表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
85/790

秋の章「図書室にて」

「ねぇ秋、夏休みに入る前に読書感想文の本読んでおきたいんだけどどれがオススメ?」

1学期も残りわずか。いつものように昼休みに俺と乃蒼、タケサヤと雪平の5人は図書室にいた。

「彩綾、最近読んだ本なに?」

「んとね〜、『ダメな私に恋して下さい』かな」

あぁあれね。キュンキュンするよね。

「マンガじゃなくて。小説で。好きな作家とかいないの?」

「最近だと『君の膵臓をたべたい』かな?作家は別に好きな人いないよ」

君膵は面白いけど読書感想文書くにはちょっとなぁ。

「参考までに乃蒼は今なんか読んでる?」

ボーッとした顔をしてボーッとしている乃蒼に声をかける。

「悪霊を読み直してるよ」

流石ですね鈴井さん。

「え?何ソレ面白そう!」

「お前、悪霊っていってもホラーものじゃないからね?」

「え?そうなの?だって悪霊ってタイトルじゃん」

なおかつ作者日本人じゃないからね。

「ドフトエフスキーだよ?カラマーゾフの兄弟とか書いた人。上下巻あるよ?総ページ数は1400を超えるよ?内容はかなり難解だよ?夏休みいっぱいかけて読んで、結局意味がわからないってオチになるよ?」

小学校4年の俺の夏休みがそうだった。

「うん、やめる!」

懸命な判断だよ彩綾。

「雪平っていつも和歌集とか読んでるけど感想文書きやすい?」

和歌集は恋の歌が多い。恋に生きてる男にはピッタリなジャンルである。

「荒木、和歌集の意味知ってるか?たくさんの和歌が一冊の本になってんだぞ?」

「バカにすんなっ!それくらい知ってるよ!」

雪平はバカを見る目で

「お前さ、そのたくさんの和歌の感想どうやって書こうとしてんの?うまくまとめられるの?それとも一つの和歌で感想文書くのか?俺は出来るけどお前には無理だ。断言する」

と蔑んだ。

「んもうっ!じゃあ私何読んだら良いのよ!」

幸いこの場所は図書室である。本ならたくさんある。俺は日本の作家の「ま」行の前に立ち目当ての本を探す。ある、必ずあるはず、ホラあった。その本を棚から取り出し彩綾に差し出す。

「武者小路実篤?この人、江戸時代の歌人じゃないの?」

「「「実陰さねかげかよっ!」」」

俺、乃蒼、雪平の計五天が一斉に彩綾につっこんだ。

「お前ら何?それ俺らは笑うとこなの?」

松葉杖を俺らに向ける。タケルは未だに松葉杖生活だ。その松葉杖の使い方も熟練度が増し杖を軸にして空中で一回転できるほどになった。とても実用性のない技ではあるが本人は大のお気に入りである。

「知らないの?実陰」

乃蒼がとても不思議な顔で2人を見る。

「知らねぇよ。つか普通の人間は知らないからな!」

『朝霞』

おもむろに雪平が詠み始める。良かった!俺ソレしか知らないんだよ。

『民の戸も明る煙のあさ緑』

さあ乃蒼、こいつらにトドメを刺してやれ!

『けさ色そへてたつ霞哉』

さすがっ!

「その普通じゃない俺らは歌まで詠めるんだなぁ〜」

ニヤニヤと勝ち誇る雪平のその顔はなんとも言えない腹立たしさがある。

「タケル、私の彼氏があんたでホント良かったよ」

「俺も。お前が彼女で良かったよ」

学年9位と28位はお互いを慰めあった。

「で、面白いの?この『友情』って本。タイトルが青春臭いんだけど?」

バカ言うな。名作だぞ?

「感情移入しやすいぞ笑。1ページ目ちょっと読んでみろよ」

彩綾は言われた通り本を開く。そしてすぐ俺の言っている意味がわかったようだ。

「野島さんがいる笑」

武者小路実篤の『友情』の主人公は野島という青年だ。

「100ページくらいだしお前にはちょうどいいだろ?内容も…まぁ、感想文書くほどには色々と思うところはあると思うよ」

「わかった。読んでみるね。ありがとう」

お前の目に野島、大宮、杉子はどう写るんだろな?

「良いチョイスだな七尾」

「だろ?」

「私もその本には色々と思う事あるよ。野島さんが報われないよね」

やっぱそう見えるのか。

「いや、野島さんは自業自得だと思うぞ。気質がストーカーだろあいつは」

雪平もそっち派なのかな?

