秋の章 「プレゼント」
「何やってたんだよ!お前のせいで誕生会が進行できなかったじゃねぇか!」
タケルは鼻息荒くそうまくし立てた。
「大人になってたんだよ」
「親子の愛を深めてたのよ」
俺と花さんでそう答えると
「そうか」
とそれ以上追求しなかった。お前わかってねぇだろ?わかんないけどめんどくさくなってやめただろ?笑
「さ!じゃあプレゼント渡そ〜」
彩綾は自分のデカいトートバッグをガサゴソと漁り、リボンの付いた箱を乃蒼の前に差し出す。
「はい!おめでとう乃蒼。開けてみて!」
受け取った乃蒼は見ていて焦れったくなるほど丁寧に包装紙を剥がし、箱を開けた。
「きゃ〜!可愛いっ」
中身はiPodだった。ただのiPodだったら乃蒼はこれほど感激しなかっただろう。iPodの背面には彩綾が自分でデザインした絵が描かれている。半分だけ金髪の天使が月夜に屋根の上に座ってヘッドホンで音楽を聴いているという絵だった。
「その天使、乃蒼がモデルだよ。大変だったなぁ秋!塗装、臭かったなぁ!」
前半せっかくいいことを言ったのに後半で台無しにするあたりがタケルらしい。けれど確かにクリア塗装の時は鼻がもげるかと思うくらいに臭かった笑。
「ちょっと、私のプレゼントが臭いみたいじゃないのよ!やめてよね!乃蒼、臭くないからね?ちゃんと乾かしたらニオイしなくなったから。ほら、嗅いでみて」
乃蒼はクンスカ嗅いだ後、笑いながら
「ホントだ!臭くない。彩綾ありがとう」
と言って彩綾と抱き合っていた。なんか今日ここにきてからみんなが外国かぶれしているようでなんだか可笑しかった。
「はい、は〜い。次は俺!乃蒼、おめでとう」
タケルもリュックから赤チェックの箱を乃蒼に渡した。
ビリビリビリビリ
彩綾の時とは打って変わって雑に破き始める。タケルは「ちょ、俺のプレゼント…」と嘆き、イレーヌは娘の暴挙に驚きを隠しきれない様子だった。
「大丈夫。あれ、あの2人のコミュニケーションだから。タケルも実は嬉しいんだよ、いじられて」
そっとイレーヌに耳打ちすると、
「タケルくんはMなの?」
と俺に耳打ちし返す。俺はしっかりとイレーヌの目を見て真顔でうなづいた。
タケルの箱の中身はスマホケースだった。見た瞬間乃蒼は慌てて俺を見たけど
「大丈夫。被ってないから笑」
と言うとホッと胸をなでおろしていた。スマホケースを貰ってスマホケースを返すほど俺はセンスはダサくない!ナメないでいただきたいっ。
スマホケースは革製の手帳型のもので、以前乃蒼が「やっと買ってもらったのにイレーヌみたいに落として携帯の画面割れたらショックだからあまり外には持ち歩かないんだよね」と話していたのをタケルは覚えていて、俺も買い物に付き合い2時間検討したのち購入した自信ある一品だった。
「それと!」
細長い白い箱を乃蒼に渡す。思いの外スマホケースが安かったので追加したものだった。
「わあ!これ好き!可愛い」
中には中学生が使うにはちょっとだけ高級な青色のシャーペンが入っている。側面には乃蒼の名前が彫られている。
「ありがとうタケル。いつもごめんね」
うっかり出てしまった乃蒼の本音。
「バカ、いいんだよ笑。乃蒼にいじめられるのは俺だけの特権だからな。これだけは彩綾も秋も出来ない俺だけのキャラだから」
彩綾もタケルも存在を知らないであろう、タケルファンクラブの女子たちに聞かせてやりたいセリフだった。あと残念だが2人の時は俺も乃蒼にいじめられてるぞ?主にエロ拷問だけどな。しかしいつ聞いても素敵な言葉だな、エロ拷問。
さて、次は俺たちの番。
「乃蒼、きっともう持ってるものだとは思うけど2つあっても邪魔にならないし良かったら使ってちょうだい」
