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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章「体育祭前3」

「カステラ食うか?」

生徒指導室の椅子に座るなり紅茶が出てきた。

「俺にはリンゴ食って怒ったのに先生が生徒にカステラ勧めるって…」

カステラを取り分けてる手が止まった。

「鈴井、七尾はいらないみたいだから2人分食べるか?」

「あ、センセー嘘です。俺カステラ好きです」

なら黙ってろ、とドスの効いた声で脅された。あれかな?吉岡先生もツンデレ属性なのかな?

先生がカステラを用意してる間に昨日から今日にかけての話をした。

「そうか、雪平もダメだったか」

しっとりとしたカステラに紅茶がベストにマッチしている。

「Yummy」

乃蒼がネイティヴに発音する。

「I love it!」

俺も負けずにそう言うと

「love itがrabbitに聞こえるよ?秋は可愛いけどウサギじゃないからね?」

と小言を貰った。amって言ってないだろが。

「無理に単語をくっ付けて発音しなくても良いよ。最初は子音と母音だけくっ付いてるところの発音を意識しとけば次第に口が覚えていくから」

ふ〜ん、なるほど。

「お前ら。中2のくせになんて可愛げのない会話をしてるんだ。まるで特進だな笑」

先生それは俺にとって一番精神的にくる侮蔑の言葉です。

「で、その特進は誰も体育祭に参加はしないのか。相変わらずだな」

吉岡先生の言葉の裏にはうっすらと特進に対する不満が見え隠れしている。

「雪平が参加してくれたとしてもリレーをするには全然足りないんです」

「まあそうなるとは思ってたよ」

吉岡先生はカステラを一口で完食する。勿体無いなぁ…。

「先生昨日ダメだったらまた来いって言いましたよね?なんか良い方法あるんですか?」

一口で食ったは良いけど飲み込むことができずモゴモゴしている。紅茶を飲もうにも水を入れ忘れていて猫舌の先生はとてもじゃないが飲めない。仕方がないので俺は冷蔵庫に入っている冷たい烏龍茶をコップに入れ先生の目の前に差し出した。

「なんか勝手知ったるナントカみたいだね笑」

「そりゃそうだよ。何度ここに呼ばれてるかわからない」

知らない人は俺のこと問題児に見えるんだろうな笑。

「助かった。すまんすまん。で、俺の案なんだが…」

得意顔で話し始める。

そういえば吉岡先生はあの一件以来表情が豊かになった。それまで怒った顔しか見たことがなかったけどあれ以来、特にココで話をしている時なんかは笑ったり怒ったり感情が表に現れている。だから嫌味もキチンと嫌味だとわかるし言葉が荒くても本心ではないことが伝わりやすい。だから俺はこの先生のことが信用できる。言葉だけじゃなく、表情だけじゃなく、全てで俺と会話してくれるから。

「リレーをするのに2年1組だけで人が足りないなら他のクラスと合同でやりゃいいんだよ。いっそのこと他のクラスと合同の1チームを作ってしまえばいい」

・・・は?

「先生それって他のクラスから人を借りてリレーに出るってことですか?」

乃蒼も多少困惑しているようだった。そりゃそうだ。他のクラスの人がわざわざ特進のために人手を貸してくれるはずがない。だって自分のクラスは特進と違ってみんな体育祭に出席してるんだもの。わざわざ自分のクラスから出て特進と組む理由はない。

「そういうことだな」

にやり、としたいのだろうけどその表情はまだ吉岡先生には難易度が高くヤクザみたいな笑顔にしかならなかった。

「それは無理ですって先生。誰も特進のために助っ人にはなってくれないですよ」

それでも先生は自信があるような顔をした。多分そんな顔だ。

「ちょっと待ってろ。あと戻ってくるまで紅茶とカステラ片付けちまえ。皿はそこのシンクに置いといてくれればいい」

そう言って生徒指導室から出て行ってしまった。


2人残されたこの部屋で俺らはやはり困惑していた。

「リレーにも出たいけど。俺としては余所からの助っ人ってのはちょっとなぁ…」

「そうだよねぇ。なんかちょっと、違うかなぁって思う。共闘意識が生まれないというか」

乃蒼はシンクで洗い物を始めた。プチシューといい乃蒼は女子力が高い。

「やっぱりリレーは難しいかな?でもね、リレーに出れなくても秋や彩綾達と体育祭に出るだけでも十分な気がしてきたよ」

けどお前はリレーで走ってみたいんだろ?とは言えなかった。正直俺にも打つ手はない。他のクラスからの助っ人もなんかちょっと違う。食器を洗い終わった乃蒼は俺の隣に座る。

「吉岡先生何しに行ったんだろね?」

「I'm not sure」

顔まで作ってそう答える。

「相変わらず発音悪っ!笑」

「ちょっと発音してみて」

「I'm not sure」

さすが。

「そう言えばさ、秋に報告したいことあったんだ。」

報告したいこと?

「なしたの?またおっぱい大きくなった?」

「ううん、逆。ちょっとね、痩せたの。そしたら胸まで小ちゃくなっちゃった…」

俺は思わず乃蒼の胸に目をやる。

「ちょっと、今見たでしょ?エッチ」

「乃蒼の顔には今くらいのサイズがちょうどいいと思うんだけどな?あんまり大っきいより今くらいの方が乃蒼っぽいよ」

「なに爽やかな顔でエロいこと涼しげに喋ってんのよ。ば〜か。って、ち〜が〜う〜!なんで私のおっぱい小ちゃくなった事を秋に報告しなきゃならないのよ」

大事な事だろうよ!

「そうじゃなくて!私またフランス語覚え直す事にしたの」

乃蒼が生まれて一番最初に覚えたのは日本語ではなくフランス語だった。イレーヌがまだ日本語がたどたどしかったため、最初に母国語を教えたのだそうだ。しかし乃蒼が通う保育園のクソガキのせいで乃蒼は深い泥の中に沈んでいき、フランス語を棄てた。言わば乃蒼にとってフランス語は泥にハマるきっかけだった。そのフランス語を覚え直すという事は、乃蒼が原点を取り戻し始めたという事なのだと思う。

「実はずっと考えてたの。でも二の足踏んでてさ。けどこないだのアレ以来いろんな事がスッキリしちゃって。せっかくだからこれを機に取り戻してやろうと思って」

あぁ、こいつはちゃんと前に進めたんだなと思った。なのに俺は我、未だ成らずだ。

「なんとなく残ってるもんなの?一度は喋れてたんでしょ?」

自転車の乗り方のようにすんなり取り戻せるものなのだろうか?

「それが全然!なんとな〜く覚えてるくらいでほぼ丸忘れ。大変だよぉ」

英語取得中の今の俺と同じ苦しみか笑。

「にしても吉岡先生遅いねぇ」

本当だよ。一体どこに行っ、、、

「ちょっ、センセー、待って!俺何もしてないでしょーよ!ちょ、センセーってば」

男子生徒の声が近付いてきたかと思ったら生徒指導室のドアがガラガラと開いた。そこには吉岡先生と先生に首根っこを捕まえられた坊主頭の男子生徒が立っていた。

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