「あ〜たしかに野島さんて、女から見たらちょっと気持ち悪いよね」

「だから好きな人から自分への気持ちを『ありがた迷惑』って言われるんだよ笑」

2人が好き勝手に野島さんをdisる。

「だね笑。野島さんってなんかナヨナヨしてるしハッキリしないし男らしくないんだよなぁ。そのくせナルシストだし。ぶっちゃけキモいよね」

「そうそう!何か女々しいんだよなぁアイツ。キモいくせに」

「なんだか2人の話聞いてたら最低だね、野島って人」

なんだろう?友情の主人公の話のはずなのに野島さんが罵られてるみたいでもの凄く気分がいい。けどそろそろやめとかないと自殺者が出る。

「ネタバレすんのもつまんないからその辺にしとけよ。あと野島さん、あんたの事じゃないからそんなに泣かないでよ」

俺以外の4人が図書室の入り口に目をやると、そこには腰が砕け床にしゃがみこんで涙を流す3年1組野島貴明の姿があった。野島さんを慰める阿子さん、その後ろには羽生さんと桜さんもいる。

「お前ら…ひどい…ナルシストとか…キモいとか…」

涙声とかキモいんですけど〜。

「わぁっ!野島さん!違う!違いますよ!野島さんの事じゃないですよ!」

「じゃあ乃蒼!お前は今誰のこと言ってたんだよ」

「誰って…野島さんです」

「ほらぁ!」

阿子さんの胸で野島さんはうわ〜んと泣き、阿子さんは「よしよし可哀想ね」と頭を撫でている。わかった、俺が全ての真実を白日のもとに晒そう。

「俺らが言ってたのは実篤の『友情』に出てくる野島のことですよ。で阿子さん、泣いてるふりして野島さんが阿子さんのおっぱいをめっちゃ楽しんでます」

ガバっと阿子さんが野島さんを胸からひっぺがすと野島さんがバレた!という顔をしている。

「タカ…」

「は、はい」

「ちょっとしゃがんで目閉じて」

あ、阿子さん!ここで?ここでするの?

野島さんがワクワク顔をしながら言われた通り目を瞑ってしゃがむ。俺らはドキドキしながら阿子さんの一挙手一投足を見守った。そして阿子さんは口を野島さんに近づけていく。

「え?いっ………いってぇぇぇぇ!阿子、痛い!痛い!マジ痛い!やめろ!頭を噛むなっ!本気で噛むなって!痛い!やめて!ごめんなさい!噛まないで!痛いっ!アタマ噛まないでっ!」

この人達、何してるんだろう?

「もういいでしょ?もういいって!やめて!出ちゃう!出ちゃうってば!やめてぇ!」

何が出るんだよ?

阿子さんはたっぷり3分野島さんの頭を齧ってようやく満足した。


「で、あれから誰かマカちゃんからのアプローチあった?」

お前なに平静な顔で言ってんだよ。頭から血出てんぞ。あ、出ちゃうって血のことか。

「あれから1週間なんの音沙汰もないっすよ。そもそも特進と普通クラスは建物が違うし合同授業もないので普段からあんまり会わないんですけどね」

雪平が血が流れ落ちる野島さの顔を見ながら表情ひとつ変えずに答えていた。すごい、尊敬するぞ雪平。俺なら笑えてそんなにちゃんと喋れない。

「なんだぁ。つまんねっ!」

今のアンタの顔に比べたら何でもつまんねぇよ。

「それにしても、高橋真夏の好きな人って誰なんですかねぇ」

「なにお前、気になるのかよ。高橋真夏の想い人。秋も恋がしたいお年頃ですか?」

羽生さんがとんだ意地悪ボーイだ。

「そのうち俺ら3人のうちの誰かのところに来るって言ってたけど、それが俺でも雪平でもタケルでも乃蒼だけは完全なる高橋真夏の勘違い、とばっちり以外の何物でもないなぁって思って」

タケルなら彩綾がターゲットなんだろうけど。

「あの子にはそういうの関係ないよ。彼女だろうが何だろうが。だから厄介なんだよねぇ」

他人事だと思って野島さんが呑気だ。

「そうだな。あの子は好きな人の彼女だと勘違いしてリレーの時の2人に嫉妬してたんじゃないからな。好きな人が力尽きて倒れた時、そばに駆け寄った乃蒼や彩綾に嫉妬してるんだから」

と羽生さんも野島さんと同じ見解を示す。

「そういうもんなんですか?」

俺は桜さんに聞いてみた。阿子さんは絶対に嫉妬しそうだけど桜さんは…どうなんだろう?

「私?笑。さぁ?どうだろね〜」

完璧にはぐらかされた。

「女の嫉妬は怖いけど、その嫉妬を冷静に分析して次の一手を打ってきたあの子はそれ以上に怖いよぉ?笑」

阿子さん阿子さん、彼氏の頭かじる阿子さんより怖いですか?

