秋の章 「高橋真夏2」
『それじゃあそろそろ時間も残り少ないしマカちゃんの話したい事、聞いてみちゃおうかな〜?』
『引き出し方が雑〜』
『良いんだよ。こねくり回すのだけが正義じゃないよ?』
『確かに。…うん、そうですね。こねくり回すのはやめましょう』
『あら?なんの覚悟を決めたの?』
『あと戻らない覚悟です』
『後悔は?』
『わかりません。するかも。けどしないかも。やってみなきゃわかりません』
『俺もそう思う』
『だからやってから後悔してみますね』
「いってみよう!」
『野島さん、私、恋に落ちたんです』
『うん』
『自信がついたらその人に告白したいって思ってました』
『うん』
『でもなかなか自信が持てなくて…。それで今までズルズル来ちゃいました。それに…その人にはいつも一緒にいる女の子がいるんです』
『彼女?』
『彼女なのかなぁ?わかりません。けど実は彼女だとしてもあんまり関係ないって思ってます』
『え?どうして?』
『その人よりいい女になれば良いだけです。今隣にいる人よりも私を選んでもらえるように、選ばざるを得ないくらいのいい女に私がなればいいって思ってます』
『なるほどね。嫌いじゃないよそういうの』
『ありがとうございます。だから焦らず、じっくり自分磨きをして自信がついたら告白しようって思ってました。だけど…こないだの体育祭でリレーを走ってるその人が走り終わった後、グラウンドに倒れる姿を見たら私、胸がこう、熱くなっちゃって、その人に駆け寄りたくなったんですよ。後先考えずに大好きって言いたくなっちゃいました。けどその人のそばに駆け寄ったのは私じゃありませんでした。凄い…凄い嫉妬しました!んで思ったんです。早く伝えたいって。好きだっていう気持ちがそろそろ抑えられなくなりそうなんです』
『ひゃっは〜!おい!リレーに出た野郎ども聞いてるかっ!マカちゃんの想い人はお前かもよっ!』
「俺はこいつの考え方に共感できるよ。ま、俺の場合選んでもらうってよりかは掻っ攫うけんだどね」
雪平がカッコいいセリフを言う。ただ誘拐犯と大差ない。
「え?何お前好きな人いんの?しかも彼氏持ち?」
そうか、タケルは入院してて知らないんだ。
「先に彼氏になったからってそれがなんだよ。彼氏だからって安心してんじゃねぇぞ?先着順じゃねぇんだよ恋は!そもそも恋が先着順ならあいつより俺の圧勝だよ」
「熱いねぇ。まさかお前が恋に生きてるとは思わなかったわ」
「俺の96%は恋で形成されてんだ。残りの24%は悪意だ」
野島さんっ、雪平が限界突破したっ!しかも増えたの悪意の方!
『私はね、なにも彼女から好きな人を奪おうってわけじゃないんですよ』
『なんで?別にいいじゃん?法律上なんら問題はないよ?』
『倫理の問題です』
『あら、まぁ確かに。意外とマジメだねマカちゃん』
『私はマジメです!』
『ごめんごめん笑』
『それに本来私は争いごとが大嫌いです。だから私は正々堂々とその人に選んでもらいます。そうじゃないと意味ないんです。姑息な手段で付き合ったって嬉しいなんて絶対思えない。それにそんなのにひっかかるような男、こっちから願い下げです。だから私は正々堂々と勝負します。けどそのためには私が好きだって事に気付いてもらわないと。だからどうしてもこの放送に出たかったんです』
『で、その好きな人に想いを伝えたいと』
『いえ、それはもうちょい先でいいです』
『そうなの?』
『はい。今日は宣戦布告をしに来ました!』
『確かにそれは正々堂々だね笑』
『でしょ?そりゃ早く伝えたいけど不意打ちは卑怯だから』
『いい女だなおい笑。わかった、じゃあ残りの放送時間全部マカちゃんにあげる。好きなタイミングで好きな事喋っていいよ』
『ありがとう野島さん。ふぅ………聞いてる?私の好きな人!いつか、そのうち私はあなたにこの気持ちを伝えに行きます。あなたに彼女がいようといまいと関係ないです。私はいい女になってありったけの私をぶつけに行きますからっ!覚悟して待ってて下さい』
誰に対してのメッセージなのかはわからないけど、とりあえず特進組の野郎3人は聞いてますよ高橋真夏。そのうち1人はキミに共感してます。
