着て」

こ…これは…!桜子さんが着ているようなふわっふわのワンピースだった。けどどこか大人の感じがする。可愛い。

「はやく着ないとブラも取っちゃうよ?」

私は慌ててワンピースを着にかかる。

「ん〜!サイズもジャストだね。それから、髪もいじろう。そこに座って」

鏡台の前に座るとヘアアイロンで髪をいじる。

この人達は一体なんなのだろう?まるでスタイリストのようだ。

クルクルふわふわな私の髪と化粧で鏡に映る私はすでに私の知る私ではなかった。けど紛れもなく目の前にいるのは私だ。

「あなた達はまだ何者でもないのよ」

突然花さんのあの言葉が思い出された。ここに映る私は本当の私ではない。けど、私だ。私はこうなれる。スッピンのままでは出来ないことも、この変身によってできる事があるかもしれない。私は、それまで見えていた自分の天井が見えなくなった気がした。


私は、何者にでも、なれるかもしれない


単純、とも思う。けどそれだけ私の中で自分自身への価値観が大きく変わった。



「お待たせって………あんた誰?」

「え?乃蒼だけど」

目の前に知らない女の人がいた、と言っては大げさだけど、私の知らない顔の乃蒼がいた。

「変?おかしい?」

「いや…変じゃ…ない。けど…」

「けど何?ねぇやっぱおかしいの?」

乃蒼の目の前に座りマジマジと乃蒼を見つめる。

「私まだ見てないんだけど、どう?どうなの私」

どうって?何がよ!

「乃蒼、お願いがあるの」

「どしたの?なに?」

「キスしよう」

「はいぃっ???」

誓って私はノーマルだ!しかし目の前にいるこの少女にちゅーしたくなるほどに、乃蒼は可愛かった。魔法で乃蒼を小さくしてポケットに入れて持ち帰り、完全なる飼育をしたくなるほどに乃蒼が可愛い!

「たくさんの人に化粧してきたけど、こんなに化粧映えする子は初めてだよ」

カシュー

桜子さんも自分の携帯で乃蒼を写す。

私も撮らなきゃ!

カシュー、カシュー、カシュー、カシュー、カシュカシュカシュカシュカシュー

「なに連写してんの!笑」

「いやだって、ホントあんた可愛いよ?見てごらんよ」

どれどれ?とおばさん臭いことを言いながら桜さんのトランクに付いてる鏡をみた乃蒼はしばらく動かなかった。

「・・・・・・だれ?」

誰ってアンタだよ!でしょ?可愛いでしょ?

「私…自分の顔あんまり好きじゃなかったけど、この顔好き…。桜さん、ありがとう」

贅沢な事思ってたんだね。これで乃蒼のコンプレックスが解消されたのなら今日という日は乃蒼にとってもちょっとした記念日だね。

「乃蒼、いらっしゃい」

阿子さんが部屋の前で乃蒼を手招きする。

「乃蒼、気を付けてね笑」

「気を付けてねって、なにが?」

迷わず行けよ。行けばわかるさ。

部屋に入って10秒。

「阿子さん、え?ちょっと待ってくださ…あんっ…え?ダメ…それはダメ…ひゃん…あ、らめ…そこはらめぇぇぇぇ!あっ」

ひん剥かれたな笑。

「阿子なにしてんの?」

「男子がしたら犯罪なことです」

「ああ。いつものか」

いつもなんですか!?

「桜子さん。ありがとうございました」

「ん?なんもなんも笑。私の趣味だから」

化粧をしてくれたことだけじゃない。

「私自分のことわかってるつもりだったけどわかんなくなりました。良い意味でですよ?自分の限界が見えなくなりました」

桜子さんは着ている服のようにふんわりと笑う。

「女の子はね、変身するんだよ。外側だけじゃなく中身も比例するの。ね?面白いよね化粧って」

「はい。桜子さんはだから美容の学校に進むんですか?」

「うん。実はまだ普通科に未練はあるけどね。阿子は八九寺高志望してるから私も八九寺にいってまた2人で一緒に居たいって思ったりもするけどね」

迷ってるんだ。

「私も八九寺志望です。私も、また桜子さんと阿子さんと一緒に居たいけど…、夢なんですもんね?」

うん、と静かに声を響す。小さくてもよく聞こえる桜子さんの声。妙に落ち着く、その声はまだ迷いがあると私にもわかった。

「ま、もうちょい時間あるからもう少しだけ考えてみるよ」

「はい。どっちの進路になっても私は桜子さんの夢を応援します!」

ありがと、と桜子さんは綺麗な声でそう言った。

「お待たせ〜」

阿子さんの声で振り向くと、やっぱり知らない子が立っていた。

「だから、誰よ笑」

「だから、乃蒼だよ」

白のティーシャツにパステルブルーの花柄パンツ。なんてことないコーディネート。なのになんでこんな可愛いの?