「ねぇ秋、タケル、雪平くん。もしこれから高橋真夏がここに来て想いをぶつけたらなんて答える?」

「断ります」

桜さんの質問に即答の雪平。まぁこいつはそうだろな。じゃなきゃ今までの熱い話はなんだったんだっていう話になる。

「俺も。彩綾がいるし。気持ちはありがたいけど俺は彩綾と一緒にいたい」

イスに座っていた彩綾は足を空中にパタパタさせて喜んでいる。もう顔が溶けるほどニヤついている。隠す気はないようだ。

「秋は?」

「う〜ん…。う〜ん…」

唸るしかできない。

「七尾、なんかお前らしくないというか…今のお前がなんかちょっと意外だ。てっきりスパッと断るのかと思った」

「いや、お前らみたいに俺にも好きな人がいたらそりゃ断るのかもしれないけど俺にはいないし…。かといって好きだって言われたからすぐ付き合うのもそれは違うし。よくわかんないんだ。困る…、うん、俺は困るかな!」

やっとしっくりくる言葉が見つかったのに

「なんだよそれ笑」

と雪平に笑われた。けどタケルの言葉に救われる。

「秋はそれでいいんじゃないの?俺からすりゃ1番秋らしい答えだと思うよ?飾らなくてカッコもつけなくて、そのままの素直なこいつの気持ちだよ。そうやって本音をぶつけて相手と一緒になって考えるところから始めるのがこいつなんだよ」

「めんどくさい奴だな」

雪平に言われたくない。

「俺の答えは、女の人からみてダメですか?」

阿子さんと桜さんを交互に見る。

「ダメだよね?笑」

「うん。ダメだよ笑。何言ってんの?って感じだよね」

そうなのか。ダメ出しされて少しめげる。

「でも、秋ならいいかな?」

「そだね。他の人なら冷めちゃうけど、秋となら一緒に考えるよね」

なんか2人が凄い褒めてくれてる気がする。

「けどそれはお前のこと知ってるこいつら限定だからな!誰にでも通用すると思うなよこのバカ秋!」

野島さんの機嫌が悪い。阿子さんが褒めたから気に入らないのかな?

「秋、くたばれ」

大人のはずの羽生さんは桜さんが絡むと途端に大人気ない。露骨すぎやしないだろうか?

「ま、なんか進展あったら教えてくれよ」

きっと野島さんは俺らのことを心配しているわけじゃなくただ単に面白いから知りたいだけだろう。

「じゃあ本題に入るぞ?アレ聞いてたなら察しがついてるだろうけど、お前ら文化祭俺らとやるからな?」

うわ〜い、と乃蒼と彩綾とタケルは手を上げて喜ぶ。俺と雪平はその3人の姿を見て顔を見合わせ苦笑いを浮かべるがそれでもやっぱり嬉しさを隠しきれない。

「雪平、お前もだからな?」

「それはいいんですけど、飯島さんも出るんですか?」

「俺は羽生だけどな?出るよ。当たり前だろ。なんでここで俺がハブられなきゃならないんだよ」

「ハブさんだからですよ」

「俺はハニュウだけどな?そろそろお前いい加減にしないと温厚な俺でも怒るぞ?」

「温厚な人は人にイス投げつけないですよ」

2人でぐぬぬぬと睨み合っている。本当にお前は飯島さんのこと嫌いなんだな。

「て訳で詳細は2学期になってから決めるつもりだから」

「は〜い」

乃蒼が元気に返事をする。

高橋真夏から謂れもない宣戦布告を受けた乃蒼だったが俺が心配するほど気落ちしてないみたいで良かった。

「ねぇ、あんた達夏休み暇?」

阿子さんが2年女子の2人に声をかける。

「暇ですよ。どこもいく予定はないです」

「私も。冬休みにフランス帰ったんで夏はどこも行く予定はないです」

「じゃあお泊まり会しよ。阿子の家で」

乃蒼と彩綾はお互い顔を見合わせ

「「やったーーー!」」

とさっき以上の喜びを爆発させた。

「なんか女子ばっかり楽しそうだな。秋、俺らもやるか?お泊まり会」

野島さんのせっかくの提案だが

「やめときます。俺でしょ?タケルに雪平に羽生さんに野島さん…。一晩中ケンカしかしないですよ?タケルが心労で倒れます」

「だよな、やっぱり」

俺と野島さんはまだいい。いつものじゃれあいだから。けど雪平と羽生さんのはきっと生き死にに関わる。同級生が先輩を殺す現場には出来ることなら居合わせたくない。

「秋もおいでよ!」

女子4人でキャッキャしながら桜さんがあろうことか俺をお泊まり女子会に誘ってきた。やべぇ、超行きたい。

「秋、お前行ったらどうなるかわかってるよな?殺すぞ」

「なんで俺でも見たことない桜のパジャマ姿先に見るんだよ。殺すぞ」

「なんでお前が彩綾とひとつ屋根のしたで寝るんだよ?殺すよ?」

「七尾、殺す相手が2人だと完全犯罪が難しくなる。死ねよ」

本気の殺意って、伝わるものなんだなぁ…。

「残念ですが、遠慮します…。非常に残念ですが。行きたいですが、本当に行きたいですが。まだ俺は、生きていたい…」

きっと阿子さんの部屋もいい匂いするんだろうな。

桜さんのパジャマ姿も可愛いんだろうな。

乃蒼って確か寝る時ノーブラだったよな?

彩綾はまだぬいぐるみ抱かないと寝れないのかな?

行きたい!すげぇ行きたい!行きたい、行きたいよ!行きたいよぉ!!!!

「なんで泣いてんだよ」

雪平に言われるまで気づかなかったが俺は涙を流していた。

「泣いてもダメだからな!」

いつも温厚な羽生さんの目は、殺人者のソレと同じだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