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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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リンの章 「黄昏時 前編」

3年1組の名も知らぬ先輩の後ろで乃蒼先輩が彩綾先輩、タケル先輩と話しているのが見える。

乃蒼先輩まであと少し。

その時など永遠に来なければいい。

名も知らぬ先輩の番になったら降りては登り降りては登りのエンドレスで卒業証書を授与し続けてたらいいのに。

「実は今まで内緒にしてたことがあるんだ」

と右耳からレンちゃんの声。

「内緒?笑。私レンちゃんの事だったら何でも知ってるつもりなんだけど」

「本当かよ笑」

「失礼ねぇ、何年一緒にいると思ってんの?」

背中のほくろの数まで知ってるよ。

やだっ///えっち///

「じゃあ俺が今まで人前では本気でピアノ弾いたことがないのも?」

アゴが外れるかと思った。

「Jr.コンクールは!去年の卒業式は!まさか手抜いて弾いてたっていうの!?」

色々と問題はあるレンちゃんだけどピアノだけは真摯に向き合ってたんじゃないのっ!

「アホ言うな、手なんて抜いてねぇよ。どっちも真剣に弾いてたさ」

それを本気と言うんじゃなかろうか?

「俺さぁ、いいカッコしいだから人前で間違えたくないし『あいつ上手ぇ!』って思われたいし、だからいつも間違えないように上手く聴こえるように演奏してたんだ。けど次の曲は俺、本気で弾こうと思う」

真剣と本気…どっちがどうなんだろ?

「いつもより凄くなる?」

と問うとレンちゃんが不敵に笑う。

「そりゃ当然」

背中の右側だけがゾクゾクと鳥肌が立った。

「譜面がありゃ合わせられる人はいるかもしれないけど、アドリブで本気の俺についてこれるのはお前くらいだと思う」

自信、ないっ!

でもそんな弱音も吐けないし…どうしよう困ったな。

ならばっ!

「そう…。レンちゃんが本気を出すなら、私もちょっとリミッター解除してみようかしら?(憂いた大人の女の目)」

なんて冗談を言ってみる。

あながち冗談だけとも言えないけど、レンちゃんと違って何も変わらないかもしれない。

「あぁやっぱりか」

自分ですら不確かなのにレンちゃんは焦点の合わない目で合点のいった顔をしていた。

「そうだろうなってずっと思ってた。なんかお前ピアノに対して冷めてるっていうか…才能あるくせに全然上手くなろうとしなかったしな」

自分に才能があるなんて自惚れたことはない。

冷めてるつもりもないけど、隣で真剣にピアノと向き合ってる人がいて、私はそこまでピアノに捧げようとしなかっただけ。

どの分野でもそうだけど、ある一定の線まで行くとそれ以上の高みへと登るためには時間やエネルギーや、そういった何かを犠牲にしなければならない。

私はもっと他に大事なものがあるように思えてレンちゃんほど真摯に向き合うことが出来なかった。

実際その大事なものが見つかったかといえばそうじゃない。

冗長とした惰性な今を私は生きている。

そんな私が少しばかり真剣に弾こうとしたところでピアノの神様が手を差し伸べてくれるはずなんてないか。

いや…そもそも、神様なんていないんだっけ。

「前言撤回。やっぱ自信ないっ!」

「そんな気負うなよ。俺や乃蒼先輩のことも考えなくていい」

「じゃあどうやって弾けばいいのよぉ泣。私はレンちゃんみたいに才能あるわけでもピアノに愛されてるわけでもないんだからねぇ泣」

「俺だってピアノに愛されてねぇわ!愛してもいねぇけど」

意外!

だって色んなもの捧げてきてんじゃん。

遊ぶ時間もエネルギーも。

レンちゃんですら愛していないなら私は愛せない、レンちゃんですら愛されてないのなら、私が愛されることなんてこの先ずっとありはしない。




「沢尻まさし」

「はい」





乃蒼先輩の番が刻一刻と迫っている。

1秒1秒がやたら早く感じていた。

「ついでにこんな時だから言える話をしてもいいか?」

それ今じゃなきゃダメ?

乃蒼先輩まで結構時間ないよ?

「実を言うと俺さ、お前が七尾先輩のこと好きなの…ちょっと羨ましかった」

え?

ちょっと待って?

なんかそれ面白そおおおぉ!

「俺こんな性格だからどっちかって言うと激情型だろ?だからお前が七尾先輩にしてるみたいにロウソクの炎がゆらめく感じの恋を乃蒼先輩にできたらなぁって思ってた」

ロウソクの炎って、それ褒めてんのかな?

まぁ憧れてるくらいだから褒めてるんだろうな。

逆にね、私はレンちゃんを羨ましいと思ってた。

なりふり構わず突進していく爆発的な恋に憧れてたよ。

「今だから言える話、パート2!」

え?

今のもう終わり?

そしてまだ続くの?

