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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章「浦島タケル」

早起きして作った布海苔とネギの味噌汁とネバネバ丼(とろろ、納豆、オクラ)を花さんと2人で食べているとピーンポーンとチャイムが鳴った。ここ数日間この時間にチャイムが鳴る事はなかった。

「誰だろ?こんな早くに」

「俺出ようか?」

「いいよ。私が出るから秋は食べてて」

そう言って花さんは玄関に向かう。とはいえ俺も来客が誰か気になるところだ。が、すぐにその正体が判明した。

「タケル!あんたいつ退院したの?」

その名前に驚き俺は箸を置いて玄関に顔を出すと松葉杖をついたタケルがえへへとマヌケな笑い顔をしながら立っていた。

「よぉ。元気だったか?」

「お前よりかは元気だよ。つうかいつ退院したんだよ」

3日前に顔だした時そんな事言ってなかったじゃないか。

「昨日」

「1学期いっぱいは入院してんじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんだけど…あそこにいると自分の存在価値がわからなくなってくるんだ」

雪平、お前タケルに何か追い詰めるような事でも言ったのか?

「大丈夫なの?痛くないの?」

「薬飲んでるから効いてるうちは痛くないよ。切れたら痛いけど」

「あんまり無理するんじゃないよ?大怪我なんだからね?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

俺は部屋から椅子を持ってきてタケルを座らせた。急いでネバネバ丼を食べ終え身支度を済ませる。

「私お皿洗っておくから早く行きなよ」

「うん、じゃあ行ってきます」

「あれ秋、行ってきますのチューは?」

やめて花さん。乃蒼のあの話を思い出しちゃう。俺はムスッとして花さんを見ていた。

「冗談でしょ?ほら、タケル待ってるよ?」

「普通に見送ってよ。なんかモヤモヤする」

「じゃあハイっ」

と花さんは俺のホッペにチューをした。

「そうじゃないでしょ!てか、今までそんなのした事ないじゃん!」

「え?違うの?てっきりして欲しいのかと思って」

「違うよ!普通に行ってらっしゃいでいいの!」

「うるせ〜よ!朝からチャイチャイしてんじゃねぇ!退院早々何見せられてんだよ!新婚ですかこのヤロー!ラブラブ良いですね七尾さん!ウチなんてめっきりそういうのご無沙汰で羨ましい。って言やいいのか?早く来いこの若旦那っ」

相当久しぶりだからだろうか?タケルのツッコミが異常に長い。

「行ってきます花さん」

「行ってらっしゃい秋さん。タケルも、行ってらっしゃい」

椅子から立ち上がり松葉杖でひょこひょこと歩くタケルのペースに合わせて俺たちは家を出た。



「おはようタケル。秋もおはよ」

驚かないところを見ると彩綾は退院のことを知っていたようだ。彼女だからそりゃ知ってるか。

「聞いてくれ。秋が花さんに行ってらっしゃいのチューされてた」

やめろ!アキレス腱切るぞ!

「どう?初めての味がした?」

「ホッペにだよ!」

なんだ、とガッカリしている。どこの世界にいってらっしゃいでマジチューする母子がいらっしゃるんだよ!連れて来いよ。全力で説教してやんよ。

「おはよ〜彩綾。おはよ秋」

「おはよ〜乃蒼」

今日みたいなサプライズでも乃蒼はタケルにおはようは言わない。徹底している。アレ?もしかして乃蒼も知ってたの?知らなかったの俺だけ?

