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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「体育祭前2」

俺と吉岡先生は同時に生徒指導室を出た。

「すいませんでした」

と頭を下げる。もちろん建前だ。

「教室に戻れ」

本当に先生ってめんどくさいね笑。

教室に戻ると俺が出て行く時と同じように3人は固まっいた。

「はい、コレ。お土産」

生徒指導室を出る時に吉岡先生がみんなに持っていけと八ツ橋を持たせてくれた。

「え?京都まで行ってきたの?」

タケルのつまらないボケを流す。

「で、どうだった?」

乃蒼がとても期待した顔をしている。よっぽどリレー走りたいんだな。

「1人でも体育祭は参加できるって。けどリレーはやっぱり8人じゃなきゃダメみたいだ」

すでにプチシューは完食されていた。和の次は洋に戻りたかったので残念だ。

「じゃああと4人いればリレー走れるの?」

乃蒼は活き活きしている。

「ルールでは男子4人女子4人の混合だから2人ずつ必要になる。というわけでこれからこのクラスの奴らにローラー作戦を開始するんだが、その前に一番手堅そうな奴から声をかけようと思うんだけど」

3人は今きっと同じ人を頭の中に浮かんでいるはずだ。

「「「雪平」くん」」

3人に名前を呼ばれ、枕草子を読んでいた雪平がガタンと机がズレるほどに驚いてこちらを見た。俺らが雪平と絡むのは決して多くはない。が、他のクラスの奴らと比べたら相当多い。それはつまり俺らは他のクラスの奴らとほぼほぼ交流がないということを意味する。あの吉岡先生と乃蒼の一件で俺らは完全にクラスの奴らから浮いてしまった。

「なんだよ?用があるならお前らが来いよ」

あ、それ俺去年彩綾に言った。ほんとにこいつは俺に似てんな。学力以外。

「あのね!乃蒼からお願いがあるの!」

あの一件のあと俺とタケサヤは密かに雪平が乃蒼のことを好きなのではないかと思っていたのだが、特にそういったイベントが発生することもなく今に至る。冷静に見たら乃蒼と雪平は距離が微妙に離れたクラスメイト以外の何者でもなかった。が、今はその薄い期待に賭けるしかない。

「あの、私達体育祭のリレーに出たいんだけど人数が足りないの。もし良かったら雪平くん私達と一緒にリレー出てもらえないかな?」

雪平は乃蒼のことをまっすぐに見て聞いていた。

「なぜ俺が体育祭に出ないとならないんだ?そんなのに出るより補習の方がよっぽど有益じゃないか」

ちょっとだけ期待していた分落胆は激しい。

「そうか。わかった。すまんかったな」

それで終わると思っていたのだが雪平は帰ってくれなかった。

「なぁ七尾、お前は国語全国1位だろ?鈴井も英語はネイティヴなんだろ?なんでそれを広げようとしないんだ?他の教科を伸ばそうとしないんだ?体育祭でリレーを走って何になる?思い出にはなるのはわかるけど、俺にはそれがそこまでするほど大事なものだとは思えないんだ。お前ら何でそんな無駄なことしようとするんだ?」

吉岡先生との一件で学んだのは俺らだけじゃない。雪平もまた何か得るものがあったのだろう。わからなければ聞く、簡単なことだ。簡単なようで実はなかなか難しい事だ。

「雪平が勉強や成績を大事だと思うように、俺らもそんなのが大事なんだな笑」

「雪平の意見もわかるけど俺が選ぶのはやっぱりタケルの方だよ。これってどっちが正しいって事じゃなくて何を大切にしてるかって話だよ。だから無理強いはしないし雪平の考え方も否定はしない」

どちらも正義。争わない。ただ雪平の方が賢かった。

「いや、そうじゃなくて。俺が知りたいのは俺が無駄だと思っていることをお前らが大事にしてる理由なんだ」

俺らが諦めたのに対し雪平は俺たちを理解しようとしている。

「なあ雪平。無駄ってあると思うか?」

ニッと笑ってタケルが意味深な発言をした。

「無駄かどうかって、結局自分がそのことをどう処理するかだろ?無駄なことを無駄と言い切ってしまったら無駄なんだろうけど、その無駄に理由をこじつけて自分の糧にしてしまえばそれは無駄じゃなく経験になるんじゃないのかな」

なるほどなと思った。タケルはこう見えて実はとても深いことを考えているのかもしれない。

「俺が無駄だと思うから、無駄なのか?無駄じゃない理由をこじつけたら無駄じゃなく糧になるのか?」

そうだと思うよ俺は、といつもの笑った顔でタケルは答えた。

「なるほどな。勉強になった。だけど悪い。その日俺は予備校で市内統一模試があるんだ。結構重要なテストだから受けたいんだ」

乃蒼が慌てて謝る。

「ううん、予定があるなら気にしないで。こっちこそごめんね急に」

乃蒼だからだろうか?雪平は俺らの前でようやく表情を和らげた。

「お前らって、なんか面白いな?またなんかあったら声かけてくれ」

そう言って雪平は自分の席に戻っていった。

「なんかあいつ、あれ以来妙に大人しくなったって言うか、大人になったっていうか…」

俺もそう感じた。

「それくらい雪平くんもあの件で得るものがあったって事でしょ?乃蒼や秋だけじゃないんだよ成長してるのは」

彩綾が言うように俺らはあの一件で得たものはとんでもなく大きかったようだ。

「だけどさ、一番あてにしてた雪平がアウトとなると…先行き暗いね」

翌日から俺らは男子と女子に手当たり次第声をかけていった。だが返ってくる返事は


「バカじゃね?」

「走って成績が上がるの?」

「そうやって人の足引っ張ろうとすんなよな」

「話しかけないで」


という返事ばかりだった。トドメが

「そうやって遊んでればいいよ。俺に足元救われんなよ?国天くん笑」

という言葉だった。ハッキリと侮蔑と悪意が読み取れた。ちょっとイラっとして言い返したくなったけど、そいつの隣の席が雪平だったので精一杯大人の対応をして自分の席に戻った。子どもっぽいところを雪平には見せたくなかったからだ。けど席に戻った後で大いにキレ、ふてくされた。そして前話の冒頭のシーンへと戻る。



「けどどうする?俺らだけ参加してリレーは諦めるか?」

リレーといえば体育祭の花形だ。午前の部最後の予選、午後の部最後の決勝と一番盛り上がる種目なのだ。それをおめおめと指をくわえて見ているだけなんて、歯がゆいじゃないか。

「ちょっと出かけてくる」

乃蒼がくれたリンゴをひとつ口に入れて教室の扉を開けると目の前に吉岡先生がいた。

ガツンっ!

「やっぱりか!だ、か、ら!学校に食べ物を持ってくるなって昨日も言ったじゃないか!」

ドアの前で待ってたんすか?笑

「生徒指導室へ来い。鈴井、お前もだ」

教室にいるあちこちから「また呼ばれてるよ笑」「お気の毒さま笑」といった声が聞こえてきた。

「あの、すみません」

伸ばしていた髪を肩まで切って今ではすっかり黒髪の乃蒼が吉岡先生に謝る。

「話は生徒指導室で聞く。早く来い。あ。佐伯、荒木!」

突然呼ばれて「はい」と2人の声が上ずっている。

「食べるなよ?」

彩綾はすぐさまタッパーの蓋を閉めた。

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