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花さんと僕の日常   作者: 灰猫と雲
第一部
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秋の章 「体育祭前1」

「秋、そんな怒るなよ」

「そうよ。ただの僻みなんだから気にしちゃダメだってば」

タケサヤはそう言って俺を慰めてくれたけど、俺の怒りは収まらなかった。

「ね〜ってばぁ。仕方ないよ。これが特進なんだもん」

乃蒼もそう言って諦めろと言う。

俺ら1組、特進組は体育祭の参加を免除されている。その代わり振替休日の月曜日には普通に授業を行う。

意味がわかんねぇよ!なんで青春ど真ん中の14歳が勉強漬けなんだよ!ただでさえ通常の体育や音楽や技術や美術の時間が少ねぇんだぞ!

「彩綾と2人であらかたクラスの女子には声かけたけど参加希望者はゼロ。八方塞がりだね」

給食を食べ終え乃蒼は自宅から持って来たリンゴの入ったタッパーを机の上に置き蓋を開けた。

「男もそう。1人もいなかった」

タケルは素手でリンゴをシャクリと食べる。俺もひとつ素手で頂く。

「くそ!特進のアホ!バカ!野島のハゲー!」

野島への怒りはリンゴくらいでは収まらない。あれ?いま野島の話だったっけ?

「お前さぁ、どさくさ紛れに野島さんdisるクセそろそろ治そうよ。五天に向かってハゲはないだろ?」

いいや、あいつはハゲだ!絶対そうだ!

「しょうがないよ。秋、野島さん大好きだもん」

乃蒼もリンゴをシャリっと齧った。こんなにも悪口ばかり言ってるのに何でバレてるんだろう?

「けどどうする?俺らだけ参加してリレーは諦めるか?」

タケルの提案も受け入れ難い。俺はどうせ出るならリレーだって出たいんだ!




コトの発端は昨日の昼休み、周りの奴らが参考書を読みながらご飯を食べているその横で俺らは4人集まって来月に迫る体育祭の話をしていた。

「まぁ、うちのクラスは関係ないけどな」

タケルの言う通り周りでは体育祭のタの字も出ない。せいぜい大宝律令のタの字くらいだ。

「乃蒼も出来れば体育祭は不参加がいいの?」

乃蒼は運動ができない。友達は出来たがこればっかりはもって生まれた才能だ。

「彩綾、それはちょっとひどい…。私、運動神経はイレーヌの子宮に置いてきたけどでも体育祭好きだよ?」

そういや去年の体育祭でも乃蒼は楽しそうにしてたな。すんげぇ足遅かったけど笑。なんか見てて微笑ましい光景だった。娘の100m走を見守る親の心境ってあんな感じなんだろうな。

「この4人でリレーとかやったら楽しそうだよな」

タケルの言葉を頭の中で想像してみる。うん、確かに楽しそうだ。乃蒼がいる限りアンカーがF-1に乗るシューマッハだとしても1位は取れないだろうが、勝ち負けよりも何よりも楽しそうだ。

「リレー…」

「どしたの乃蒼」

「彩綾。私ね、一度でいいからリレー出てみたかったの。ホラ、普通だと絶対出れないじゃない?私の速度じゃ」

まぁそうだろうな。乃蒼の場合走るスピードを表す単語は速度ではなく遅度だ。

「なぁ、乃蒼って100m何秒?」

タケル、お前怖いこと聞くなよ。

「こないだ自己記録更新して23秒フラット」

フラットという言葉がこれほど虚しく使われたことがあっただろうか?

「う…うん。けどリレーって8人だよね?半分しかいない。全然足りないねぇ」

「1人2回走るのもダメだよね?あ〜あ、バトン持って走ってみたかった」

乃蒼はご飯を食べ終わるとカバンからプチシューを出して机の上に置いた。俺らはカルタのように我先にとプチシューに手を伸ばす。

「ねぇ?8人いたら特進でも体育祭出れるかな?」

彩綾のその一言が俺に火を付けた。そうか!別にクラスの全員参加する必要はないんだ!最低人数さえいれば体育祭に参加できるかもしれない。プチシューを2個手に持ち

「ちょっと交渉してくる」

と俺は教室を出た。



「おい七尾!お前はいつも食べ物を持ってるな!学校にお菓子持ってくるな!」

「あ、先生ちょうど良かった。相談があります」

クラスから出て5秒フラットで吉岡先生に見つかった。

「あ、これ乃蒼の作ったプチシュー。食べます?」

「教師の俺が食えるわけねぇだろ!」

ですよね。俺は2個いっぺんに口の中に隠した。

「目の前で食うな!お前ちょっと生徒指導室来いっ!」

教師っていうのはホント、建前とかめんどくさいっすね吉岡先生。


「で、相談て何だ?」

吉岡先生は熱々のほうじ茶が入った湯飲みを俺の前に置いた。口の中に残っていたプチシューの甘みがほうじ茶の淡い苦味に消えていった。俺らはちょこちょここの生徒指導室に呼ばれる。他の生徒の手前、俺らを指導するという名目で呼ぶのだが、ぶっちゃけただの世間話の方がメインだった。

「体育祭の事なんですけど、特進て体育祭出ちゃだめなんですかね?」

吉岡先生は猫舌で、熱々のほうじ茶に水を足して恐る恐る唇に当てる。どうやらちょうど良い温度だったらしくゴクリゴクリと二口程度飲んだ。

「俺も詳しくは知らないがダメじゃないだろ?そもそも月曜の通常授業は体育祭に来ない特進組の補修みたいなもんだったらしいぞ。今ではそっちが主流になってるが本来は特進も参加すべきだと俺は思ってる。あ、八ツ橋食べるか?」

大好きです。いただきます。

「極論、お前1人でだって体育祭は参加できるし、参加すれば月曜の補修は免除だ。ただ体育祭は個人で参加する種目と団体で参加する種目があるからな。まぁお前らは別に優勝なんか狙ってないだろうから点数なんて関係ないのかもしれんが」

中にアンコが入っていないタイプの八ツ橋だった。少し残念だ。

「みんなで体育祭に参加できればそれで良いんですけど、ただリレーには出たいんですよね」

「だとしたらあと4人必要だな。お茶おかわりいるか?」

いただきます。熱々で。

「1人2回走るのはダメですかね?」

吉岡先生は急須にお湯を入れ俺の湯飲みに足す。

「そりゃダメだろ?いくら点数度外視とはいえルールは他のクラス同様にしなきゃならん」

だとしたら、あと4人探さなきゃなないか。だが特進でも体育祭に参加できるとわかったのは収穫だった。

「声掛けるのか?あの特進に」

「はい。まぁきっと参加したがらないでしょうけど」

唯一希望があるとすれば…。

「雪平はどうだ?あいつ去年の100m走たしか13秒前半だったはずだぞ」

この人本当に生徒のこと何でも知ってるなぁ笑。それとあいつ勉強だけじゃなく足も速いのかよ。なんて嫌な奴だ。

「1番最初に声かけようかと思ってました笑」

「もしどうしても人数が集まらなかったらまた俺のところに来い。勝手に諦めるなよ?」

もし人数が集まらなかったら仕方ないと大人しく補習を受けるつもりでいた。

「何かいい案あるんですか?」

「ああ。ちょっとな」

ニヤッと吉岡先生は笑う。笑い慣れてないからその笑顔は少し不気味だけれど、俺は結構その笑顔が好きだった。

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