「え?なになに〜!」

けどなんだかんだで興味津々。

「そんな『激情版名探偵コナン・飛んで火に入るサマーバグ』なこの俺でも、1度だけロウソクの炎みたいな恋をしてたこともあるんだよ」

「嘘でしょ!?」

なにそれマジで知らないけど!

「いつ!?」

「初恋んとき」

「レンちゃんの初恋って乃蒼先輩、、、」

「と思ってんだろ〜笑。初恋の相手は他にいるよ」

「だって前は乃蒼先輩だって、、、」

「だっかっらっ、今言える話なんじゃないか」

「誰っ!どこの誰っ!」」

「おんやぁ?俺のことなら何でも知ってたんじゃなかったのかよ笑」

私は小学校時代レンちゃんと仲の良かった女の子達を思い出す。

「小4で転校しちゃったノッチ?」

「うるさいって嫌われてた泣」

「小5の時ピアノ教室で一緒だったかしゆか?」

「自分より小ちゃいとかキモいって言われた泣」

レンちゃんがこんなにも周りから嫌われてただなんて…。

あっ!小6の時のあーちゃん、、、なわけないか。

顔面にギャラクシー・グレイヴ叩き込まれたこと未だに根に持ってるもんね。

もおぉぉぉぉ誰よおぉぉぉぉ?

その人達以外でレンちゃんと仲良かった女子なんていたっけ?

他にいるとすれば、、、


トクン


心臓が1つ跳ねたあとで身体の真ん中からゴォォォォっと熱くなる。

いやいやいや、そんなはずないよ。

ないないない…いやでも…もしかしたら…。

「その顔、わかったみたいだな」

「………見えないんじゃなかったの?」

「見えなくてもなんとなくわかんだよ、おまえのことならな笑」

「ねぇ初恋の人って………」

「だから、お前以外他に誰がいんだよ笑」

本格的に全身が『業火の向日葵』だ。

特に顔、顔がヤバいっ!

「従姉弟だから結婚できないって聞いた時はショックだったなぁ。法律上可能だって知ったのは結構後からで、そん時にはもうお前は俺の中で姉であり妹であり、そんでもってもう1人の自分自身だと思ってたからなぁ」

あれ、おかしいな?

目が悪くなったわけでもないのに全然鍵盤が見えないや。

「前はよく俺の頭の中覗かれてお前マジエスパーなんじゃねぇかと思ってたけどようやくそのカラクリがわかったよ。お前がもう1人の俺なら何考えてるかくらいわかるもんな笑。つまり、俺と同じこと考えてたわけだ」

バレた。

けどそんなことどうでもいい。

嬉しいな。

レンちゃんの初恋がいつ終わったのかはわからないけど、どこかで私達の恋が向き合いながら重なってたかもしれない。

それって両思いだよね!

ちょっといとこなだけだよね!



「怪力彩芽」

「はい」



また1つ先へ進む。

乃蒼先輩まであと1人。

「今だから言える話、パート3」

まだあるの?

まだ続くの?

もう乃蒼先輩のひとつ前なんですけど?

でもいいよ、この話好きっ。

「問題、俺が2年の頃七尾先輩に敵意むき出しだったのは何故でしょう?」

「ピンポンっ!乃蒼先輩とラブラブだったから!」

「だけじゃなく、、、」

だけじゃない?

なんだろ?

「ヒント。お前に関係があります」

「う〜ん………私が初めてレンちゃん以外の男の人に興味持ったから、とか?」

これじゃ自惚れたキモい女子丸出しだな笑。

けどレンちゃんは優しいとも照れ臭いともちょっと違う、普段あまりしない顔で笑った。

「正解」

「嘘でしょーーー!!!」

「ずっと俺だけのリンだったのになんか取られた感じがしてさ」

どしたのレンちゃん、今日ぶっちゃけすぎじゃない?

まさか…死ぬの?

「元から俺のじゃないけど、あの時はロクに友達もいなかったから余計孤独感じちゃってさ」

「レンちゃんは死ぬまで孤独じゃないんだけどなぁ〜」

秋先輩と一緒。

私がいつでも味方でいます。

「それに死んだ後も孤独になんかなれないよ。死んでも私と一緒だよ。ねぇレンちゃん、従姉弟も捨てがたいけどできれば来世は他人同士で生まれてこようね」

それでも私は現世と同じことを今度はレンちゃんで繰り返すだろうか?

繰り返すだろうな。

私の業って深そうだもの。

「他人同士って笑。じゃあ七尾先輩はもういいのか?」

「うぐっ!………じゃ、じゃあ七尾先輩とは従兄妹同士で生まれてくるっ!」

「俺らもそうかもな」

え?

「俺らもしかしたら前世は結ばれない恋人だったのかもよ?今度は離れないように現世では従姉弟で生まれてくるよう死ぬ間際に願ったのかもしれない」

ステキなお伽話だと思う。

素朴顔の私がお伽話の主人公なんてガラじゃないし、それに延々と幸せになれないループを彷徨いそうでもあるけど私は何か少しだけ幸せな気分になれた。

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