そして俺も、キミの心意気は嫌いじゃないです。
『だから………聞いてるっ!鈴井乃蒼!荒木彩綾!」
「ぶーーーーーーーーーーっ!」
「ぶーーーーーーーーーーっ!」
乃蒼と彩綾の2人はさくらんぼの種を目の前に座る俺と雪平の顔に思いっきり吹き出し2人揃って白目を剥いた。
『私は負ける気なんて無いからねっ!あんた達よりいい女になって必ずその人の隣に立ってやるんだからっ!私は絶対にその人を諦めたりしないからねっ!』
『はっはっはっ笑。気持ちいいくらいの宣戦布告だな』
『ふぅ〜、スッキリしたぁ笑』
『いやいやいや〜笑。まさか俺らのチームの奴だったとはねぇ笑』
『カッコ良かったんですよ、走ってる時の顔。惚れ直しちゃった』
『誰のことかはわかんないけど、男の見る目あるよマカちゃん』
『でしょ〜!』
『けど、乃蒼と彩綾、どっちが恋のライバルになっても手強いよ?』
『やっぱり野島さんはそっちの味方なんだ?』
『いや。俺はどっちの味方でもないよ。けど放送上いまこの瞬間はマカちゃんの味方かな?だから教えてあげてるんだよ。あの2人はそこらへんの女じゃ敵わないよって』
『私はそこらへんの女じゃないですよ?』
『認めるよ。全校放送で宣戦布告なんてそこらへんの女子が出来るわけない。マカちゃんもナカナカの女だ』
『えへへ。褒められた。ありがと』
『おい秋!タケル!雪平!聞いてるか!』
あぁ、聞いてるよ。隣の雪平なんて彩綾の飛ばしたさくらんぼの種が左目に入ってとんでもないことになってるよ。だからそこいにる女子をあんまり煽んなよハゲ。
『お前らの誰かんトコにマカちゃんがそのうち想いをぶつけに行くってよ!お前らがどんな返事するにしてもちゃんと受け止めてやれよ?』
『さすが野島さん良いこと言うねぇ〜』
『でしょ〜?』
『まだ時間大丈夫?』
『もうちょっとあるよ』
『あのね、鈴井さんに荒木さん。あなた達は自分の物語の主人公で私は脇役かもしれないけど、私も私の物語では主人公なのよ。自分の思い描く物語がバッドエンドなんてことありえないでしょ?だから私もあなた達と同じように幸せな結末を望んでもいいよね?そうなると私はあなた達にとって悪役かもしれないけど、私は誰かの物語のために自分を殺して良い人を演じきるなんて出来ないよ。ムカつくかもしれないしワガママだって思うかもしれないけど、でも好きなの、そこにいる人が。諦められないの。だから全力でいくね!遠慮なんてしないね!』
『おい乃蒼、彩綾。見誤るなよ?お前ら気付いてんだろうけどここにいるマカちゃんはその辺の脇役とは違うからな?その場所が安寧の地だと思ってんなら大きな間違いだぞ?』
乃蒼と彩綾は2人とも白目剥いたまま帰って来ない。なぁ乃蒼、こればっかりは白目剥いてても逃げらんねぇと思うぞ。
『今のはさすがに肩持ったよね?』
『あ、バレた?笑』
『ま、いいや。あとこれが最後。2人に1回だけ本音を言うね。私、リレーのあなた達を見て本気で羨ましかった。あなた達の輪の中にいない自分が凄く悔しかった。それで…私はあなた達2人の事を素敵だなって思っちゃった。私なんかより凄くいい女だなって思っちゃったの。私が気持ちを抑えられなくなった1番の理由はそれです。本当はあなた達とも仲良くなりたい。好きな人を諦めてあなた達と友達になりたいって思ったよ。けどやっぱり諦めたくなかったの。あなた達と友達になって、なおかつ好きな人も諦めないなんてそんな都合の良いこと私の中では許されなかった。だから私はこういう方法をとりました。失礼なのはわかってます。ごめんなさい。けど謝るのはこれきりです。あとはどんなに怒られようと恨まれようと私は自分のハッピーエンドのために全力を尽くすから。以上!』
『マカちゃん』
『ん?はい』
『マカちゃんはきっとハッピーエンドになるよ。今思い描いてるような未来だとしても、そうじゃないとしても、きっとマカちゃんは笑って物語を終えると思うよ』
『野島さんが言うならきっとそうなんでしょうね笑。出来れば思い描いてる結末が良いけど』