と思ったがタケサヤの後ろを歩く俺に乃蒼が耳打ちをしてきた。

「ねぇ!いつ退院したの?知ってたの?」

やっぱ知らなかったのか?それであのポーカーフェイスか?凄えなお前。

「いや、今朝来て初めて知った」

「まぁでも久々だねこの4人」

約1ヶ月の間、3人で登校していたから前を歩くこの2人を眺めるのは久しぶりだ。やっぱこうなんかしっくりくるものがある。

「ねぇタケル、彩綾タケルがいなくてずっと寂しがってたよ?」

そうなの?とタケルが聞くと珍しく素直にそうだよと答えていた。

「松葉杖じゃなかったら手繋ぎたかったな」

「繋ごうよ。ホラ」

タケルが松葉杖を持つ方の手を彩綾に差し出す。ゆっくりとその手を彩綾は握る。そして歩く。

ビターン

そりゃ転ぶよね。

「ちょっと!校門の前でコケたじゃないの!恥ずかしい事させないでよ!」

「いや待って、俺片足で歩いてんのよ?ちょっとは支えてよ」

俺と乃蒼はそんな2人を追い越し、無関係を装って校舎に入っていった。



「なぁ、いつからだよ」

昼休み俺たちはいつものように机を寄せてご飯を食べていた。

「お前が入院してしばらくしてから。なんだよ、俺がいちゃダメなのか?」

雪平は俺の隣でタケルに抗議する。

「残念ながらお前がいない間にここは雪平の場所になったんだ。お前、彩綾の隣なんだから文句言うなよ」

俺の前に乃蒼、その隣に彩綾とタケル、元々タケルの席だった俺の隣にはいま雪平が座っている。

「いや、それは別にいいよ。これだよコレ!」

そう言ってタケルは指を天井に向ける。それにつられて俺らも天井を見た。別に何もない。おい乃蒼、白目向いてんぞ。

「そうじゃなくて!コレ!このお昼の放送!」

タケルの指は今度は黒板の上にあるスピーカーを指した。

「あぁ、コレね笑。あのあとしばらくしてからだよ」



『さぁ今日も始まりました野島貴明の「乱痴気ランチ」。毎日みなさんの中から私、野島貴明が気になる生徒を1人だけここ放送室に拉致監禁して強制的にインタビューしちゃうというこの放送。お相手は私tack A key こと野島貴明です。それでは今日の一曲目です。この曲がかかってる間、野島貴明はあなたの教室に行ってあなたを連れ去るかもしれません!ではいってみましょう。ペンネーム「大熊猫大好き」さんからのリクエストで「白銀ディスコ」!』



「なんで野島さんが昼の放送のMCしてんだよ!」

日常になり過ぎてもはや疑問にも思わなくなっていたが、言われてみたらタケルの言う通りだ。慣れというものは恐ろしい。

「そもそもは野島さんがゲストだったんだよ。体育祭のリレーでアンカーを走って優勝したから放送部がお昼の放送に呼んだんだ。で、あの人の性格だろ?もりあげちゃったんだよなぁ。面白かったんだなぁ。あの人がこの時間の放送をジャックするのに5日もかからなかったよ」

この放送の面白さは放送室に拉致された上、全校放送に乗る緊張感で冷静な判断ができないのをいい事に野島さんがあんなことやこんなことを根掘り葉掘り聞き出すことだ。先週の放送では3年生の女子がサッカー部の2年生に放送を通じて告白してカップルになったっけ。この放送に出た生徒はしばらくの間、校内で人気者になれる。

「なんなんだよあの人は」

とまだ状況を把握できない浦島太郎に

「何って、そりゃあ」と彩綾。

「野島さんでしょ」と乃蒼。

「他にあの人を形容する言葉がないからね」と俺が言って

「だからこそ野島貴明なんだろ?」と雪平が締めた。

「おい、ちょっと俺がいない間にお前ら4人でそのコンビネーションもどうなわけ?なにこれ?俺いらない子みたいじゃない?」

「んなことねぇよ。いじけんなよ佐伯」

「と、タケルの上位互換の雪平は言うのであった」

「秋、お前面白いと思って言ってるなら神経を疑うぞ?今の俺が泣いたら血の涙出すからな?」

見てみたいと思った。けど掃除が面倒そうだ。

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