花さんのプレゼントは京都 菊一文字の花鋏だ。サンタさんが京都に出張に行くときに頼んでいたものらしい。サンタが春先に京都に出張…。意味はわからないけど、聞いても「そのままの意味だけど?」と言われたのでそれ以上尋ねることはしなった。
「花さん……。私、大事にします!宗則の名に恥じないようにお花、頑張ります!」
なぜそんなに凛々しい顔をしてるんだ?なぜ下の名でそのハサミを呼ぶんだ?なぜその目は遠い幕末を見ているんだ?俺の知らない乃蒼が顔を覗かせた。
じゃあ最後は俺。
「はい、文化祭の時にしたひまわりの約束」
青の包み紙の箱を乃蒼に渡す。乃蒼はまた焦れったくなるほど丁寧に包装紙を剥がしふたを開ける。そこにはバラの真ん中に青色の石が埋められたピアスが入っている。
「amazing…」
「Ah, que c'est jolie ! 」
乃蒼とイレーヌが同時にため息を漏らす。俺と花さんは目を合わせ、グッと拳を握る。
「ねぇイレーヌ、これって…」
気付いてくれて良かった。乃蒼からイレーヌにむけた質問には俺が答えよう。
「Trésor」
僕はキメ顔でそう言った。え?と、2人は驚いてお互い顔を見あったあと、俺の方を見た。
「ずっと記憶にあったんだ。あの展覧会は俺が初めて最優秀賞をとったから会場まで見に行ってたんだよ。その時Trésorだけが印象に残ってて。去年お見舞いに来たあとにネットで確認して驚いたよ。まさかイレーヌの作品がTrésorだとはさすがに思わなかった。けどイレーヌ、あれは本当に素敵だった。あの青いバラは乃蒼なんでしょ?」
「そう、私のTrésor(乃蒼)」
慈しむような声でイレーヌはそう答えた。
「やっぱり!笑。イレーヌが乃蒼を想って作った作品だもの、そりゃ素晴らしいはずだよ。俺もあの作品凄い好きでさ。だから俺もTrésorを乃蒼に贈りたくて似たのを探しまくったんだ笑」
イレーヌは立ち上がって俺の近くに来た。しかし話しかけたのは花さんにだった。
「花、お願いがあるの」
「なに?何でも言って」
「秋を抱きしめさせてくれない?」
待って!まず本人に許可を取って!
「いい男でしょ?」
花さん、あんた何言ってんの?息子の貞操がピンチだよ!
「私は今日秋に何回恋してるかわからないわ」
花さんは当然とばかりに満足げな表情を見せた。
「イレーヌ、強めでお願いね」
「わかったわ。秋、忘れられない昼にしてあげる」
イレーヌは青ざめている俺のことを無視して力一杯抱き締めた。
「秋、あなたは本当に素敵よ!私が乃蒼なら絶対に口説き落とすわ」
後ろで「ちょっとイレーヌ!」という乃蒼の叫ぶ声が聞こえる。なぁ乃蒼、似たような母親を持つと苦労するな、お互い笑。
イレーヌはややしばらく俺を抱き締めた後、満足そうに俺を解放した。俺は心底グッタリしてしまった。もしかしてイレーヌは本当に魔女で、抱きしめながらエナジードレインしているのではないだろうか?
「若返ったわ」
ほらみろ!やっぱりそうだ!
「けどさぁ、よく私がピアスしてるのわかったね?わかりづらい場所にあけてるのに」
あれ?覚えてないのか?
「去年俺がここ来た時、お前ピアスしてたじゃん?赤い石の。お前を象徴する色を聞かれたらやっぱり青って答えるだろうけど、青以外だったら迷わず赤だな。」
「……どうして?」
どうしても何も笑。
「お前の内側は真っ赤じゃん笑」
外側に静かな青を纏いながら、内は真っ赤に燃えている。俺が乃蒼に抱くイメージはそんな感じだ。
乃蒼は最初驚きの顔を、そしてすぐに目を閉じて
「あ〜あ。ホント嫌んなる笑。ねぇ、秋って実は記憶をなくした女の子って設定ではない?」
うお!こいつ何言ってんだ?