『それは神のみぞ知る、ってやつだ』
『そうですね』
『さ、そろそろ終わりの時間だ。もし俺の卒業までにマカちゃんの恋が成就したら彼氏と2人でまた乱痴気ランチに来てくれるかな?』
『は〜い。じゃなかった。いいとも〜』
『よ〜し。それじゃあ、今日も聴いてくれてありがとうございました。名残惜しいけど今日はこの辺で。お相手はTack A keyこと野島貴明と、』
『高橋真夏でした〜』
『午後の授業寝るなよ?バイバ〜イ』
「雪平、大丈夫か?」
こっちを見た雪平の左目がアホほど充血している。
「大丈夫じゃねぇよ!さくらんぼの種が目に入ったんだぞ!来春左目から発芽したらどうしてくれんだよ!」
それは俺じゃなくて飛ばした彩綾に言えよ。
「なぁ、いつもこんな過激なのか?濃すぎない?」
「いや、いつもはもっとアッサリしてるよ。今日が特別だ」
毎日こんな濃いなら消化不良起こしそうだ。しかし…恋するローティーン女子のエネルギーは凄いな。
「ねぇ、どう思う乃蒼」
彩綾もまだ頭の中で整理がついていないのだろう。乃蒼に求めるけれど
「どう思うって…」
乃蒼も同じようで戸惑ってはいるが何をどう整理すればいいのかわからないでいるようだった。
昨日まで変わることのない平和な場所だと思っていた。けどそんなのは幻想で簡単に昨日とは違う形になってしまうということを高橋真夏が気付かせてくれた。簡単に変わってしまうなら、変わらないようにしなければならない。なんの苦労もなしに穏やかに日々を過ごせるなんてあるわけがない。俺らは少し呑気だった。もっと全力で生きなきゃ。
「俺か七尾だったらまだいいけど、高橋真夏の好きな人がタケルだったら…ひと嵐来そうだな」
彩綾がため息を一つこぼす。
「マカねぇ…。やっかいだなぁ。あの子結構人間レベル高いのよね」
あら?これは意外。彩綾が弱気だ。
「お前は別になんの心配もしなくていいだろうが。もし俺だとしても俺がお前を選んどけば今と何も変わらないじゃねぇか」
アキレスが、あ、違った。タケルがそう言って彩綾を慰める。
「まぁ佐伯なのか七尾なのかすらわからないこの状況で話してても仕方ないよ。誰だとしても鈴井にとってはとんだとばっちりだな」
「雪平くんって場合もあるんじゃないの?」
雪平は悪い顔をして笑みを浮かべる。
「高橋真夏がどんな顔してるかどんな人間かは知らないけど、この世にあの人よりいい女なんていないだろ笑」
そこに反論するのはタケルだった。
「おい!そりゃお前の中での話だろ!この世で1番いい女は彩綾なんだよ!」
注意深く観察…しなくてもわかる。彩綾が唇をヒクヒクさせながら喜びを隠そうとしている。隠せてないけど。
「は?あの人の方がいい女だね!人の目にさくらんぼの種飛ばさないし!」
「種くらいでガタガタ言ってんじゃねぇよ小せえ男だな!大体誰なんだよお前の好きな人って!」
「アキレス腱繋がったら教えてやるよ」
雪平の相手は俺も知らない。知っているのは乃蒼だけ。その乃蒼が俺を見ていた。
「なしたの?」
「ねぇ、この5人の中で恋をしてないのってウチらだけだよ?」
「まぁそうだな」
「その確率40%。半分以下だけどまだ全然余裕だよね?」
余裕って、何が?
「けど野島さん達も入れてみて。そしたら私達9分の2の存在だよ?約22%…なんかこう、自分がダメ人間な気がしてきた…」
やばい、乃蒼がネガディブさんになっている。
「大丈夫だよ。俺らだってそのうち誰もが羨むカップルになれるよ絶対!」
お〜い、誰か他にも乃蒼を慰めてやってくれ!
「七尾、それ愛の告白か?」
「うそぉ!秋なんで今なの??雰囲気も何もないじゃない!」
「お前さ、どさくさ紛れに告白とか器が小さ………おい秋、…秋?お前、大丈夫か?白目剥いてんじゃねぇか?おい雪平!秋が大変だ!保健室連れてけよ!」
「だったらお前が…あ、そうか。お前アキレスだったな」
「だからそのあだ名やめろよ!」
その時の乃蒼の顔は白眼を剥いていたから見ることができなかった。たとえ黒目が元の位置にあったとしても顔なんか見れるかよ!
なぁ乃蒼、白眼って、便利だな。




