タケルの章 「第六走者」
もし俺が家では無口だなんて言っても部活の奴らはきっと信じないんだろうな。いつもひょうきんキャラで部内の盛り上げ役、と思っているだろう。
そんな風に演じてきた。
それも俺の性格の一部分ではある。
そして家の俺も性格の一部分だ。
特進になれて心底ホッとした。
エリートの親父、エリートの母親、エリート街道まっしぐらの兄貴達。
そんな中1人だけ出来損ないの俺。
小学校の頃なんてテストで80点取ったら晩御飯抜きだったんだぜ?
俺の性格の一部がひょうきんキャラで居られるのは間違いなく秋と彩綾がいたからだ。
もっと言えば、俺が正気でいられたのは2人のおかげだ。
俺が家の話をした時、彩綾は手を握って俺の良いところをいっぱい言ってくれた。
秋は何も言わずただ空を見ていた。激しく怒っているのは小さかった俺にだってわかった。
そんな2人になにかお返しをしたくても、俺は何も持ってないからあの2人を笑わせる事にした。
あいつらが笑ってると俺はホッとする。
それだけでなんだか自分の存在価値があると思える。
だから去年、秋の家で乃蒼が自分の価値を認められないという事を知った時、心の底から苦しかった。
あの頃の俺を見ているようだった。
俺には2人がいた。けど乃蒼のそばには秋も彩綾もいなかった。
リアルタイムでその時俺らは乃蒼の近くにいなかったけれど、遅ればせながら今からでも俺は乃蒼の力になりたいと思った。
だから俺の家の話を乃蒼にも話した。
乃蒼は「家族なのに…。信じられない」と言って痙攣まで起こした。
そんなやついるか?痙攣だぞ痙攣!
俺は友達が痙攣するほどの家庭環境で育っていることを嘆くと同時に、そんな家庭に怒りで痙攣するほどの友達がいることを心底嬉しく思った。
だから乃蒼は秋達と変わらない。
友達として過ごした時間が長いとか短いとか、秋達には悪いけどそんなの関係ない。
乃蒼が夢見る事に俺らができることはやる。無論出来ないことは出来ない。
出来ないことを出来ると言うほど俺はもう子どもじゃないし、比較的現実主義者だ。
ならば今、俺が前を走るこいつらをブチ抜くことは出来ないことか?
よしタケル。現実的に考えろ。
トップは無理だ。離されすぎているし追いつくには距離が足りない。
じゃあ2位は?
俺の速さじゃちょっと厳しいか?
野島さんのノルマだった最悪3位は?
ああ…2位と競ってるじゃねぇかよ!
あそこまで行けってか?
牛乳飲んでくれば良かった。けど飲んだら俺、下痢するしな。
あ〜!もう!走るよ!走ればいんでしょ!
これでも小6の時トップでゴールしたんだからな!
三上が転んだ隙にゴールしたんだけどな!
転べ、転べ、転べ、転ばねぇぇぇぇぇ!
もうちょっと、もうちょっと…うぉぉぉオラ、追いついたぞ彩綾!今からこいつら抜くから待ってろよって、ああ、もう終わりかよ。あと100mありゃ抜けたのにクソっ!
「秋、ゴーだ!」
ブチンっ
あれ?………おおおおおおぁぁぁぁぁ痛ってぇぇぇぇ!
は?…おい秋!ナニ見てんだ!
「バカっ!早く行け!お前が抜け!」