「残念ながら男だね。俺にもおっぱいあったらいいんだけどなぁ」
俺の渾身の本音は無視された。
「じゃあ実は双子の姉か妹がいるっていう設定は?」
「うん。実は俺の部屋に閉じ込めてて、外に出れなくしてるんだ。逃げられないように裸にして…って本、売れねぇだろうな笑」
乃蒼は大して面白くもない冗談を笑ってくれた。
「な〜んだ、残念。もしそうだったら私が秋の部屋から救ってあげたのに」
「さっきから誰の話をしてんだよ?」
俺を長い間見つめ、ようやく口を開いたかと思ったら
「初恋の人」
と言った。
「ずっと聞きたかったんだけどお前の友達だった子は、女の子?」
「そうだよ。なっちゃんって言うの。」
「じゃあお前の初恋の相手は…女ってことになるけど…」」
恐る恐る聞いてみた。返答次第では『百合』のタグを付けなければならない。
「なによ、いいじゃない!」
あ、開き直った笑。
「初恋の人が女の子だったってだけだからね!あくまでも私はノーマルですっ!なっちゃんはそれくらい超魅力的だったんだからね!」
あ、そうですか笑。けど否定する気は全くないよ。俺の近くに初恋の相手が友達の母親だった人もいる。恋は自由だ、と思う。したことないからわからないけど、恋心は誰にも否定できないくらい純粋で尊いものであって欲しい。
「ちょっといいか?あのさ、確認したいことあるんだけど」
友達の母親が初恋の相手だった男が久々に喋った。存在を忘れていた。
「聞いてた話を要約すると、まず乃蒼も乃蒼のお母さんも、そして何故だか秋も華道かなんかをしてるってことでいいのかな?秋が最優秀賞とって、その展覧会に乃蒼のお母さんも出展してて、知り合う前のことだけど秋がその作品を覚えていた、と。合ってる?」
タケルが数行で要約した。
ん?……しまった、バレた。
「花さん、どうしよう。バレちゃった!」
「でしょうね笑。いまさらジタバタしても仕方ないから観念しなさい」
あああああ、ミスった。盛大にミスったぁ。
「秋には知られたくない理由があるんでしょ?なら詮索しないでおいてあげるわ。ありがたく思いなさい。けど、アレでしょ?春休みにアンタがバイトしてたのもそのプレゼント買うためなんでしょ?」
バイト?と乃蒼が俺の顔を覗き込む。俺は答える気がなかったが、花さんがバラした。
「うちにはお小遣いっていうものがないの。だから秋がプレゼントを買うには私からお金をもらうか家庭内労働で賃金を得るかしかないのよ。で、秋は後者を選んだってわけ」
なんか今日は俺の秘密にしといたことが色々とバレていく。
「秋はいちいちマジメだよね」
「ホントにな。わざわざ働かなくてもお金貰って買ってもいいのに」
「あら、そんな秋だからかっこいいのよ?自慢の息子なんだからねっ」
「ほんとに花はいい男に育ててるわね。見習いたいわ」
「待って!その言い方だとまるで私がいい女じゃないみたいじゃないの!」
結局ガチャガチャとみんな自分の言いたいことを言いだして収集がつかなくなってしまった。俺は好き勝手話し合うのを少し離れた椅子に座り眺めることにした。本当によく喋る人たちだ。乃蒼のお父さんの言葉を思い出す。俺もこの人達に巡り会えて良かった。おめでとう俺。
乃蒼が俺の隣に座り、初めて会った時よりもだいぶ伸びた髪を手で1つにまとめた。顔の角度を変え左耳を俺に見せる。
「うん、似合うじゃん」
一般的なピアスの穴の位置よりもかなり上の方に青いバラは咲いていた。
「ありがとね。大切にします」
そうしてくれると嬉しい。
「神の祝福がありますように」
驚いた表情の乃蒼。
「ちょっと!何で秋が知ってんのよっ!」
何でって、そりゃあ
「好きなんだよ花言葉。花に意味があるってなんかいいなって思って」
「あら素敵、ロマンチストですわね(棒)。あれ?……ちょっと待って。もしかして向日葵の花言葉も知ってんの?」
俺はニヤリとするだけ。何も言わない。
「あ〜!もうっ、ホント嫌だっ!あんたにはレタスの花言葉がお似合いよ!」
「牛乳じゃねぇか!意味わかんねぇよ」
「セツブンソウよりいいでしょ?」
「お前が言うとシャレになんねぇよ!」
ああ、久しぶりのこの軽快なやりとり。たまらなく楽しい。
「はぁ。嫌だ嫌だ。花言葉に詳しい中学2年生男子なんて嫌味だよ」
「嫌味では、ないだろ。ないよな?あれ?」
ちょっと自信がなくなって来た。
「ま、いいけどね。覚えときなさい、私は花さんに貰った宗則であんたを倒すから」
時代が違えば殺人予告だな笑。今が平和で良かった。
「乃蒼〜。そろそろ何か一言ちょうだ〜い」
彩綾の声には〜いと返事をし、乃蒼が席を立った。俺もその後についてみんなと合流し、乃蒼を見つめた。