「乃蒼、ちゅーしよ!」

「だからなんでなの?なんでちゅーしたがるのよ!笑」

なんでって、あんたが可愛いからよ。

カシュカシュカシュカシュカシュー

「だから彩綾、連写しないでよ」

「ねぇ乃蒼、あんたホントに可愛いよ。ウチの学校の男子は一体どこに目つけてるんだろね?ここにこんな可愛い子がいるのに!」

タケルには見せたくないな。やっぱり私が1番だと思って欲しい。

「コースケが言ってたよ。一個下では乃蒼と彩綾がぶっちぎりだって。甲乙付けがたいってさ」

桜子さんは自分の彼氏がそんな事を言ってもヤキモチ妬かないんだ?大人だなぁ。

私達は携帯で撮影会を始めた。4人でお互いを撮りあったりツーショットやスリーショット、4人でも撮った。たくさん、たくさん撮った。自分も含まれているのに言うのもアレだが、その写真に写っているどの子も可愛い。私達に勝てるのはもはやオードリーヘップバーンくらいではないかと勘違いしてしまうほど私はのぼせ上がっていた。

「タケルに送ろう」

たくさん撮った中からベストショットの何枚かをタケルに送った。乃蒼が写っているのは選ばなかった。やっぱり私はまだ桜子さんのように大人にはなれない。タケルには私だけ見ていて欲しかった。

「乃蒼は?誰かに送らないの?」

「送る人いないよ笑」

ピカーン!

「よし!秋に送ろう!」

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁああああ!!!」

阿子さんが突然叫びだした。

「桜、私達もやろう!」

「え?なにを?」

「私達も化粧して着替えて、そんで4人の写真送って秋に1番を決めてもらおう!」

ねぇ秋、大変なことになってきたよアンタ笑

「それ、本気で攻めて良いんだよね?」

桜子さんの顔が、怖いくらいマジだ。

「勝とう桜!」

「当たり前よ!大人の色気見せてやる!」

ダメだ。先輩2人が壊れてる。

阿子さんと桜さん2人が本気で自分を磨き始めた。

「彩綾?秋は困らないかな?」

「困るだろうね笑。誰を選んでもカドが立つ」

「だよねぇ」

あんたは優しいねぇ乃蒼。こんな時も誰かの心配なんだねぇ。

「乃蒼は秋が自分のこと1番に選んでくれたら嬉しい?」

乃蒼が可愛い顔のまま困った顔をしている。

「……うん。やっぱり嬉しい」

そっか。女の子だね、あんたも。

「彩綾は?」

「そりゃ私だって嬉しいよ。ましてや秋は初恋の相手なんだから」

タケルはもちろんだけど秋が選んでくれたら私は嬉しい。雪平や羽生さんに選んで貰うより、少しだけ秋の方が嬉しい。茂木には選んで欲しくない。てか見せたくない。

「できた〜!」

2人の準備が整った。

「わぁ、こりゃ凄いね」

「これは…秋も困るわ笑」

先輩2人も乃蒼に負けず劣らずの変身ぶりだった。桜さんはイメージそのままに、けどそれにターボがついたように可愛さが天空まで突き抜けている。阿子さんは普段のサバサバした感じとは打って変わって落ち着いた、ちょっとだけ色っぽい感じの雰囲気。

また室内にカシューカシューと携帯のカメラの音が響く。4人がお互いのベストショットを選び阿子さんに送る。それを阿子さんがまとめて秋に送信した。

ピロリーン

私の携帯のメール着信が鳴った。

「タケルだ!」

メッセージを開く。

「なんだって?」

阿子さんの問いに私は答えない。答えないけど思わず顔がニヤつく。嬉しい!超絶うれしいよ〜〜〜!!!

「ナイショです笑」

「ごちそうさま笑」

あ〜、幸せだ!ほんと幸せ!

「まぁタケルは彩綾派だからいいとして。問題は秋ね」

阿子さんが怖い笑。

「秋ってあんまり携帯見ないから多分返信は夜になると思いますよ?」

乃蒼が可愛い顔でそう言うと

「なんか疲れた。甘いもの食べたい」

と桜さんがとても良い事を提案する。

「ミシィ!ミシィの2階でケーキセット食べに行きませんか?」

乃蒼がもっといい事を言った。

「ぃよし!このまま行こう!」

きゃ〜!誰かに会いたい!あってこの姿を見せたい!(茂木以外)


私は今日多分何かを得た。何かはわからない。けど多分それは私にとって、というか私の女という部分にとってとても大きなきっかけになるのだと思う。たかが14歳の小娘だけど、私はいま確実に女だった。それまでの女の子ではなく、女になったんだと思った。

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